とらいあんぐるハート3 To a you side 第十楽章 田園のコンセール 第三十九話
                              
                                
	
  
 
 
 普段さほど意識はしていないが、俺は武装テロ組織や天狗一族等危険な連中から命を狙われている。危機感がないのでなく、これまで危機に瀕するまで追い詰められなかったというだけだ。 
 
周辺警護に留めていれば俺も気を張っていただろうが、俺を守ってくれる勢力は街ごと改造するという恐るべき離れ業を行う力を持っている。加えて警護隊に騎士団、護衛と来れば天下無敵である。 
 
天狗一族より送られた刺客を撃退した後も、俺の生活習慣やスケジュールに一切の変更が無かった。命まで脅かされたというのに、変わらぬ平穏を約束されている。喜ぶべきかどうか、複雑だが。 
 
 
だが、警護体制もそれほど厚みが増すと問題が生じてくる。人手不足も問題だが、人手が充足し過ぎているのも困りものである。 
 
 
「本日の御予定は、母上候補となられる女性とのお約束ですね。お供致します、父上」 
 
「シュテルばっかりズルい。今日はボクがパパを守るもん!」 
 
「今日父がお会いするのは、将来我々の家族となるやも知れぬ者だ。後継者として、我が吟味する必要がある」 
 
「お父さんは今、危ない人達から命を狙われているんですよ。私が、お父さんを守ります」 
  
 うちの家族は血の繋がりがなくても仲が良いのだが、仲が良すぎて喧嘩をしてしまう事もある。今日も朝から元気良く口喧嘩しており、ナハトは一人蚊帳の外で手を叩いて応援している。 
 
言い争いにはなるが口汚く罵ることはなく、一切手も足も出さないので、姦しくも微笑ましい。根に持つ子達でもないので、末っ子のナハトもこうして呑気に笑顔で観戦していた。 
 
この争いは父による鶴の一声で解決するのだが、必ず一人選ぶ必要があるので口出ししない。子供の多い一家で、誰が一番好きなのか父に問われるのは鬼門である。 
 
 
俺ほどの剣士であれば、我が子であろうと容赦なくこう斬る。 
 
 
「喧嘩しない子が一番好きだぞ」 
 
「このように父も仰っているので、平和的にジャンケンで決めましょう」 
 
「よーし、一発勝負で決めよう。ジャンケン」 
 
「ポン――ぐっ、ま、まさか、我のグーが敗北するとは……!」 
 
 
「私の手の平はお父さんを守る為にあるんです!」 
 
 
 パーを出して一人勝ちしたユーリは、肝心の父にはよく分からない主張を堂々と唱えて勝ち誇っている。この自己主張を家族以外にも出来ればいいのだが、うちの子は控えめな金髪少女なのである。 
 
ジャンケンという運試しで決めておきながらも、警護側から反対は一切出ない。シュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリ。この四姉妹に勝てる魔導師は、ミッドチルダでも居るのかどうか。 
 
特にユーリは国家戦略級兵器で攻撃されても、痛かったの一言で済ませられる魔法少女である。隕石が直撃しても平気なんぞという女の子には不名誉な保証を頂いて、ユーリは今日の護衛に選ばれた。 
 
 
妹さんと騎士団は警護チームと連携して、隠密行動。俺本人の護衛はユーリ一人で問題ないと太鼓判を押して、周辺警護に当たっている。 
 
 
「万が一にもユーリ殿が出撃となった場合、一刻も早い避難指示が必要不可欠となる」 
 
「海鳴における地形の把握は完璧です、陛下。民に被害が及ばぬように、逃走ルートも確保しております」 
 
「――全力戦闘となれば、自然災害だと情報操作する用意も出来ている」 
 
「見事だ、お前達……いざという時は、俺も泣いて謝る覚悟がある」 
 
 
「皆さん、わたし達お友達ですよね!?」 
 
 
 すまないが我が子よ、陰口も無縁の妹さんでさえ俺達の意見に頷いている始末なのだよ。真夜中の聖地を真昼に染める業火の太陽は、自然災害級の戦力なのである。 
 
当の本人は半泣きで手を振り回して反論する可愛い少女なのだが、聖地で無双の力を振るっている。騎士団もユーリの戦力はよく分かっているので、周りに被害が出ないように徹底している。 
 
戦力も目立つが、ユーリは見目麗しい少女なので、容姿も注目を集めている。だからこそというのも変だが、袴姿のバリアジャケット装備にまでは目がいっていない。 
 
 
隣を歩く父親が剣道着なので、今更とも言えるのだが。 
 
 
「お父さんと二人でお出かけするのは久しぶりですね」 
 
「聖地でも海鳴でも、ナハトが一緒だった事が多いからな」 
 
 
 ユーリは嬉しそうに、俺の元に身を寄せて歩いている。ナハトのように堂々とはしていないが、この子は基本的に甘えん坊である。 
 
気の弱さというよりも優しさが全面に出ていて、常に自分を優先しない。その点自分が第一な俺とは真逆の気質であり、父としては複雑ではある。愛情に一片の陰りはないが。 
 
愛を欲さず、与えられるままに甘受する娘。シュテルは求め、レヴィは欲し、ディアーチェは受け継ぐ。姉妹が全く別々の愛情性というのが、何とも面白い。 
 
 
その点については、気遣いの出来るユーリ本人も気にしているようだ。 
 
 
「お父さんはわたし達と一緒にいる事に、何か困った事はありませんか」 
 
「何で急にそんな事を聞くんだ」 
 
「この世界のテレビでやっていました。若くして子供を持つ親の苦労というのを、見たんです」 
 
 
 フィクションなのか、ドキュメンタリーなのか、情報媒体を通じてうちと似たような境遇の家族生活を見たようだ。別に、珍しい報道でもない。他人の苦労話は、娯楽にもなり得る。 
 
ユーリの問い掛けは、俺に与えられている課題の一つとも言える。三役の方々やクイント達の懸念も、まさにその点にあると言っていい。十代半ばの小僧が、五人の娘を抱えるのだ。 
 
問題が今の時点で表立っていないのは豊富な経済力の他に、法に関わる人達の支援があるからだ。俺一人だったら、とうの昔に袋小路に立たされていただろう。 
 
 
後はやはり矛盾しているが、この子達がいるからだ。 
 
 
「苦労をしていないといえば嘘になるが、家族で分かち合っているだろう。お前達のおかげで助かっている」 
 
「わたし達がいるから、私達を育てることが出来ると?」 
 
「難しい話に思えるのは、お前達がそれだけ出来た子達だからだよ」 
 
 
 子育てをしているという感覚は、実のところそれほどない。家族一丸となって、自分と一緒に生活して育っている。高町一家が理想となっている影響なのだろう。 
 
あの家も血の繋がりに拘らずとも、大所帯の家族として成立している。俺のような流れ者も受け容れてくれて、健やかに過ごさせてもらった。 
 
そう考えると、なんだか笑えてくる。なのは達と一緒に生活していた頃はあれほどうんざりしていたのに、お世話になった後で理想の家族としているのだから。 
 
 
そうした他人との生活が今の精神問題を招いているのだが、少なくとも悲観はしていない。 
 
 
「まだ一緒に生活していて日も浅い、問題が起きるとすればこの先だろう。その時は遠慮なく、おじいちゃん達に相談するとしよう」 
 
「やっぱりお父さんでも、わたし達の事で困ったりする事はあるんですか」 
 
「お前達に限った話じゃない。家族であっても一緒に生活していれば、色々あるさ。そんな時に頼れる人がいるのは、本当にありがたい事だ。 
お前達に教えられる事があるとすれば、そうした人間関係の良し悪しかな」 
 
 
 親の欲目を抜きにしても、才能豊かなユーリ達の将来については不安視していない。大人になれるかどうかは分からないが、なれたとすれば立派な淑女となってくれるだろう。 
 
だがどれほど豊かな才能を持とうと、どれほど強い力を持とうと、人の世界で生きていれば必ず困難にぶち当たる。人は一人で生きていけるが、独りで生き続けるのは極めて難しいのだから。 
 
俺は自分勝手に傷付いて倒れてしまったが、この子達には一人で苦しまずに誰かと一緒に助け合って生きてほしいと思っている。 
 
 
俺が今出来ることは、俺が何とか繋げられた人間関係の輪に、ユーリ達を入れることだろう。だからこその共同生活だった。 
 
 
「私も、おじいちゃん達が大好きです。ナハトもヴィータさん達にすごく懐いていますし、皆で一緒に生きていければいいと思っています」 
 
「お前達がそう思ってくれるのであれば、俺はそんなお前達の生活を守る事に尽力しようじゃないか」 
 
 
「今日お会いする子供とも、一緒に仲良くなれればいいですね」 
 
 
 ユーリ・エーベルヴァインの言葉に、目を丸くする。メガーヌ・アルピーノとルーテシア・アルピーノ、この家族との対面について自分の子供が答えを出してくれた。 
 
親権問題にばかり目を向けて気負うあまり、子供の心境まで考えていなかった。思えばノーヴェ達も新生活に不安を感じて、入国管理局から飛び出してしまったのだ。 
 
新天地での生活に目を輝かせられる冒険心を求めるのは、いくら何でも気の毒だろう。兄となるかどうかは別にしても、せめて味方となってあげなければならない。 
 
 
駄目だな、どうしても自分の事ばかりに目をやってしまう。考えてみればルーテシアという子だって、俺と会うことに不安を感じたり―― 
 
 
「そこの、おにいさん」 
 
「むっ……?」 
 
 
「わたし、みちにまよっているかわいいまいごさんなんですけど、たすけてくれませんかー?」 
 
 
「……」 
 
「……」 
 
 
 ユーリと顔を見合わせて――二人して頷いた。 
 
 
「ルーテシア・アルピーノだな」 
 
「うっ!? そ、そんななまえのびしょーじょないもーとは、しりません!」 
 
「容姿で丸わかりじゃ、ボケ」 
 
「いたい!?」 
 
 
 ――全く不安に感じるどころか、迷子を装って往来のど真ん中で逆ナンを仕掛けてきたハレンチな幼女。 
 
実に将来有望な小悪魔な女の子、ルーテシア・アルピーノとはこれが初対面だった。 
 
こいつにとって気の毒だったのは、容姿が変身していた母親と瓜二つだった事だろう――サイズは、ミニマムだけどね。 
 
 
こんなのが妹だなんて、頭が痛い。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<続く> 
 
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