とらいあんぐるハート3 To a you side 第三楽章 御神の兄妹 第十一話
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結局、身体が動くようになったのは数分後だった。
喉に酸素が普通に通るようになり、呼吸困難も無くなった。
胸に鈍い痛みを感じながらも、無理矢理立ち上がる。
「おーおー、回復が早いな。
晶でも最初は十分は起き上がられへんかったのに」
「良介おにーちゃん、大丈夫・・・?」
のんびりひなたぼっこしながら、ガキ二人がそんな事をぬかしやがった。
俺は地面に転がっている竹刀を持って、立ち上がる。
多少ふらつくが、大した事は無い。
物干し竿を立てかけてのんびり敷居に座っているレンを見ると、
「勝負ありや。文句あるか?」
「・・・・」
むかつくが、一本勝負を飲んだのは俺だ。
今でも信じがたいが、俺は目の前の小娘に一本取られてしまった。
「・・・お前、素人じゃないだろ。ってか達人じゃねえか」
「あんたが弱すぎるだけ」
ブツブツ言う俺に、呆れたような顔をして溜息を吐くレン。
おのれー、あんなあっさり食らうとは・・・・
さっきの勝負を思い出す。
間合いに踏み込んだ瞬間、胸に突き込まれた竿―――
反応も出来なかった。
気が付いた瞬間宙を飛んでおり、地面に叩きつけられたのだ。
俺の竹刀はかすりもしなかった。
「病院で晶って小僧が言ってたっけ。恭也はもっと強いって」
「当然やん。
だから言うたやろ?修行の邪魔になるって」
・・・・ってことはあいつと同伴した美由希も強いって事か。
瞬間的に1点を突かれた胸は鈍痛が取れない。
物干し竿だったからこの程度で済んだ。
もし槍だったら?
こいつより強い恭也の刀が胴を薙いでいたら、俺は―――
俺は思わず地面に拳を叩き付けた。
「・・・あんた、剣道始めたの最近か?」
不意にレンがそんな事を聞いてくる。
「そうだよ。それが何だ」
八つ当たり気味に、俺はレンに吐き捨てた。
手も出せなかった事への重みがひしひしと圧し掛かってきて、息苦しくてたまらない。
普段から人の気持ちなんぞ考えないが、今は輪にかけてむかついた。
悪気は無いのは分かるが、負かされた相手だと思うと神経が尖ってくる。
そんな俺を知ってたか知らずか、
「やっぱりそうなんか・・・・・動きや構えに隙が多かったし。
でも、身体はちゃんと鍛えてるみたいやな」
「体力つけるのは当たり前だろ。ガキの頃から暴れまわってたからな」
体力には自信がある。
野山を駆け回り、毎日走り回って身体を鍛えた。
月並みだが腕立て・腹筋・背筋等の一般的な筋トレも欠かしていない。
・・・入院中はやろうとしたら、フィリスに怒られた。
「あはは、あんたらしいわ。
でもほんま、剣道を基本からちゃんと学んだら上達は早いと思うで」
「本当かよ。慰めはいらねえぞ」
「あんたは戦い方を知らんだけや。
我流で学ぶのはええけど、ちゃんと自分の武器を使いこなせるようにならんと」
・・・美由希にも言われたな、似たような事。
あいつに出会う前は握り方も知らなかった。
結果爺さんには遅れを取って、退くしかなかった。
再戦してきっちり勝ったのは流石俺と言えるけど。
俺は竹刀をぎゅっと握って、持ち上げてみる。
自分の武器―――使えていないとレンは言った。
剣で敵を倒すには、敵より早く斬ればいい。
単純明快だが、レンには届きもしなかった・・・・
互いの武器が長い短いの問題ではないのは、分かる。
俺はちらっとレンを見て、
「・・・あのよ」
「再戦はお断り」
言うと思ったよ、こんちきしょうめ。
「何でだよ!
はっはーん・・・俺に負けるのが怖いか」
「陳腐すぎるわ。もうちょっと勉強し」
実に将来が楽しみなガキだな、くそ。
・・・そうか、そうですか。分かりましたよ。
穏便に事を成そうとした俺が馬鹿だった。
俺に一撃くれたくらいで天狗になるとは愚かな奴め。
そっと竹刀を降ろし、レンが目を離したその瞬間!
「もらった!!」
瞬時に立ち上がって突撃して、竹刀を振り下ろ―――
「破ッ!」
「ごあっ!?」
込み上げる衝撃に耐え切れず、爆風を浴びたように俺は吹き飛んだ。
地面に叩きつけられて派手に転がり、身体は停止する。
「あのなあ・・・奇襲かけるのに声張り上げてどうするねん」
「ちくしょ・・・」
今度は起き上がることも出来ず、俺は大の字に倒れた。
「・・・で、何を命令するんだよ」
「うんうん、物分りがいい奴うちは好きやで」
好きな人間をぶっ飛ばすのか、お前は。
ソファーに寝転がる俺に、レンはにこにこ笑顔で看護してくれている。
一度目は竿、二度目は素手―――
悔しいが、全く手も足も出なかった。
奇襲をかけた俺の胸元に瞬時に接近し、掌打で一撃。
たったそれだけで数メートルはぶっ飛ばされて、俺は今身体に重い痺れが走っている。
何なんだ、これは?
力では・・・少なくとも腕力は絶対に俺が上だ。
あんな細い腕に俺を吹き飛ばす力があるとは思えない。
分からない、分からないが・・・・何か秘密はある。
高町兄妹に辿り着く最善の―――何かが。
とりあえず一旦休憩して、その命令とやらを聞いてやる事にする。
勿論途中でばっくれるけどな。あっはっは。
ちんたらこんな所で遊んでいる暇は無い。
こうなったら一刻も早く強くなって、まずこのガキを倒さねば。
レンは俺のそんな思惑なぞ知らず、どこか楽しげな顔でソファーの横に座り込む。
「実はうち、今から用事があって出かけるんやけど―――」
・・・嫌な予感。
「その間なのちゃんと留守番、頼むわ」
うげ、あいつと一緒!?
暗雲立ち込める今日の午後に、俺はうんざりしてソファーの上で力尽きた。
<第十二話へ続く>
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