とらいあんぐるハート3 To a you side 第二楽章 白衣の天使 第二十二話
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・・・確認するまでも無いが、俺は怪我人だ。
怪我人と言うのは怪我をしている人の事で、俺の場合肩がいかれている。
大分ましにはなっているが、触れるとまだ痛みが走る。
まだ完治はしておらず、入院生活はまだ続く。
つまり俺は自分で言うのもなんだが、大事にしないといけない身の上の筈だ。
なのに――
「・・・すー・・・すー・・・・」
・・・人様の肩に寄り掛かって、女は一人寝ている。
うたた寝どころじゃない。
さっきから何度も揺り動かしているのに、ぴくりとも目を覚まさない。
「・・・・くそ、この女は・・・」
体重をかけられると痛くて仕方が無い。
かと言って、痛いからどけと言うのもかっこ悪い。
心の中で葛藤しながら、俺は全身を硬直させていた。
「さっきまで泣いてたかと思えば・・・・たくよ。
女ってのは現金なもんだぜ」
励ました自分が馬鹿みたいに思えてきた。
病院を脱走し、夜通し探し回ったフィリス。
俺を見つけられて安心し、ほっとしたのは分かる。
一睡もしないで夜中うろうろすれば疲れるだろう。
見た目も華奢なので、体力だってありそうもない。
疲れるのは当然だし、寝るのは別にいい。
いいのだが、人様にもたれかかるのは止めて欲しいもんだ。
「・・・す〜・・・・・」
人の気も知らないで、気持ちよさそうにしやがって――
安眠した表情は安らかで、とても無防備だった。
・・・・俺の為に頑張ってくれたんだよな、このお人好し。
タクシーの揺れや窓の外の風景を見つめている内に、俺にも眠気がやって来る。
結局振り解けず、そのままにさせた。
俺は病院に戻れば寝るだけだが、こいつはこれからまた医者に戻らないといけない。
睡眠不足で患者を殺されても困るので、俺はフィリスを寝かせておく事にした。
「ふう・・・・」
息をつく。
車の揺れが酒の入った身体に気持ちよく、いい感じに眠気を刺激する。
朝焼けに包まれた風景も平和で、空も明るい。
平凡な日常の始まり――
俺は半ば静かな心持ちで見つめながら、さっきの事を思い出す。
また遊びに来て欲しい―――
真摯に願っていた神咲に、俺は断れなかった。
町を出て行く―――そう決めていた筈なのによ・・・・・
ふんぎりが付かない自分が情けなく、驚きだった。
今までだったら何の感情も無く、町から町に旅し続けていた。
この町が気に入っているのは認めるし、風変わりな連中が居て面白いとは思う。
でもだからといって、こうも後ろ髪に引かれるのは変だ。
昔の俺なら迷ったりはしなかった。
・・・・昔?
俺はぼんやりと窓の外を見ながら思う。
いつから昔になったのだろう?
俺はいつからこういう奴に・・・・・・
―――!?
「運ちゃん、ストップ!」
「えっ!?」
流石はプロ。
俺の突然の静止に驚きはするものの、運転テクニックに乱れは無い。
巧みなブレーキで制動し、ゆっくりと道の端でタクシーを止める事に成功する。
今が朝で、道がすいていたのが良かった。
「どうしたんですか、一体?」
「あの車・・・・・」
今居るこの道は俺も覚えている。
病院へと続く一本道で、歩いても数十分で病院が見えてくる。
昨日久遠と歩いたから間違いは無い。
問題なのは、さっきちらりと見えた道の脇――
「おっちゃん、ちょっと先に行っててくれないか?
タクシー代はこいつが払うから、病院着いたら起こしてやってくれ」
というか、この期に及んでまだ寝るかこいつ。
よっぽど疲れてたんだな・・・・・
妙な感心をしながら、俺はゆっくりフィリスを座席に寝かせて車を降りた。
「ちょ、ちょっとお客さ・・・」
「後よろしく。
あ、それとこいつが可愛いからって獣にならないように」
何やら抗議する運転手の声を背後に、俺は車から降りた。
そのまま車の後ろに回って、通りかかった時に見えた辺りを確認する。
あれは―――間違いない。
俺は確信し、そのまま真っ直ぐにその場所へと向かう。
一直線に伸びる道路。
海からの風が届く静まり返った道の片隅に、それは停まっていた。
一台の高級車――
庶民にはまず買えない堂々とした貫禄を持っており、レッカー移動も恐れ多くて出来そうに無い。
普通ならただ見るだけで終わるのだが、俺はその車に心当たりがあった。
忘れもしないあの時の夜。
追われる俺を助けてくれたのは、間違いなくあの車。
そして車内にいた二人の女だった――
ただ停止しているだけなのか、車からはエンジン音が聞こえてくる。
正面のフロントガラスからは車内にいる人影が見えており、俺は嘆息する。
予想通りの人物だった――
車内に居る二人は俺を目にして、驚いた顔を浮かべる。
俺はそのまま遠慮なく近づいて、助手席の窓ガラスを叩く。
ほどなくして窓ガラスが開いて、中にいた奴が顔を出した。
「侍君!?ど、どうしてこんな所・・・・」
助手席にいるのは月村、月村 忍。
そしてもう一人――
「それは俺がお前に聞きたいんだけどよ・・・・
何してんだ、お前ら?」
窓から中を覗いて運転席に目を向けると、
「・・・・おはようございます、宮本様」
月村のメイドであるノエルが丁寧に頭を下げた。
<第二十三話へ続く>
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