ゴウンゴウンと激しく揺れる輸送ヘリの中、特技のメンバーはいた。

 少年―ナイト―はうんざりした顔で先程からで何度目か分からないぐらい「まだつかないのかよ〜」とぼやいていた。

 そんなナイトの様子を見て、ナイトの父で2人しかいない実験隊の隊長―バート―は一言。


 「がきんちょかお前は。」


 さすがにその言葉が効いたのかナイトが口をつぐむ。

 そんなやり取りを見て、周りの技術者たちとその主任―ウォルス―がくすりと少しだけ笑い、すぐに自分達の作業に戻る。

 これはカリム依頼の任務に向かう輸送ヘリの中の一幕。


 


Connection
序章その2







 「ん〜〜〜。」


 ヘリから降りたナイトとバートはすぐさま腕を頭の上で組んで体を伸ばす。

 長時間同じ姿勢だったので体が固まっていたのだろう。

 数秒その体勢を維持し、ふっと力を抜く。

 満足したのだろう。

 そして、デバイスや踵のホイールの最終チェックを始める。

 研究主任のウォルスのほうはというと、体を伸ばす間も惜しいと言わんばかりに慌しく調査の準備を始めている。


 「父さん、今回の作戦領域の全域がAMF状況下だよね?」

 「ああ、いつも以上に気を引き締めていくぞ。」


 バートがそういうのも当然である。

 AMFは全ての魔導師の魔力結合を妨害する。

 そして、そこでの任務は大抵どの部隊も難色を示す。

 魔法が当たり前の社会で魔法が使えないと言うのは、地球でいう電気が一切使えないのと同義であるからだ。


「了解。でも、ウォルスさんの作品を試すのって楽しみなんだよね。今回は電気のみでデバイスとホイールシステムの運用だっけ?」


 管理世界において電気技術というのは部分的にしか使われていない。

 なぜなら、電気技術を有効に使うための回路は複雑にしてデリケート、その上コストが高い。

 それに対し、魔法技術を有効に使うための回路は単純にして頑丈、そして何よりコストが低い。

 この二つのどちらを選ぶかなど、火を見るより明らかである。


 「そうだ。ウォルスの目玉作品の一つともいえるな。」

 「そんなにほめないでおくれよ。あとナイト君、電気じゃなくバッテリーシステムと呼んでほしいな。」


 ナイトとバートの会話にウォルスが割り込んでくる。

 ウォルスのにやけた顔を見て2人は地雷を踏んだことに気づく。

 そして、ウォルスは持論を展開し始める。


 「そもそもデバイスの人工知能以外を全て魔法技術にすることが間違えていると思うんだ。

  魔力付与した攻撃は無理だけど、デバイスの運動や変形なら別に魔法を使わなくともできるはずなんだ。特にベルカ式のデバイスなんてその最たるものだね。

  電気技術は確かにデリケートだけど、工夫したら魔法との併用も可能になって有用なものになるはずなんだ。

  そうしたら無駄な魔力が節約できて、もっと・・・」

 「で、魔法との併用を目指して工夫した結果が、電気とその回路を詰め込んだバッテリーシステム、ひいてはハイブリッドデバイスなのだろう?」


 いい加減バートが痺れを切らせて結論を言い、強引に話を終わらせる。

 そして、そんなバートに不満げなウォルス。「これからいいところなのに」といわんばかりである。

 ちなみにナイトは先程から放心状態である。


 「それよりも準備は済んだのか? ウォルス。」

 「そうだったそうだった。もう済んだということを伝えに来たんだった。」


 そう悪びれずに言うウォルスの頭に無言で拳骨を落とすバートであった。




    ◇    ◇




 「バートにナイト君。通信機の感度は良好かい?。」

 「良好だ。」

 「念話じゃないのに声だけ聞こえるって変な感じがするよ。」


 ウォルスの質問に対し、2人は耳につけた通信機に向かってそれぞれの性格が現れている返信する。


 「それは仕方ないよナイト君。じゃあ再度確認するけど2人ともその通信機だけは落とさないこと。いいね?」


 ウォルスは念の押しのため、ミーティングで話したことをもう1度繰り返した。

 AMF状況下では通常の通信が使用できないため、情報はその通信機を通してでしか送られない。

 つまり、通信機を失うとそこで情報がシャットアウトされ帰還すらあやうくなるのだ。

 ウォルスが念を押すのもうなずける。

 バートとナイトはそんなウォルスの念押しに即座に「了解」と返事を返す。


 「例の件、よろしく頼むぞウォルス。」

 「わかってるよバート。話は通しておくから。」


 出撃前の2人のやり取りを聞いて首をかしげるナイト。

 そんな彼を置いてけぼりにしてウォルスが出動を命ずる。


 「んじゃあ、いってらっしゃーい。グッドラーック。」


 締まらない出動命令だった。




    ◇    ◇




 「こちら本部のサイエンス1。どうだい? デバイスたちの調子は。」

 「こちらランサー1、問題は無し。システム同士のバッティングもない。」

 「ランサー2も問題ないよ。ここまでは順調ってね。」


 スカリエッティの旧本拠地の一画をバートとナイトは走っていた。

 コールサインは会話から察するにウォルスがサイエンス1で、バートがランサー1、ナイトがランサー2のようだ。


 「これからAMF影響区画に入るけど、入ったらすぐに通信をさっき渡したものに切り替えておくれ。」

 「ランサー1了解。これより通信方法を切り替える。」

 「ランサー2了解。さぁ実験実験。」


 ランサー2―ナイト―の言葉を最後に空間ウインドウが閉じる。

 そして、二人がAMF区画に入り魔法が全く使えなくなる。


 「本当にここまで魔力が結合しなくなるんだ。これは確かに戦闘力ガタ落ちだね。」


 ナイトが驚きを含んだ口調でそうバートに話しかける。

 ナイトの驚きももっともだろう。

 いくらミーティングで話されたといっても話されるのと実際に体験するのでは全然違うのだ。

 百聞は一見にしかずととはよく言ったものだ。


 「しかし、こんな中でも俺たちはホイールで走れている。ウォルスの技術力には頭が下がる。」


 魔法の補助を受けていた先程より多少動きは悪いが踵のホイール―ホイールシステム―はしっかり稼動していた。

 魔法の使えない状況でのホイールの稼動。それは、バッテリーシステムの成功を示していた。


 「ほんと。ウォルスさんは期待しすぎるなって言ってたけどね。」

 「あいつはどんな命令が下っても、できないときはノーと言うやつだ。そう言ったなら問題など皆無だし、現に問題など起きていない。」


 バートはそう断言する。

 その口調からはバートがウォルスをどれだほど強く信頼しているのかを窺い知ることができる。


 「そうだね。でもなんでウォルスさんっていつも断言しないの?」


 ナイトは何気なく聞いたつもりだったのだろう。

 そう、解けない問題を先生に聞くような感覚で。

 しかし、バートはその質問を受けて表情が陰る。


 「あいつにもいろいろ・・・な。」


 バートは短くそう答えるだけだった。

 そこで、タイミングが良いのか悪いのかガジェットと遭遇する。




    ◇    ◇




 戦場は限定的ともいえる狭い一本道の通路。

 そして敵は飛び道具を持たない蜘蛛のような多脚型のガジェットが前方に6機だけ。


 「ゼロ、バッテリー起動。ランサー2、ストライクシフトだ。」

 「了解。クラウン、バッテリー起動。」


 ランサー1,2―バート、ナイト―がまっすぐ走りながら、デバイスを正面に構え、バッテリーを起動させる。

 電子音がした後、2人のデバイス―ゼロ、クラウン―の鍔の先が甲高い金属音をたてて回転し始める。

 そして、二人は横1列に並び、スピードに乗って多脚型ガジェットに突撃する。

 ガジェットは鈍足で、武装はリーチの短い爪のみ。

 それに対しこちらは、ホイールのおかげでかなり高速であり、術者の身長よりも長いランス型のデバイスである。

 それに加え、狭い一本道。

 どちらに分があるかなど言うに及ばずである。

 2人はすれ違いざまに2機のガジェット串刺しにする。

 スピードの乗った攻撃の前にガジェットの装甲など紙切れ同然であった。

 2人はガジェットが鉄屑になったのを確認すると即座にデバイスから引き抜き、バートは右回りに、ナイトは左回りに180度方向転換して再びデバイスを構える。


 「いけるな、ランサー2。」

 「と〜ぜんだね!」


 二人の前ではガジェットなど、ただの鉄塊でしかなかった。




    ◇    ◇




 その後も戦闘はあったものの、数の揃っていないガジェットなど2人の相手ではなかった。

 バッテリーシステムも手伝って、2人はさほど苦戦することなく最深部の扉に到達する。


 「やたらと頑丈そうな扉だね。」


 そこには厳つい鉄の扉が存在していた。

 そして、それは「ここに重要なものがあります」といっているようなものであった。


 「よほど大切なものでもあるのだろう。開くか?」

 「開くわけないと思うんだけ・・・開いた。」


 ナイトは、開くわけが無いと思ってた。

 しかし、その予想に反し、それは軽く押しただけであっさりと開いた。

 予想だにしない結果に、二人は戸惑う。


 「解せんな。なぜ開くままで放置していたのだ?」

 「それを考えるのは他の部署の仕事でしょ。それより早く中入ろうよ。」

 「ふむ。確かにそうだな。そうするとするか。」


 扉の疑問をとりあえず保留にして2人は中に入った。


 「・・・なにもないね。」


 中に入った二人を迎えたのは半径4Mほどのドーム状の空間だった。

 そして、そこになにがあるわけでもなかった。


 「それよりも気づかんか?」

 「何が?」

 「魔法だ。魔法が使えるようになっている。」


 その言葉でようやくナイトは気づく。

 魔力が結合できるようになっていることを。


 「ほんとだ! でもなんで?」

 「それこそ『他の部署の仕事』だな。」

 「あはは。そうだね。」
 思わぬバートの切り返しにナイトは笑いながら答える。


 「とりあえずサイエンス1と連絡を取る。待機していてくれ。」

 「了解。」


 そう命じてバートは空間ウィンドウを呼び出し、ウォルスに通信をつなげる。


 「こちらランサー1、最深部に到達。指示を。なお原因不明ではあるが、最深部において魔法の使用が可能。」

 『こちらサイエンス1、アナログのデータがあるはずだから探しておくれ。あと映像は繋ぎっぱなしで頼むよ。』

 「了解。」

 『主任、魔法が何かのキーになるのでは? いや、扉も頑丈にできているし篭城用に作っただけでは? そこんとこはっきりしないよねぇ


 バートとナイトの調査を尻目にバックヤード陣が意見交換を始める。

 そして、その状態は調査が終了するまで続いた。


 『実験隊、調査を終えて帰還しておくれ。これ以上この設備では無理だろうからね。』

 「ランサー1了解。帰還する。」

 「ランサー2了解。結局見つかったのはDM計画の存在と名前だけだったね。」

 『それだけでも十分だよ。あるかないか分かるだけで随分違うし。それに、僕としてはやっぱりバッテリシステムのデータのほうがありがたいしね〜。』


 そんなウォルスに2人が苦笑する。

 そしてバートとナイトは元来た道を引き返す。

 今度はガジェットとの遭遇もなかった。




 DM計画―――それが何を意味しているのか。今はまだ分からない。

 













 

to be continued




 


 あとがき


 どうも、S22です。

 コネ序章はオリ設定の解説がメインなんでオリキャラのオンパレードです。

 オリ設定の紹介をしつつなのはキャラと絡ませるなんて芸当S22には無理です。

 それが自然にできているリョウさん他作家さんがうらやましい・・・。

 でもコネ序章、あと1話ほどで終了なのでお付き合い願います。

 ではここでまた少しSS設定の補足を


 ウォルス・ブラッドレイ(36)

 特別技術開発部隊研究主任兼部隊長。つまり技術開発部の主任で、六課で言うはやてのポジション。

 彼に魔法資質は存在しないが新技術の発明がすごい。

 ギアスのロ○ド伯爵がモチーフで、性格もそれに近い。

 初期プロット状態から一切ポジションの変更が無かった数少ないキャラ。


 ホイールシステム

 踵のホイールのことですね。文中ではホイールとも言ったりします。

 バッテリーシステム搭載。


 バッテリーシステム

 文中でも出てきたとおり魔法と電気技術の併用を目指して作られたもの。

 今回はバッテリーの中の電力のみでホイールやら動かしてました。

 ちなみに、デバイスの自体の運動が少ないミッド式にはあまり相性が良くない模様。




 最後まで読んでくださった読者様に感謝を。








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