とらいあんぐるハート3 To a you side 第三楽章 御神の兄妹 第三話
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喫茶店・翠屋―――
病院から歩き通して、駅前を通過し、商店街に入ってすぐの場所にあった。
俺はともかく、小柄なレンが一度も休みたいと言わなかったのは驚いた。
相当な距離を歩いたはずだが、息一つ切れていない。
足取りも始終しっかりしていて、足運びも丁寧だった。
「どうしたん?ぼけっとして」
「・・・い、いや、何でも。で、ここがそうか」
翠屋の前に到着し、俺は店構えを見上げた。
大きくも小さくもない平凡な佇まいだが、穏やかな雰囲気のある喫茶店だった。
それこそ年寄りから若者まで、誰でも立ち寄れそうな感じがする。
変に客に媚びておらず、かといって店主の趣味に走ってもいない。
・・・まあ敢えて言うなら、桃子らしい店だとは思う。
人気があるそうだが、その理由が分かったような気がした。
「ほらほら、皆もう来てると思うからさっさと中に入り。
あんたが来るのを待ってるんやから」
「こ、こら、押すなてめえ!?
それに皆って・・・・そんなに面子が居るのかよ」
俺の退院祝いだとか言ってたが、そこまで盛り上れるもんかね・・・・
親しくもない人間にここまでやれる連中がどうも理解し難い。
自分の事なので嬉しくないのかと言えば嘘にはなるが、どういう連中が集まってるのやら。
俺の疑問に、レンはあっさり答えた。
「おししょーや美由希ちゃん、なのはちゃんやフィアッセさんもおるよ。
後、リスティさんも」
「げっ・・・あの不良警官もかよ」
もう関わりたくないのに、とことん俺の前に現れる女である。
警官のくせに仕事をほったらかしていいのか、あいつは。
正確には警官じゃないとか何とか言ってた気がするが、その辺は無視。
――――って、今何か知らない人間の名前が出なかったか?
「ほらっ、何しとるんや!折角の貸切りやのに、手間かけさせんといて」
「分かった!分かったよ・・・・・」
全身がむずがゆい。
この扉を開ければ、好意全開で俺の来訪を喜んでくれる連中が居る。
見舞いに来た時、そのお人好しさは充分分かっている。
・・・・来ておいてなんだが、やっぱり帰りたくなってきた。
慣れてないからどんな顔して入ればいいのやら―――
とはいえ今更逃げるのもなんだし、店をわざわざ貸切りにまでしてくれたんだ。
俺は渋々扉を開けて、中に入った。
「ういーす、来てやったぞ」
「いらっしゃいま―――あら、良介君!」
俺の声にかぶさるように、店内に店長の明るい声が木霊する。
お、お前「君」って・・・・
俺の動揺をよそに、エプロンをつけた桃子が傍に寄って来る。
「元気になって良かったわ。もう怪我の具合は大丈夫?」
「あ、ああ。もう全然痛まないけど・・・・」
「本当にありがとう。良介君はなのはの命の恩人だわ。
ほら、なのはもお兄ちゃんにちゃんと御礼を言いなさい」
ちょ、ちょっと待て。何だそのペースの速さは!?
圧倒される俺の前に、ちょこちょことちびこいガキが立つ。
言わずと知れたなのはだ。
なのはは俺の顔をしっかりと見て、きちんとした態度で頭を下げる。
「おにーちゃん、ありがとうございました!」
うーん、元気のいい声だ。
―――などと、ほのぼのする感傷は俺にはこれっぽっちもない。
俺はむんずとなのはの頭を掴んで、やや強引に髪の毛をぐちゃぐちゃとする。
「お前のお礼はもう聞き飽きたっての。一回でいい、一回で。
つーか、お前はガキなんだからもう夜中に外に出歩くなよ」
最近はガキを襲う質の悪い奴等がいるらしいからな・・・・
ま、俺には関係ないけど。
「うん・・・気をつけるね」
俺が雄大な心でそう諭してやると、なのははちょっと照れた様子で笑う。
うーん、素直なガキだな本当。
つくづく、桃子の血をひいているのだと感心する。
もっともそれは―――
「良介さん、こちらにどうぞ!」
「よく来てくれたな」
―――こいつら二人もそうだけど。
晴れやかな顔で美由希が出迎えてくれて、背後より控えめに恭也が椅子を薦めてくれる。
二人とも心から歓迎してくれているのが分かる。
抵抗しても仕方がないので、俺は渋々テーブル席に座った。
「ふーん、ここがあんたらの店か・・・・」
エアコンが効いて、中は心地いい空間になっていた。
外見からの印象を裏切らず、内装も落ち着く作りになっている。
若者連中に媚びない感じがよく、長居したくなる雰囲気だった。
が、それより俺が興味を持ったのは匂いだった。
病院退院後何も食べていない俺の胃を、想像以上に揺さぶってくれる香りが厨房の方から漂ってくる。
「・・・晶やフィアッセの料理はプロ並だ。楽しみにしていてくれ」
関心を寄せている俺に気付いたのか、恭也は静かにそう言った。
その口調にはどこかその二人を誇りにしている響きがある。
多分、その評価は間違えていないだろう。
匂いだけで暴れだしたい程の飢餓感に襲われる。
うー、腹減った・・・・
俺はぐったりと椅子の背にもたれかかって、ふと気付いて顔を上げる。
桃子、レン、美由紀、恭也―――
晶とフィアッセとか言うのは厨房にいるらしい。
となると、
「あれ・・・あの不良警官、来てないのか?」
別に来なくても一向にかまわないが、一応聞いてみる。
不良警官というフレーズに美由希が少し思案し、誰を指しているのかに気付いたのか苦笑いを浮かべる。
ふん、人をどう呼ぼうと俺の勝手だ。
「リスティさんでしたら、お客さんを呼んでくるって出て行きましたよ」
「・・・客?」
喫茶店の客じゃないだろうから、あいつ個人の知り合いだろう。
おいおい、仮にも人様を祝うパーティで知らん奴呼ぶなよ。
文句を言ってやりたいが、本人は当然の如くいない。
「あいつの友人って想像したくないな・・・・」
「?お前と仲がいい人達だと言っていたぞ」
「へ・・・?」
不思議そうに言う恭也の一言に、俺は嫌な予感を覚えた。
俺の知り合い――?
この町であいつ絡みで知り合った連中といえば――――奴らしかいないじゃねえか!?
俺は立ち上がる。
「ごめん、ちょっと用事を思い出した!じゃあな!!」
有無を言わさず、そのままダッシュ!
冗談じゃない。
退院早々、あんな奴らと関わってたまるか!
そのまま扉を開けて外に出ようとして、俺ははっと足を止める。
「・・・・遅かったか・・・・・」
店の前に車が止まったのを見て、俺は手で顔を覆った。
<第四話へ続く>
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