とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第百五十話
貿易路とは、商業活動を行う人々が商品や資源を移動させるためのルートである。
俺のような学のない人間でも知っているシルクロードが、古代の有名な貿易路だろう。中国から西へと至るルートであり、絹や香料の貴重品や文化の交流に寄与していた。
こういった貿易路は異なる地域や国同士の経済活動を促進し、商品や文化の交流を促進する重要な役割を果たしている。
現代では既に開拓され尽くしているかに見えるが、国家間の摩擦は以前強く、古き豊かな交易路は閉鎖されていたらしい。
「うさぎー、会いたかったー!」
「お久しぶりでございます、貴方様」
長距離貿易で重要なことは船などの水路を通じ、陸路を使って運ぶ連水陸路運搬。それが今では空路にも繋がっている。
昔は隊を組んで行く商人の一団であるキャラバンが主流だったが、現代ではロシアンマフィアが担っているというのだから、世も末である。
キャラバンは商品の輸送中に盗賊団などの略奪、暴行などの危険から集団的に身を守り、商品の安全やいざという時の保険で、複数の商人や輸送を営む者が共同出資して契約を結ぶことによって組織されていた。
その役割を担っているのは目の前の彼女達、ディアーナとクリスチーナが支配する新たなロシアンマフィアであった。
「……ディアーナ、だよな。なんか雰囲気が変わったな」
「これは申し訳ありません。サングラスを外すべきでした、お恥ずかしい」
「いや、そうではなくて、嫌味ではなくて聞いてほしいんだが――
女性らしくなったというか、綺麗になった」
「! あ、ありがとうございます……貴方様もますます凛々しくなられて、とても素敵ですわ」
ディアーナ・ボルドィレフ。澄んだ翡翠色の瞳をした、シルバーブロンドの髪の美女。
ロシアンマフィア一家の長女。妹のクリスチーナは細く華奢な肢体だが、姉のディアーナは胸に豊かな果実を実らせている。
母親譲りの容姿が災いし、父に身体を狙われていた悲劇の女性。暴力社会の組織で生き残るべく、交易路を新規開拓して財を築き上げた。
出会った頃は悲壮感すら漂う凍てついた美女だったが、ロシアンマフィアを牛耳る今では壮絶なまでに美しい容貌を誇っている。初対面の時にこの容姿であったならば、萎縮していただろう。
「表社会の企業や航空界、輸送関連の業者だけではなく、政治的組織とも通じて共同出資されているそうだな」
「契約をさせて頂いたまでです。安全を確保する代わりに、信頼による実績を積む機会を頂いております」
「非合法な代物を行き来するルートを直接潰すのではなく、新規ルートを提供する形で犯罪組織やテロ集団が利用していたルートを廃れさせたの。
ディアーナって本当、エゲツナイ真似するよね」
「貴方様に害する可能性がある芽を潰しているまでです。この世には不要でしょう、クリスティーナ」
「まあね。クリスの可愛いウサギに手を出すゴミは全部片付けてあげるから安心してね」
何してんだ、こいつら。単純に裏社会の連中を片っ端から潰していけば、敵を増やすだけだ。裏社会の勢力バランスが急激に傾いて、反動が来るだろう。
会議後ロシアンマフィアのボスとなったディアーナは、暴力で世界を揺さぶるだけではなく、経済による長期戦略で裏社会を支配。
単純な正義感ではなく、あくまで私怨と私情で驚異的なバランス感覚を発揮して、裏社会の構造そのものを変革させている。
金も暴力も、ありとあらゆる手段を用いて敵を一層し、味方を増やしていた。
「日本とのルートも確保し、法を含めて整備も完了いたしました。これで安心してお会いすることが出来ます」
「クリス達がちょっと目を離した隙に、うさぎの国でなんか勝手な真似している連中がいるみたいだね。身の程知らずにも。
ようやく邪魔だった連中も軒並み片をつけたから、これからはうさぎの国も掃除してあげるね」
「それで堂々とお前らが日本までこれたのか……」
どういうルートでロシアンマフィアが日本へ来たのか聞いてみたが、ディアーナからの解答は見惚れるばかりの微笑みのみだった。怖い。
最近連絡が取れていなかったのだが、どうやら二人して精力的に活動して、敵対連中を潰していったようだ。
一方で俺の師匠である御神美沙斗を通じて、香港警防とも連携して、チャイニーズマフィアの制圧にも注力しているらしい。
御神美沙斗のスポンサーというか、雇い主も彼女である。香港警防も正式な法的組織とは言い難いが、それでも表裏が連携できているのだから怖い。
「貿易実務は商品や代金などが主ですが、現代では情報の流れが同時並行で動く仕組みとなっています。
通関業者や税関など様々な関係者が絡むので調整は必要ですが、複雑な情報の流れを管理するのも我々の仕事です。
「商品やサービスを取引する過程で色んなものを運び込めるもんね、ふふん」
「……海鳴がこの一年で劇的に国際化している背景が見えてきたな」
ディアーナやクリスチーナは、貿易ビジネスに関わる際の土台を強固にするべく、ここ最近集中してきたというわけだ。
"商品"の売買契約を交わし、代金を決済し、適切な輸送手段を使って届け、公的機関を通して正式に受け渡しが行う。
ロシアンマフィアがどうやって関与できているのか不明だが、よほどこの一年で密接なやり取りが出来なければ無理だろう。
そうした交渉と修羅場を潜り抜けて、彼女は美しく磨かれ、父親を超えるボスとして君臨している。
「よろしければ今晩、お酒でもご一緒にいかがですか。ホテルの一室を予約しております」
「あー、ずるい。クリスもうさぎと一緒に遊びたいのにー!」
「あいにくお仕事が急がくてですね――」
それほど恐ろしい経験を一年も過ごしてきたというのに、ディアーナは艶やかに微笑んで俺に腕を絡めてくる。
もう既に根回しているというのが恐ろしいが、まあ少なくとも一緒に入る分には仲の良い姉妹である。
危なっかしいところは変わらないので、面倒を見る必要がありそうだ。なんだかんだ世話になっているしな。
<続く>
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