とらいあんぐるハート3 To a you side 第二楽章 白衣の天使 第十四話
--------------------------------------------------------------------------------
「・・・それでそれで、レンちゃんと晶ちゃんとも一緒に住んでるの。
二人とも喧嘩ばっかりしてるけど、本当はすごく仲良しなんだよー」
「仲がいいのなら、何で喧嘩なんかするんだか・・・」
目の前の幼女なのはとその母桃子。
互いに自己紹介を済ませて、その後もこうして話をしていた。
主に話しているにはなのはで、何が楽しいのか常にニコニコ顔だ。
俺も別に暇なので適当に相手をしてやっているが、それがいけないのかもしれない。
「後ね、フィアッセさんも一緒なんだよー」
「・・・まだ誰かいるのかよ、お前んとこ」
今聞いているのは、なのはの家族構成だ。
別に俺から聞いた訳ではなく、会話をしている内にこいつが話し始めたのだ。
普通人ん家の家族なんぞ聞いても面白くも何ともないが、こいつの所は別だ。
前に来たレンや晶も同じ家に住んでいるらしいし、何よりあの野郎の家族。
興味がないと言えば嘘になる。
「フィアッセさんはねー、すっごくお歌が上手なの。
いつか歌手になるんだって」
「へえ・・・・アイドルの卵って訳か。
って、フィアッセ?外人?」
すんなり話しているから気づくのが遅れたが、思いっきり外人の名前だ。
「そうだよー、イギリスから来たの!
おかあさんの喫茶店を手伝いながら、一生懸命がんばってるんだよー」
イギリスから日本にわざわざね・・・・
自分の国を飛び出してまで、一人前になりたいのだろう。
有名になりたいという名誉の為かどうかは分からないが、その心掛けは共感出来た。
向かうべき道は違うが、でかい夢を抱いて今を頑張っているのは俺も同じ。
一回話してみたい気もする。
にしてもフィリスといい、レンといい、この町って外人がいるのは当たり前なのか?
確か人様を脅迫したあのリスティも外人だった。
「案外お前の知り合いだったりしてな」
俺のベットの隣で立っているフィリスに目を向ける。
って、何だその意味ありげな笑みは?
ま、まさか・・・・・
「・・・知り合い、なのか・・・?」
「くす・・・はい、そうですよ。
私だけではなく、リスティともです。
三人は姉妹のような関係なんです」
「まじかよ!?」
冗談で言ったのだが、まさか本当だったとは。
世の中、本当に狭い。
「じゃあなのはや桃子の事も知っていたのか?」
「詳しい事までは・・・・・・・
ひょっとしたら程度ですよ」
その口振りからすると、知ってはいたみたいだな・・・
別に咎めるつもりはないけど。
こいつとリスティの姉妹のような人、フィアッセ。
歌手を目指して日本に来て、喫茶店の手伝いをしている。
なかなか複雑な経歴を持つ女である。
退院したら、一度会いに行ってみるかな・・・・
って、何か目的がちょっとずつ増えている気がする。
退院したら街から出て行くんじゃなかったのか、俺?
「でも外人が喫茶店の手伝いなんか出来るのか?
客商売なんだろう?」
日本語だってうまく話せるのかも怪しい。
拙い言葉遣いで「いらっしゃいませ♪」とか言われても、一般人はひくような気がする。
まあフィリスやリスティが日本語ぺらぺらなので、そいつも話せるのかもしれないが。
俺の疑問を、桃子が答える。
「フィアッセはうちのチーフなんです。
お客さんにはいつも笑顔で気も利いて、人気者なんですよ。
うちはフィアッセがいないと成り立たないくらいですから」
ほう、そこまで頼りにされているのか・・・
桃子の店は行った事がないので分からんが、人気はあると思う。
食わせてもらったシュークリーム、まじで美味かった。
その辺で売っているのだと問題にもならない。
そんな店で人気者なら、余程しっかりしているのだろう。
・・・桃子も多少身内びいきっぽいが。
「ふ〜ん・・・・
そのフィアッセやレン、晶まで抱えて一緒に住んでいるんだ。
息子や娘もいるのに、あんたも大変だな・・・」
心の底からそう思う。
今の世の中、自分の子供も満足に育てられない人間がいる。
俺にしたって・・・・・いや、やめておこう。
と、とにかく娘息子に、他所様の子供まで面倒を見ているのだ。
加えて外人も一人いる。
桃子や桃子の旦那の苦労が偲ばれる。
俺の同情に、桃子は笑って首を振った。
「皆、あたしの大切な家族ですから。
何の苦労もないですよ。
毎日賑やかで楽しいし、あたしは幸せ者だなってつくづく思いますから」
「・・・・・・」
声も出なかった。
大人数を抱えて、尚も幸せだと言い切っている。
並々ならぬ苦労もあるだろうに、何もないのだと笑顔で言える。
母親――
『他人がどうこう言おうと知らねえよ。
誰がなんと言おうと、あんたはアタシのガキだ』
煙草を咥えて―――
―――あいつは笑って俺にそう言った。
「・・・良介さん?」
「ん、ん?」
はっとすると、目の前にフィリスの顔がある。
少し心配そうな表情を向けていた。
「どうかしましたか?少し顔色が・・・・」
「・・・・何でもねえよ。ちょっと考え事してただけだ」
俺は苦笑いを浮かべて、首を振る。
そしてそのままフィリスの隣にいる桃子を見て言った。
「・・・大切にしてやんなよ。
ガキにとって、いつまでも親は親なんだからさ」
桃子は少し驚いた顔をしたが、俺はもう何も言わなかった。
あいつらの親、桃子。
高町兄妹やレン・晶が、あそこまで真っ直ぐに育っているのも分かる。
ほんの少しだが―――
羨ましく思えた。
<第十五話へ続く>
--------------------------------------------------------------------------------