とらいあんぐるハート3 To a you side 第八楽章 戦争レクイエム 第二十四話





「月村家・八神家初の合同家族会議を始めます」


 引越しが無事に終わった、夜。月村邸の豪華なダイニングルームにて、家族全員が集まっていた。メイドであるノエルやファリン、執事のローゼも主の傍に控えていた。

同じ使用人であるアリサだけは議長として君臨しているが、誰もが当たり前のように畏まっていた。彼女の主である筈の俺は徹夜明けの眠気を堪えながら、アギトに遅い夜食を食べさせている。

八神家は大黒柱の八神はやてを筆頭に、ヴィータにシャマル、シグナムにザフィーラ、夜天の人にミヤ。月村家は一家の主である忍に、妹のすずか。アリサや俺も加えて、大人数となっていた。


抱えている人数は多く、厄介事も盛り沢山。その全てを俺が解決しなければならないのだと思うと、明日への希望も持てそうになかった。


「会議を始めるにあたって、まずは改めて自己紹介といきましょう。今日からお世話になる忍さんへの、挨拶も兼ねて」

「ははは、堅苦しいのはいいよ。仲良くやっていこうね」


 にこやかに手なんぞ振っているが、言葉で言うほど気は許してはいないだろう。元より人懐こい女ではない。俺の知り合いだから信用する、俺が前提となっているに過ぎない。

八神はやては家族も出来て随分明るくなっているが、今まで一人で車椅子生活をしていた身。大人数での生活で他所の家ということもあり、少し恐縮しているように見える。

海外で共同生活を始めた時ほどのギスギスはないけれど、皆遠慮がちに見えた。その辺も敏感に気にして、アリサも紹介タイムを提案したのだろうが――


「はい、議長」

「却下」

「せめて聞けよ!?」

「お金なら忍さんにたかりなさい」

「私を財布扱いしてる!?」


 思わずツッコミを入れた後で、アリサがニヤニヤしているのに気付いた。ぐっ、こいつ、皆の緊張感をほぐすために言いやがったな。俺や忍の反応を読んでいたらしい。

この場には頭の良い奴が多いのか、空気を読んだ上で大袈裟に笑っている。ま、まあ、ギスギスするよりはいいか。後で、可愛いメイドを折檻はするけれど。

気を取り直して、立ち上がる。


「この場にいる全員をよく知っているのは、俺だ。忍から誘いがありはやてが承諾したとはいえ、この共同生活を推進した責任者でもある。
この先一緒に生活していく上で、まず共有しておきたい事がある。皆訳ありという点も含めて、個々人に深く関わらない程度には知っておくべきだと思う。

まずは、俺の話を聞いてくれないか?」


 踏み込まないと念を押しながらも、踏み込んだ発言をする。訳ありどころではない。俺も含めて、この場にいる全員が普通ではない。一般人がこの場にいる資格はないのだ。

この共同生活は、アンバランスだからこそ成り立っている。複雑な事情を全員が抱えているから、無難な距離を保てている。平穏な暮らしを望む人間が入れば、精神に異常をきたす魔窟だった。

事情を話すということは、その均衡を危うくしかねない。まして、初日から話すべきことではないだろう。アリサも、あまりいい顔はしていなかった。


でも俺は、たとえ信頼を傷つけることになろうと――踏み込まなければならないと、思っている。


「忍」

「侍君に、任せる」


 夜の一族の女は、何の変哲もない人間の男に信頼を預けた。夜の一族の秘密は、断固として守らなければならない。その為に、人間に契約まで敷いている。

契約を結んでいない俺を夜の一族が放置しているのは、信頼の一言。カレン達は血まで分け与えて、俺を支えてくれている。話すということは、裏切ることになりかねない。

そのさじ加減を全て、俺に任せると言ってくれた。


「はやて」

「良介に、任せるわ」


 夜天の魔導書の主は、どこにでもいる男に信頼を託した。魔導書の秘密は、生涯抱えなければならない。その為に、守護騎士達やユニゾンデバイスがいる。

秘密を知る俺が今でも生かされているのは、信用の一言。守護騎士達は何も言わず、俺の力になってくれている。話すということは、彼女達を売るのと変わらない。

そのさじ加減を全て、俺に任せると言ってくれた。


「分かった。ならば今こそ、全てを話そう――俺自身のことも」


 一人だった――独りだと勝手に思い上がっていたあの頃の俺自身を、今こそ語ろう。



「俺は、脱走犯なんだ」















 宮本良介、十七歳。自分自身について話せる事は、驚くほど少ない。履歴書に書ける学歴や職歴はなく、特筆すべき才能も教養もなく、生まれも育ちも大したものではない。

親に捨てられた子、孤児院で育てられた幼少期、友達もいなかった少年時代、勉強も就労もしなかった放浪期。そのどれもが珍しくはあっても、誇れるものではなかった。

俺という人間を言い表すのは、クズの一言で済ませられる。そんな自分を少しは長く語ろうとするのなら、他人を入れるしかない。


人との繋がりさえ、きちんと言えられれば――思いの外長く、自分の人生を語れる。


「――そして今日一ヶ月の猶予を与えてもらって、アギトとローゼを引き取れた。ただ今日の時空管理局とのやり取りが原因で、聖王教会との交渉に問題が生じてしまっている。
管理局を通じて接触を望んだ以上、面会を断ることはもう出来ない。会うしかないが、アギトはともかくローゼの事がばれれば最悪宗教団体を敵に回しかねない。

そういった問題も、起きている。これが現状だ」

「あんた、明日お祓いに行きなさい」


 これまでの事情を全て聞き終えた最初の感想が、アリサの容赦無い一言だった。同情や憐憫ではなく、明らかに怖がっている様子で忠告する。メイドの分際で、失礼な奴だった。

通り魔事件から始まり海外への渡航、今月は異世界への上陸を予定。自分の世界観は確かに広がっているのだが、問題も加速的に膨らんでいっている。数まで、増やして。

古代ベルカの戦乱では無敗を誇っていた百戦錬磨の騎士達や魔導書まで、明らかに顔が引き攣っていた。自分達の素性が概ねバラされたのだが、それどころではないようだ。


「……大丈夫なの、侍君?」

「全部ちゃんと片付いたら、俺から警察に連絡するつもりだ。だから、お前らに打ち明けた」


 逃げるのは、もうやめる。迷惑をかけたのだから、ちゃんと謝らなければならない。情報規制してくれているカレン達にも、相談はしないといけないのだが。

特に、あいつら――"デブ"や"ガリ"には、絶対に会わないとな。今も、元気にしているのだろうか。

空気が重くなるのを察して、ミヤが必死で明るい声を上げた。


「じゃあその子が、リョウスケの言っていた融合騎さんですね。初めまして、ミヤと言います。同じユニゾンデバイス同士、仲良くして下さいです!」


 考えてみれば、ミヤはなのはのレイジングハートを師匠のように敬っていた。デバイスというカテゴリでは同じだが、友達同士という感じではなかった。

夜天の人も確かデバイスの一種だと聞いてはいたが、ミヤにとっては憧れのお姉さん。誰とでも仲良く出来る奴なのだが、同じ立場での友人と呼べる者はいない。

アギトも同じだ。生まれたばかりではないが、記憶を失って自分自身の身元も分からない。自分の夢も目標もなく、分かち合える者もいない。似たもの同士どころか、ぴったり重なる。

だとしても、考え方まで同じとは限らない。


「……お前か? 今までこいつの力になっていた、デバイスってのは」

「そうですぅ、今日から一緒に頑張りましょうね!」

「お前よ、そもそもこいつのデバイスじゃねえんだろう。さっきのこいつの話だと、そっちのガキンチョがロードなんじゃねえか。何で、こいつに肩入れしている?」


「リョウスケは、一人じゃダメダメだからです」

「す、すげえキッパリと言うな、本人の前で!?」


 ――どういう訳かミヤに因縁をつけているようだが、逆に及び腰になっているアギト。こいつを人の良いバカだと思っていたのだろうが、やや認識が甘い。

これまたどういう訳か、このチビスケは俺に対しては容赦無いスパルタなのである。教育ママと言い換えれば、ピッタリ来るか。基本的には優しいのだが、甘やかさない。

俺の助けになろうと呼びかけているのは、正確に言えば駄目な俺を一人前にすべく頑張ろうと、鞭打っているのである。

押されてばかりではたまらないと、アギトは気を取り直す。


「とにかく、だ。アタシはお前と仲良くする気はねえ。こいつは、アタシと組んでいるんだ。お前は、いらねえよ」

「ええっ!? な、仲間はずれは良くないですよ!」

「うるせえな、お前は自分の主人の面倒を見てればいいだろう!」

「はやてちゃんが、ミヤの助けが必要なダメな人だというのですか!? 許せないです!」


「えっ、俺は容赦なくダメ扱いしたのに!?」


 もうアギトでいい気がしてきた。


「リョウスケはミヤがいないとダメなんです!」

「アタシがいれば大丈夫だと言っているだろう。引っ込んでろ、チビ!」

「引きませんよ、リョウスケのことは!」

「何でだよ、自分のロードよりこいつのことが大事なのか!? ロードを置き去りにするなんて、デバイス失格じゃねえか!」

「はやてちゃんは、できる子です。リョウスケは、やれば出来る子なんです!」


「ち、違いが分からねえ……」


 日本人の俺も全く分からないのだが、俺以外の全員が深く頷いていた。主を蔑ろと言われて怒るはずの騎士達まで、ミヤに励ましのエールを送っている。

そ、そこまで俺は駄目と申すか。


「お前は用済みだ。こいつのデバイスは、しばらくアタシがやってやる」

「ミヤも一緒にやります!」

「ほら見ろ、こいつのデバイスだと主張できねえ。他にロードがいやがる尻軽デバイスだからな」

「ミヤははやてちゃん一筋です! リョウスケは、ミヤがお手伝いしているんです!」

「こ、こいつの立場がさっぱり分からねえ……とにかく、手伝いはいらねえ」

「リョウスケの今の話を聞いて、全部一人で解決できる自信があるんですね!?」


「ゴメン、手伝ってくれ」

「そこは負けるなよ!?」


 口喧嘩する理由がわからないほど、俺も鈍感ではない。厚意で手伝いを申し出てくれているミヤと、利害関係と本人の優しさで助けてくれているアギト。この二人、気持ちまで同じなのだ。

人間関係とは本当に、面白いもんだ。同じ面が多い者同士仲良くなれそうなのだが、なまじ同じ面が多い分若干の違いが気に障るらしい。激しい闘いに発展していた。

とはいえ、基本良識ある二人。大喧嘩になっても、暴力には出ない。他人の家で喧嘩をすれば、迷惑がかかると分かっている。良い子の喧嘩というのは、戦争にはならないのだ。

共通しているのはいいのだが、俺を馬鹿にする所まで同じなのはやめてもらいたい。これ以上聞くと死にたくなるので、この二人は放置する。


「あいつ、古代ベルカの融合騎なのか……記憶がねえってのは、ある意味幸せかもな」

「と、いうと?」

「――懐かしさを感じる時代ではなかった、ということだ」


 ストローを口に加えてジュースを飲むヴィータの言に、シグナムも静かに同意する。シャマルやザフィーラを見ると、二人も同感のようだった。

アギトの記憶について話がてら騎士達に相談を持ちかけたのだが、芳しくない反応。記憶を取り戻すのは、さほどいい事でもないらしい。

ミヤと元気に喧嘩しているアギトを見ると、今のままでもいい気はする。無理な治療はやめておくか。


「聖王教会への面会を望んでいるのは、魔法の本の改竄を防ぐためでもあるんでしょう」

「それもあるし、法術の事をもっと知っておきたい。効果が永続的なのか、分からないからな」


 忍の質問に、溜息混じりに返答する。アリサが聞いているのだが、変に気を使っても仕方ないのでハッキリしておいた。イレギュラーで誕生したミヤも、多分やばいからな。

この件に関しては騎士達も難しい顔をしている。何もかも永遠には続かないだろう、という俺の懸念に夜天の人は曇り顔だった。歴史ある本ならではの、苦悩はあるのかもしれない。

ともあれ、事前の対策は必要だろう。明日からの、管理生活も同じく。


「問題なのは、管理局の人が監視に来ることやね。理由は話されへんけど、見つかるとまずいんやろう?」

「申し訳ありません、主はやて。主への不忠、必ず償いを――」

「ちゃんと話してくれる時が来る、そうやろう?」

「はい……ありがとうございます」

「麗しい主従関係はいいけど、管理局に交渉したのは俺だからな。監視じゃなく、管理レベルにまで落としこむのは死ぬほど大変だった」


 ローゼは世界を滅ぼすロストロギアを抱えているのだ、本来なら二十四時間監視体制にされても何ら不思議ではない。クロノ達を説得するのは、恐ろしく骨が折れた。

最終的に俺の管理下に置く上で管理局員のクイントが現場管理し、ローゼ本人の身体に監視機能をつける事で合意が取れた。問題行動が取れれば、すぐに相手に伝わる。

現場管理のクイントには、話せる範囲で相談はするつもりだ。下手に誤魔化すよりも、誠意を持って事情を打ち明けた方がいい。ようするに、肝心の魔導書が発見されなければいいのだ。

夜天の人は姿を隠し、騎士達は変装と変身魔法なる力で今後対応していく。局側からすれば、ローゼとアギトさえ目が届けばいいのだ。


「となると、後はお前自身の問題だな。他人の心配するより、お前の事情を何とかしろよ。放置しておくと、余計に絡んでくるぞ」

「ああ、分かってる。もう日が暮れたし、ちょうどいい。明日からは管理生活だし、今晩中に片をつけておく」

「どこからやるつもりだ」


「俺は、剣士だぜ? 斬られたままにしておけねえよ」


 どんな理由があっても、たとえ俺自身が全て悪いのだとしても。

人を斬った以上、お前も俺と同じ外道なんだよ――高町美由希。
















<続く>








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