とらいあんぐるハート3 To a you side 第四楽章 月影の華桜 第三十六話
司会進行はおろか、自分の知人を紹介するなんてのも初めての経験。
この町に立ち寄ってから、人生の寄り道ばかりしている気がする。
空しさばかり感じつつ、俺は紹介を続けた。
「高町恭也に、妹の美由希。
月村と似たような経緯で知り合って――」
レンにかまけてばかりで忘れていたが、こいつらも俺の標的なんだよな。
しかも、正式――なのかどうなのか知らんが、剣術の使い手。
剣の道を志す俺としては、レンより優先的に相手を望まなければいけない二人。
敵意が消えた訳ではない。
熱意が冷めた訳でもない。
――レンから一本取る、その目標を優先しているだけ。
では、二人との関係は何なのだろうか?
言葉に詰まった俺は、無言で二人に向き直る。
お前らで言え――その視線に、恭也が応じた。
「大切な妹を、彼が助けてくれた。
奇縁ではあるが、恩義がある」
言葉少ない答えだが、気持ちは十分に伝わってくる。
高町家に滞在しているが、俺とこの男で会話は殆ど無い。
恭也が寡黙というのもあるが、俺も意図的ではないにしろ距離を置いていた。
あの爺さんの話も含めて、凄腕の剣士である事は肌で感じている。
いずれこっちから話し掛けてみるのもいいかもしれない。
「そっちの美由希には、多少剣の事を教わったんだよな」
「ご、ごめんなさい。
何か偉そうに言っちゃったみたいで・・・」
――あれが偉そうなら、普段の俺はどうなるのだろう?
不遜な性格なのは自覚しているし、直す気はこれっぽちもないが。
「いや、勉強になった。
レンを倒した後、剣の相手をしてくれ」
「えー、そんな百年後の話を今してもしゃあないやん」
「そこへなおれ、下郎!?」
桜の枝で脳天の刑は、なのはにしがみ付かれて断念。
リスティに大人気ないと笑われ、フィリスに喧嘩はいけませんと叱られた。
他の皆からは微笑ましい雰囲気。
ぐ・・・花見のいい肴にされてしまった気がする。
憂さ晴らしに、今後はコンビニ娘の紹介へ移る。
「で、このクソ生意気なチビがレン。
コンビニのゴミを漁って、この弁当を作ったという貧乏根性の染み付いた――あだっ!?
水筒を、投げるな!」
「うちは鳳蓮飛(フォウ・レンフェイ)いーます。
レンって呼んでいただけるとうれしーです」
顎を強打して引っ繰り返る俺を無視して、にこやかに挨拶するレン。
中身が詰まっている水筒って凶器だぞ、おい!?
治療費を分捕りたいが、食費を請求されそうなので泣き寝入り。
俺って奴は、なんて優しいんだ・・・
顎を擦って、俺は起き上がる。
「レンの隣にいるのが、城島晶」
レンと似たような属性の城島は、少し照れ臭そうに頭を下げる。
――が、
「見た通りの小僧だが、料理は美味い。
サバイバル料理家の俺としては――ん、何だお前ら?」
何時の間にか注目されている事に気づく俺。
怪訝な顔、呆れた顔、非難する目。
色々あるが、良い感情を持たれていない事は一目瞭然だった。
お、お前ら何が言いたいんだ!?
俺のシャツの裾を、なのはが引っ張って耳打ちする。
「晶ちゃんは、女の子ですよ」
「・・・あ」
お――女・・・オンナァ!?
って驚く場面だけど、実はもう知ってたりする。
教えて貰ったか、あの家で住んでいて自然に意識していたかははっきり覚えていない。
そうなんだろうという認識だけはあった。
ただ、あくまで認識は認識――
礼儀正しい少年という初対面の印象が強く残っており、こうしてたまに忘れてしまう。
呼び名も城島とか晶とか、俺の中ではっきりしていない。
男として接するべきか、女としてみるべきか、悩んでしまう、
素直に無視するなり拒否ったりすればいいのだが、俺はコイツは嫌いではない。
皆の非難が集中する中、間違えられた当人は平気な顔して笑っている。
「別にいいっすよ。しょっちゅう間違えられて慣れてますんで」
「ほら、見ろ。こいつだってそう言ってるじゃないか。
お前らもこいつのように広い心をだな――
――だから、水筒は凶器だって!?」
舌打ちして、レンは持っていた水筒を下ろす。
普段喧嘩ばかりしているくせに、律儀な奴である。
長い髪をそっと揺らして、月村は俺の隣に座り、
「女と男を間違えるなんて、失礼だよ侍君。嫌われるよ」
「俺は少しも気にしないぞ」
「・・・人間関係断絶派だもんね、侍君って」
「悪口になっているぞ、もう!?」
いい感じに場が温まって来たので、俺はいよいよ面倒な外人勢へ紹介を移す。
<続く>
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