とらいあんぐるハート3 To a you side 第三楽章 御神の兄妹 第ニ話
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「お前はあれか、俺=犯罪者とか思っているだろう。
思いっきり喚き散らしやがって」
「あんなとこで手握りあってたら、誰でもそう思うやん」
「あいつが勝手に握って来ただけだって何度言わせれば―――!」
「そんな必死で言い訳せんでええのに」
「こ、こいつは・・・・」
無事に退院し、ようやく自由に外に出歩けるようになった。
フィリスに見送られ、意気揚々と出て行こうとした矢先に現れたのがこいつ。
コンビニから縁のあるレンとか言うガキだった。
こいつのちゃんとした本名は病院で自己紹介された時、もっと何か複雑だった。
本人もそれは自覚しているらしく、レンでいいと言ったので以後そうする。
「はあ・・・まあどうでもいいや。
で、結局何しに来たんだ?
というかお前、学校はどうした学校は」
今日は平日で、時間帯も昼前頃―――
こいつが何歳なのか知らんが、どう見たって十代だ。
今時分は学校で勉強しなければいけない身の筈。
・・・・でもこいつ、外人なんだよな。
もしかすると、何か事情でもあって学校に行けないのかもしれん。
明るい顔をしているけど実は相当貧困な家庭に生まれたとかで―――
「うちの学校は今、春休みやねん」
――――思いっきり普通の理由だった。
「何だ、つまらん」
「何を期待してたんや、何を」
舌打ちする俺をジト目で見つめるレン。
妙に察しのいい嫌なガキである。
ま、こいつの事情なんぞひたすらどうでもいい。
それより気になるのは―――
「で、何を企んでいるんだお前」
「企む?何が?」
「何で休み潰して、わざわざ俺の所に来たのかって事だよ。
そもそも退院の日だって、俺は教えてないぞ。
何で知ってんだ?」
フィリスは医者だから知っていて当然だが、他の面子は知らない筈。
見舞い客はこいつを含めて何人も来たが、別に教える義理も無いので言ってもいない。
例外的に教えた奴と言えば・・・・
「リスティさんが教えてくれたんや。
あんた、教えてくれへんかったから」
「あいつかよ!?」
あの不良警官、余計な事を!
―――って、おい。
俺はあいつにも教えていないぞ・・・・・?
いや、待てよ・・・・そうか!
リスティはフィリスと仲がいい。
何度聞かれても俺が教えなかったから、フィリスに直接聞いたんだ!
くっそ、周到な奴め・・・・
フィリスに口止めはしたが、あいつは生来のお人好し。
俺の為とか言われれば、断り切れなかったんだろう。
「リスティの奴、おまえに話したのか。
じゃあ当然――――」
「皆、知ってるよ。だからうちが迎えに来たんやから」
迎え・・・・?
「何の迎えだよ。まさか、あの世か!?」
「何でそうなるねん!うちは死神か!?」
ほんの軽いジョークを、そこまで本気にしなくてもいいのに。
案外生真面目な奴なのかもしれない。
「はあ、ふう・・・あんたと話してると気が狂いそうになるわ」
「えっ!?
それでまだ普通だったのか、お前?」
「うちがおかしいって言いたいんか!?そう言いたいんか!?」
「あぐぐ・・・・く、首を絞めるな!」
とんでもないガキだ、全く・・・・
背がちっちゃいくせに無理しやがって。
力任せに絞められた首を解いて、レンに向き直る。
「それで実際問題、何の迎えだよ」
「や、やっとその話題に入れるんか・・・・・
何でこんなに疲れなあかんねん」
げんなりした顔で、レンははあっと溜息を吐いて話し始める。
「一応、あんたには色々世話になったからな。
桃子さんがどうしてもお礼したいって言うてるねん」
「ま、まだ気にしているのかよ、あの人・・・・」
見舞いにだって何度来たか数え切れない。
時間を見ては俺の病室に顔を出して、面倒とか見てくれたりもした。
俺はもういいと言っているのだが、命の恩人だからと相手も譲らず。
野郎なら無理やり追い出すのだが、相手は女。
しかも話してて分かったが、かなり人が良くて情に厚い人間。
桃子のようなタイプは力押しは逆効果なので、俺にとって苦手な部類に入る。
―――病院代だって、この人が全額負担してくれた。
「桃子さんだけちゃうで。
なのちゃんだって会いたがってたんやから」
「・・・・あ、あのガキもか・・・・」
そしてより苦手なのが、桃子の娘のなのはだ。
助けられたのがよっぽど印象的だったのか、毎日のように顔を出してきた。
勿論一人ではなく連れも一緒で見せる顔は違っていたが、なのはだけは毎日尋ねに来た。
明るい笑顔と過剰な好意を向けられて、俺はどうしたらいいのかも分からなかった。
殴ったり怒鳴ったりしたら、思いっきり傷つけてしまうし・・・・・
他人がどうなろうと知った事ではないが、さすがの俺も幼女虐待の趣味は無い。
渋々付き合ってやり、最近来なかったので安心してたのだが・・・・・
「・・・・なるほど、迎えってのは家にでも招待しようって事か」
無事に俺が退院して、あいつらも喜んだのだろう。
退院祝いとばかりに、歓迎されそうな勢いだ。
「あー、正確には家やないけどな」
「?じゃあ何処だよ」
「桃子さんが喫茶店やってるって話、聞いたやろ?
そこで皆集まってるんや」
あーあー、何か言ってたなそんな事。
初めて見舞いに来た時に食ったシュークリームを思い出す。
あれは確かに絶品だった。
でもな―――わざわざそこまでしてもらわなくてもいいのだが。
皆、という単語もめちゃめちゃ気になる。
「・・・・パス、とかは出来ないか?」
「はあっ!?何でや!?」
「そりゃあお前―――」
最初から馴れ合うつもりは全然無い。
本当なら退院したら、この町からも出て行くつもりだった。
そう言ってもいいのだが、そう言うと強引に連れて行かれそうだ。
「何度も言ってるが、助けるつもりで助けた訳じゃない。
そんなに感謝されたら、逆に俺が困る」
「そ、それは・・・・・」
言い渋っている今がチャンス。
「礼はもう聞いた。見舞いにもきてもらった。
それでいい。
あの二人にはもう気にするなってお前から言っておいてくれ」
そのままレンに背を向ける。
はっきり言って立ち去れば、もう無理に連れて行こうとはしないだろう。
あの親娘は苦手だ。
これ以上関わらないに限る。
そのまま歩を進めると―――
「うーん、そこまで言うんならしゃーないな・・・・・・
折角、御馳走用意したのに」
――――何?
「桃子さんやうちや晶が愛情込めて作ったんやけど・・・・・
あんたがいらん言うんやったら捨てるしかないな」
ご、御馳走・・・・?
病院食じゃない、まともな料理・・・・・?
瞬間、俺の胃が猛烈な活動を始めた。
「ほら、何してるんだお前。さっさと行くぞ。
人様の好意を無下にしてはバチが当たる」
「・・・・・・・・・・ま、そう言うと思ったけど・・・・」
―――レンの目がちょっと冷たかった。
<第三話へ続く>
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