「……なんですって?」
 

女子に課せられた課題は、三人でのバトルロイヤルだった。
二人で協力してもいいし、全員で一斉に全員に襲い掛かってもいいし、
二人だけ戦わせて自分は逃げているだけで、最期にとどめを刺すという形でもいい。
つまり、ガーデンの戦闘校則事態に違反していなければルールは無用だと言う事である。
そんな中、今リングで戦っている3人の女子の次に戦う事になっている美坂香里は、不機嫌そうにリアに聞いた。
 

「だから、名雪とあなたと二人で協力して私と戦えばいいのよ。その方が私も随分退屈しないですむわ」
 

リアは、当然のようにそういった。
これには名雪も驚いているようだ。
 

「リアちゃん、確かにランク高いけど、そんなの無茶だよ〜」
 

「無茶じゃないわよ。貴方達なんて二人がかりでもどうってことないわ」
 

名雪は無反応だったが、その言葉で香里は怒りを露にする。
 

「言ってくれるじゃない。それだけ自分の腕に自信があるの?」
 

「いいえ、別に。ただ、貴方達が二人協力したって私には勝てないでしょって言ってるの」
 

随分な挑発だった。向こうでは男子がもう試合を終わらせていた。当然のように祐一が勝っていた。
あ〜あ、速く終わんないかな〜とリアはため息をつく。
実際の所、祐一とあまり離れていたくないからという理由でガーデンについてきたわけだが、
なんともガーデンとはつまらない物だと思う。
さっきの男子の試合を少し見たが、なんだあれは? 基本も何も出来ていない。
二人ほどまともな奴がいたが、その二人も祐一に軽くいなされて終わった。
恐らくこの香里と名雪はその『まとも』な部類に入るのだろう。名雪はわからないが、この香里は確実に。
だからこそ、相手を自由に選べるこの三人式のバトルロイヤルに彼女らを選んだわけだ。
 

しかし、それだけではリアも退屈だ。
自分を狙わずに香里と名雪が戦っては自滅するだけだ。
だいたい、名雪は今日いきなり転校してきたピカピカの同級生と戦おうなんていう風には思わないだろうから香里を狙うだろう。
香里も香里で、売られた喧嘩は買いそうな性格だ。恐らく二人の戦闘になるだろう。
それではつまらない。ということで、リアは二人に協力して、1対2の状態で私と戦えと言ったのだ。
 

「……いいのね?」
 

「ダメなら言わないわよ。ほら、もう試合終わっちゃったわ」
 

リアは女子のリングの方を見ながら言った。もう先に戦っていた女子の三人は試合を終了し、次はリアたちの番だ。
リングに入るように教師が言う。素早くリングに上がると、名雪と香里は寄り添ってリアの方を見ていた。
 

「リアちゃん……手加減しないけど……いいの?」
 

名雪が控えめに聞いてくる。その辺はやはり優しい名雪だ、リアのために聞いてきたのだろう。
「いいのよ!」とリアではなく香里が言う。
どうも香里はプライドが高いようで、こういう馬鹿にされたような言い方が気に入らなかったらしい。
「いいのよ」と今度はリアが言う。
名雪はまだ何かいいたそうな顔をしていたが、黙って短剣を構えた。
さて、久々に激しい戦闘ができそうだ。
最近は祐一とばかり戦っていて、一度も勝てないからストレスが溜まっている所だ。
 

「始め!」
 

教師が言う。それと同時に香里が持っていた剣を振る。
リアが腰に挿していた愛用の黒い装飾銃を取り出す。
カンッとそれで剣を弾く。追撃がくるかと思えば、そのまま香里は横に飛んだ。
 

「ウォーターアロー!」
 

香里が避けた後ろから、名雪の放った水属性の中級魔法が飛んでくる。名前の通り水の矢だ。それも3本。
即席ペアにしてはやるじゃない。考えながら、リアは装飾銃の引き金を引いた。
ダンッ! と一発の銃声がして、三本の矢は全て消し飛んだ。
 

「なっ!」
 

驚愕の声を上げたのは香里だ。それはそうだ。三本の矢を撃ち落すためには当然三発の銃弾がいる。それに間違いは無い。
だから当然リアも三発銃弾を使った。
ただ、一発の銃声しか聞こえないほどの早撃ちで、三発の銃弾を撃ちはなったと言う事だ。
 

「くっ」
 

香里は舌打ちをしながら剣を横から振る。リアは軽くジャンプして剣の切っ先を蹴る。
そのまま後ろに一回転する。その時名雪がもう一度魔法を撃って来ていた。
 

「ウォーターバレット!」
 

5つのウォーターバレットが名雪の両手から放たれる。リアの持っている装飾銃はリボルバー。
6発しか入らないのだから、さっき三発撃った後にすぐ五発撃てば、当然二発分足りないはずだ。
リアは軽くと笑うと、開いている左手を動かした。
いや、名雪には動かしたようにしか見えないが、リアはありえないスピードで魔法陣を描いた。
ダンッ! 今度は本当に一発だけ銃弾が放たれる。5つのウォーターバレットの中心に、弾丸を撃ち込んだ。
バリバリバリバリッ!
強烈な電撃の柱が、壁のように発生する。その壁に阻まれて、ウォーターバレットは消滅する。
名雪はそれに驚いていたが、香里は冷静に状況を分析した。
 

(自分の属性をあの銃の中の銃弾に装着して、放ったのね。だから雷が発生した。つまり――)
 

香里の考えが正しければ、リアは雷属性と言うわけだ。
香里の属性は炎属性。雷と炎の相性は普通だ。悪くも無く、良くも無く。つまり、そのままのダメージがリアに襲い掛かるわけだ。
一瞬にして銃弾をセットしたリアに、香里は魔法を放った。
 

「スカイフレイム!」
 

爆炎の渦が香里の右手から発生する。炎属性の中級魔法で、一帯全てを炎の中に沈めるという魔法である。
リアは焦る事もせずに、左手を動かす。いや、魔法陣を描く。
リアが炎に向かって銃を構える。炎はすぐそこまで迫っていた。ギリギリまで力を溜めて、撃った。
 

ドピュゥゥゥゥゥンと音を立てて、巨大な水の大砲が装飾銃から飛び出した。
炎の渦は一瞬に消滅し、水の大砲はそのまま天上に当たりバシャアと音を立てて雨のように訓練所に降り注いだ。
 

「……ウソ……」
 

香里は驚きを隠せなかった。リアは雷属性のはずだ。だというのに、今銃から飛び出たのは水だ。
違う属性を覚える事は確かに出来るが、だがそれでもスカイフレイムを一瞬で消し去るほどの威力を持つ攻撃が出来るはずが無い。
ならば弾になにか秘密があるのではないか? と思ったが、それはありえない事だった。弾は事前にセットしておかなければならない。
香里が炎属性の魔法を放つ事を予期して弾をセットするなんて事が出来るはずが無い。そもそもあの威力は銃弾というよりもミサイルだ。
だとすると、考えられるのはあと少ししかなかった。
 

「……デロップ?」
 

「ご名答」
 

ダンッとまた銃声がした。銃弾は二発。速度は速いが、充分回避できる。
二発とも剣で弾くと、今度はリアが眼前に迫っていた。
装飾銃の銃身で打撃を放つ。
ガンッと言う音がして、香里とリアの武器同士が交わる。ギリギリと香里が押される。根本的な力の差は、リアの方が上だった。
 

「ウィリアー!」
 

左横から名雪の声がした。
名雪が三本の水の鞭を発生させる。水属性の中級魔法だ。
リアは香里から勢い良く離れる。しかし、ウィリアーは操作可能だ。名雪は三本ともリアに方向転換させる。
一瞬で弾を装填し、引き金を引く。
ダンッ! 2発撃ち落したが、一本だけ残る。
その一本を避けると、今度は香里がリアに迫っていた。
勢い良く剣を縦に振る。リアは装飾銃で受け止める。
 

「くっ」
 

右から、残った一本が迫ってくる。装飾銃は香里と鍔迫り合いになっているので使えない。まさに絶体絶命だ。
リアは、瞬時に左手を腰に回す。
 

リアの持っている銃は全て祐一から貰い受けた物だ。
なんでも特別な物質を【変化】させて作ってくれたとの事だ。
ちょっとやそっとでは傷ひとつつかない。
つまり、別に銃は一丁とは限らないと言う事だ。
 

ダダダダダダンッ!
 

勢い良く何発もの銃弾が、リアの左手が持っている【マシンガン】から放たれる。残り一本のウィリアーなど眼中にない。
適当に命中した一発が撃ち落す。残りの弾丸は名雪に向かって飛ぶ。
 

「ウォーターウォール!」
 

名雪の手から水の壁が発生する。弾丸は全てウォーターウォールに阻まれる。
名雪はすぐさま短剣を握りなおすと、今度は魔法ではなくリアに接近する
(まあ香里とここまで密着している状態で魔法なんて撃てないが)。
リアは力任せに香里を後ろに蹴り飛ばす。香里は10メートル弱吹き飛ばされる。
しかし、今度は名雪が短剣で襲い掛かる。リアは銃で弾くと、マシンガンを構える。この距離なら最低でも二三発は確実に当たる。
香里も10メートルも離れている。助けにはこれない。
名雪がガードの体勢に入る。だが全然遅い。リアは、今まさにその引き金を引――
 

――――!
 

カンッと缶を蹴り飛ばすような音がして、名雪はガードの体勢をといた。リアがマシンガンと、香里の剣を交わらせていた。
 

(ありえない、早すぎるわよ!)
 

リアは下唇を噛んだ。
香里の、蹴り飛ばされてから立ち上がり、さらに10メートルという距離を埋めるまでにかかった時間は、およそ3秒もない。
いくらなんでも、早すぎる。
今度は名雪が短剣を振った。いつもボケーっとしているわりに、こういうときだけは対応が早かった。
キンッ、と今度はもう一つの銃で防ぐ。しかし、両手が塞がった状態で、香里の蹴りは抑えられなかった。
 

くぐもった音がして、今度はリアの身体が10メートル近く飛ばされる。
すぐに立ち上がったリアの目には、空中に魔法陣を描く香里の姿が映った。
 

(デロップ!)
 

リアはマシンガンを香里に向けて放つ。
 

ダダダダダダダダダダダダダダンッ!
 

マガジンに残っている弾丸をありったけぶちまける。しかし、香里はその全てを華麗にかわす。
大きくよけるのでは無い。弾丸を一つずつ、必要なだけの大きさで避けているのだ。
そのスピードといえば、残像が残るほどだ。
 

(香里のデロップの能力は――)
 

香里はなんと、銃弾の雨を避けながら尚且つ、リアに接近してきた。全てかわし終えると、リアの右横まで詰め寄った。
 

(――加速!)
 

香里はリアに向かって剣を振る。しかし、さっきよりもいきなり、スピードがガクッと落ちた。
 

――時間制ってわけね……。
 

だったらまだましだ。
それも、香里自身が自分のスピードが落ちた事にすこし動揺しているところを見ると、どうやら時間はランダムで決まるらしい。
それが恐らく、香里のデロップの【制限】なのだろう。
振るわれた剣を銃でかろうじて防ぐ。マシンガンのマガジンを入れなおしている暇などないだろうから、マシンガンと装飾銃は腰に挿す。
今度は背中からすこし大きめの銃を取り出す。
ポンプ式の、ショットガンだった。
 

ズガンッ! と、爆発音のような音が響き渡る。香里の顔面目掛けてショットガンが放たれた。
ギリギリいっぱい、香里の戦闘反射の方が早かった。
香里の左頬を掠めて、ショットガン(というかレーザー砲)は訓練所の天井を突き抜けた。
……もし香里に当たっていたらなどという考えは無いらしい。
 

香里は避けた反動で軽く尻餅をつく。ここを突ければ楽だったのだが、どうも名雪がそれを許さないらしい。
ヒュッと風を切って名雪の剣がリアに襲う。だが、香里と同時に攻撃してこなければ、攻撃も素直だし、案外簡単に防ぐ事が出来た。
ショットガンを直し、そのまま腰から装飾銃――ハーディスを抜く。
左手で魔法陣を描き、そのまま銃弾を撃つ。
名雪がウォーターウォールで防ぐ。しかし、そんな事は百も承知だ。リアは、雷属性の銃弾を撃っていたのだ。
 

雷がウォーターウォールを走る。轟音を立てながら名雪に迫る。
とりあえずウォーターウォールと名雪は密着していないから名雪への肉体的ダメージは大してないだろうが、
足止めには充分すぎる攻撃だった。
 

名雪が雷に苦戦している間に、リアは起き上がった香里に銃弾を5発続けて撃つ。
 

「くっ!」
 

香里は間一髪魔法陣を描くと、加速して銃弾を全て剣で撃ち落した。
しかし、リアはその隙に香里の2m先ほどまで接近していた。
ハーディスを握ったまま、物凄い速さで3回転身体を回す。そして、勢い良く香里の胴体にハーディスを打ち付けた。
 

「ブラッククロウ!」
 

ドガァッと香里が吹き飛ばされる。香里が地面に落ちると同時に、香里の持っていた剣も地面に突き刺さる。
ガハッと香里が口から血を吐き出した。
ハーディスを使った三段攻撃。これを食らっては香里もたまったものでは無い。
リアは、すっと、ようやく雷から逃れる事が出来た名雪を見た。
名雪は、う〜んと唸ると、てへっと笑った。
 

「降参、だよ」
 

名雪は、両手を上に上げた。
 

「香里なしじゃリアちゃんに勝てそうにないしね」
 

「…………」
 

名雪はニコニコ笑いながらリアに歩み寄ってくる。
目の前まで来ると、さらににっこりと笑った。
 

「リアちゃん強いね〜、私、ビックリしちゃったよ〜」
 

とても嬉しそうに名雪はリアの手を両手で握ってブンブンと振ってくる。
リアは、しばらく黙った後、「貴方達の負けって事でいいの?」と聞いた。
 

「もちろんだよ。私たち完敗しちゃったよ〜」
 

名雪は自分が負けたことをいまいち理解していないのか、それともただの馬鹿なのか、きゃあきゃあとはしゃいでいる。
そのあと、名雪は香里を見て、うわ〜、香里死んじゃったよ〜と言った。
 

「誰が……死んだって?」
 

香里がムクリと起き上がりながら言った。
あれを食らってよく起き上がれるなとリアは感心したが、どうやらそれで指一本動かせなくなったらしい。
 

「わ、生きてたよ」
 

「……叩いてあげたいけど、あいにく力が入らないわ」
 

香里ははぁと溜息を吐くと、リアを見た。
 

「ねえ、途中で属性が変わったじゃない。あれ、なんなの?」
 

香里がリアに聞く。リアは、名雪に香里を担いでリングを降りるように言って、リングを降りながら言った。
 

「私、属性ないのよ」
 

と。
 

「……無属性、ってこと?」
 

「ええ、珍しいでしょ? それでね、私のデロップは、自分の属性を自由に変えることが出来るっていう能力なの。
その代わり、属性を変えるたびにデロップを書かなきゃならないし、
デロップをしばらく書かなかったら無属性に戻っちゃうっていう【制限】がついてるから、不便な能力よ」
 

その代わり、デロップを書く練習はいっぱいしたんだけどね、と苦笑いを浮かべた。
香里には、つまりリアはどの属性にも相性のいい属性を持っていると言う事は分かった。
銃の種類も豊富だ。例えばどの属性で来たとしても、大抵はハーディスで撃ち落せるし、数で責めてきてもマシンガンで対向できる。
威力があってもショットガンで相殺。
よっぽどの威力がないと、リアには勝てる気がしなかった。
 

「でも、自分の属性を武器に装着するなんて、どうして出来るの?」
 

今度は名雪が聞いてくる。リアは、一瞬ピクリと動きが止まったが、すぐに歩き出した。
肩をすくめた。
 

「さあね」
 

「さあねって……」
 

名雪が不満を言おうとしたが、その前にリアが割って入った。
 


「ある日目覚めたら、この能力が使えるようになっていたのよ」
 


香里はその言葉を聞いて、小さく笑ったが、名雪はどうも、その言葉が嘘には、聞こえなかった。
 

リングを降りると同時にガーデンのチャイムが聞こえた。
石橋がリアの勝利を告げると、次の三人の女子生徒をリングに入れた。
名雪と香里が訓練所に設置されてあるベンチに腰を下ろした。
 

なんだか一時間だけで随分疲れた気がする。
リアは溜息を吐きながら、怪我をした生徒(女子)を治療しながら、
何気に女子生徒を口説いている祐一に、ショットガンの銃弾をプレゼントしておいた。
 

 
 
 
 
 
 

後書き
 

十三話に比べると随分まともな戦闘が出来たなと喜んでおります。
リアのデロップと香里のデロップも書けたし、充分合格点をあげれるなと思ってます。
ただ、名雪のデロップはかけませんでしたね。なんていうか、名雪のデロップまで書いたらリアが負けそうな気がして。
 

さて、祐一やナレーション(つまり私)に散々弱い弱いと言われ続けてきた目立たないヒロイン、
リアも、ようやく出番がやってまいりました。
書いてる途中に、リアが結構強い事に気付いた私。
ブラックキャットの銃と技と使いこなすリア。大抵の敵なら倒せるのでは無いでしょうか?
さて、次回はようやく一弥達が出てきます。そのあとは……
 

ウエヘヘヘへ。
ようやくシオン達だ〜〜〜!!!
さて、なんだかワクワクしてきたので、次話をさっさと書こうと思います。
説明はつまんないからかなり説明に行くまでは省略するかもしれませんが、許してください。
その後(その後のその後ぐらい)の戦闘はなるべくいい感じにしますので。
 

では、これからも応援よろしくお願いします!




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