とらいあんぐるハート3 To a you side 第七楽章 暁は光と闇とを分かつ 第六十五話
夜の一族の世界会議は中断されている間に、時空管理局の捜査会議に参加する事になった。剣士が剣も使わず、弁論で戦ってばかりの日々に多少の疑問を感じなくもない。
まあ捜査会議に参加といっても通信画面越しであり、俺はあくまで事件に関する証言をするだけ。ルーテシアやクロノには助けられた借りもあるので、彼らに協力する事にした。
宇宙戦艦アースラの会議室――ジュエルシード事件でも作戦会議をした懐かしき場には、見慣れない男が重々しく席に腰掛けていた。ルーテシアが、紹介してくれる。
『城を襲撃した犯人達を制圧した部隊の長、時空管理局首都防衛隊所属の魔導師。"ゼスト・グランガイツ"隊長、私の上司よ』
『――ゼストだ。私の部下を救ってくれた事、心から感謝する』
「あんたが、あの時の部隊長さんか……九死に一生を得たのはこちらも同じだ、助けてくれてありがとう」
ゼスト・グランガイツ隊長、大きな男だった。デブではなく、戦士としての厚みを感じさせる。高町恭也に似た空気を持つ、大柄で寡黙な男性。
時空管理局の部隊長ともなれば、相当な強さを持つのだろう。もしかすると、シグナムやヴィータに匹敵するかもしれない。味方であるのならば、これほど頼もしい男はいない。
彼があの時先頭に立っていれば、使用人達も不安がらずに済んだだろう。異世界にはこれほどの男がいる、俺もまだまだ精進しなければならない。
『実を言うと君の事は以前から熱心に聞かされていたね、一度会いたいとは思っていた』
「俺の事を……? 一体、誰から聞いたんだ」
『隊長、駄目です!』
『そういえばお前もご執心だったな。彼も、気の毒に』
『とにかく、今は内緒にしていて下さい。私が、"彼女"に怒られるんです』
……本人を前に何を言ってやがるんだ、こいつら。何やら和んでいるし、事情を知っているのかクロノまで含み笑いをしている。捜査協力してやらないぞ、こら。
捜査会議に出席しているのは隊長さんにルーテシア、クロノ。そして無言で議事録の準備をしているエイミィ、議長席にはリンディ提督が座っていた。
人数が少ない分、機密性の高い事件である事が想像させられる。リンディもいつもの朗らかな笑顔を見せず、真剣な眼差しで俺を見やる。
『立て続けに大変な事件が起きたばかりなのに、呼び出してしまってごめんなさいね。貴方の無事をこうして確認できて、本当に安心したわ』
「大げさだな、俺はこの通りピンピンしているぜ」
『何が大げさだ、こちらは君の死亡を報道で聞いてたんだぞ。全然連絡は取れないし、僕達がどれほど心配したと思っている』
なのはやフェイトにも散々泣かれたし、アルフにも噛みつかんばかりに怒鳴られたからな。何度も死にかけたのは本当だし、俺としても頭を下げるしかない。
それでも連絡が取りようがなかった事情は察してくれているのか、彼らも責め立てたりはしなかった。
『民間人である君に捜査内容を詳しく説明は出来ないが、僕達は今プレシア・テスタロッサの研究について捜査を進めている』
「何か別の捜査チームも似たような事件を追っていて合同捜査しているらしいな」
『それが我々だ。メ――ルーテシアに潜入させていたが、今回の件は我々が追っている事件と密接に関係している。その渦中にいたのが、君だ。
私は君こそが事件の根幹にまで関わっていると、確信している』
「俺があんた達に関係ありそうなのは――」
『クローン技術、そして人型兵器の製造』
「! やはりあれは異世界の技術だったのか!?」
月村すずかを創り出した、クローン技術。ローゼを造り出した、最新型自動人形の製造法。現代科学ではありえない、異端の技術。
可能性は十分ありえたし、連絡を取ってクロノ達に確認したかった。本人達からこうして裏付けも取れて、ようやく確信が持てた。
しかし、カレン・ウィリアムズはどうやって異世界の技術を手に入れられたんだ……?
『宮本、君が封印したジュエルシードが局内から無断で持ち出されたのは覚えているか?』
「あ、ああ、内部犯の可能性もあるとか言ってたよな」
『――先程、捜査チームを統括する上官より直々に通達があった。本局との合同捜査は本日を持って打ち切り、至急別件に移れと』
「この事件から手を引くように言われたのか!?」
『私が潜入捜査の結果報告を行った直後よ。管理外世界へ地上部隊を派遣した責任も追求されている』
「ちょ、ちょっと待てよ! あんたらが来てくれなかったら、俺達は殺されていたんだぞ!?」
『だからこそ、生還した君の証言が重要なんだ。地上と本局の連携を上層部は好ましく思っていない。加えて、上の動向も怪しくなってきている』
『飾らずに言わせてもらえば、貴方を助けた大義名分が必要なの。君の証言次第で強引にでも上層部を説得して、本局と協力してこの事件を解決に導ける』
「……もし、俺の証言がなかったらどうなるんだ?」
『ルーテシアの潜入捜査情報を元に、我々捜査チームのみで今日中に動く事になる。かなり危険な任務となるが、致し方ない』
単独で動くつもりなのか!? 確かに今日中に成果を出せなければ捜査は続けられないのだろうが、強引極まりない。
隊長さんもルーテシアも、強い。彼が指揮する捜査チームならば練度も高い魔導師も揃っているに違いない。大丈夫だとは思うが――楽観視は、危険だ。
上層部に睨まれても本局との合同捜査を進めているのは、地上のみでは対処出来ない案件だからだ。だから、クロノ達も焦っている。
『私達の都合で、貴方に無理強いしているのは分かっている。何度も命の危機に瀕した事件の事なんて、思い出したくもないでしょう。
けれど……時間がないの。本当に申し訳なく思っているけど、今日中に何とか貴方の証言を取らせて欲しい』
リンディにクロノ、ゼストにルーテシア。仲の悪いエイミィでさえも、心苦しそうにしている。それほど、事態は切羽詰まっているのだろう。
法の守護者である時空管理局、その情報部がきな臭い動きをしている。一連の事件に何らかの関与をしている可能性もあり、彼らを権力で押さえ付けようとしている。
何の為なのか、構図はまだ見えない。俺が分かるのは、この場で協力しなければ隊長さんやルーテシアが危険に陥るということだ。
クローンに、自動人形――高度な技術は、世界を革新できる。悪用されるのを止められるのは俺のようなニセ英雄ではない、本物の正義の味方だけだ。
「……いちいち大げさだな、あんたらは。話をするくらいなら、幾らでも協力するさ。どうせ今はやることもないからな」
『君の協力に、感謝する』
「ただし、条件がある。司法取引というのかな、こういうのは――月村すずかとローゼに、便宜をはかってほしい」
『絶対に悪いようにはしないわ、約束する。君がついていれば、あの娘達は大丈夫だもの』
「出来れば、あのアホは引き取って貰いたいんだがな。とにかく、あんた達を信用して話そう。そもそも事の始まりは――」
五月から七月、たかが三ヶ月で俺は一体どんな経験をしてきたのか。自分で話して、自分で驚かされる始末だ。まるで映画の中にいるような錯覚に襲われてしまう。
契約はしていないがさくら達への義理もあり、夜の一族について詳細は伏せた。特別である事だけを伝えた上で、一連の出来事を詳しく説明する。
事件の詳細を記録するエイミィが俺の話を聞くにつれて、顔を引き攣らせていくのが見えた。本当に、よく生き延びられたもんだ。
全部話し終えた瞬間、クロノが会議室の机に突っ伏した。
『こ……ここまで、馬鹿だったとは……』
「失礼な奴だな。管理局員が、民間人を侮辱してもいいのか」
『民間人らしい行動を何一つ取っていないじゃないか! どうして異国へ手の治療に行って、テロリストと戦っている!? 君は手が動かせないんだぞ!』
「い、いや、俺が戦わないと、他の連中がやばかったから――」
『もういい、分かった。ともかくこれからは些細な事でも、逐次連絡するように!』
「ひでえ言い方……リンディ、何とか言ってやってくれ」
『もう貴方はジッとしていなさい。いいわね?』
「笑顔が怖いぞ、あんた!?」
『貴重な証言、感謝する。これだけの材料が揃えば、管理外世界への強制捜査にも踏み切れる。破壊されたという研究所にも、正式に人員を派遣出来るだろう』
「報告資料をまとめ、レジアス中将にも進言いたします。"戦闘機人"達についても、彼の証言を基づけると対応を変える必要があるかと」
会議室が、にわかに慌ただしくなる。捜査資料やデータが飛び交い、議論が白熱して、事件の謎が捜査のプロの手により追求されていく。
局員でもない俺に、捜査事情は詳しくは聞けなかった。印象としては、技術そのものを生み出した研究者が黒幕とされているようだ。
それでも事件の協力者として俺に関係ありそうな話や、気になっていた点については教えてくれた。
「もしもこの事件が正式に立件されたら研究者はともかく、資金提供していた人間はどうなるんだ?」
『君の世界は管理外、法の外にあるのでミッドチルダで裁くのは難しい。君の世界、各国の法の良心に委ねるしかないと思う。この事件は局内でも極秘とされているからな。
見過ごすわけにもいかないのだが……難しいな』
――クロノという男は生真面目で、正義感も強い。そして何より、隣人を大切にする。渦中にいる俺を表立って助けられないことに、苦悩していた。
気持ちは嬉しいのだが、いらぬ心配だった。自分のトラブルくらい、自分で何とかしなければ。
「だったら、俺が何とかするよ。もう二度とこんないかがわしい研究に関わらせないように、資金提供者を徹底的に追い詰めてやる」
『……なるほど、決意は固いようだな。プレシアをも説得した君だ、任せるのが一番いいのかもしれないな。ただし、無理も無茶もしないように』
「はいはい」
研究所を破壊され、ローゼにもそっぽ向かれているが、このまま諦めるとは思えない。手を引かせるには、完膚なきまでに倒すしかない。
既に手は打っている。カイザー・ウィリアムズが今頃各方面に動いてくれているはずだ。世界も国も荒れている今、影で動くには絶好のチャンス。
歴史的にかなり使い古された戦略なのだが、この状況ならば効果的。彼女も今事件のもみ消しに奔走させられている、こちらの動きには気付けまい。
『ローゼちゃんが壊したあの研究所、私なりに現地で少し調べてみたのだけれど死者は出なかったみたいね』
「えっ、あんな大火災で!?」
『いずれ廃棄するつもりだったのか、ローゼちゃんがあらかじめ逃したのか、いずれにしても死人はゼロよ』
……多分ローゼはアホだから、奇襲もせず真正面から堂々と設備を破壊して回ったのだろう。最初から撤去する予定だったのなら、研究員達も撤収は容易だったはずだ。
基本人間には無関心っぽいし、命を奪うのに執着はなかったのかもしれない。何にしても、馬鹿正直なアホでよかった。
「管理局としてはローゼをどうするつもりだ? 回収してバラしたりはしないよな」
『危険なロストロギアであれば、永久封印しないといけないわね』
「さっきと話が違うぞ、おい!? ちゃんと捜査協力しただろうが!」
『兵器なのよ、あの子は。君と出会わなければ確実に運用されていて、大勢の死者を出したはずだわ』
「仮定の話に何の意味もないだろう。あのアホには人殺ししないように言いつけている」
『一個人じゃない。一個軍団、一戦力大隊に匹敵する戦力を秘めている。何かあれば、君一人の責任では済まない』
正論すぎる。ルーテシアは意地悪で言っているのではない。むしろ傍に置いている俺を心配して警告している。
あいつが研究所を破壊したのは事実なのだ。放火魔にライター持たせておいて、こいつはもう火を付けないから見逃してくれと言っても通じない。
くそっ、どうする? あんなアホどうでもいいんだが、あの時あいつが俺に味方してくれなかったら死んでいたからな……考えろ、交渉の余地は絶対ある。感情で、訴えるな。
「わかった、あいつをテストしてみてくれ」
『テスト?』
「どんな兵器でも運用される前に、まずは欠陥がないかどうか確認するだろう。あいつをテストして危険と判断してから、封印してくれ。
人間のエゴで勝手に生み出しておいて、危険かもしれないから即封印なんてあんまりだろう。人間世界で生きていけるか、あんた達の手で確認してほしい」
『あの子が、言うことを聞くかしら?』
「あいつは俺の松葉杖だ。俺が出向けば、勝手についてくる」
『信頼しているのね、あの子の事――いいわ、テストは私が責任を持って行いましょう』
「えっ……?」
『どうしたの、変な顔をして。君の希望通りでしょう?』
「い、いや、何かすんなり意見が通ったから」
『――ルーテシアから既に申し出があり、こちらで話し合ってローゼという少女についての対応は決めていたんだ』
「おいっ!? 何かと俺を試そうとするのは、何故だ!」
『ふふふ、ごめんなさい』
こいつ……テストとやらをクリアーする度に、馴れ馴れしくなってきやがる。嫌がらせではないので、余計に始末に困る。力になってくれているのは本当だしな、うーむ。
とにかくローゼの件はこれでほぼ解決。妹さんはクローン人間というだけで無害、何のお咎めもない。ただ一度、検査は必要らしい。
捜査の全面協力により、彼らも何かと便宜をはかってくれていた。ただし彼らも法の番人、甘い顔だけ見せたりしない。厳しい叱責もあった。
『チンク、トーレ、そしてドゥーエ。彼らは君を、"陛下"と呼んで敬っていた。間違いないか?』
「何を言っているのか、さっぱり分からなかったけどな」
『君の魔力光は、虹色と聞いている。これも?』
「そうだけど、それが?」
『今後彼女達が接してきても、なるべく関わるな。連絡が可能であれば、すぐに知らせるように』
「そんなに危険なのか、あいつらは」
『まだ確証はないので何とも言えないが、何かあってからでは遅い。君に危害を加える可能性は今のところ低いが、油断は禁物だ。
もしも今後彼女達を見かけたら、可能な範囲で知らせてほしい』
「……分かった」
隊長さんはきっと不器用で、愚直な人なのだろう。こんな持って回った言い方をするという事は、あいつらは明確な敵ではないが要注意人物である事を示唆している。
チンクやトーレ、ドゥーエ――彼女達は一体、何者なのだろう? 隊長さんが目をつけている以上異世界の連中なのだろうが、正体が分からない。
ドゥーエはともかく、チンクやトーレは悪人にはとても見えなかった。狡猾な罠に嵌められたが、今となってはドゥーエに恨みはない。
事件後姿をくらませているが、また会える日が来るのだろうか……?
『僕達はルーテシア捜査官の捜査資料と君の証言を元に、捜査を続けていく。上層部や他部署への根回しも必要となってくるが、その辺は僕達の領分だ。
君は今後、どうするつもりだ。こちらとしては、一刻も早く帰国することを勧める』
「冗談じゃない。まだ肝心の手が治っていないんだぞ。このまま帰ったら、何しに来たのか分からん」
『何しに来たのか、僕達が聞きたいくらいだ。少しは、ジッとしていてくれ。なのはやフェイトをこれ以上、悲しませないように」
「……痛いところをつくな、お前」
そろそろ雲行きが怪しくなってきたので、通信を切った方がいいな。こいつの説教タイムは、腕の傷よりも頭を痛めつける。話せることは全て話した、後はこっちの問題だ。
「何にしても、これ以上事件に深入りするつもりはないさ。今は、自分の事に集中する。何かあったら知らせるよ」
『分かった、よろしく頼む。それとユーノが君の力について、引き続き調べている。釘を差しておくが、おいそれと他言はしないように』
「分かっている。今はゴタゴタしていて動けないが、協力できる事があれば言ってくれ」
『ど、どうしたんだ、急に? 以前は、興味もなさそうだったのに』
「そ、そりゃあ……じ、自分の力なんだ。興味を持って当然だろう、もう切るぞ!」
『お、おい!?』
強引に通信を切った。ここまで協力したんだ、犯人逮捕や事件の謎の究明は彼らに任せよう。これ以上、頭痛の種を増やしたくはない。
それに、万事上手くいったわけではない。クロノ達には話せなかったが、俺は最後にヘマをしてしまったのだ。
――ベットの下に隠していたものを、取り出す。一冊の本、八神はやてが所有する魔導書。時空管理局に知られてはならない、書物。
俺は、はやての大切なものを奪ってしまった。
"残心"、という剣の用語がある。
武道における心構えであり、剣で斬った相手に対して警戒を解かず反撃に備えなければならない、殺し合いの常識。
ゼスト・グライアンツが率いる部隊が到着し、マフィアとテロリスト達に攻撃。あの時俺は救援が来た事に安堵し、警戒を解いてしまった。
まだ警察が到着していないのに、まだ全員捕縛されていないのに、まだ会議室が混乱していたというのに、まだ隊長さん達が制圧する途中だったというのに。
マフィアのボスが、俺に銃を向けていたのに。
『リョウスケ、ぼんやりしちゃ駄目ですぅ!!』
その声に我に返った時には、もう遅かった。狂気に目を血走らせていたボスが、俺に向けて銃の引き金を引いてしまった。
救援が来たことによる場の混乱、ノエルやファリンがあろうことか「救援部隊を」警戒してしまっていた。彼女達にとって、彼らは味方に見えなかった。
ルーテシアが呼んだ救援の事を、俺はきちんと伝えていなかった。救援が来れば助かる、一般人の認識が判断を誤らせてしまった。
場の混乱をくぐり抜けて、誰もが皆気づく前に銃弾が発射されて――着弾した。
――俺を咄嗟に庇った、ミヤに。
「取り返しはもう、つかないか」
いつもあいつはそうだった。臆病者のくせに、他人の危機には勇気を出して飛び込んでいく。我が身を省みず、助けに来てくれる。
ミヤは会議室の何処かに潜んでいて、いざとなれば俺を助けるつもりだったのだろう。俺は最初から、守られていたのだ。
その結果、犠牲にしてしまった。
「簡単に取り返しがつくのならば、苦労はしない。ついに15頁――全頁の、2%を超えたのだ」
「お、お姉様、怒らないであげて下さい〜!」
「ラグナロク、ミストルティン、アーテム・デス・アイセス、デアボリック・エミッション、ヘイムダル――第一戦術級攻性魔法のことごとくが、消滅してしまった。
それだけではない。2%を超える改竄に書のフレームまで歪み出し、防衛システムである"ナハトヴァール"まで書き換えられ始めている。おかげで、私まで臨時起動させられてしまった」
「ミヤはお姉さまに会えて嬉しいですよ!」
「コ、コホン――お前もだぞ、ミヤ。この男のせいで、危うく破壊されそうになった」
「でもでも、頁が増えてすっごく調子がいいんですぅ!」
「改竄により何故かバージョンアップして、命拾いしたようだが……いずれにしても、全てはお前が原因だ。このままでは、魔導書がただの本になってしまう」
「こ、この件が片付いたら、何とかするから!」
人と人とのつながりが、力を生み出す。ロシアンマフィアやテロリストをも退けた絆の強さが、今回ばかりは思いがけぬ副作用を生み出してしまった。
俺の危機にユニゾンデバイスであるミヤが反応し、ミヤの危機に夜天の魔導書が起動。異国の地で結ばれた絆が、開花してしまった。
あの時彼らが願ったのは自分の救命ではなく、"俺の無事"――彼らはただ一心に、願ってくれていたのだ。
願いは見事に叶えられたが、夜天の魔導書は頁を浪費してデバイスであるミヤまで大幅に改竄。はやての大事な魔法まで犠牲にしてしまった。
ミヤや夜天の魔導書を改竄されて、女性は怒り心頭だったが――普通の本になってしまうと呟いた時、どこかホッとしているように見えた。
<続く>
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