とらいあんぐるハート3 To a you side 第三楽章 御神の兄妹 第十二話




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 高町家、この家の連中は全員頭がおめでたいに違いない。

前々から分かっていたが、今日はっきりと分かった。

普通、知り合って間もない人間に留守番任せるか?


「何やってんだ、俺・・・・」


 私服に着替えて、手提げの鞄を持って、レンは出て行った。

レンに命令された内容は一つ。


「レンちゃん、行っちゃいましたねー」


 ソファーの隣に行儀良く座るこのガキを守る事。

正確にはレンが帰って来るまで、相手をしてやってくれと言われた。

あっさり見捨てて逃げるのは出来るが、なのはに告げ口されれば終わりだ。

あんな奴の約束事なんぞ反故してもいいけど、恭也に伝わるのはまずい。

あいつと戦えなければ意味が無い。

機嫌は取っておくべきだし、本音を言えばレンにリベンジもしたい。

勝負ってのは最後に勝った奴が勝ち。

途中経過なんか問題ではないのだ、うんうん。

で、だ――


「お前って一人で留守番した事無いのか?」


 高町なのは。

巷に多いくそガキに比べ、こいつは礼儀正しく素直だ。

おおよそ常識的な大人ならば、誰からでも好かれるだろう。

友達だって多いと思う。

生意気盛りにしっかりしている面もあるし、留守番を怖がる歳にも見えない。

レンが俺に頼む理由がちょいと思い付かなかった。

フィリスみたいに余計なお節介を焼くタイプには見え―――ない事もない。


「ありますよ。おかーさん、喫茶店で忙しいですから。
なのはがお家を守ったりもします」


 少し誇らしげに、えへへと笑う。

・・・・そうだよな、やっぱり。

何企んでいるんだ、あの中国娘。


「ま、しょうがねえ。頼まれた以上はやるか。
夜になるまでには戻ってくるだろう」


 人間、潔さが肝心。

うじうじ悩むより、男らしく覚悟を決めた方がかっこいい。


「俺は稽古するから、お前も好きにしてていいぞ」


 なのはに言付けて、竹刀を持って俺は庭に出る。

雪辱を晴らす為にも、鈍った身体を鍛え直さねば。

ガキと遊んでいる場合じゃない。

やる気満々で、俺はTシャツ一枚になって竹刀を握る。

まず素振り5000回―――って、おい。


「・・・好きにしていいって言わなかったか?」

「はい!ですから、好きにしてます!」


 元気のいい声で、なのはは敷居に座って俺を見ている。

邪魔をするつもりは全然無いのだろう。

興味深々な顔で俺の練習を見つめるなのはに、俺はしっしと竹刀を振る。


「こんなの見ても面白くないだろ。あっちいけ」

「面白いですよ。
良介おにーちゃんが一生懸命頑張る姿が見たいです」


 ・・・いや、だから何が楽しいんだそれは。

修行する恭也の元へ行くのを止めたレンの気持ちがわかった気がする。


「集中出来ない訳じゃねえが、鬱陶しい。
ガキはテレビでも見てろ」


 邪険に追い払う。

無視してもいいが、こいつの場合応援とか歓声を上げる気がする。

同じ家の中にさえいれば大丈夫だろう。

そう思っていると―――


「・・・ごめんなさい」


 途端沈んだ顔を見せて、なのはは家の中へと入っていった。

一瞬だったのでよく分からなかったが、もしかして―――泣いていた?

まさかあれぐらいで・・・とは思うが、あいつはまだ小さい。

純真で素直だし、もしかして今まで悪意を向けられた事が無いのではないだろうか。

ああいう奴ってイジメとかも縁がなさそうだ。

頭を掻く。

別になのはが泣こうが喚こうが、知らん。

世の中の厳しさを教える意味では、むしろあれぐらい言ってやった方がいい気がする。

人生勉強ってやつだ。



『なのちゃんはあんたの事――』



 レンの言葉が不意に脳裏に浮かんで、消える。

・・・・あー・・・・おー・・・えー・・・・うーん・・・・

あああああっ!

分かった、分かりましたよ!!


「おーい、がきんちょ」


 ずかずか歩いて、敷居の外から身を乗り出して叫ぶ。


「ど、どうしました・・・・?」


 姿は見せずに、若干上擦った声だけ聞こえてくる。

やっぱり泣いていたか・・・・

俺はとりあえず視線を空に向けて、大声で言ってやった。

「じゃ、邪魔しないなら見てていいぞ」

「え・・・?」


 返事は聞かない。

聞く必要も無いし、これ以上つまらんお節介を焼くつもりは無い。

何だってんだ、俺は・・・

いさかかうんざりしながら、俺は再び竹刀を手に取った。

背後の視線は極力気にしないように―――



















「ゲーム?」

「はい!一緒にやりませんか?」 


 素振りに筋トレと、鍛錬を積み重ねれば既に夕暮れ時にさし掛かっていた。

鈍っていた身体を激しく痛め付けたが、心身共に気持ちはいい。

シャワーを借りて汗を流し、着替えた所へなのはに声をかけられた。

――結局、数時間ずっとこいつは俺を眺めていた。

飽きもせず、純真無垢な瞳を向けて。

喋りもせず、俺も声一つかけなかったのに不平不満は一切漏らさなかった。

つくづく変な奴だと思う。

まあ、それはいいとして――


「良介おにーちゃんはどんなゲームが得意なの?」

「ゲームね・・・・」


 テレビに接続し、なのははテレビゲームを部屋から持ってくる。

仕方ないので、この小娘に俺の現実を教えてやる事にしよう。


「やった事ねえ」

「・・・・や、やった事無いんですか!?」

「やった事無いっての。そんな金あるなら、飯食ってる」


 本当である。

この日本でゲームをやった事の無い子供は、今はもう殆ど居ないだろう。

俺はその数少ない例外の一人だ。

一般家庭に縁もなく、帰る家もない人間にゲームなんて余分である。

ゲームセンターを覗いた事もあるが、一回100円と知ってやめた。

所詮娯楽だ。

時間潰しには金がかかるし、そんな金を使う余裕があるならもっと別に使う。

こういうゲーム系は、生活に余裕がある人間だけが出来る類だ。


「なのはと一緒にやりませんか!面白いですよ、これー」

「うーん・・・」


 稽古は終わった。

レンや他の家族が帰ってくる気配もないし、その間ぼけっとするのもつまらん。

このガキの面倒を見なければいけないし、暇潰しにはいいかもしれない。

話し相手をするよりは気楽だろう。


「分かった、分かった。付き合ってやるよ」


 ゲームなんぞ、所詮ガキがする遊びだ。

真剣になるのも馬鹿らしい。

内心嘆息しながら、なのはに付き合ってやる事にした。











































<第十三話へ続く>

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