とらいあんぐるハート3 To a you side 第三楽章 御神の兄妹 第十四話
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<第十五話へ続く>
月村の家を抜きにすれば、二晩も同じ家に泊まったのは初めてだった。
晩飯まで美味しくいただいた俺はその後なのはと盛り上がり、昨日と同じ部屋で寝た。
美味い食事と暖かい寝床。
この街に入ってから、俺は人間並みの生活が出来ていた。
そして次の日―――
「またやんの?うちは洗濯物で忙しいんやけど―――」
「一分!一分でいいから!」
雪辱戦となった。
渋るレンに干すのを手伝うからと言い聞かせて(後で逃げてくれるわ)、再戦となった。
その為にこの家の起床時間に合わせて、早起きまでしたんだ。
決闘場所は昨日と同じ庭。
「元気がいいわね、朝から」
「ファイト、リョウスケ!」
「レンちゃんもがんばー!」
・・・・・・ギャラリーは三人に増えていた。
まあ、なのはは学校が休みらしいので分かる。
晶は早朝稽古とか言って、さっさと出かけた。
問題はあの社会人の二人だ。
敷居に座ってのんびりとしている時間なんぞあるのだろうか?
追い払いたいが、しつこつ懇願されるのも嫌だしな……
本っっっ当にやりづらい奴等だ。
「昨日と同じ一本勝負。時間は一分で」
「負けたらどうするん?また言う事聞いてくれるんか」
あっはっはっは……言ってくれるじゃないか、この野郎め!
同じ過ちを二回繰り返す男じゃないぜ。
「好きにしろ。その代わり、お前が負けたら教えろよ」
「はいはい、了解。さー、今日はどんな事聞いてもらおっかな」
そのニヤついた笑みをぶっ飛ばしてくれるわ!
借りた竹刀をしっかりと握って、なのはに声だけかける。
「なのは、審判」
「分かりました。では……始め!」
即―――足を蹴る。
じっとしていても、奴は絶対に攻めてこない。
基本は待ち。
間合いに入った者だけを奴は迎撃する。
獲物は昨日と同じ物干し竿。
隙のない構えでこちらを見つめるレンの瞳に動揺の色はない。
急速に接近すればするほど、俺の肌が緊張と戦慄に震える。
3…2…1…間合いに………入った!
「はぁっ!!」
右足を大きく踏み込んで、上段に構えた竹刀を振り下ろ―――!
「芸のない―――っ!………っ!?」
―――す訳ないだろ、ばーか。
手首を捻って斜めに振った竹刀の勢いを利用して、俺は瞬間的に膝を下ろす。
直後、急激な負担のかかった手首に痛みが走り―――竿は右耳をかするのみ。
よし、ギリギリかわせた!
「もらった!」
立ち上がると同時に、股間から頭上まで竹刀を跳ね上げる。
……え?
レンの髪をなびいただけで、俺の竹刀は空を切る。
立場は逆転。
竹刀を跳ね上げた俺は悲しいほど胴体が無防備だった。
「ごっは!?」
そのまま竿で胴体を横薙ぎされて、俺は地面に膝をついた。
あんな細い腕をしているのに、衝撃は内臓まで響く。
戦闘そのものに支障はないが、これはあくまで一本勝負。
「くっそ、いい線いったんだがな……」
悔しさも何もかもを飲み込んで、自分から勝負の幕を引いた。
『今日もなのちゃんと遊んであげてや』
レンが俺に課した命令はそれだった。
『びっくりしたわ。まさか昨日の今日であんな動き出来るやなんて』
勝負が終わって朝ご飯を食べてる間、レンはずっと興奮していた。
『ふふん、次の勝負はもっとびびらせてやる』
『うちに勝つにはまだまだやけど』
『ぶっ殺す!』
箸を用いての第二ラウンドは桃子に怒られたので止めた。
その後桃子とフィアッセは喫茶店へ。
レンは今日家にいるらしく、怪訝に思って尋ねた。
『お前がいるなら、なのはと遊んでやれよ。何で俺なんだ』
『男はそんな野暮な事聞いたらあかんで』
『胸のちんまいガキが何言ってやがる』
……掌打を食らった。
手の平より押し寄せた衝撃波に胸をズキズキ痛めながら、俺はなのはと外出となった。
いつか決着つけてやる、コンビニめ。
「なのは。お前、どっか行きたいとこはあるか?」
生意気にもお出かけ服とやらに着替えたなのはに、俺は聞いてみる。
本当はゲーム対戦がやりたかったのだが、掃除するとかで追い出された俺達。
ガキが喜びそうな場所が思いつかなかったので、本人に聞いてみる。
「えーと、えーとぉ・・・・・・ゲームセンターへ行きたいです!」
―――で、此処ゲームセンターへとやって来た。
昼間とはいえ、ガキ共は春休みの時期。
商店街のゲームセンターの前には、沢山の自転車とバイクが並んでいた。
外まで聞こえてくる騒音に、覗けば見えるゲーム機の列。
正直言って好きではない場所だった。
暗くてやかましい場所なんぞ、天下を取る男が足を運んでいい所じゃない。
例えレンとの約束があっても、なのはの希望を却下していた。
・・・・・・昨日までの俺ならば。
「なあなあ、なのは。此処に昨日の格闘ゲームはあるのか?」
「もちろんです、最新式ですよ!
他にもいーっぱいあります」
おおおお、いっぱいか!いっぱいなのか!?
幸いにも、今日はレンより遊ぶ資金はもらってある。
なのはの面倒見るのに必要だとか適当言って摂取してやったぜ、わはははは!
無論、全部俺の為に使ってやる。
なのは?こいつはリッチな御嬢様だから大丈夫だろう。
「よーし、俺様の黒サムライの恐ろしさを馬鹿どもに思い知らせてくれる。
行くぞ、なのは!」
「いえっさー!」
うむうむ、こいつも大人のノリってもんが分かってきたようだ。
意気揚々と二人で自動ドアを開けて―――
おおおおおおおおおおおおおっ!!
――――物凄い歓声に押し潰された。
「なんだ、なんだ!?」
狭い場所で大声なんぞ上げるな!
キーンと耳鳴りがして、俺は顔をしかめて周りを見る。
一人や二人じゃない。
余程大勢の人間が出さないとあんな大声は・・・・・・あそこか!
奥の方に視線を移すと、男女問わず沢山の人間が集まっている。
何だ、あの観衆は!?
とりあえず俺はその辺のガキを一匹捕まえて、襟元を引っ張る。
「ちょっと聞きたいんだが・・・・・・あそこ、何やってんだ?」
「いきなり何すんだ、乱暴な!たく・・・・・・
今日、女王が来てるんだ」
「女王?」
「初の乱入台100人切りをやった女だよ。
知らないのか?この辺じゃ有名だぜ」
「へえ、そんな奴がいるのか・・・・・・」
「おまけに、すっげえ美人だしよ。ファンが多いんだ」
女のくせに、俺を差し置いてファンまで・・・・・・
・・・・・・くくく、どうやら俺のゲームセンター初プレイの相手は決まったようだな。
その小賢しい伝説を打ち砕いてくれるわ!
けっ、美人だかなんだか知らんが顔とゲームの腕は関係ないぜ。
乱入台とやらがどんなのかは知らんが、対戦なら負けない。
昨晩なのはを相手に鍛えた腕を披露する絶好の機会に、俺は胸が震える。
そのまま観衆を掻き分けて―――
「うげっ!?よりによって!?」
「侍君?あはは、やっほー」
ゲームの女王様は、周りにかまわず陽気に俺に手を振った。
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