とらいあんぐるハート3 To a you side 第四楽章 月影の華桜 第三十七話
「フィアッセにフィリス、リスティ。
フィアッセは今世話になってる高町の家の住民で・・・立場的に俺と同じか、もしかして?」
赤の他人だらけの家。
家族として成り立っているのは知っているが、血筋としてはどうなんだろう。
高町の家は謎が多い。
俺の疑問に、恭也が答える。
「フィアッセは幼馴染で――俺達の家族だ」
「――うん。ありがとう、恭也!」
頬を染めて喜ぶ歌姫様。
桃子も肯定の笑みを浮かべ、自分の家族に慈愛を向けている。
俺としてはフーン、と言うしかないのだが、皮肉になるので黙っておく。
今日は高町家がメイン。
難癖つけて盛り下げても、仕方ない。
「フィリスは医者で、入院中世話になったり・・・ならなかったり」
「何ですか、それは」
口を尖らせるフィリス。
お前と出会って、気苦労という名の苦労を知ったんだよ俺は。
入院中の説教や、お節介を思い出して溜息を吐く。
「フィリスはこう見えても腕は確かで、他の患者からの評判も良いんだ。
お前らも怪我したら見て貰ったら?」
「きょ、極端ですよ、良介さん・・・」
誉め言葉に慣れていないのか、純情な態度を見せるお医者様。
話を促した剣術兄妹も、礼儀正しく宜しく御願いしますと頷いている。
フィアッセも友人付き合いとは別に、お世話になっているらしい。
恭也達も初顔ではない。
ま、他人の人間関係なんぞ俺は知らんが。
「リスティは入院中、知り合いたくないけど知り合った。
国家の犬で噛み付くので注意――あいたっ!?
本当に噛むな!」
「ボクって歯並びが綺麗なんだよ」
「意味不明な言い訳するな!」
軽く噛まれただけだが、型が残っている。
切れ味の良い歯だぜ、全く。
俺は手に息を吹きかけながら、紹介に関連付けていく。
「さざなみ寮ってとこに住んでて、神咲も入居してる。
神咲ってのは、そこに座ってる女」
「・・・あ・・・え・・・と。はい!
始めまして、神咲那美です。今日は御招待下さって有難う御座いました」
「固い挨拶だねー」
「リスティさんはもう少し真面目にするべきです!」
言ってやれ、言ってやれ。
俺から言えば、お前こそ真面目に、とか言われるので心で応援。
傷つき易い年頃なのである。
で、
「こっちの狐が、久遠」
「くぅん」
これだけの人数の前に出るのは恥ずかしいのか、俺の後ろに隠れる。
飼い主の後ろに隠れろよ、お前・・・
那美は気にしていない様子なので、いいけど。
「あははー、可愛いねー」
「うー、ぎゅって抱きたいです・・・」
美由希となのはは目を輝かせる。
久遠は見た目の愛らしさと大人しい性格で、人に好かれやすい。
問題は当人の人見知りだった。
特になのはは友達になりたがっているみたいだが、なかなか懐かずで嘆いている。
気の優しいなのはに懐かず、気の荒い俺に懐くのが不思議だ。
最近は苛めていないが、昔は手荒に扱っていたというのに。
赤星の紹介は割愛。
俺が教えて欲しいくらいだ。
当人に任せて、俺はようやく落ち着ける事が出来た。
赤星のプロフィールは興味なし。
少しだけ気をひかれたのは、こいつも剣道をやっているとの事で――
「恭也と赤星はどっちが強いんだ?」
「断然コイツ。悔しいくらい、負け越してるよ」
との当人談だが、恭也と美由希の話では赤星は相当な実力らしい。
くっくっく、楽しみが増えた。
俺って奴は、目的のためなら手段を選ばないのだ。
今日はせいぜい下手に出て、後に対戦を挑もう。
ごり押しして失敗したケースは、あの山篭り事件でタップリ味わった。
居場所を聞こうと強硬に出てレンの反発を買って、何とか引き分けに持ち込めば既に帰っていたという結末。
徒労はしたくない。
剣術修行なんて、結果に結びつかない苦労の連続なのは承知の上で。
さて――後はやるべき事をやっておこう。
宴会後にやるのも疲れるので、先に手間仕事を片付ける。
「紹介は以上。んで、乾杯に入る前に――
皆にちょいと頼みがある」
「頼み・・・?」
「ああ。時間をちょっと貰えるか」
「ええ、それはかまわないけど・・・」
当惑する主催者に許可を貰って、俺はかためた荷物の束から取り出す。
一匹の動物が入った籠。
あ、コイツ、寝てやがる・・・
日頃寝るか食うかだけ――世の中舐めてるのか、このフェレットは。
怪我を癒す為に静養しているのなら、いやに人間臭い習性である。
俺は円になっている皆の中央に、籠を置いた。
「わー、可愛いですねー!」
「目つむって寝てる・・・うわ、ちょっと撫でたいかも」
「うふふ、気持ち良さそうですね・・・」
女性陣には好評な様子、よしよし。
事情を知るフィリスも、優しい眼差しを向けている。
「どうしたんだ、この動物は?」
「リス・・・でもないよな? 何だろう、イタチかな」
男達の疑問に、答えてやる。
「フィリスの病院で拾った動物なんだが、どうやら飼い手がいないらしくてな。
怪我してたから動物病院で面倒見て貰ってたんだが、最近怪我も回復したんだ。
それで俺としては今後も面倒見るなんて御免で、保健所に叩き込みたい――
分かってるから、そんな目で見るな!?
誰か飼える奴はいないか?」
絶対零度のお医者さんの視線を交わして、俺は全員に意思を聞く。
案の定というか・・・皆の反応は困惑している。
突然そんなこと言われても、といった顔で物珍しげに見るだけだ。
「神咲とかどうだ? 久遠の友達として」
「ご、ごめんなさい・・・寮には久遠一人でもお世話になっていて・・・」
これ以上は無理か。
申し訳なさそうに謝る那美に、気にするなという風に手を振る。
保健所派な俺としては意思の押し付けは出来ない。
「リスティは? 警察犬代わりに」
「リョウスケと一緒なら考えてみるよ?」
「心底、お断りいたします」
問題外。
フィリス――は無理に決まってるので、
「赤星くーん、今こそ君の出番だ!」
「い、いや、俺に振られても!?
うちの家はちょっと・・・」
「お前、男だろう! 男のくせに見捨てるのか!」
「無茶言わないでくれ!?」
ち、使えない男である。
悲鳴を上げる赤星に非難の一瞥をくれてやる。
となると、後は――
「・・・そ、そんな目で見つめられても、桃子さん困っちゃうわ」
たじろぐ桃子。
コイツの人の良さは天下一。
無理やりつけこんでやる。
「このまま放置して、野犬に食われてもいいと?」
「そ、そうは言わないけど・・・でも」
「可哀想に。
折角怪我も治ったのに、寒空の中放り出して寂しく死んでしまうのか。
あーあ」
「う、うう・・・」
説得交渉、十五分。
俺の情による訴えと、お人好し遺伝子を受け継いだなのはの懇願。
フィアッセや高町兄妹の擁護の甲斐あって、飼い主が見付かるまで預かってもらう事になった。
完勝――後は楽しむだけだ。
<続く>
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