とらいあんぐるハート3 To a you side 第七楽章 暁は光と闇とを分かつ 第六十一話
歴史物の小説やテレビドラマとかだと、指導者の命で何千何万の兵が忠実に動いていた。作戦の成否は、初動にかかっている。
どれほど優れた作戦でも、予定通り進まなければ意味が無い。指導力、カリスマ、人の上に立つ器。そういったものも、俺にはないらしい。
会議室に集合と呼びかけたのに、全員集まっていない。自分の魅力の無さに頭を抱えた。
"何してるんだ、カーミラ! お前らだけで勝てる相手じゃないんだぞ!?"
"分かっている! 臆病風に吹かれて、どいつもこいつも部屋に立て篭もっているんだ!
守るという名目で、私まで部屋から出そうとしない!"
"もう一切合財バレていいから、そいつら蹴散らしてお前だけでも来い!"
"――それはお前が私を迎え入れると解釈するぞ。いいんだな?"
"男に二言はない"
"同じ日本人ならば……お前が婚約者であれば、喜んで花嫁となったものを。残念だ"
"おい、カーミラ!?"
あいつ、共有を断ちやがった!? まずい、覚悟を決めやがった。政略の道具とされても、両親は見捨てられないようだ。
物語の吸血鬼は大陸全土を脅かした化物であったが、結局最後は人間に討たれたのだ。銃火器相手に、怪談は通じない。
助けに行きたいが、身体の自由も利かない人間が行っても撃ち殺されて終わりだろう。感情的になって動いては駄目だ。
此処に俺がいて、全員を集めることに意味がある。ようするに、今殺すには惜しいと敵に思わせればいいのだ。
だから、全員集めないといけないのに――!
「トーレと言ったか。あんたはどうして雇い主を連れて来なかったんだ」
「陛下の身の安全を最優先に行動しました」
「俺を優先にしてくれるのなら、指示にも従ってくれよ……」
カイザーに連絡し、カレンにマフィア襲撃と会議場への避難を伝えた。カイザーは途中奴らと遭遇したが、チンクが撃退して無事だった。
ただ、カレンは逃げきれなかった。トーレは彼女の護衛を放棄して俺の安否を最優先したのだ。何考えているんだ、こいつ。
不幸中の幸いというべきか、チンクの働きで敵の動きは確実に鈍った。会議室への避難も知られてしまった事になるが、想定内。
こちらの動きを、敵に知られた方がいいのだ。マフィアのボスやディアーナが俺の動きを読めば、カレンやカーミラを殺せなくなる。
正直トーレは怒鳴りつけたかったのだが、別件で有耶無耶となった。チンクとトーレが、俺の傍に控える存在を見て慌て出したのだ。
「貴様、こんなところに!?」
「陛下、離れて下さい!!」
「えっ……?」
「貴様、やはり陛下の元へ向かっていたのか!」
「陛下に傷一つでもつけてみろ。ドクターの大事な研究成果であっても、貴様を破壊してやる!」
「えっ、えっ……?」
チンクとトーレ、護衛のプロが血相を変えて詰め寄ってくる。ちゃっかり俺の背にこそこそ隠れた、ローゼに対して。
テロリストを撃退出来る実力の持ち主が、こんな奴に何をそんなに恐れているんだ。ただのアホだぞ、こいつ。
あ、もしかして――
「チンク、こいつが例の奴……?」
「はい。至急、そいつから離れて下さい!!」
「ああ、分かっている。お前の言う通りだったよ、こいつは確かに"アブナイ"」
「ご理解頂けてましたか、陛下。その者は、本当に"危険"なのです!」
俺がどうして気付かなかったのか? 本当に馬鹿だ。これまで知った情報を照らし合わせれば、簡単に答えが出せたのに。
なるほど、言われてみればチンクの言う通りだ。出逢った時から警戒しなければならなかったのに、招き入れてしまった。
こいつは、確かに危険だ。何しろ、こいつこそ――近年稀に見る、アホなのだから。
どうも最近ドラマや映画の中でしかありえない事件に遭遇してばかりで、「危険」の認識を誤っていたらしい。
危ないというからてっきり銃とかで人を傷付ける奴だと思い込んでいたが、違う意味で"アブナイ"奴だったのだ。
確かにこんなアホ、放ったらかしにしておくとアブナイよな……"イレイン"とかテロリストを全滅出来るとか、何かと妄想を垂れ流すし。
「よかったな、お前の保護者が見つかったぞ」
「……嬉しそうですね、主」
「君とお別れすることになると思うと、自然とこんな顔になってしまうんだ」
「主に喜んで頂けて、ローゼも嬉しいです。今後も草葉の陰から貴方を見守っております」
「ストーカーに化けた!? 余計に性質が悪いじゃねえか!」
首根っこ掴んで、トーレやチンクに投げつける。掴んだ手が痛みを訴えるが、アホを放り出せてサッパリした。
二人は無遠慮とも言える俺のローゼへの態度に、目を丸くしている。文句の一つも言わず言いなりになるローゼにも、驚いているようだ。
ローゼの面倒は二人に任せて、俺は改めて緊急事態と向き合う。
「それで――おたくの所のお祖母様は、護衛チームを率いて討って出たと」
「私と貴方の婚約を知って、御怒りになられたの。貴方の指示には従えないらしいわ」
年寄りの冷や水という言葉があるが、キンキンに冷えた氷水を頭にぶっかけてやりたい。内輪もめしている場合か!?
護衛チームを全員連れていきやがったので、イギリスとフランスの護衛はルーテシア一人になってしまった。戦力が一気にダウンした。
アンジェラ・ルーズベルトは、見かけどおりの老婆ではない。人の寿命を超えて生きている、長に次ぐ長老格。
経済戦争や政略闘争のみならず、暴力沙汰の修羅場も潜り抜けているだろう。事実、敵は足止めされてしまっている。
勝てるのならばそれに越したことはないが――相手は、テロリストとマフィアの連合軍。安心は、出来ない。
「剣士さん、長をお連れしました」
「ありがとう。これでドイツとアメリカのカレン、アンジェラのバアさん以外の安否は確認できたな」
ようするに、現状俺の敵である勢力は俺の指示には従わず敵と戦う道を選んだということだ。個々の勢力で撃破出来る相手じゃないのに。
彼らの言い分も理解は出来る。俺は所詮人間、力も何もない若造だ。自分の命を託すには不安、任せられない。そりゃそうだろう。
逆に言えば――ここに居る人達は、俺を信じてくれている。その信頼もまた重く、震え上がるほど怖い。
本来の代表者である長は部屋に篭っていたのか、憔悴している。女好きの伊達ぶりが嘘のようだった。
正直妹さんに連れてきて貰ったのは、指揮を任せたかった面もある。責任を押し付けたかった、俺自身の醜い弱さがあった。
他の面々も各国では名の知れた権力者ばかりだが、一様に顔色が悪く怖がっている。とても、任せられそうになかった。
「お母様は、私が助けに行くわ。元はといえば、貴方とヴァイオラの婚約を推し進めた私の責任だもの」
「いや、僕が行こう。カミーユとの婚約を承諾しながら、自分達の都合で破棄したのだ。責任は、僕にある」
「折角集めたのに、これ以上勝手な行動を取らないでくれ! 責任云々で言うなら、誰が見ても俺にあるだろう」
ヴァイオラのママさんとカミーユの親父さんが立ち上がりかけたので、慌てて止める。これ以上、手を焼かせないでくれ。
とはいえ、焦燥に駆られているのは俺だけではない。二人は、引き下がらなかった。
「お母様は今、冷静さを失っている。貴方とヴァイオラの婚約を知って、貴方とだけは絶対協力しないと言い張っている」
「だったら、婚約を進めたあんたの言う事も聞かないだろう。戦場で揉み合いになれば、撃たれて死ぬぞ」
「僕が必ず連れ戻す。あの方を、死なせる訳にはいかない」
「すったもんだしている間に撃たれると言ってるだろう!? テロリストとマフィアだぞ!」
「君は彼女を死なせてもかまわないというのか!」
「何の為に全員集めたと思っているんだ、あんたは。言っておくけどな、現状はこちらが有利なんだぞ」
「わ、私達が有利……? で、でも追い詰められているのよ」
「逆だよ。追い詰められたから、連中はこんな暴挙に出たんだ」
勝手に飛び出したバアさんの面倒まで見れない。大体あのクソババアは、会議中何度も俺を殺そうとしたじゃねえか。
逆の立場で考えてみろ。俺が怒り狂って飛び出していたら、あのバアさんは俺を止めたか? 絶対見殺しにするに決まってる。
ただ――俺もあの女も、こんな形での決着は望んでいない。
「アンジェラ様が殺されない可能性があると……?」
「妹さん、月村すずかに頼んで最優先で長を救出させた。格上か同格の重要人物がいれば、人質の交換も出来る。
実際交換しなくても交換の場は出来るし、その間殺されない」
「しかし、彼らは暴力で我々を全員殺そうとしている。交換する必要もないのではないかね」
「敵もそのつもりで行動したんだろうけどな、妹さんが察知して俺が会議室に全員移したからその目はなくなった。
何しろこっちには奴らに対抗できる戦力があるからな、交渉せざるを得ない。
――ちゃんと全員集まればもっとスムーズにやれたのに、あのばあさんめ。助ける手間が増えちまった」
「……お母様を、助けてくれるの?」
「えっ、い、いや――つ、ついでだぞ!? あんなババア、死ねばいいと思ってる」
「君という男は、本当に……カミーユの最初の友が君で、本当に良かった」
「ヴァイオラの事もよろしくね。貴方ならきっと、幸せにしてくれる」
「う、うるせえ! あんたらは余計な事をせずに、使用人達をなだめてやってくれ。説明せず無理やり連れてきたから、皆不安がっている。
俺が必ず全員助けると、言い切ってしまって構わないから」
俺に礼を言うくらいなら、妹さんに言ってやってくれ。テロリスト襲撃を事前に察知してくれたから、急いで皆を集められた。
チンクの撃退とアンジェラの徹底抗戦で、時間も稼げている。その内来るだろうが、迎え撃つ準備は何とか出来そうだ。
迎え撃つといっても、戦うのではない。戦いになれば、こちらにも犠牲者が確実に出る。弁論で、捻じ伏せなければならない。
「忍、さくら。ノエルとファリンを借りるぞ。二人は俺の指示に従ってくれ。何を言われようと、頷いてほしい」
「……侍君……」
「何だお前、怖いのか?」
「……怖いよ、すごく怖い……侍君が居なかったら、泣いちゃってたかも……」
忍だけじゃない、さくらも見た目気丈に振舞っているが表情に力がない。蝋燭のように青白い顔色をしている。
眼の前に押し寄せる、リアルな死。マフィアとテロリスト、非道にして残虐。女の尊厳を踏み躙られ、陵辱の限りを尽くされて死ぬ。
ヒーローならば、正義感溢れる口上で力強くヒロインを励まして勇姿を見せるのだろう。世の中、そううまくはいかない。
今ここに居るのは物語の主人公ではなく――エンディングに名前も出ない、エキストラ。その他大勢でしかない、男なのだ。
「今から言うことは独り言なので、忍もさくらも聞き流してくれ」
「侍君……?」
「――先月は、仕事を途中で放り出して本当にすまなかった。忍も、すずかも、最後まで守り切ることが出来なかった。
仕事を紹介してくれたさくらにも、申し訳なく思っている」
だけど、そんな俺も現実と言う物語の中には居る。目立たない端役だけど、確かにここに居るのだ。
主役を目立たせるだけの三流であろうと、舞台から逃げ出すなんて許されない。
俺を見てくれる、観客がいる――那美、ヴィータ、シグナム、シャマル、ザフィーラ。彼らに、無様は見せられない。
「だからせめて、この場は必ず俺がお前達を守ってやる。一緒に、日本に帰ろう」
「――」
「お、おいおい、忍……さくらまで、泣くなよ!? 俺に安心して任せろ、な?」
「違う、違うの……不安だから、泣いてるんじゃないの……」
「ぐす……侍君の事は、世界で誰よりも信頼してるよ」
こんな大根役者に頼らないといけないこいつらも、可哀想ではある。むしろ、俺が泣きたいくらいなんだが。
何とか泣いて逃げ出さずに済んでいるのは、裸の大将ではないからだ。これこそ、奴らが強行に出れない最大の理由――
ノエルとファリン、二体の自動人形に運命を託す。
「お前らが、頼みの綱だ。何とか奴らを止めるぞ」
「分かりました。私の命、貴方にお預けいたします」
「大丈夫です、ノエルお姉様。わたしと二ご――良介様がいらっしゃれば、悪党なんてやっつけちゃいますから!」
「くれぐれも言っておくが、先走らないように。妹さんも、俺に何があろうと動かないでくれ」
「……剣士さんの身にもしもの事があれば」
「絶対、動かないでくれ。背いたら、護衛をクビにする」
「……、……私が、大人じゃないから」
「妹さん?」
「分かり、ました」
綱渡りの連続なのは事実だが、だからといって救いの手を差し伸べられても困る。こっちは危険を承知で渡るつもりなのだから。
もっともその考えは俺個人のものであり、他の人間はマフィアやテロリストに狙われて怯えきっている。
チンクやトーレ、イギリスのママさんやフランスの親父さんが何か話した途端、使用人達が全員俺に跪いて喚きだした。おいおい!?
「……一応聞くけど、何て言ってるの?」
「陛下が必ず貴方達をお助けすると告げたところ、皆貴方に救いを求めておられます」
あ、あのな、俺はどちらかと言うと救われる側の人間。使用人達と同じ、いや無職な分この人達より立場は下なんだぞ。
何とか頑張れているのは、皆がいるからだ。俺が一人狙われていたら、泣いて命乞いしていた。
「陛下、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「何だ、時間もないのに」
「失礼ですが、陛下は武に優れていらっしゃらない御様子」
「トーレ、陛下に何という無礼な口を――!」
「いいから――それで?」
「御自分の力量を知りながら、何故立ち向かえるのですか? いえ、それどころか我々まで守ろうとしている。
貴方は、この場に居る誰よりも弱い。それを、貴方自身はご存知の筈なのに」
「負け癖を付けたくないからさ」
トーレの言いたいことは分かった。彼女が強者だから、分からないのだ。
「みっともない話だがここのところ連戦連敗でな、何をやるにしてもビビってしまっているんだ。妥協して、弱気になって――縮んでいる。
このままいけば、弱者である事に甘えてしまう。弱さを理由に、何もかも諦めてしまう。そいつはごめんだ。
弱いからといって、戦わない理由にはならないだろう? 弱者なのは仕方がない。ただ、卑怯者にはなりたくない。それだけだ」
「……」
「二人が強いのは、よく分かっている。だから、この人達のことをあんた達に任せている。
俺の背中は預けたぞ、トーレ、チンク」
雇い主でもないのに、偉そうに何を言ってるんだか。それでも、トーレやチンクが頷いてくれたのは嬉しかった。
通報した警察も、ルーテシアの援軍も、まだ来ない。命の綱である時間も、とうとう尽きてしまった。
「剣士さん、敵が動き出しました」
「! バアさん達は無事か!?」
「捕らえられました。こちらに向かっています」
となると、護衛チームは全滅したことになる。女帝による指揮で戦ったプロの軍団でも倒せなかった。
今度は素人である俺が、どうにかしなければならない。重いバトンタッチだった。
「ルーテシア、援軍は間に合いそうか?」
「連絡はしたわ。緊急事態である事も伝えた。もう少し、もう少しなんだけど――」
「時間は俺が稼いでやる。あんたは、カミーユ達を頼むぞ」
カミーユの手には久遠、ヴァイオラの手には夜天の魔導書、集められた人達。その全てが、俺の手腕にかかっている。
全員を隠れさせて、俺は一番目立つ議長席に上がる。俺の傍にはノエルとファリン、いつでも動ける。
緊張の一瞬という言葉をテレビとかで聞くが、一瞬とは本当に一瞬らしい。会議場の扉が、破壊された。
次々と雪崩れ込む、銃を持ったテロリスト達。そして――
「ようこそ、ロシアンマフィアの諸君」
『うるせえよ』
マフィアのボスが出会い頭に、俺を撃った。
<続く>
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