とらいあんぐるハート３ To a you side 第四楽章 月影の華桜 第二十九話
乗り気ではなかった高町家のお花見。
何だかんだと厄介事を押し付けられて、有耶無耶の内に参加せざるを得なくなった。
参加する面子は高町家を主に、友人･知人が参加。
その大半が俺の知り合いなのだが、恭也達も知り合いを連れて来るらしい。
いつのまにか人数は集まり、大人も子供も多数参加となった。
当然大人にも子供にも都合はあり、全員暇な日なんてそうそう無い。
普段の日は仕事や学校があるし、世間様一般の休日に関係の無い職業の人間も居る。
桃子の喫茶店やフィリスの病院――
なのはも生意気に塾通いしており、話し合いは大いに難航した。
お陰で、俺は連絡係に奔走させられる羽目に。
当日は労力に相応する栄養分を摂取する事を固く誓いながら、渋々手伝ってやった。
俺のそんな活躍もあって、日にちは無事に決まった。――のだが、
「夜に集合･･･？
まあ、これだけの面子を朝昼集めるのは無理だったのは分かるとして――
真っ暗な夜に桜を見て、何が楽しいんだよ」
「ふふ、それは見てのお楽しみ」
桃子に曖昧にはぐらかされた。
ぐ、むかつく。
俺だって夜桜の風習は知っている。
けれど明るい昼間見た方が綺麗だと思うんだが･･･細かい追求はやめておくか。
元々、桜には興味の無い俺である。
ようやく決まったのだ、後は適当に楽しんで過ごそう。
俺は綺堂に連絡を取り、開催日と時間帯を報告。
晴れて、正式に私有地を借りる事となった。
俺の仕事はそれだけではない。
自分が誘った面々も日取りや集合時間を伝えないといけない。
神咲や月村――学校関係者達への伝言は恭也達に任せて。
フィリスはあの獣の容態を伝えないといけないので、ついでに。
問題はリスティ、あの警官もどき。
誘うと言った手前伝言の必要ありだが、会いたい相手でもない。
神咲に任せたいが、あまりいい顔はされないだろう。
人の気持ちは知らん顔な俺だが、久遠の飼い主を邪険に出来ない。
･･･会えたら言っておくか、会えたら。
どうせさざなみ寮くらいしか居場所を知らないし、あそこまで徒歩で歩きたくない。
あいつのために労力を使うのは御免蒙る。
会えなかったら残念って事で、あっはっは。
幸いとでも言うべきか、会えない日々は続いて――
――遂に、お花見前日の夜を迎えた。のだが――
「･･･たく、ついて来やがって。飼い主が寂しがるぞ」
「くぅーん」
俺の首元に抱きついて、甘えた声を上げる一匹の子狐。
俺の忠実な家来の久遠である。
明日のお花見に備えて、槙原病院へ行った時に出くわしたのだ。
槙原が頼まれて預かっていたらしい。
御花見の場で飼い主候補を探す為、退院間近の獣の外出許可を貰いに行った玄関先で抱き付かれた。
神咲から寂しがっているとは聞いていたが、こんなに喜ばれるとは思わなかった。
お陰で槙原には笑われて、仲の良さを散々揶揄された。
久遠は人見知りする狐で、これほど人に心を開くのは見た事が無いと言って微笑んでいた槙原。
からかわれるのは好きではないので、怪我の容態を聞いて許可を得た後早々に引き上げて来た。
――のに、この馬鹿は病院からずっとついて来る。
ご主人様の現在住所先でも知りたがっているのだろうか？
その心意気は良しだが、人の首を舐めるのはやめろ。
やれやれである。
俺は獣が眠る籠を見つめる――
病院で撃退したフェレット。
怪我は大方治り、栄養補給に優しい看護のオマケ付きで回復も早い。
何回か様子を見に行っていたのだが、この獣は普段あんまり動かない。
俺に対しても最初の頃のように襲い掛かってくる様子は無く、無垢な瞳を向けてくるだけ。
出会った頃の久遠を思い出される大人しさだった。
別に懐かれたくも無いので、俺は様子を見るだけ。
新しい飼い主さえ見つければ、とっととおさらばしよう。
こいつのケチな横槍が入ったせいで、病院で手に入れたお宝もまだ売り飛ばせないでいるのだ。
俺はゴソゴソポケットをあさって、
「ほーら、久遠。見てみろ」
「くぅん？」
取り出したのは――宝石。
月明かりの下で美しく輝く、青い光を放つ御宝。
病院で手に入れたのだが、なかなか売り捌けずに持ち歩いている。
質屋にでも持って行こうかとも思うが、足元見られそうなので足踏みしていた。
「綺麗だろ？ 光栄に思えよ。
他の誰にも見せた事の無かった俺様の宝を、わざわざお前にだけ特別に見せてやってるんだからな」
「･･･っ。くぅん･･･」
「わっひゃっ！？ 抱きつくな！ 舐めるな！」
何がそんなに嬉しいのか、久遠は俺にぎゅっと抱きついてくる。
くすぐったくて、仕方が無い。
本当はただ単に、他に見せびらかせる奴がいなかっただけだというのに。
高町家に見せたら宿賃代わりに請求されそうだし、月村なら我侭言って欲しがるに決まってる。
フィリスはどうせ拾った物は交番にって説教、リスティは警官の権力を駆使して強奪するだろう。
やれやれ、俺の知り合いは強欲共ばかりだ。
やはり俺がきっちり持っておくのが一番――
――！
･･･。
･･･。･･･足を、止める･･･
「――久遠、降りろ。
降りて、俺の後ろに回れ」
「くぅん！」
シュタっと久遠は飛び降りて、短い足を動かして背後へ。
流石は俺の家来、ちゃんと分かっているようだ。
――この空気の、異質さに。
住宅が並ぶ歩道。
日が沈み、星空が広がる世界の下で――気味が悪いほど、静寂に満ちていた。
先程からだが人っ子一人おらず、近隣の住宅は明かりが消えている。
俺は持ち歩いている竹刀を取り出す。
レンとの毎日の試合で使いこなした、俺の新しい武器。
使い古された汚い竹刀だが、毎日握っているこの感触は皮膚にすら吸い付くようだ。
毎日の激しい攻防戦と必死の鍛錬。
積み重ねた充実の日々は、俺から不安と恐怖を取り除く。
警戒しすぎだとは、思う。
此処は平和な住宅街。
連続通り魔事件は終わり、海鳴町より危険の闇は去った。
以後被害者は無くなり、交通事故すら稀なこの町。
常識では考えられない、過剰な危機意識――
それでも俺は足を動かせず、過敏に警戒し続けていた。
「ふぅ･･･
――ん？」
前方の、通路の向こう。
暗がりに沈む道の奥から、静かな足音を立てて誰かがやって来るのが見えた。
闇の中を恐れずにこちらへ歩く姿は――子供？
小さな影に戸惑いを感じつつ、俺は傍の電柱の陰へ隠れた。
ただの子供に竹刀を向ければ、俺が通り魔になる。
――唯の子供なら、な――
勘ぐり過ぎだと俺自身せせら笑いたいが、とりあえず竹刀を隠して様子を見守る。
癇に障るのだ･･･何かが。
その後。
俺は自分の勘が正しく――間違えていた事を思い知る。
＜続く＞
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