とらいあんぐるハート3 To a you side 第八楽章 戦争レクイエム 第七十六話





「行ってはいけません」


 開口一番、この台詞。帰宅の挨拶や世間話、事情説明等を全てすっ飛ばしての警告。個別に呼ばれた俺とアリサはキョトンとした顔のまま、お互いに顔を見合わせる。

海鳴で起きた連続不幸事件、その解決に乗り出す前に俺は異世界の情報収集に、一人の女性を派遣していた。アリシア・テスタロッサの飼い猫であり、使い魔のリニスを。

時空管理局に存在を認知されておらず、異世界への転移を可能とする有能な女の人。プレシアからの推薦とあって、彼女には聖王教会の調査も含めてお願いしていたのだ。


その彼女が帰還するなり、人払いさせてのこの一言。先程受けたクロノからの注意もあって、自然と気が引き締まる。


「それってもしかして、"聖王のゆりかご"や"大いなる予言"とやらと関係があるのか?」

「! 時空管理局は当然として、任務中の本局部隊にまで連絡が届いていましたか。本局や地上にまで影響が広まっているとなると、ますます危険ですね。
とにかく、貴方は行ってはいけません。大丈夫です、明日からは何も考えられなくなるほど訓練する予定ですから。早く休んでおいてください」

「家にいるのも危険じゃねえか!?」


 フェイトやアリシアの婿として相応しい男性にするのだと、ウキウキした様子の山猫さんがちょっと可愛くて怖い。強く気高くあれを地で行く人だからな、この人。

とにかく、ハイそうですかと納得すれば明日から地獄のフルコースが待っている。強くなるのに異論はないが、自分一人にかまけている場合ではないのだ。

アリサに自分達の今の逼迫した状況をまず説明させた上で、情報収集の報告を促した。


「この一ヶ月、管理プランそのものは時空管理局に高く評価されている。提案した教育プログラムだって、本来であれば議論の余地もなく採用されていた筈だったんだ。
時空管理局顧問官を務める重鎮、グレアム提督の存在がその全てを台無しにしている」

「ふむ。聞いた話を総合すると、その御方は貴方やローゼ個人ではなく、管理プラン計画そのものを執拗に潰そうとしていますね。
お会いしたことはありませんので推測でしかありませんが、ジュエルシードの件さえも建前でしかないのかもしれません」

「あたしもそんな印象を受けたわ。正義感や義務感ではなく、執念に近い使命感で動いている。良介本人を恨んでいるのであれば、一番分かりやすいんだけど」

「嫌な例えだけど、確かにプランを提案した俺への批判も強かったな。一体、何が気に入らないのやら」


 グレアムやリーゼアリアの姿勢は一貫しており、反対の意志を始終崩さなかった。それだけならまだいいが、相手は管理局に絶大な影響力を持っている。

黒を白とするほど無茶苦茶は出来ないにしても、グレーゾーンであれば平気な顔で突っ込める。今回だって盗聴や盗撮までしているのに、正義の名の下に正当化されたのだ。

リンディは問題にすると言ってはいるが、多分さほどの罰則は適用されないだろう。何しろ管理プランそのものが黙認されているだけなのだ、表沙汰に出来ない。

こんな調子でやられたら、どんな小さなミスも許されないこちら側は太刀打ち出来ない。夜の一族の会議と同じ、発言力が無ければ決定権は与えられないのだ。

異世界の情報は必須だと念押しすると、リニスも気が進まない様子ではあるが説明してくれた。


「貴方が異世界と呼ぶ"ミッドチルダ"は第一管理世界とも呼ばれ、魔法文化が最も発達している世界です。
中央区画と周囲の東西南北の地域に大別されており、ミッドチルダ式魔法の発祥の地でもあります。時空管理局の運営そのものにも、大きな影響を持っていますね。

そのミッドチルダの北部にあるのが『ベルカ自治領』、この地に聖王教会の本部があります」

「そもそも、聖王教会というのはどのような宗教団体なの?」

「宗教名は"聖王教"、聖王教会は聖王教を布教する次元世界でも最大規模の宗教組織です。
危険なロストロギアの調査と保守を使命としている宗教団体で、時空管理局とも良好な関係を築いております。ですので、各方面への影響力も非常に大きいですね。

その影響力の大きさが今、ミッドチルダ全土を揺さぶる大事件に発展しつつあるのですが」


 聖王教とはようするに、聖王なる存在を崇めている宗教。聖王とは古代ベルカという歴史に君臨する王であり、聖王が神託を受けて教えを広めた事が聖王教の発端であるらしい。

数々の偉業を成し遂げた聖王本人やその血族、王と共に在った騎士達が信仰対象。彼らの遺物が「聖遺物」として畏敬の対象となり、聖遺物の管理も聖王教会が行っている。


事の起こりは聖女の予言、事の始まりが――その聖遺物にあるのだと言う。


「ミッドチルダ極北地区ベルカ自治領にある聖王教会、かの聖地には一人の若き予言者がいます」

「聖女と呼ばれている人か」

「いいえ、違います」

「違う……?」

「順序が違います、彼女は予言者であるがゆえに聖女と呼ばれているのではありません。事の発端であるその予言こそが、"聖女"と讃えられた由縁なのです」

「聖王教会そのものを根底から揺さぶり、時空管理局という法の組織を震わせ、異世界ミッドチルダを混乱の渦に陥れている、最たる要因。
教えて、リニス。貴方ならもう、その予言の内容を調べて来ているのでしょう」



「"待ち人、来たる"――聖王の降臨を、予言したのです」



 ゆえに"聖女"、宗教にとっては祝福であり禁忌でもある神の降臨。神がこの世に舞い降りるのだと、他ならぬ予言者が告げたのである。

驚かぬ筈がない。喜ばぬ筈がない。恐れぬ筈がない。神とは絶対、神とは正義、神とは法。正義の体現者は、あらゆる悪を許さない。

あまりにも突拍子もない信託に、俺のような凡人には想像の外にあった。ピンとこないにも、程がある。


「世界間の違いなのか、大袈裟に過ぎると思うんだけどな。宗教で神の再来を告げる予言なんて、大抵はデタラメだろう」

「仰ることはよく分かります。ここで大事となるのは聖女の予言は神託そのものではなく、能力なのです。

古代ベルカ式のレアスキル、預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)――詩文形式で書き出した預言書の作成を行う能力です」

「預言書の作成!?」


 ――他者の願いを叶える俺の能力、法術の媒体は古代の魔導書。魔導の頁を改竄して、願いを描く能力。似ている、あまりにも似通っている。

プレシアは聖王教会に法術のヒントがあると示していた、これは偶然なのか……? 予言とは未来、そして俺の能力は他者の理想の未来へ導くと解釈出来る。

希望的観測な解釈で無関係ではあると自分でも思うのだが、せめて能力を制御する手掛かりにはしたい。教会に行くとすれば、まずその聖女に謁見を願うべきか。

ともあれ、事前の情報は掴んでおくべきだろう。ひとまず黙って、続きを聞いてみる。


「能力には発動条件があり、二つの月の魔力が上手く揃って初めて発動可能。その為、ページの作成は年に一度しか出来ません」

「つまり、今年行われた予言が、よりにもよって神の降臨だった訳か。世間をそれほど騒がせているのなら、予言の的中率も高そうだな」

「そもそも予言の中身は古代ベルカ語で、解釈によって意味が変わる難解な文章。世界に起こる事件を書き出すのみ、解釈ミスも多く的中率や実用性はその時々に左右されやすいそうです」

「なるほど、だからこれまで聖女と謳われる程持ち上げられていなかったのね」

「予言とは言っても世界中に散在する情報を統括し、検討された事実を導き出すデータ管理を行う調査系の魔法技能ですからね。
聖王教会や次元航行部隊の上層部も有識者の予想情報の1つとして預言内容は目に通す程度だったのです、これまでは」

「ちっ、一応時空管理局も目を通してはいるのか。だから今回クロノ達にも伝わって、あの右往左往ぶりだったんだな。ユーノにも調べさせてはいたからな」


 天気予報程度にしか参考にしていなかった予言が、突如神の降臨という恐ろしい未来を描き出した。途方も無い未来図に、混乱させられたのだろう。

今は予言の真相探索に乗り出しているのだろうが、その内真偽の程も判明する。法を超える神の存在、予言が的中してしまえば法の組織そのものが危うくなる。

神は絶対、その強固な真実そのものが宗教団体をこれまでにない規模の組織に発展させる。これまで神本人が君臨した宗教など、歴史上ありはしなかったのだから。


話は、よく分かった。しかし――


「それで、どうして俺が行くと危なくなるんだ? 別に関係ないじゃないか、俺と神様なんて」

「関係あるに決まっているじゃないですか! 貴方、自分の魔力光の事を忘れたのですか!?」


 教会の神とされる聖王が魔力使用の際に現れる虹色の魔力光、"カイゼル・ファルべ"。この現象は、聖王の血統に頻出する現象とされている。

ユーノから熱心に説明を受けた現象、彼がこの事を調べたのは他ならぬ俺自身の魔力光と同じ色彩だったからだ。それは分かる、分かるんだけど……


「たまたま似ているだけだって、こんなの。"聖王の鎧"と呼ばれる現象にまで至っていないんだぞ。
世の中同じ顔や声の人間だって何人もいるんだ、たまたま同じ色の魔力光をした人間だって出てくるだろうさ」

「たまたま同じ時期に神降臨の予言が出た予言者に会う為に、たまたま同じ時期に聖王の聖遺物が出た聖地へ、たまたま同じ魔力光をした人間が向かう。
しかも聖王教会側から、たまたま同じ時期に招待が届いたのよ。これまでの話を総合すると、来賓扱いされる可能性まで出てきたわ。

今恐らく世界中の信者が集っている聖地で、これだけ揃った符号を全部ちゃんと否定出来るの、あんた?」

「うっ……」


 本当に偶然なのに、どういう訳か必然とされる証拠が突然山積みされてしまっている。聖女の予言、聖王の聖遺物――神の降臨が約束された、聖地。

本当に聖王が降臨するのかどうか分からないが、もし同じ魔力光をした人間が顔を出せばどうなるのか。聖王の血統に頻出する現象を起こせる人間が、予言の地に登場するのだ。

俺が信者なら、百%こいつだと思うだろう。そんな偶然があるか、と詰め寄る。聖王がついに降臨されたと、お祭り騒ぎになるのは目に見えている。


もしも後で違うと判明すれば、一体どうなってしまうのか――世界中の信者が暴徒化しそうで、怖すぎる。


「それだけではありません。先ほど言った通り、聖女の価値は今聖王に匹敵するほどであり、彼女の予言は聖書として扱われております。
予言とは彼女の能力そのものであり、万が一にでも聖女に何かあれば予言そのものが破棄されてしまうかもしれない。それは神降臨を妨げる、大いなる悲劇です。

その為聖女を守りし"騎士"、もしくは"騎士団"が設立されようとしています」

「まあ、放ったらかしには出来ないだろうしな、護衛役は必須だろうよ」

「聖王教会は独自に、教会騎士団と呼ばれる戦力を保有しております。その教会騎士団を当てれば済む話でしたが、他ならぬ彼女本人が騎士団所属の人間。
身内で固めることをよしとしない意見が続出し、あろうことか――世界中より、聖女の騎士に相応しき人間を求めることとなったのです」

「へっ……何で? 身内でいいじゃん、別に。聖王教会に所属する騎士であればそれこそ、聖騎士だろうに」

「恐らく――世界中より強者を集める事であわよくば選出するつもりなのよ、"聖王候補"を」


 求めるのはあくまで聖女の騎士及び騎士団。それでいて期待もしているのは、他ならぬ聖王本人の登場。聖王は武勲の王様、強者でなければ務まらない。

滅多にないアリサの弱気な想像はきっと、聖王教会そのものの考え方にも当てはまる。彼らだって不安なのだ、本当に聖王が降臨されるのかどうかは。

聖女の予言に聖王のゆりかご、二つの偶然が揃っていても信者の期待と不安はまだ揺れている。当たり前だ、神様を見た人間なんて古今東西誰一人いないのだから。

仮に現れても、その人が聖王本人がどうか知る術は限られている。ただ単に待つだけなんて、出来はしない。せめて何か探しだす為の手掛かり、もしくは予兆が欲しいのだ。


悩み抜いた彼らが選び出した基準こそが、"強さ"――勝者こそが正義、正義こそが絶対。分かり難い予言に、分かり易い答えを求めてしまった。


「ミッドチルダ全土のみならず、他の次元世界からも続々と噂を聞いた強者達が聖地に集っています。まだ選出はされておりませんが、身分や身元を問わずに集まっている。
私も聖地を視察しましたが、名の知れた猟兵団や傭兵達、各国の騎士団、中には時空管理局の精鋭達の姿もありました」

「ぜ、全然、聖王と関係ない面々じゃねえか!?」

「そもそも"神"という選出条件なのですよ、名乗ろうと思えば誰だって名乗れます。選出基準もその内教会より提示されるでしょうが、恐らく戦いとなるでしょう。
外部からの人間を当然教会側の騎士達は不満に思い、教会騎士団に所属する騎士達も騎士役に立候補。噂によると、"シスター"も積極的に名乗りを上げているようです。
その中には、"聖騎士"と認められた人の姿もありました。外見こそ見目麗しき少女でしたが、あの隙のない佇まいは聖騎士に相応しい貫禄と実力の持ち主。

加えて――人外の、存在」

「えっ、人じゃないのも居るのか!?」

「人に姿を変えていましたが、私のような存在も見かけました。それも使い魔などではなく、力ある存在――"龍族"や"魔族"、"神族"のような者達。
分かりますか、婿殿。聖地と呼ばれるあの場所は、間もなく戦場となる。宗教の名の下に――戦争が、勃発するのです」

「戦、争……」

「貴方は一介の剣士、試合であればともかく戦争に参加してはいけません。己の剣を大義なく、血で汚すだけです」


 戦争――今の日本には無縁な言葉だった。平穏とはお世辞にも言えない世界ではあるが、戦争に巻き込まれる気配もなかった。

こうして剣を持っていても戦いに不自由する毎日、かつては不満だった。強者と戦いたいと望み、戦争に参加して武勲を立てたいと夢想した事も数知れずある。

なのに今現実に戦争が起きると聞かされて、心に湧き上がるのは緊張と不安だけだった。それほど今が充実していて、戦いを求めていない証拠なのかもしれない。

リニスが止めるのはもっともだった。そもそも、実力がないのだ。竹刀一本で勝てる人間なんて、聖地には殆どいないだろう。今までとは、規模そのものが違う。


ひとまず一旦休憩を求め、リニスは退室。アリサを手招きして、部屋の隅で密談して自分の心の中を明かす。


「これはチャンスだぞ、アリサ」

「まーた、馬鹿な事を考えてる。ほら、笑ってやるから言ってみなさい」

「大概酷いよな、お前って!? いいか、アリサ。あのおっさんが居る限り、このままではローゼは危険物として時空管理局に連れて行かれるだけだ。
だから聖王教会に連れて行って、ローゼを保護してもらおうぜ」

「はい、馬鹿な発言きたー!」


 笑って、引っ叩かれる。おのれ、このメイド。主人の崇高なる提案を、平手一発で否定しやがった。


「どういう理論に基づいたら、そんな結論が導かれるのよ。大体聖王教会だって時空管理局と協力して、ロストロギアの回収と管理を行っているのよ」

「そこだよ。そもそも何でたかが宗教団体が、ロストロギアの回収とか管理が許されているんだ?」

「……言われてみればそうね。聖王が実在するにしても、宗教団体に危険物を持たせる理由がないわね。管理プランをしている私達が言うのも、何だけど」

「多分ロストロギアを"聖遺物"扱いか何かで色々誤魔化して、自分達で保有してやがるんだ。管理局といい関係を築いているというけど、そんなのそもそもありえんだろう。
政治と宗教が、法と神が、何の利害もない正義で繋がるはずがねえんだ。連中の関係は言葉悪く言えば、俺とクロノ達よりよっぽど薄汚い関係のはずだぜ。
管理プランを前例のない愚かな提案と批判されてたけど、実際には実例があったんだよ」

「あっ! あんた、もしかして――」

「そう、管理プランを"聖地に移行"するんだよ。あそこなら聖王教会の本部があるし、ロストロギア管理の"実例"があるうってつけの場所。
それでいて時空管理局とは良好な関係を築けているから、グレアムの爺だって口出しできなくなるぜ」


 そう、俺達はすっかり騙されていたのだ。「管理外世界での」ロストロギア管理そのものは前例にないが、「管理局外」でのロストロギア管理は行われている。

法の組織である時空管理局も公認まではしていないにしても、法の管轄ギリギリの範囲内で管理を外に委ねている。そこにローゼを紛れ込ませればいい。

俺の提案をアリサは一考するものの、難しい顔を崩さない。


「でもあんた、招待こそされているけど聖王教会に何のコネもないでしょう。管理プランの許可なんて出るはずがないでしょう。
此処は月村の地で、忍さんの厚意があってようやく成立しているのよ。ローゼ本人は問題ないにしても、ジュエルシードは危ないのは事実なのよ」

「そうだな、確かにそうだ。でも今、ローゼ以上の危険なロストロギアが今認知されようとしているだろう?」

「!? "聖王のゆりかご"!」

「"聖王のゆりかご"がどんな代物か、俺には想像しかできねえ。だけどよ、単純な"王様の居城"であればあんなに管理局の連中が騒ぎ立てるか?
絶対何か曰くのあるヤバい代物なんだよ、だから顔色変えて混乱してやがるんだ。予言があって、聖王が現れたからって、そんなの認可されるはずがねえ。

もしも許可が出るのなら、相当無理矢理なゴリ押しをするに決まってる。そこに、ローゼ一人を紛れ込ませるんだよ」

「だーかーら! どうやって、聖王教会の許可を求めるのよ!!」

「決まってるだろう、聖王教会で今一番発言力のある聖女様にお願いするのさ。ローゼを騎士団の一人にしてしまえば認知しない訳にはいかないだろう、うしし」

「うわっ、腹立つ顔だわ。どうせ考えのみでどう実現するのか、あたし頼みにするくせに」


 リニスさんをどう説得しよう、とアリサが泣いて頭を抱え出した。すまんな、アリサ。だが、他に方法が思いつかないんだ。

このままでは近い内に、ローゼは時空管理局に引き渡して封印される。管理プランの継続は、あのジジイと秘書が居る限り不可能。管理局を相手に、個人では勝てないのは思い知らされている。

法の組織に勝つ為には法に勝てる存在、神に頼むしかない。とうとう神様に縋るなんて俺も落ちぶれたものだが、なりふり構っていられない。

こうなったら、異世界でもどこでも行ってやる。幸い今だけは、聖地は身元問わずで入れる。最低限の検閲はあるだろうが傭兵共まで入っているのなら、多分ザルだ。


「聖王教会という"実例"を隠していたとクロノさん達に詰め寄って、聖王教会への出向を短期間だけ認めさせることは出来ると思う。
不幸中の幸いにもグレアム提督やリーゼアリアさんはこの前の会議で問題となって、今査問にかけられてる。彼らが身動き取れない今だけが、チャンスよ。

ただその後、本当にどうするつもりなの? 今回は個人戦じゃなく戦争よ、神速を使えたとしてもあんた一人じゃどうにもならないわ」

「そこなんだよな……」


 次の戦いは、戦争になる。個人で、戦争なんて出来るはずがない。敵は実力揃いの傭兵達や猟兵団、聖騎士やシスター、時空管理局や教会騎士団、人外までいる。

美由希やリスティ――剣士や超能力者に勝てたのは、敵があくまでも個人で、俺達が集団だったからだ。仲間の力を借りれたから、俺は何とか勝てた。

でも今度の敵は、集団だ。一人一人でも勝てないのに、実力者達が集団で競い合う。個人でも、集団でも、勝てないのであれば、どうすればいいのか。


「妹さんと俺だけじゃ、勝てないか」

「当たり前でしょう」


 困った――強者に、心当たりが全然ない。いくら何でも管理プラン関係でクロノ達、恭也や美由希が手伝ってはくれないだろう。

俺に人望さえあれば、号令をかけられたかもしれない。傭兵達や猟兵団、人外にだって負けない"強者達"を集められたかもしれないのに。


聖女を守りし、自分の騎士団――あるいは、猟団を作れたかもしれないのに。



独りなのが、辛かった。










<続く>








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