とらいあんぐるハート3 To a you side 第四楽章 月影の華桜 第三十五話







 何時の間にか、俺の身元調査になっている自己紹介。

別に誇る過去でもないし、不幸に濡れた過去でもない。

一人のガキが、早めに一人前になった――ただ、それだけ。

口を閉ざすほど重くはなく、気軽に話すほど軽くもない。

これ以上聞かれるのを避けて、俺は皆の紹介へと移る。


「――月村忍にノエル。
通り魔事件で、二人にはちょいと世話になった。

月村は、恭也とは同じ学校なんだよな?」


 騒動を起こした学校を思い出しながら、話題の一旦として確認する。

恭也は静かに頷いた。


「クラスメートだ」
「えと・・・初めまして、月村忍です。

侍君とは――同じ屋根の下で生活をした仲です」

「えっ、良介さん!?」

「こら、そこ!?」


 お前もなんで驚くんだ、フィリス!?

入院生活中に話しただろうが、お前には! 

――あ・・・、月村だって明確に言ってたっけ?

思い出を持たない主義なので、豪快に忘れてしまっている。

とはいえ、他の連中の目もある。

きっちり修正しておくべきだろう。

野次馬根性旺盛な連中ばっかりだからな、このメンバー。


「匿って貰ってただけだ。
犯人に間違えられて、追われてたからな」


 納得した顔と、面白がっている顔。

面白いくらいに分かれて、連中一人一人の性格が伺える。

フィリスの拗ねた顔と、リスティの揶揄する顔が気に入らないが。


「・・・あの時は、すまなかった」 

「犯人捕まえたから、もういいよ」


 寛大な俺は、謝罪する恭也を快く許した。

・・・追われても仕方がない状況だったからな。

巡り合わせが悪かったとしか、言い様がない。

話が湿ってきたので、紹介の方を進める。


「ノエルは月村の家のメイドだ。
仕事には熱心で忠義もあって、主人を変えた方がいいぞって忠告したいくらいだ」

「いいの。ノエルと私は切っても切れない仲なんだから」

「はい、忍お嬢様。宮本様も、御言葉有難う御座います」


 そう前置きして、ノエルは自らの口で名乗り、丁寧に挨拶をする。

茶化す場面は毛頭なく、皆もノエルの礼儀正しさに感心するばかり。

能天気な大人達もこれを機に、ノエルを見習って欲しい。


「次に、高町桃子。
桃子は、今世話になっている家の主で喫茶店やってる。

――ってか、この場にいる連中殆ど知ってるんじゃねえの?」


 この前退院祝いやったし、リスティやフィリスだって顔見知りだ。

赤星は恭也の友人だから、無論知っている。

俺の鋭い指摘にやや困った顔で笑うが、否定はしなかった。



「その隣が、高町――

――。
ま、いいや。次」

「あー! 酷いですー!
なのはもちゃんと紹介してください!」

「・・・何でなのちゃんには、そんな意地悪するんや・・・」

「うるせえ!
あいつを見てると、何か苛めたくなるんだよ!」

「て、典型的な苛めっ子の台詞ですよそれ・・・」


 苦々しい顔をするレンと、苦笑する城島。

これ以上非難が出る前に、仕方ないので紹介してやる。


「高町なのは。桃子の子供。
電子機器に詳しくて、生意気にゲームまでガキのくせにやりやがる」

「な、なのはちゃんくらいの女の子なら普通なんじゃ・・・」


 ――そ、そうかもしれないけどむかつくんだ!

最早何に怒っているのか自分でも分からないが、神咲の指摘はスルーしておく。


「ゲーム成績は俺が全勝。覚えておくように」

「嘘ですよ!? わたしが全勝です!」

「どっちでもいいじゃねえか、細かいな!」

「全然細かくないです!
おにーちゃんはなのはが嫌いみたいなので、絶対負けません!」


 ぐうう・・・腕ずくなら負けないのに。

勝負事には強気ななのはの台詞に、高町の血を何故か感じた。

俺達の睨み合いに興味を示したのは――月村。


「へえ・・・全敗なんだ、侍君って」

 うぬぬ、その得意げな顔がむかつく。 「手加減してやってるからな」

「はいはい、負け惜しみはいいから。

――ねえねえ、なのはちゃん。
また私ともプレイしてくれると、嬉しいな」

「は、はい、私でよろしければ・・・!」

「なのはちゃんは最近――」


 ――と、二人は熱心に話し始める。

ソフトやハード、攻略方法について盛り上がる二人。

俺は冷め切った目で、ゲーム話する御主人に仕えるメイドに話し掛ける。


「あいつって・・・今でもゲーセン賑わしてるの?」

「はい、御趣味の一つです」


 大金持ちのお嬢様の分際で、庶民のゲームなんぞやるな。

クールな美貌のゲームの女王様に、俺はげんなりする。

――ふと、気付く。


「何か嬉しそうだな、お前」


 なのはと月村。

仲良く話している二人を前に、ノエルは静かな表情を見せている。

本当に、小さな変化。

長く接していないと分からない程度に――ノエルの表情は和らいでいる。


「・・・お嬢様がとても楽しそうですから」


 主の幸せは従者の幸せ、か・・・


――本当、月村には勿体無いな。


「本人が幸せならいいんだけどさ――」

「――はい」


 そのまま静かに目をふせるノエルは、とても綺麗に見えた。



































































<続く>







小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。

お名前をお願いします  

e-mail

HomePage






読んだ作品の総合評価
A(とてもよかった)
B(よかった)
C(ふつう)
D(あまりよくなかった)
E(よくなかった)
F(わからない)


よろしければ感想をお願いします



その他、メッセージがあればぜひ!


     












戻る