To a you side 最終楽章 血染めのアリサ
※この物語はリクエストによる架空未来の一つです。
To a you side本編の可能性の一つとしてお楽しみ下さい。
冷酷な自分。
他者に興味を示さなかった報い。
血と涙と雨に濡れて――
――俺はもう一つの故郷を後にする。
求めるものは、愛する少女を穢した愚か者達の血肉。
捨てたものは、愛してくれた人達への思い。
一度だけ、振り返る。
「……すまない」
振り返らぬ日々が、始まる。
***
濃厚な胃液が混じった吐しゃ物が撒き散らされる。
頬にへばり付いた不快な固形物を拭わず、俺は倒れた男の喉に踵を下ろす。
「ゴ、ゴェェェ!?」
見苦しい悲鳴、耳障りで顔を顰める。
どれほど響こうと、周囲には何一つ漏れない。
――結界を這っておいた。
無慈悲に告げる。
「……苦しいか?
アリサはもっと、苦しかった。
お前達に疎まれて、あの娘はずっと泣いてたんだ」
「ちょ、ちょっと待て!? 人違いだ!
アリサなんて名前の奴、俺は知らな――」
脳が、沸騰した。
微塵の躊躇も無く踵に体重をかけて、首の骨を折る。
殺すだけでは飽き足らなかった。
肋骨を粉砕、靭帯を切断、血肉を掻っ捌いて、男の存在を血臭に満ちた死骸と化す。
息を吐いて、男の血に濡れた木刀を一振り。
空いた手で、手垢のついた一枚の紙を取り出す。
――聖祥付属のクラス名簿。
アリサの名が刻まれた、彼女の生きる証。
彼女を虐げた有象無象の名が、一人一人リストアップされている。
今殺した男も、クラスメートの一人。
幸薄い女の子のことなど忘れ去り、妻子ある幸せな生活を送っていた。
「……行くか」
戦いはまだ、続く。
アリサの悲しみが癒えるまで。
***
「……ミヤ」
数えるのも止めた、歳月の流れ。
路上の片隅で乾いたパンを齧り、どうでもいい事を話す。
「――」
小さな少女。
分け与えたパンを黙々と齧り、無感情な眼差しを俺に向ける。
少女は何も言わない。
何も与えない。
「……何でもない、食べたら行くぞ」
強制アクセスの酷使で――可憐な妖精は、感情の壊れたロボットになった。
***
屍山血河が、俺の世界。
憎き犯人を追い求めて辿り着いた、俺の居場所。
追い求める度に穢れ、錆びて、壊れ続ける――
「――おにーちゃん……御願いです。もう止めて下さい」
懐かしき少女。
曇り硝子の向こうで微笑む姿が、微かに視界を過ぎる。
斬った武装局員の数は十以上――
全て、この少女の部下だった。
「まだだ……まだ、犯人が見つかっていない……
俺はまだ、戦いを止める訳にはいかない」
「アリサちゃんを殺した犯人は、もう死んでいるんです!」
死んでる?
そうか……
俺を思い遣って、嘘をついてるのか。
――なのはは、優しいから。
「アリサが、泣いてるんだ……苦しんでいるんだ……」
「違う――違う!
アリサちゃんは、そんな事望んでない!?
どうして……どうして分かってくれないの、おにーちゃん!」
「俺は――アリサに、もう一度逢いたいんだ。
最後に見たあの微笑が、忘れられないんだ……
邪魔をしないでくれ、なのは」
孤独だった俺を癒してくれた、アリサ。
彼女の想いに応える為にも、俺は犯人を地獄へ送らなければいけない。
あの娘が――再びこの世界へ還れるように。
俺とあの娘が生きるこの世界を、優しい風に満たしてやりたい。
「邪魔をするなら――お前でも殺す」
「――! う……うう……ううう……」
"敵"の持つデバイスが、桃色の魔方陣を展開する。
濃厚な魔力に満たされて尚――
涙に濡れた敵の眼差しが、ただ哀しい。
「おにーちゃん……わたし。
わたしは――
ずっと、貴方が好きでした」
<END>
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