とらいあんぐるハート3 To a you side 第四楽章 月影の華桜 第二十八話







 この町で生活を始めてから俺の人生、呪われているのではないだろうか。

今日もまた平穏無事には終わらず、夕刻を過ぎて俺は高町家へ帰宅した。

晩御飯を律儀に待っていてくれるのは有り難いが、桃子とレンへの報告をしなければいけないのには参った。

この二人が、花見の参加承諾を得たという報告だけで満足するはずが無い。

案の定その時のフィリスとの話題も聞かれ、面白がられた。

流石に泣かせたとは言えないので特に大した話はしていないといったのだが、二人は軽く無視――畜生。

晩御飯の話題はその話で盛り上がり、俺は大急ぎで食べて避難しなければいけなかった。

本当に、野次馬根性旺盛な連中である。

他人の過去や心情に興味は無く、他人から詮索されるのも好きではない。

やはり一人が気楽だと再認識して、今日一日は終わった。

晩御飯後はそれぞれの時間。

家族団欒な高町家だが、此処の住民は自分自身の時間も大切にしている。

この家で生活をして気付いたのだが、夜はそれぞれ思い思いの時間を過ごしている。

居間で夜全員が揃っているのは、滅多に無い。

桃子は台所で片付け後帳簿の記帳、フィアッセは自分の部屋へ。

晶は居間でノートと教科書を広げて悩んでおり、レンは庭で俺の相手。

なのはは何が面白いのかさっぱり分からないが、俺達の試合を観戦している。


「死ね、おらぁぁぁ!」

「よっぽど今日の事恨んでるようや・・・なっ!」


 二の轍は踏まない。

今朝やられた打突の軌跡の変化を必死でかわして、カウンターを狙って突撃。

中途半端な仕掛けは見破られて終わりなので、愚直なまでに一撃一撃を叩き込む。

竹刀と物干し竿の激しい攻防戦。

庭に鮮やかに響き渡る戦いの破音は、なのはの次の一声で終わりを告げた。


「一分、です!」

「ふぅ・・・引き分けか・・・」


 手応えはあったのだが、結局レンの攻撃網を突破は出来なかった。

反則じみたレンの槍の技量に、俺の剣ではまだ届かない。

あの小柄な身体に、今だ明確な一撃も入れられない。

今日は何とか掠める事は出来たが、あいつには痛くも痒くも無いだろう。

たった一分間だが、充実した戦闘は疲労を誘う。

体力的には試合数はこなせるが、レン本人が嫌がるので連続は出来ない。

俺は痺れの残る手を開いて、竹刀を降ろす。


「・・・朝は一本取れたのに、もう夜には引き分けか・・・」

「っけ。
こっちは動き回ってるのに、そっちは殆ど動いてないじゃねえか」


 互角に近づいているとは、お世辞にも言い難い。

レンは最小限しか足を動かさず、卓越した竿の捌きで俺の竹刀を迎撃している。

俺の攻撃が見切られてる証拠であり、同時に無駄な動きも多いのだ。

疲労や苦戦が窺える表情は、今までの戦いで一度たりともレンは浮かべていない。

レンは竿を立てたまま、首を振る。


「まだまだ負けられへんよ。
でもまあ、あんたはちゃんと伸びてる。
うちは余裕を削られ続けるやろうな・・・

・・・気、引き締めんとあかんわ」


 ――余裕の無い口ぶりの割に、楽しそうな顔をしてるじゃねえか。

自分を倒そうとしている男の成長が、そんなに嬉しいのか?

戦いそのものが好きというのなら分かるけど、一分経ったら直ぐに止めるからな・・・

理由は変わらず聞いていない。

最初の頃に比べて興味は増しているが、聞いてどうなるものでもない。

第一、その一分間ですら勝てていないのだ。

長期戦に持ち込めば戦いの模様は変わるかも知れないが、俺にはあまり意味は無い。

一分で勝つ――つまらぬ意地かもしれないが、俺には大切。

強くなる為に、決して譲れない線だ。

――見上げる夜空は澄んでいて、胸の奥まで癒される。

身体に溜まっていた戦闘の余熱も消え、俺は基本鍛錬を行った。

身体の鍛錬と、剣の鍛錬。

腕立て伏せなどの軽い運動からストレッチ、竹刀の素振りなど――

口を挟んでくるレンの指導を考慮しながら、少しずつ磨いていく。

その最中、なのははじっと見ているだけ。


――変な奴。


鬱陶しくはないが、無視する程軽んじられる視線ではない。

かといって、話題も無い。

勉強しろとか言っても、レンが鼻で笑うだろう――お前はどうなんだ、と。

うーん・・・


「・・・なのはってさ」

「何ですか、良介おにーちゃん」


 何だ、その返答の速さは。

待ってましたと言わんばかりに返してくるなのはに、俺は舌打ちしつつ剣を振りながら、


「動物好きだったよな。久遠とか、ああいう系」

「はい、大好きです! 
久遠ちゃん、すっごく可愛いですから」


 俺様の家来だからな、ふはははは。

鼻高々になりながら、俺はなのはに探りを入れる。


「――なら、さ・・・動物を飼いたいとか思わねえのか?
この家の連中、動物好きとか多そうじゃないか」


 何せ、お前の家族だからな。

恭也のような堅物は例外にしても、桃子とか凄く可愛がりそうだ。

何気なく聞いたつもりだが、レンは胡散臭い目で見てくる。


「・・・何やねん、急に。動物の愛護にでも目覚めたんか」

「俺の精神に欠片も芽生えるか、そんなもん。

で、どうよなのは」


 ――あのフェレット。


しばらくは槙原に預かってもらうのでいいとして、問題は完治後。

そのまま飼ってくれるとは思えず、自動的に俺が引き取る羽目になる。

面倒なのは、あの動物の行く末にはフィリスの目が光っているのだ。

俺としては問答無用で保健所とか河にでも捨ててやりたいが、説教の嵐に襲われるのは間違いない。

動物の命がどうとか、また延々と言われたら堪らない。

引き取り手が必要なのだが・・・俺の知っている人間で範囲を絞れば、なのはとかどうだろう?

久遠の飼い主の神咲も考えたが、あいつは確か寮生活。

そこまでの余裕は無いだろう。

さざなみ寮の連中は同じ理由で駄目だし、フィリスは無理らしい。

自分はこれほど愛情を持って接しているのに何故か動物には嫌がられる――と、この俺ですら可哀想になるくらい嘆いていた。

月村は金持ちだし預けるには最適だが・・・あいつに動物とか飼えるのか怪しい。

で、このガキに至ったわけだ。


「・・・なのはは、動物さんは大歓迎なんですけど・・・」


 ――あれ?

俺の目論見に反して、なのはの表情は曇っている。

問い質す前に、レンは溜息交じりに答えてくれた。


「動物の類はこの家では飼わへんねん・・・・
桃子さんは飲食店を営んでいるやろ?」

「くっそ、そうだったな・・・」


 喫茶店を経営してるんだっけな、あの女。

お客さんが食べる食材を毎日触っている手に、雑菌が付くのはまずい。

これ以上は無いほど、分かりやすい理由だった。


――やっぱり俺って呪われてるんじゃないか、本当に・・・


どうしてこう、すんなり話がうまくいかないんだ?


「仕方ない――花見の時にでも、聞いてみるか・・・」


 俺の知り合いが一堂に集まる、お花見。

暇潰し以外に理由が出来たのは、喜びべきか悲しむべきか。


何にせよ、開催日まで待ち望むしかなかった。




































































<続く>







小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。

お名前をお願いします  

e-mail

HomePage






読んだ作品の総合評価
A(とてもよかった)
B(よかった)
C(ふつう)
D(あまりよくなかった)
E(よくなかった)
F(わからない)


よろしければ感想をお願いします



その他、メッセージがあればぜひ!


     












戻る