とらいあんぐるハート3 To a you side 第三楽章 御神の兄妹 第十三話
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右ダッシュ!回転切り!!
「そのまま居合ー!」
ああ、この野郎!?
俺の黒ザムライの必殺技に正面から対抗するとは、男らしい奴め!
だが、所詮はガキ。
俺にはまだ奥の手があるのさ。
「ふははは、かかったな!神速一文字!!」
馬鹿め、その女剣士は技を繰り出すと一定時間動きが止まるのだ。
その隙に黒ザムライで猛攻を仕掛ければ、一気に貴様のパワーゲージは半分以下に―――!
「甘いです!斬り返し!!」
に、二連技だとぉぉぉっ!?
ま、まずい!防がれたら、逆に黒サムライの態勢が崩れる!?
俺の動揺を嘲笑うかのように、なのはは冷酷に宣言した。
「終わりです。桜花絢爛!!」
「うぎゃああああああっ!?」
俊敏な動きで刀の軌跡に巻き込まれ、黒サムライは真っ赤な血を噴き出す。
そのまま刀を落とし、無様に地面に這いつくばった。
「のおおおおおおおっ!!
こらぁー!立て、立つんだ、この根性無し!!」
テレビをバンバン叩いても無反応のまま。
画面の真ん中に勝負ありの表示が出て、俺の敗北を宣言した。
「こら、なのは!何であそこで技が出せるんだ!?
何か裏技を使っただろ、お前!」
「違いますよー。
リミットPがマックスだったら、コマンドを二回連続で打ち込めば出来ます」
おいおい、黒サムライの攻撃は一秒以下だぞ。
二回連続って簡単に言うが、どんだけ指を早くすれば出来るんだ。
にこにこ笑うなのはが妙に空恐ろしくなる。
おのれー、そのにやついた顔をぶっ飛ばしてやる。
「もう一回だ、もう一回!今度こそ負けん!
次は俺はこのニンジャで―――」
「・・・・あのな、あんた。
いい加減、夕ご飯にしたいんやけど」
「む―――?」
レンに頼まれて、なのはとの留守番を任された俺。
鍛錬が終わり、なのはに誘われてゲームに付き合ってやる事にした。
俺も最初は渋々だった。
正直に言えば、テレビゲームなんぞガキのする遊びだと思っていた。
薄暗いゲームセンターで、煙草なんぞ吹かして不健全に集まる連中がやる道楽だと。
こんなチビっ子がやるともなれば、その程度は知れると言うものだ。
一回や二回一緒にやって、後はレンの帰りを寝て待っていようかとも考えていた。
―――気が付けば既に外は真っ暗。
時計を見れば午後十時・・・・・午後十時!?
そういえば―――
「・・・お前、帰ってたのか。レン」
「うちだけちゃう!見てみいや、周りを!!」
おお、よく見れば台所のテーブル席に皆が座ってる!?
仕事から帰ってきたのか、桃子やフィアッセが普段着に着替えている。
晶も帰ってきてたのか、くたびれた様子でテーブルに突っ伏していた。
テーブルの上には湯気の立つ温かい料理の数々。
全員、何やら微笑ましそうにこっちを見守っていた。
「い、何時の間に!?さては隠密の術!?」
「・・・すっかり、ゲームにはまったみたいやな」
しまった、つい影響が出てしまった。
なのはが一緒にやろうと出してきたのは格闘ゲーム。
その名の通り、自分のキャラを決めて一対一で対戦するゲームだ。
ゲームに関しては無知な俺だが、これなら単純で分かりやすい。
何しろ俺は本当の実戦を経験した男。
こんな平和ボケしたガキなんぞ負ける筈がない。
―――と嘗めていたのがまずかった。
まず説明書を読んで、操作の複雑さに目を剥いた。
パンチ・キックはともかく、キャラそれぞれに必殺技がある。
明らかに人間には出来ない技もあるが、それはゲームだからだろう。
その操作の難関さに、始めは苦労した。
ボタン八つに、十字キーを駆使しなければならないのだ。
予め頭に叩き込んでおかないとまず出来ない。
しかも戦闘場所はありとあらゆる環境があり、その場所に応じた戦い方がある。
一口にゲームだと言っても、戦い方は無限大だ。
しかもこのちんまいガキはこのゲームに熟知しており、多種多様な戦法で攻めて来やがる。
戦術を編み出しても覆されるし―――くぅぅ、腹が立つ!!
再戦したいが夕飯か・・・・
確かに腹も減った。
なのはとの戦いで気付かなかったが、胃が盛んに食料を求めている。
飯食ってからにするか。
「仕方ない。先に飯食うか、なのは」
「うん!一緒に食べよ」
「仕方ねえな・・・・その代わり後でもう一勝負。
次は絶対俺の初勝利を飾ってくれるわ!」
「なのはも負けないよー!」
くっくっく、愚か者め。
腹いっぱい食べた後の俺は無敵だ!
コントローラーを置いて電源を切り、二人で台所へと向かう。
途中ぽかんとしたレンの横を通り過ぎて―――
「・・・?何、ぼけっとしてんだ」
「あっ!?いや、その、えー・・・・・」
ぽかんとアホ面して、右往左往するレン。
頭でもボケたか、こいつ。
―――おいおい、お前らも!
レンだけではなく、晶や桃子も驚いた顔をしている。
「な、なんだよ一体!?」
どこかおかしいところでもあるのだろうか?
思わず我が身を見渡してみる俺に、フィアッセが微笑みを浮かべる。
「リョウスケとなのは、すごく仲良くなったんだね」
「は・・・・?」
何言ってやがんだ、この外人。
仲良くなったって、たった半日一緒に遊んだだけじゃねえか。
「別にそんな事ねえって。
がきんちょ相手にちょっと遊んでやっただけだ」
「そんな事ないよ。リョウスケ、なのはの事名前で呼んでる」
・・・・前からじゃなかったっけ?
でも考えてみれば、ガキとかお前とかが大半だった気もする。
ガキ相手に名前を呼ぶのもあほらしいと思ってたし。
適当でいいと、その辺はおなざりにしていた。
「べ、別にどっちでもいいよな?」
「え、えーと・・・・なのはって呼んでもらえると嬉しいです」
当人に確認を取ると、なのはは頬を上気させてこちらを見る。
何かを期待した眼差し―――
冷たく一蹴してやろうかとも思ったが・・・・やめた。
さっきまで呼んでたんだ。
別に今更意識して変えるのも面倒くさい。
―――ただ、それだけ。
それだけの理由。
「わかったよ。んじゃ、なのは」
「はい!良介おにーちゃん!」
「恥かしいから足にしがみ付くな!?」
くっそー、ガキに懐かれるとは・・・・
未来の天下一の今の有様に、我ながら情けなさを感じた。
<第十四話へ続く>
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