とらいあんぐるハート3 To a you side 第二楽章 白衣の天使 第七話
この前のリスティに引き続いて、これまた意外な珍客が訪れたものだな。
ゆっくり入室してくる二人を見て、俺は驚き半分興味半分でいる。
特にレンとかいうコンビニのガキはともかく、もう一人のガキは初対面だった。
コンビニ娘とだって、俺と仲が良いわけでは断じてないのだが。
「お前、何しに来たんだ?
というか、何でここを知ってるんだ」
コンビニでの騒動でちょっと囮に使って逃げたくらいで、報復にでもやって来たのだろうか。
傍らにもう一人いるのは、俺が手強いと見て仲間を連れて来たとか?
だとすると、執念深いガキである。
俺が入院している事を突き止めたのは、別の意味で感心は出来る。
疑惑の声を上げる俺に、レンが一歩前に出る。
「高町美由希に高町なのは。
この二人の名前に覚えはあるか?」
美由希になのは、っていえば――
ガキの問いかけにほんの少し考え、俺はすぐに思い出す。
確か高町の妹と、事件当日に現場にいたちんまいガキがそう呼ばれていた気がする。
剣士らしくもない穏やかな顔つきをした眼鏡のあいつと、小さく震えていた小さな女の子の姿が、脳裏に浮かんだ。
「じいさんの道場と事件現場で見かけた奴等だな。
お前、あいつら二人を知ってるのか?」
ベットに寝転がったまま尋ねると、ガキは神妙な顔をして頷いた。
「うち、その高町の家に御世話になっている身の上やねん」
「へえ・・・じゃあ、あいつらの家に住んでいるんだ、お前って」
この町に滞在してからというもの、奇妙な縁の巡り合わせが続いている気がする。
まさかコンビニで揉めたこいつと、あいつらが知り合い関係にあったとは。
俺は半ば感心しながら、もう一人に視線を向ける。
「で、こいつは誰? お前の友達か?」
俺の疑問に、当の本人が俺をしっかりと見つめて口を開く。
瞳に意思の強さが宿している、背丈の低いガキ。
野郎には全く興味はないが、一応聞いてやった。
「俺、城島晶って言います。
あの・・・なのはちゃん、助けてくれてありがとうございました!」
真っ直ぐな姿勢で、堂々とした一礼を持って俺に頭を下げる城島。
城島晶、俺はこのガキ――いや、少年の名前を覚えてやる事にした。
素直に礼を言える態度に、真っ当な人間なら誰でも好感を抱ける。
こう畏まれては、俺も悪い気はしなかった。
何か言おうとした俺より早く、城島の態度に戸惑った様子のレンが同じく頭を下げた。
下げるというよりは、若干頭が高かったが。
「うちからもお礼言うわ。
――ほんま、ありがとう。
もしあのままなのちゃんに何かあったら、うちは一生悔やんでも悔やみきれへんかったわ」
え〜と・・・
もしかして、この二人はあのガキの事でお礼を言いに、わざわざ来たのか?
俺としては別に助けようとして助けた訳ではなく、現場に向かったらあいつが居ただけの事なんだが。
俺は対応に困り果てて、横脇に立っているフィリスを見る。
う、何だフィリス。その面白がっている顔は!?
微笑ましいのか、感心しているのか、俺を見つめるフィリスの表情に俺を援護しようとする意思はないようだ。
俺は仕方なく二人を見つめ、投げやりに応答した。
「もういいから、頭上げろって。
別にお前らが礼を言う必要はないだろう。本人じゃないんだし」
「・・・ううん、それは違う。
なのちゃんがあんな危険な目にあったんは、うちのせいやねん」
「は? それはどういう――」
意味だと尋ねようとした俺を差し置いて、傍らにいた城島がレンにつかみ掛かった。
「自分を責めるなよ!
・・・あれは、お前を止めずに同行してしまった俺にだって責任はある。
なのはちゃんを俺がちゃんと気遣っていれば・・・」
悔しそうに語るレンに、レンが今度はつかみかかった。
「何であんたのせいになるねん!
うちがむやみやたらに行動したからこうなったんや!!」
「違う! 俺のせいで危険な目にあわせたんだ!」
「うちや!」
「俺だ!」
おいおいおい・・・
いつのまにか睨み合いの掴み合いにまで発展している二人に、俺は呆れ返っていた。
別にどっちが悪いとか決めなくてもいいだろうに。
もう事はちゃんと解決して、皆無事だった。
なら、平和に終わってめでたしめでたしで済ませれば何の問題もないはずだ。
「お二人とも静かにしてください。ここは病室です」
『あ・・・』
今まで黙っていたフィリスが堪えきれなくなったのか、凛とした声で二人に注意する。
二人もその声に我に返ったのか、共に顔を赤くして黙り込んだ。
普段はニコニコしてばかりの穏やかな性格だが、フィリスは時折こうした威厳の強さを見せる。
俺は少し感心して、改めて二人に告げた。
「なのはだっけ? あのガキが別にお前らを責めた訳じゃないんだろう。
だったら、平和的に解決した事を素直に喜べよ。
今後何もないようにしっかりすればそれでいいんだから。な、先生?」
格式ばってフィリスをそう呼ぶと、フィリスも心得た様子で頷いた。
「良介さんの言う通りですよ」
俺とフィリスにそう言われ、二人は恥ずかしそうに顔を見合わせた。
ま、とりあえず俺に礼を言う為だけにわざわざやってきたんだ。
このまま帰すのも、な・・・・
俺はベットから起き上がって、体を解しながら言った。
「折角来たんだ、ゆっくりしていけよ。
ちょうど診察も終わって暇してたからちょうどいい。
フィリス、コーヒー三つ買ってきて」
「はい、ちょっと待っててくださいね。
・・・って、どうして私が行くんですか!?」
――ドアを開けて外に出た時点で気づくなよ、お医者さん。
俺は内心で「ちっ、気づいたか」と舌打ちしながらも、笑顔を絶やさずに言う。
「だって俺は怪我人だし、この二人は見舞い客だろう。
そうなると、やっぱり気立てのいい頼れる美人先生に頼むのが一番じゃないか」
「そ、そうですか・・・?」
お世辞全開でパシリを促す俺の真意に気づかず、嬉しさを隠そうとせずにモジモジするフィリス。
おし、後一押しだ。
「こう見えても俺は先生を信頼してるんだぜ。
頑張れ、先生! 俺、応援しているよ!」
「仕方がないですね、良介さんは。・・・分かりました、行って来ます」
全然しょうがない様子には見えないフィリスは、軽い足取りで買いに行ってくれた。
自動販売機は同じ階の待合室にある。
お金は渡さなかったが、気前よく払ってくれるだろう。
「相変わらずセコイ男やな〜」
レンの何気ないコメントが、俺の繊細なハートに少し傷をつけた。
「ふ〜ん、お前らは現場にいたって言うその男を追いかけてたのか」
「そうや。てっきりうちはあんたが犯人かと思ってたから、とっ捕まえたろ思てな」
「結局無駄足になったんだけど・・・」
買いに行って貰っている間に、俺は二人から事件に関する経緯を聞いていた。
初めこそ丁寧な態度だった二人だったが、今ではすっかりと俺に馴染んでしまっている。
「んで、結局捕まえた奴って誰なんだ? 人違いだったんだろう」
俺の質問に、レンが渋い顔で答える。
「それが同じ道場の門下生やってん。
うちと同じく、犯人があんたやと勘違いして捕まえようと夜な夜な見張ってたみたいや」
「そらまたご苦労なこった。
犯人捕まえたのも俺だから、殆ど無駄足だったって事だな」
「お陰でなのちゃんを置いてしまって――頼まれた師匠の信頼を裏切ってしまったんです」
晶はまだ悔しいのか、苦虫を噛み潰した顔をしている。
俺は苦笑しながらも、師匠と言う言葉が引っかかり尋ねる。
「師匠って・・・お前、誰かに弟子入りでもしてるのか?」
「そういう訳じゃないけど・・・
宮本さんは知っているでしょう、うちの師匠」
俺が知ってる?
はっきりいって、師匠と崇められる様な人物に心当たりはない。
「誰だよ、そいつ」
「高町 恭也って言うんですけど。
ほら、事件の時に何度か会ってるでしょう?」
「――ああ、あいつか」
高町 恭也。
名前と顔を思い出した時、我知らず剣を握ろうと強く拳を握っていた。
<第八話へ続く>
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