とらいあんぐるハート3 To a you side 第楽章 白衣の天使 第十三話




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時が止まった―――ように感じられた。

少なくとも俺には。


「くぅ〜ん・・・・」


 ものの見事に台無しにしてくれた張本人は、周囲の視線に怯えたのかベットの下に隠れる。

女三人の視線が痛い。

言葉もない様子で子狐を凝視し、言葉も出ない様子で佇んでいた。


(う〜む、困ったな・・・・)


 何かリアクションがあれば対応出来るのだが、沈黙されるとどうしていいか分からない。

無言で責められている感じがして、やりづらくて仕方がない。

見舞い客二人は別にどういう反応しても問題はないが、やばい人間が約一名いる。


「ど・・・どうして動物が・・・」


 う、どうやら頭が回りだしたらしい。

一番厄介なフィリスが、呆然とした顔で声を出した。

フィリスは他の医者に比べて性格は温和で、見た目も優しさに溢れている。

病院内のゴシップには興味はないが、フィリスがどれほど慕われているかは知っている。

慈愛なんぞと言う言葉は好きではないが、フィリスには似合っていると思う。

この病院で問題を起こしてばかりの俺の担当を務めているくらいだ。

そんなフィリスだが、医療事に関しては厳しい。

病院内の規則から患者の対応まで、フィリスはきちんとしている。

全ては患者の為を思ってであり、その為なら恨まれようと厳しい姿勢を取るだろう。

剣の練習を許してくれないのもその一端だ。

言い訳が通じる相手ではない。

・・・・いや、待て俺。

俺は思い直す。

相手は医者とはいえ、たかだか小娘。

本当に医者なのかと思える程若く、態度や容姿も幼い。

何故俺がご機嫌を伺わなければならんのだ。

ここで毅然とした態度で、びしっとこのアマに一喝してやれば何も言うまい。

よし!

俺は深呼吸して・・・・・・


「良介さん!!」


 何か文句でもあるのか!!

―――と言い掛けた俺の言葉が、フィリスの一声にかき消された。


「貴方はどうしてそういつもいつも・・・・!
どうしたんですか、この狐さんは!」

「いや、あの・・・・」


 狐さんってお前・・・・

怒っているのは分かるが、迫力に欠ける呼び方はやめろ。


「拾って来たんですか!?
まさか・・・・動物園からですか!?」


 ちょっと待て。

入院している俺がどうして動物園に行けるんだ?

というか、俺に動物愛護精神なんぞない。

病院の個室に動物を連れ込む男――

カッコ良くない以前に、ただの寂しがりやじゃねえか!

言いたい事は山ほどあったが、


「とりあえず落ち着け、お前」

「落ち着け!?何を落ち着けと言うんですか!
怪我も回復して来て、退院が早くなりそうなんですよ。
ほんの少しの我慢も出来ないんですか!」


 ・・・駄目だ、こいつは。

俺は盛大に溜息を吐いて、フィリスの背後を見ながら言う。


「患者の前で取り乱す先生を、見舞い客が見ているんだけど」

「それがどうし―――あっ!?」


 俺の言葉の意味に気づいたのだろう。

フィリスははっとなって、俺の視線の先を追う。


「えとえと、あの・・・・」

「お、お気になさらずに・・・・」


 あわあわしている幼女と苦笑いを浮かべる大人の女。

二人の微妙な表情の意味するところは、傍目から見れば思いっきり分かる。


「・・・す、すいません・・・・取り乱してしまって・・・・
失礼しました・・・・」


 フィリスはリンゴのように顔を真っ赤にして、手身近な椅子に座る。

余程恥ずかしかったのだろう。

しきりにもじもじしている姿が、ちょっとだけ可愛らしく思えた。


「気をつけてくださいよ、先生〜」

「申し訳ありません・・・って、良介さん!」

「後ろ、後ろ」


 ちょいちょいと見舞いの二人を指差すと、フィリスは恐縮する。


「あ、その・・・・・
・・・うう、後でいっぱい叱りますからね・・・・」


 フィリスは医者としての最後のプライドを見せる。

ちょっと涙目で、後半小声で言っているので迫力はないが。

俺は苦笑して、改めてベットの下に手を伸ばす。

事態の成り行きに怖がっていたのか、俺の腕にすっと飛び乗った。


「たく、元はといえばお前が・・・いだだだだだ!?
肩に乗るな、肩に!」


 腕に伝ってくる奴を乱暴に布団の上に投げて、降ろした。

やっぱりまだ本調子には程遠い。

自分の肩に響く痛みに、俺は内心舌打ちする。

ベットの上に不時着した奴はそのままとことこ歩き、俺の陰に隠れる。

前に一緒に行動してた時もそうだが、人見知りが激しいようだ。

俺は隠れている奴を横目で見つつ、口を開いた。


「昨日の夜、病院の中庭歩いていたらこいつが俺の所来たんだ。
見て分かる通り、飼われている。
名前は久遠つって、主人は一応他にいるんだけど・・・・」


 流石に何も言わない訳にはいかないので、簡単に説明する。

怪我の元となった事件で会った事。

一緒に行動して仲良くなった事。

語れる事はあまりないが、一応最初から最後まで話す。


「どうも、俺を訪ねて来たみたいなんだ。
前の主人に何かあったのか、ただ俺に会いたかったのかは分からんけど。
・・・とりあえず、連れたくて連れ込んだんじゃないとだけ言っておく」


 フィリスの目を気にして、俺はそう締めくくった。

後で怒られるのも嫌だからな・・・・

当のフィリスはと言うと、事情も分かったのか溜飲を下げたようだ。


「そうだったんですか・・・・
でしたら、その飼い主の方に連絡をとられては?
その人も心配していると思いますし」

「いや、住所も電話番号も分からん。
この娘と同じで事件現場で会ったきりだからな」


 ぽんぽんと、ガキの頭を撫でるように叩いて言った。

ガキはちょっと照れくさそうにしながら、声を出す。


「あのおねえちゃんだよね?
え〜と・・・・・神咲 那美おねえちゃんだよ」

「神咲 那美―― ふ〜ん、何か古風な名前だな・・・・あ、そうだ。
お前らの名前、ちゃんと聞いてなかったな」


 見舞いにまで来てもらっておいて、最初に聞くのを忘れてた。

というか、この二人は事件絡みで顔を合わせてはいる。

色々あって落ち着いて話す事も出来なかったが、そういう付き合いでもないので別にいい。

改めて尋ねると、


「たかまち なのはです!」

「この娘の母の高町 桃子です。
改めて、本当にありがとうございました」


 二人そろっての自己紹介。

並んでみると、本当に似ている――


「親子か・・・・・」


 ・・・・馬鹿馬鹿しい。

俺は首を振って感傷を消した。























<第十四話へ続く>

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