とらいあんぐるハート3 To a you side 第一楽章 流浪の剣士 第二十二話






「前先先生!それに宮本さんまで・・・・・ど、どういう事ですか!
先生が宮本さんを!?」


 静まり返った住宅街の一画において、高町の驚愕の声が高く響く。

くっそ〜、いつかまた会おうとは言ったけどこんな無様な姿で再会する羽目になるとは!

背中に張り付くようにもたれかかっているガードレールの冷たさを感じながら、俺は内心で歯噛みした。


「・・・美由希君・・・・」


 俺に木刀を突きつけていたじじいは、注意の矛先を高町に向ける。

よほど意外な登場だったのだろう。

月夜に隠れて表情は見えないが、じじいが動揺している様子が感じ取れた。

俺は俺で何とか立とうと頑張っているのだが、腰を踏ん張る度に両肩が激しく痛む。

ピクリと動かすだけで割れるように痛み出し、手は指先に至るまでまともに動かせない。


「先生、宮本さんが・・・貴方を襲ったんですか?」

「・・・は?」


 今、何をぬかしたんですかこの小娘?

俺が呆然としている間に、高町は今度は大真面目な顔で俺に詰め寄る。


「宮本さん、違いますよね?
宮本さんが先生を襲ったとかじゃないですよね!?」


 待て待て待て、するとなにか。

この眼鏡女は俺がこのじじいを襲って返り討ちにあったとか誤解しているのか。

俺が連続通り魔の犯人だと勘違いしているのか!?

猛然と抗議してやろうと身を乗り出すが、その途端に肩に痛みが走って俺は仰け反って倒れた。

な、情けねえ・・・・・


「侍君、大丈夫!?ノエル、応急手当!」

「分かりました。宮本様、少し我慢して下さい」


 二人が俺の傍に駆け寄ってきて、心配そうな顔を見せてくる。

ノエルも普段の冷静な顔は崩してはいないが、瞳に気遣いの色が見えた。

余計な事をするなと言ってやりたいのだが、いかんせん肩をやられて身動きも取れない身。

ノエルは俺をゆっくりと抱き起こして、着ているシャツを脱がした。

って・・・・


「寒いじゃねえか!?俺は別にいいか・・・いっ!?」

「竹刀袋を拝借いたします。もう暫くご辛抱ください」


 ノエルは俺が持ち歩いていた空になっている竹刀袋を徐に肩に縛り付ける。

思っていたよりも力強い絞めだったがために、肩は緊急信号を発生させた。

痛みによっての悲鳴が口から出そうになったが、何とか堪える。

男は女みたいに軟弱な悲鳴を上げないのだ。

そうして俺が処置を受けていると、ふと黒ずくめの男が俺を見ている事に気がついた。

いや、正確には俺じゃない。俺の隣にいる月村を、だ。


「・・・ひょっとして、月城・・・さん?」


 月城?


「もしかして・・・高町君?同じクラスの」


 同じクラス?高町?


「あ、ああ、そうだけど・・・・どうして月城さんがここに?」

「残念。私は月村だよ、高町君。月村忍」

「そ、そうか、ごめん。俺は高町恭也だ」

「お互い、あんまり話した事はなかったよね」

「そうだったな・・・・・」


 月村と黒ずくめの男。

二人はなにやら妙な雰囲気を漂わせて、奇妙な会話を行っていた。

何が何やら分からない状態はかなり困るので、俺は思いっきり横槍を入れる。


「こら、貴様ら。こんな状況で二人で盛り上がるんじゃねえ。
月村、知っているのかあいつ」


 背後には見なれない銀髪の女を携えて、以前俺を散々追い掛け回した高町と呼ばれた男が黙視してくる。


「同じ学校の同じクラスなんだ、高町君は。まさかこんなところで会うとは思わなかったけど」

「それは俺も同じだ。
最近休んでいたみたいだけど、まさか事件場で遭遇するとは思わなかった。
しかもどうやらかなり関わっている様だな」

「高町ってことは、まさかお前ら二人・・・?」


 もう一人の高町を見ると、小さく頷いて返答する。


「私と恭ちゃんは兄妹なんです。それより聞かせて下さい!
この街の人達を何人も襲った犯人は貴方なんですか?」

「まだそんな事言ってやがるのか。ちょっとは状況を・・・」


 呆れて物言いをつけようとしたが、高町妹は話を聞こうともせず言葉を続ける。


「警察は宮本さんが犯人だって疑ってます!
でも私は信じたくありません・・・・・・・
だって宮本さんはいつか会おうって言いました!私と約束しました!!」

「いや、あのな・・・・」

「剣に対してもすごく真剣で、真っ直ぐで・・・・
私、内心尊敬しました。すごいなって思いました。
だから私は、私は・・・・・」


 高町妹の言葉は徐々に小さくなっていき、やがて途切れた。

言葉がつまったように憤りを露にした表情で黙りこくって、そのまま口をつぐむ。

聞いていたじじいは高町妹に目を向けたまま、何やら考え込むようにしている。

すると、それまで黙っていた銀髪の女が背後から高町妹の肩を叩いた。


「ちょっと待って。熱弁を振るうのはいいけど、決め付けるのは早いと思うよ」

「え?それはどういう事ですか?」


 意外にハスキーな女の声に、高町妹は驚いた顔で振り向く。

銀髪の女はそのまま笑顔で何も答えずにスタスタ歩いていき、俺の背後に隠れていたガキの元へ行く。


「あ、なのは!?」

「なのは!?どうして・・・・
フィアッセ達は迎えにこなかったのか?」


 今まで気がつかなかったのか、兄妹揃って慌ててガキの元へ駆け寄っていく。

ガキもまた明るい表情になって、駆け寄る二人の元へ飛び込んだ。

というか、あのガキも二人の身内だったのか。

数々の人間関係の連続に、俺は眩暈すら感じてきた。


「おにいちゃん、おねえちゃん!あのおにいちゃんは違うよ!!
私と那美おねえちゃんが襲われそうになったのを助けてくれたの」

「なるほど・・・・それじゃあなのはちゃん、だったかな。
貴方を襲った犯人は誰?」


 銀髪の女はそう言って腰を屈めて、なのはと呼んだガキと視点を合わせる。

ガキは迷いもなく、しっかりとした動作でじじいを指差した・・・・


「先生、が・・・・?そ、そんな・・・・」


 高町妹は信じられないとばかりに、呆然とした顔でじじいを見やる。

兄貴の方はと言うと冷静な顔を保とうとはしているが、表情の端々が揺れていた。

確かガキは兄と姉がお世話になっていたと言っていた。

ガキが指していた人物は紛れもなくこの二人であり、二人共に尊敬の念を抱いていたに違いない。

真実を突きつけられて、この兄妹は深く傷ついているように見えた。

再び静寂が戻り、重い空気が場に宿り始めたその時、じじいは木刀を構えて一歩前に出る。


「・・・最早これまで、か・・・・」


 じじいより発せられる威圧感に気がついたのか、高町兄が静かにじじいに歩み寄っていく。

ある程度の間合いまで近づいた後、顔を俯かせながら口を開いた。

「先生、何故ですか?
大勢の弟子に慕われて、多くの優れた剣道家を育てた貴方が何故この様な暴挙を!」

「・・・語るべき事はない」

「先生!」

「どうしても聞きたいのなら、君も剣士だ。剣で語れ」


 対をなす二本の刃。

腰の刀はやや小振りに見えるが、黒き姿に映えるかのように提げられている。


「・・・・どうしても、戦わなければいけませんか?」


 高町兄にとっての最後の静止。

声には悲痛さが混じっており、戦いあう事に悲しみすら感じているようだ。

無理もない。

尊敬している人が実は何人もの人を襲っており、自分にもまた牙を向こうとしているのだから。


「・・・君と真剣勝負を行うのは初めてだったな・・・」

「・・・・・・・・・・」

「試合は幾度となく行ったが、いつも君は打ち合うのみで終わっていた。
分かってはいたよ。
君が本気になれば、私をも凌駕する事くらいはな・・・・」


 なっ!?

俺を散々苦戦させたこのじじいより強いだと!?

俺は信じられない気持ちで、改めて高町兄の顔を見る。

引き締った表情に、暗い夜空の下で鋭さを見せる目。

じじいが隙なく身構えると、高町兄は一瞬表情を暗くして同じく身構えた。

兄貴は刀を抜かずにスタンスを広げ、抜刀の構えでじじいと対峙する。

じじいは躊躇う事なくこいつに襲い掛かるだろう。

そうなればこいつもまた、戦わざるをえない。

倒さなければ倒される。

敬意を抱いていた相手でも勝たなければ死ぬのだから。

自分の知り合いを倒さなければいけないこいつの今の気持ちはどうなのだろう?

俺にはよく分からなかった。

誰であれ、俺だったら躊躇いなく倒せるだろう。

俺はいつだって一人だから。

一人だったから――


「・・・・ちょっと待てよ、てめえら」


 対峙していた二人が一斉に俺を見る。

俺はよろよろしながら立ち上がる。


「俺との勝負はまだ途中だろう、勝手に盛り上がってんじゃねえよ」

「・・・・君こそ下がっていてくれ。先生の相手は俺が務める」


 何か責務でも感じているのだろうか?

断言してそう言い切る高町兄に、俺は邪険に追い払った。


「勝手に乱入するんじゃねえ、このぼけが。
その腐れじじいとは決着がついてないんだよ。
てめえこそ下がってろ」


 俺は二人の間に割りこんで、じじいの前に出る。


「さ、続きといこうかじいさん」


 目を見開いているじじいに対して、俺は不適に笑う。

肩の痛みに噴出す汗を拭う事もなく・・・・・ 
 




















<第二十三話へ続く>







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