とらいあんぐるハート3 To a you side 第五楽章 生命の灯火 第二十二話
最低のタイミングで、最悪な奴が現れやがった…
肌がヒリつく痛みに耐えながら、俺は歯噛みする。
平穏を取り戻した中庭に佇む、黒衣の少女――
懐かしさと哀しさを感じさせる無感情な瞳を、俺に向けている。
傍には――荒々しい生命力を燃やす瞳の女。
俺が憎むべき敵であり、フェイトを攫った張本人。
――忘れもしない、あの夕焼け空の日。
束の間の平穏が、この女によって破られた。
夕日に染まる茜色の髪、奇妙な耳と尻尾――
全身から殺気が放たれて、空気が陽炎のように歪んだのを覚えている。
暗闇の世界でも、その眼光の鋭さはまるで衰えていない。
俺を射るように見つめては、獣の如き微笑みを向ける。
…頭が、煮え滾る…
はやての家に滞在したのは、数日間だけ。
恩や義理を感じる期間でもなかった。
一人で生きてきた俺に、他人の家は何処に行こうと居心地が悪い。
でも――
――高町の家と同じ温もりだけは、感じていた…
口が、滑る。
「…どうしてそんな奴とつるんでいるんだ、フェイト」
事態がまるで掴めない。
あの女に何か強制でもされているのか?
だが、俺やはやての前に再度姿を見せる意味が分からない。
人質を連れてくる事に何の意味がある。
探す手間が省けたのは事実だが、予想外過ぎて対処出来ない。
俺の言葉に反応したのは、ノッポな女――
「あんたなんかに指図される覚えはないね、この人攫いが」
…は?
おいおい、聞きましたか今の言葉。
誘拐犯の分際で、俺様を人攫い扱いですよ?
近年稀に見る悪趣味な冗談だった。
大笑いしてやるべきか、怒り狂ってやるべきか、ちょっとだけ判断に困る。
「…やめて、アルフ。その事はちゃんと説明した」
「だけどさ…」
「私から、説明します」
フェイトは、俺に向き直る。
俺を見る彼女の目は、最初出会った頃のまま――
冷たい手と触れ合っていた日々が嘘であったかのように、優しい感情が消えていた。
「この娘は、アルフ。
私の大切な…家族です」
「…家族…?」
フェイトが紹介で差し伸べた手を、アルフとかぬかす女が優しく握る。
こいつが、フェイトの…?
馬鹿な――
「顔どころか人間かどうかも怪しいぞ、そいつ。
いい大人がコスプレなんぞしやがって。
脳味噌沸いてるのか」
「こ、このっ――!」
「おにーちゃん、おにーちゃん!?」
俺の隣のなのはが、慌てて俺のシャツを引っ張る。
寄り添うように口元を近づけて、ヒソヒソ声で話しかけて来た。
「あの人は、フェイトちゃんの使い魔さんです」
「使い…魔…?」
確かフェイトも、あの時俺と一緒に居た久遠をそう呼んでいた気がする。
耳慣れない呼び名に首を傾げていると、なのはが親切に捕捉してくれた。
「あの人はフェイトちゃんが作った、魔法生命――
製作者の魔力で生きる代わりに、命と力の全てを懸けて主を守るんです」
今度は魔法生命と来ましたよ。
案外適当なネーミングにちょっと吹きそうだったが、事情は分かった。
分かったって言うか、分かった振りだけしてやった。
どうせ、この夜は世界が狂っている――
明日の朝になれば、普通の現代日本が俺を待っているさ。
丁寧な説明のなのはに、俺も耳打ち。
「…なんか詳しいな、お前」
「えーと…あの人が自分で説明してくれました…」
「お前にわざわざ…?
親切なのか、馬鹿なのか――
あの考えなさそうな面見る限り後者だな、絶対」
「うるさいよ、あんたら!!」
顔がちょっぴり赤いぞ、犬耳女。
豊満な胸を軽く覆っているだけの布切れと、流麗なラインを描く短パン。
加えて、フェイトと同じ黒のマント。
――羞恥心なんてご立派なものがあったんだな、この恥ずかしい格好で。
フェイトは激昂するアルフを押し止めて、目を向ける。
「アルフ…この人は、私が御世話になった人なの。
手を繋がれていたのも、事故。
この人は、私たちの世界にいるべき人じゃない…
もう二度と危害は加えない約束だよ」
「…分かってるよ…もう」
――カチン、と来た。
世界にいるべき人間じゃない?
俺だって御免だ、こんなくそったれな世界。
異世界だとか願いを叶える石とかでウンザリなのに、妖精に魔法――挙句の果てに使い魔だぁ?
遂に獣人まで登場とは恐れ入ったぜ、運命の女神。
…フェイトを真剣に探そうとした俺が、馬鹿馬鹿しくなった。
ほらな、見たろ?
俺なんぞ人助けなんて向いてなかったんだ、最初から。
誘拐犯はフェイトの家族で、フェイト本人は何も困っていなかった。
…半端な、悪党。
なのはや桃子、はやての影響でも受けたのか?
俺は独りよがりでフェイトの安否を気遣って、馬鹿みたいに探そうとしてたんだ。
とんだ、道化だった――
すました顔のフェイトに、憎たらしさすら覚える。
可愛さ余って憎さ百倍とは、よく言ったもんだ。
「なるほど…確かにあんたからすれば、俺は無理やりフェイトを連れ回した誘拐犯って事か。
事故とはいえ、本でこいつの自由を奪ったのは事実だからな」
「…言いたい事とは山ほどあるけど…
あんたはともかく、その娘を巻き込んだのはアタシのミスだ」
「――で…?
今更謝りにでも来たのか。ガラスや家具類の弁償代払いに来たなら受け取るぞ。
それとも、何だ…」
心の奥底から漏れる、嘲笑。
――愚かな自分に向けて発する、自傷の悲鳴。
「怪我した俺を、笑いにでも来たのか?
本当、馬鹿だよな…
庇う必要のない奴まで、庇ってよ――」
「――っ…」
無感情な仮面に、亀裂が生じる。
一瞬瞳が揺れて、小さな身体に震えが走った。
傍にいたアルフが目を見開いて怒鳴った。
「あんた、よくもそんな事が言えるね!
フェイトはあんたやその娘の事、ずっと――!!」
「――いいの」
「で、でもフェイト…」
「…いいの…私が、悪いから…
…ごめんなさい…」
壊れた心が、軋む。
止んでいた耳鳴りが頭を揺さぶり、胸の奥を掻き毟った。
「…償いは、必ずします…
その娘にも、貴方にも――」
少女の切ない表情が、俺の孤独な心を狂わせる。
――必死で、首を振る。
情けなんてかけるな。
もう関わろうとするな、こいつに。
こいつは俺の心を惑わせる――魔女なんだ。
「――迷惑だって、言ってるんだ。
俺はお前と、もう話したくなんかねえ」
「おにーちゃん、もうやめて…!!」
思っていたより強い、なのはの声――
必死で思いを伝えようとする表情は、俺が出て行く前の泣きそうな顔だった。
なのはが前に出る。
「フェイトちゃん、わたしは貴方と話がしたい。
わたし、なのは。高町なのは!
私立――」
学校名まで告げる、律儀ななのは。
多分フェイトは明日にでも忘れているに違いない。
自己紹介に学校名と学年を告げる奴を、俺は初めて見た。
「フェイトちゃんが此処にいた理由はジュエルシードだよね?
おにーちゃんが持っている、この石――」
「ちょ――ちょっと、何さそれ!?」
「! …紅い、ジュエルシード…
シリアルナンバーが刻まれていない――どうして…」
皆が熱心に注目している、俺の手にあるジュエルシード。
爛々と紅の光を放ち、暗い室内を赤々と眩しく照らし出している。
なのははフェイトを見据えて、話す。
「…わたしは、間に合わなかった…封印出来なかったの。
多分――おにーちゃんが封印したん、だよね…?」
「さあな」
封印に心当たりがないと言えば嘘になる。
フェイトやアルフは何も言わないが、俺はまだ融合したままだ。
あの時発動した、"はやて"の風――
優しいはやての願いを力にして、俺は奇跡を願った。
闇は風に飛ばされて消えて、残されたのは暴走が収まったこの石だけ。
あの行為を封印と呼ぶなら、俺がした事で間違いはない。
「――貴方が、魔法を…?
その髪と瞳…まさか、あの本の力を――」
――半信半疑なので、俺も分からない。
答えないでいると、フェイトは辛そうに俯いた。
あれ、無視されたと思った…?
"…大人気ないですよ、アナザーマスター"
(だ、だって、俺だってよく知らないしさ…)
脳内の妖精に指摘されて、思わず動揺する俺。
いかんいかん、非情になれ。
見知らぬガキに情けをかけた結果を忘れたのか?
こんなガキ、俺は…
「おにーちゃん、お願い!
フェイトちゃんの話を聞いてあげて。
――言葉だけじゃ、何も変わらないかも知れないけど…
言葉で分かり合えるは、きっとあるよ」
なのは…お前、どうして…
目を逸らそうとする俺を、なのはは決して許さない。
俺の心の迷いを見抜くように、懸命に言葉を投げかけてくれた。
こいつの信念――
争いを好まない、優しい気持ちから生まれた思い。
俺の冷めたフェイトへの気持ちすら、温かく包んでくれる…
俺は苦笑して、なのはの頭を撫でる。
なのはは本当に嬉しそうに、笑って頷いてくれた。
――どっちがガキか分からねえな、これじゃ…
俺はジュエルシードを掲げる。
「お前の目的は最初からコレだったな。
この石の正体は、なのはから聞いた。
お前がこいつに望む、願いってのは何だ…?」
なのは同様、こいつだってジュエルシードの事は知っているはずだ。
願いを叶えるだけの石じゃない事も――
なのはがこの件に関わっている理由は、予想がつく。
ユーノに協力を求められたからってのもあるだろうが、暴走するジュエルシードの脅威を止めたいからだろう。
他人の不幸を見過ごせるガキじゃない。
ならば、フェイトは…?
自分自身の命すら失いかねないリスクを背負ってまで、こいつは何故集める…?
なのはのような正義感からではない、と思う。
「わたしも聞かせて、フェイトちゃん。
…このまま何も知らないまま、ぶつかり合うのはもう嫌なの!」
なのはの表情に見える、苦悩…
きっとなのはは、何度も何度もフェイトに思いをぶつけてきたのだろう。
自分の探す理由も含めて、話しかけ続けたに違いない。
フェイトの名前を聞き出せたのは、間違いなく訴え続けた成果だ。
争いを望まず、自分の心一つでなのははこの事態の終結を望んで戦い続けた。
でも、フェイトは何も答えてくれない…
きっと、辛かっただろう。
俺に素直に向けてくれたあの時の涙は、悲しみで溢れていた…
ファイトは逡巡――やがて、小さく口を…
「答えなくていいよ、フェイト!」
「――なっ」
フェイトの勇気ある告白を、横から邪魔する獣女。
絶句する俺となのはに憎悪の目を向けて、怒鳴り込むように吼える。
「優しくしてくれる人達のところで、ぬくぬく甘えて育ったガキ共になんか――
―答える必要なんかない!」
なん…だと…
なのはの傷つく顔が、視界によぎる。
考えるより先に、口が滑った。
「不幸な奴が、そんなに偉いかよ」
「何だって――」
険しい顔で睨む、女。
俺より遥かに強いであろう力量の相手に、俺は鼻で笑ってやった。
昔の俺に――俺は語りかける。
「お前がなのはの何を、知ってるんだ?
世の中苦労した奴だけが強くなるのか?
馬鹿じゃねえの。
くだらねえ価値観に酔っ払いやがって…いい大人が」
――心の中で、嘲笑…
甘ったれたガキだと、最初の頃は俺自身そう思っていた
なのはを一番馬鹿にしていたのは、間違いなく俺だ。
そんな俺が――なのはに、敗北したんだ。
「優しくされて育った奴にしか見えない、世界がある。
平和な環境で生まれた奴にしか分からない、価値観がある。
温かい心を宿した人間にしか持てない、強さがあるんだ。
不幸を武器にするような奴に、なのはが負けるか」
――フェイトに罪はない。
でも、俺ははっきりと言ってやりたかった。
俺のような無様な敗北を、フェイトに味あわせたくなかった。
俺は死ぬ寸前まで、気付かなかったのだから…
ジュエルシードを手に、俺は宣言する。
「フェイト。なのはと勝負しろ」
「――え」
「おにーちゃん!?」
驚く二人を尻目に、俺は訥々と話す。
「喧嘩でも、話し合いでも何でもいい。
お前が勝てば、このジュエルシードを無条件でくれてやる。
なのはが勝ったら――
――なのはの問いかけに、ちゃんと答えてやれ」
最後は、俺の心の綻び。
道化の俺が最後まで演じる…劇の台詞。
「いつまでも――逃げるな」
「…っ」
つまんねえ、お節介。
やっぱり…俺は、こいつを憎めそうに無かった…
俺に似た孤独を、抱えているこいつを――
こいつを傷つければ傷つけるほど、俺も痛い。
嘆息する。
俺は人助けには向かないが、英雄にもなれそうにない。
闇と孤独、幻想と血に満ちた世界――
魔法と奇跡が織り成す物語の中で主人公になるには、俺は格好悪すぎた。
訳の分からない台詞を吐き、狂った言葉を叫び続ける。
明るい世界に生きられない俺に、優しさや御節介は似合わない。
醜悪な矛盾と偽善に反吐が出た。
せめて吐くなら――
「その間…こいつの相手は、俺がしておいてやるよ」
――血反吐を吐こう。
いい加減眩暈すらしてきたガタガタの身体だが、まだやれる事はある。
言いたい放題喚いた俺に完全に頭に来たのか、女は俺を睨みつけたまま。
「…行きな、フェイト」
「アルフ!? 待って、この人には――」
「――勝手なことばっかり言ってるのは、こいつだよ?
ぶっ飛ばして、アタシもすぐに後を追う。
此処で派手に戦えないだろ?」
「…」
話し合う二人。
穏やかならざる空気に、なのはも血相を変えて叫ぶ。
「おにーちゃん、やめて!? そんな傷で…」
「…俺の事はいい。決着をつけて来い」
「でも、でも――!」
なのはの口を、軽くふさぐ。
血だらけの手だが、懸命な言葉を束の間消してくれた。
俺はなのはと同じ視線で、話す。
「お前に何があったのか、フェイトに何があったのか、俺は知らん。
でも、俺にだって分かる事がある。
お前――あいつと、友達になりたいんだろう?」
アリサがフェイトの友達だと知った時、こいつは心から羨ましそうだった。
あの時漏れた言葉は、きっと本音だったに違いない。
何度もぶつかり合っても、なのはの気持ちが消える事は無かったんだ…
「…。…うん…でも」
「だったら、諦めるな。
恥ずかしいから一度しか言わねえけどな…
…お前が待ってたから、俺は帰ってきたんだぜ」
「――おにー、ちゃん…」
俺を見つめるなのはの瞳に、涙の粒。
――意外に涙脆いんだな、こいつって…
俺にだけ見せる弱さなら、少しだけ嬉しく思う。
なのははそれ以上何も言わず――立ち上がった。
フェイトは静かに、なのはと向き合って――そのままはやて家から出て行く。
何が起きるか分からないが、場所を移すのだろう。
なのはも最後に俺を一瞥して、出て行った。
残される俺と、アルフ。
俺は息を吐いて、改めて向き合った。
「てっきりゴリ押しされるかと思ったが…意外と聞き分けいいな、あんた」
「――あんたには借りがあるからね…そこの嬢ちゃんにも」
居間で寝かされたままのはやて。
静かに眠り続ける少女を見る女の目は、少しだけ罪悪感があった。
意外だった。
フェイトの為なら、どんな犠牲も平気で出せる奴だと思ってんだが…
「何だい、その顔は!
言っておくけどね、謝るつもりはないよ。
あの娘はともかく、あんたのせいでフェイトが帰れなくなったんだから」
「分かってるよ。
――さっきもちょっと、言い過ぎたしな…」
「へぇ…生意気に気にかけてるんだ?」
「うっせえな」
やべえ…真剣に、やべえ…
こいつ、意外に良い奴かもしれない。
まずい。
俺は勝負に情けはかけない。
もしなのはでも敵に回れば、容赦なく斬る。
ただ今回の場合――こっちは体調最悪、あっちは絶好調。
怒りに任せて突撃する予定だったのだが、萎えてきている。
穏やかな空気は、俺に痛みを思い出させる。
今から行われるのは、死合――
ガタついた身体を支える精神の柱が、俺には無かった。
距離を取る。
「…色々言ってくれたけど…あの娘じゃ、フェイトには勝てないよ。
そして、あんたもね」
「そのままそっくり言い返してやる。フェイトじゃ、なのはには勝てねえよ。
そして、あんたもな」
アルフは強い眼差しで、拳を握る。
俺は竹刀を手に、この数ヶ月で身についた構えを取る。
漲る、緊張感。
開始の合図は――頭上に華咲く、桃色と金色の光。
気を取られたその瞬間、拳の弾幕が俺を襲った。
攻撃、防御――そんなものに、何の意味もなかった…
俺は嬲られるだけの、哀れな獲物。
一方的に殴られ、蹴られ、投げ飛ばされて、地面に転がる。
対応する隙なんて、まるで見えない。
――攻撃の、激流…
旋風のような蹴りが俺の脇腹に鋭く突き刺さり、洪水のような拳の連続が俺の顔を嫌というほど殴った。
俺の竹刀は空振り。
止血した右目は血を吐き出して、左目は腫れ上がって醜く崩れる。
「いい加減――くたばりな!」
鳩尾を殴打されて、胃液を盛大に空中に吐き出す。
間隙を許さず放たれた蹴撃が俺の顎を派手に割って、吹き飛んだ。
中庭の壁に激突する…
――嘔吐と血反吐で地面を汚し、砕けた鼻から液体が零れる。
呆れるほど、実力が違いすぎた。
竹刀を握れているのは、奇跡に近い。
朦朧とする意識の中で――
――俺は起き上がった…
「…まだやろうってのかい…?」
時間にして、十数分――
俺は一撃も相手に当てられず、数百倍の攻撃の嵐を食らってボロボロ。
怪我をしていない部分なんて、一つもない…
俺の抵抗なんぞ、アルフからすれば子供の悪戯程度にしか見えていないのだろう。
奴は、呆れ顔だった。
「これ以上やると、死ぬよ。
――魔法も使えない、剣もろくに振れないあんたじゃ勝ち目はないよ」
正論だった。
相手は、俺の実力を正確に見抜いていた。
俺が勝てない事は、明確な事実でしかなかった。
俺は、もう…意地でしか立っていない…
何故、立つのだろう?
俺にもう、何も分からなかった――
「――あの娘が心配なら、ジュエルシードを渡しな。
フェイトもアタシも鬼じゃない。
素直に渡してくれるなら…」
「だ、大…切な…家族の不幸も…」
唇が腫れて、上手く喋れない。
――何を言ってるんだ、俺は…
「満足に…く、覆せねえ…保護…者が…
偉そうに…吼え…んな」
「――!
アタシだって…アタシだって、何とかしてやりたいって思ってる!」
「…な…ら…本気で、ゴ、来いよ…
フェイト…ゴホ…への、気…持ちは…その程度…グ…か…?」
「…上等だよ…死んでも、後悔はしないね!!」
急激に、接近する影――
震える手、ボロボロの肉体、砕けた足腰…
"逃げて――逃げてください!!"
間近に迫る女の手が――茜色の輝きに満ちている。
今度こそ、本気の本気。
竹刀を落とさないように――
――ただ、それだけしか、出来ない…
「おらぁぁぁぁぁっ!!!」
――――――――――っっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!
体内が、破裂した…
目から、鼻から、口から、耳から、毛穴から――血が噴出して…倒れ…
…。
…。
「…ハァ…ハァ…」
…。
"――しっかり、しっかりして下さい!!"
…。
「…く…フェイトと、約束したのに…」
…。
"回復、回復魔法…どうして使えないんですかぁ!?
どうしてこんなに非力なんですか、わたしはぁ!"
…。
「…殺して、しまったよ…ああ、もう!」
…。
"死んだら…死んだら駄目です、リョウスケ…
リョウスケェェェェェ!!!"
…。
<第二十二話へ続く>
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小説を読んでいただいてありがとうございました。
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メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。
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