とらいあんぐるハート3 To a you side 第二楽章 白衣の天使 第十二話




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「おにいちゃん。お怪我、だいじょうぶ?」

「あ、ああ。別にこんなの大した事はねえよ」


 あの夜襲われていた時は分からんかったが、よくよく見ると利発そうな顔付きをしている。

見た目はちんまいその辺のガキと変わらないが、礼節もきちんとしている。

なのはとか言ったかな、このガキ?

前に来た高町兄妹が言っていた俺が助けたらしいガキが今見舞いに来ている。

流石に一人では来れなかったのか、大人同伴のようだが・・・・

俺がチラッと見ると、向こうも気づいた様子で頭を下げる。


「本当にありがとうございました。
貴方が助けてくださらなかったら、この娘は・・・」

「あーあー、別にそんな恐縮しなくていいんで」


 この娘と言うからには親なのだろうか、この女?

小さくはあるが、娘がいるとは思えない若さを保っている。

服装はきわめてラフな格好だが、逆にこの女にはぴったりと合っている。

中年などとはとても思えない魅力的な女だった。

とりあえず変に持ち上げられるのは気持ち悪いので、俺は言っておいてやる。


「息子さん達にも言ったけど、別に助けようと思って助けた訳じゃないから。
お礼なんて要らないし、気を遣わなくていいから。
恩に着せるつもりもないんで安心してくれ」


 ばしばし本音を言ってやる俺。

事実、あの時俺はガキには目もくれなかった。

俺の目標は犯人ただ一人であり、爺さんだけだった。

現場でのやり取りは俺の望む所であり、ガキはたまたまその場の被害者だっただけ。

不可抗力で礼を言われるのも、何か違和感を感じて仕方がない。

俺の言い分に、女はちょっとやり辛そうに黙り込んでしまう。

別に責めるつもりじゃないんだが・・・

何か言ってやるのも変なので俺も黙ってしまい、場は変に重くなってしまう。

うぐ・・・膠着させてしまったか。

まいったな、こいつ等を早い所追い出してベットの中の奴を何とかしないといけないのに。

布団の下でごそごそしている子狐を押さえつけながら、俺は何か言ってやろうと再度口を開く。

が、途端に白い手が俺の口を押さえる。


「ごめんなさい、この人ちょっと口が悪い所がありまして・・・・
本当はすごく優しいのに、いつも怒ってばっかりなんです」

(何言ってやがんだ、てめえは!?)


 にこやかに横から勝手な事を言いまくるフィリスに、俺は文句をぶちまける。

・・・口を押さえられているので、声としてはもごもごとしか言えなかったが。


「本当はお礼を言われて照れてるんですよ。
特に貴方みたいに可愛い娘から言われたから、おにいちゃんもちょっと戸惑ちゃったのよ。
許してあげてね」

(なめんな、ぼけぇ!手離せ、こら!)


 罵詈雑言、悪態の限りを尽くすが無意味だった。

口を押さえつけられていては、何を口にしようとも声にはならない。

こんなか細い手なのにどういう力してるんだ、こいつ?

力づくで引き剥がそうとしているのに、ピクリとも動かない。

・・・力を込めると肩に激痛が走るので、あまり無理出来ないせいもあるが。

何にせよ、フィリスの余計な肩入れで二人は超誤解したようだ。


「ううん、おにいちゃんが助けてくれたのは本当だから。
本当にありがとう、おにいちゃん!」

(・・・・・)


 純真で、何物にも汚れていない無邪気な笑顔。

向けられる全面の感謝は眩しく、俺はそれ以上反論する気も失せてしまった。

フィリスの手を引き剥がそうとするのも止めて、思わずまじまじとガキを見つめてしまう。


「あの・・・これ、よろしければ食べて下さい」


 娘と似たような明るい笑みを浮かべて、女は一つの袋を差し出した。


(ん?これ・・・・
っていうか、いい加減手離せ!)

「あ・・・ごめんなさい」


 もごもご怒鳴る俺に気づいたのか、ちろっと舌を見せてフィリスは手を離した。

あ〜、苦しかった・・・・

死ぬほど文句を言ってやりたかったが、今は袋の方が気になる。

俺はフィリスを一睨みしつつ、袋の中を見る。


「何だ・・・?ケーキ箱?」


 袋の中に入っていたのは、可愛らしいロゴの入った箱だった。

ケーキ屋さんとかでよく見かける物で、箱には店の名前が隅に記載されていた。

え〜と・・・・「喫茶・翠屋」?

俺が顔を上げると、照れたような顔をして女は言う。


「そんな物で申し訳ないですけど、良かったら食べてください」


 ふ、どうやらこの女は分っていない様だ。

俺はケーキ箱をしかと受け取り、おもむろに女の手を取る。


「え、あの・・・!?」

「さすが大人!あんたはよく分かってる!!」


 花ぁ〜?馬鹿野郎!

んなもんもらっても、何の役にも立たんわ!!

俺みたいな年頃の男に必要なのは花より実。

それすなわち、美味い食べ物に他ならない!

女の戸惑いなどそ知らぬ振りで、俺はぶんぶん握った手を振る。


「今まで誰も食い物持ってこなかったんだよ。
気の利かない連中だろう?
病院の飯は不味い上に味気ないからな。
甘い物でも大歓迎だ」


 男宮本良介、好き嫌いなし。

そこらの男供のような軟弱な食生活は送っていないからな。

選り好みなんぞしたら死ぬ。


「病院食はきちんと患者さんのお体を考えて作っているんですよ。
それに良介さん、いつも全部食べているじゃないですか」


 入院している限り、俺の食生活はフィリスに筒抜けのようだ。

思いっきり反論出来ない。


「それよりも良介さん、いつまで手を握っているんですか!
迷惑ですよ、もう!」

「え?
あ・・・悪い悪い」


 嬉しくて、思わず力強く握ってしまった。

指摘されて慌てて手を離す俺。


「い、いえ、喜んでいただけたらそれで・・・」


 女は何でもないとばかりに苦笑して言う。

ところが、


「駄目ですよ!
きちんと言っておかないと、良介さんはつけあがりますから」


 ・・・人を何だと思ってるんだ、この女は。

患者を尊重しないとは、医者失格である。


「お前な・・・別に女の手の一つや二つ握っても何もないだろうが。
何が減るわけでもなし」

「だから良介さんは駄目なんですよ。
女心を理解しない人は生涯嫌われますよ」

「生涯ってオーバーな!?
第一、何でお前が怒るんだ」

「えっ!?」


 俺の言葉が意外だったのか、フィリスは目を丸くする。

恋人とかならともかく、俺はただの患者だ。

握られた本人ならともかく、フィリスが目くじら立てて怒る事じゃない。


「え、でも、その、えと・・・・
病院内の風紀が乱れるというか、あの・・・・」

 病院内の風紀って、お前・・・

ここは笑った方がいいのか、馬鹿にした方がいいのか悩むな。

俺の視線に気がついたのか、フィリスは白い頬を赤らめる。


「と、とにかく駄目なんです!
一切禁止ですからね、良介さん!」

「はいはい。たく、何をそんなに怒ってるんだか・・・・」


 嘆息して、俺は手元の箱を掴む。

折角の好意、ありがたく受け取ろう。

俺は箱を開けて、中を覗き込む。


「へえ、シュークリームか。んじゃあ遠慮なく・・・・・・!?」


 見るからに美味そうなシュークリームを食べようとした時、布団の中にいる奴が動く。

今まで大人しくしていたので忘れていたが、急に暴れ始めたのだ。


「?どうしたんですか、良介さん」

「い、いや・・・その・・・」


 こら、暴れるんじゃない!

目の前にいる連中に見つかったらどうするんだ!?

何とか見つからないように取り押さえようとしたが、何故か言う事を聞かない。

何だ?急にどうして・・・・あっ!?シュークリームか!?

思えば、昨晩から何を食わせてなかったっけ?

気づいた時にはもう手遅れだった。



バサッ



「くぅ〜ん」


 努力の甲斐も空しく、奴は布団から飛び出してしまった・・・・
  






















<第十三話へ続く>

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