The song of the beginning

                                               
作者 火元 炭さん

                                                 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 

「すぅ・・・すぅ・・・」
健やかに寝息を立てて眠る青年が1人、アポロと名付けられた記憶喪失の青年だ、彼がエンフィールドに来てから半年が過ぎた、その間に彼には友人と呼べる者が多数できた、アレフや、さらに最近では自警団第三部隊に所属するエイストという友人もできた、アルベルトから彼をかばってくれる貴重な友人だ、来た際に出会ったクレアという少女も良い友人だまさに幸せの絶頂といえた・・・今晩までは・・・
むくりと、アポロが起きあがる、寝間着を脱いで動きやすい服装に着替えると窓を静かに開けそこから出る

「・・・」
辺りに人影がないのを確認してどこからともなく眼帯と拘束着を取り出す
そして髪を逆立たせ、特殊な塗料を塗るとそのまま走り出す

「俺は、誰だ?・・・おれはシャドウだ」
そのまま走り、そして一つの建物の前で足を止める

「・・・」
わずかな躊躇いの後でいきなり窓を破壊して中に飛び込むシャドウ

「瞬きの一瞬、眼を焼く稲光、空をかける一条の鷲、光よ走れ」
紡がれた呪言に従って右手から眩い光が走る

「・・・」
一瞬の光の中で丈夫そうな美術品をいくつか見繕ってそれを幼子を扱うように手に取る

「誰だ!」
シャドウの背後から誰何の声が挙がる、それを聞くとにやりと笑い後ろを振り向くシャドウ、警備員らしき男を確認すると躊躇なしで彼めがけて走った

「くっ」
警棒を振り上げ、殴りかかってきたところを腕を掴むことで無力化する、そして警備員の顔が間近に迫り、付けていた眼帯がほどけた

「お、お前は」
警備員が自分の顔に見覚えがあることが確認できるとふりほどいて逃亡するシャドウ

「ま、待て」
逃げる方向が警備員に分かるよう調整して走り、寝床が近づいたところで振り切る
盗み出した美術品を押入に入れ上から毛布をかぶせる、そしてその毛布を押入の引き戸に挟んでおいた

「・・・さ、寝るか」
その日はそれで眠りについた・・・嫌な夢を見た
 
 

「うう、なんかすげぇ眠い」
サクラ通りをぶらぶらと歩きながらアポロはサクラ亭に向かっていた、今日の仕事はサクラ亭の補修工事なのだ

「ちわー、パティ居る?」

「あ、アポロ、やっと来た、こっち、カウンターのここん所」
パティの指さしたカウンターの部分が人間大にえぐれている

「ひどいな、何があったんだ?」

「マリアよ、エルとまたやらかしたの、ま、ショート財団が弁償してくれるみたいだから文句はないけど」
嘆息しながら言うパティ、やれやれと大工道具を取り出すアポロ

「じゃ、よろしく」
作業を開始したアポロ、そこにシーラが入ってきた

「パティちゃん、ホットミルク」
ふぅ、と嘆息しながら慣れ親しんだ動作でカウンターに座るシーラ、日頃から客の少ない時間にくるのでその席が空いてなかったことはない

「またアレフ?今度は何もらったの?」

「それが、リヴェティス劇場のチケットなんだけど」

「断りたいけど最後の踏ん切りがつかないって訳ね」
アレフが誘って断り切れないシーラがずるずる引き延ばす、すでに日頃の慣習ともなった作業だった

「パティちゃん、代わりに言ってくれない?」

「アレフのことならアポロに言ったら?何とかしてくれるかもよ」
パティのその言葉にシーラの頬が少し紅くなる

「アポロ、くん?でも、ええと、アポロ君はアレフ君のお友達だし、こういうことは・・・それに、やっぱり私アポロ君には・・・」

(頼られてないんだな・・・)
全く気づいていないシーラの真横でこっそり溜め息をつくアポロ

「アポロ様」
そこに息を切らせてクレアが飛び込んできた

「パティ様、アポロ様はこちらにおいででしょうか」

「そこ」
クレアの問いに間髪入れず答えるパティ、それを聞いてシーラが真っ赤に染まる

「あの、パティ、ちゃん・・・どうして・・・」
顔をどんどん俯かせながら言うシーラ

「今ちょうどカウンターの修理頼んでたの、気づかなかった?」
こくこくとすごい勢いで頭を上下させるシーラ

「どうかしたのですか?」
そのシーラを見て不思議そうに聞くクレア

「いや、何でもないよ、それよりどうかしたの?」
乾いた笑いを浮かべながら言うアポロ

「そ、そうでした、兄様とはまだ会っていませんよね」
クレアの兄とは自警団第一部隊所属、アルベルトのことだ

「会ってたらこんな所でのんびり仕事なんてできないだろうけど、どうかしたの?」

「はい、私が家でお掃除をしておりましたら突然飛び込んできて、手錠とハルバードを振り回しながらアポロ様はどこだと私に聞いてきたのです、なぜそんなことを聞くのかと問いつめたところ妙に言葉を濁すので、アポロ様は雷鳴山で鉱物採取の仕事をしているはずだと嘘をつき、急いでここに来た次第です」
嬉々として手錠とハルバードを振り回すアルベルト・・・一瞬想像し、あまりに怖い物が想像できてしまったため急いで頭から振り払うアポロ

「そ、そう・・・俺何かしたっけ?」
アレフかトリーシャあたりが出鱈目なことを吹聴して回ったのかもしれないな、そう思い確かめようとサクラ亭を出ようとしたアポロの前に

「よし、ここにいたな」
自警団第三部隊に所属するエイストが立ちふさがった

「エイストか、アルベルトの奴が俺を捜してるって聞いたんだが、また変な噂でも流れてるのか?」
その言葉にぽりぽりと頭をかくエイスト

「ああ、とりあえずアポロ、お前昨日の夜何してた?」

「何って、普通に寝てたぜ」

「それを証明できる奴は?」

「居るわけないだろが」
背後の女性3人の冷たい視線に耐えながら言うアポロ、背後で3人分のほっと言う安心の息が聞こえた

「そうか・・・すまないがアポロ、今からお前をフェニックス美術館強奪事件の重要参考人として連行する」

「・・・は?」
エイストのとんでもない一言にアポロの顔がゆがむ

「アルベルトの奴はお前に対して連行の命令が出たせいでお前を追いかけていたんだ、友人として悪いようにはしない、とりあえずついてきてくれ」

「待ってくださいエイスト様、アポロ様はそのようなことをする人ではありません」

「そうです、アポロ君は悪い人なんかじゃありません」
クレアとシーラがアポロをかばうようにして間に入る

「・・・目撃者が居る、さらに言うならアポロの部屋で強奪された美術品も見つかってるんだ、魔術師ギルドに頼んで過去視のスペルを使ってもらったが、アポロの顔がありありと映っていた」

「そんな・・・」
アポロの顔が蒼白にゆがむ、それほどの証拠が挙がってしまえば、過去の無い自分に有罪が下されるのは決定的だ

「幸い美術品は全て無事だった、お前が本当にそんなことをしたとは俺だって思っていないが、自警団員としていったんは逮捕する義務があるんだ」

「・・・分かった、ついていく」

「アポロ様」
クレアが信じられないと全身で訴えながらアポロを振り仰ぐ

「なぁに、すぐに無罪放免で出てこれるさ、パティ、悪いけどそのカウンターは誰か別の人に直してもらってくれ」

「・・・や、嫌よ、あんたが引き受けたんだからあんたが直しなさいよ、そんなに待ってられないんだからすぐに直しにいらっしゃいよ」
さっさと出てこいと言う無言の圧力?懇願だ

「はは、分かったよ」
言ってサクラ亭から出ていくアポロ、彼はその足で、自警団へと向かった
 
 

「とりあえずここに入っていてくれ」
エイストが案内したのは自警団の待合室だった、ただし窓にはかなりの補強がしてある

「・・・俺は、どうなるんだ?」

「・・・・・・おそらく、エンフィールドから追放されるだろう」
苦虫を噛みしめたような顔で言うエイスト、その顔にアポロはそうか、としか言うことができなかった
それからアポロは何の音沙汰もないままそこで一晩を過ごした、そして部屋に入って一日が経過した頃、再びエイストが入ってきた

「アポロ、とりあえずお前はここから出られることになった」

「無実が証明されたのか?」

「逆だ、お前は有罪で、即刻国外退去が決まった」

「そんな・・・」
アポロの顔が真っ青に染まる

「だが」
そこで急にエイストは声の調子を変えた

「その際にお前には保釈金が支払われた、国外退去が執行される前にお前に一年間の仮釈放が認められたんだ」

「つまりどういうことなんだ?」

「お前は後一年は街にいられるんだよ」

「しかし、一年たてば俺は・・・」
しかし、その後でエイストはアポロに次のことを説明した、一年後の審議で住民の八割以上の支持を得られれば再審議が行われること、そこで無実を証明できれば保釈金も返還されること

「・・・待ってくれ、それじゃその保釈金を出したのは」

「ああ、アリサさんだ、ジョートショップの土地を担保に用意したらしい」

「そんな・・・」
自分という他人のために10万Gもの大金を支払うアリサ、アポロはアリサの優しさを実感すると共に責任の重さに押しつぶされそうになっていた

「アポロ、俺もお前の無実が証明されるよう全力を尽くす、だがらお前もがんばってくれ」

「ああ」
エイストの差し出してきた右手を、アポロは力無く握るだけしかできなかった
 
 

「アポロ」
自警団からジョートショップへ向けて歩くアポロにアレフが走り寄ってくる

「アレフか」

「アリサさんから事情を聞いたんだが、どうなったんだ?」
自嘲気に笑いながら事情を説明するアポロ、そしてアポロはアレフにここに来る途中で考えていたことを頼んでみた

「そこで、ジョートショップの活動をもっと大きくしてみんなの信頼を得ようと思うんだ、そこでアレフ、お前も手伝ってくれないか?」

「・・・そうだな、今度クレアちゃんとのデートセッティングしてくれるんならいいぜ」
にやりと笑って言うアレフ、アポロもまたそれに笑ってああと言った

「さて、そうすると後二人は欲しいな」
頭を抑えながら考えるアポロ

「クリスとか、リサとかが役に立ちそうだけどな」

「最近はモンスターも増えてるからな、戦える奴が欲しいよな」

「戦えるやつって言うと、エルとかかな」
ふぅむ、と道ばたで考え込むアレフとアポロ

「っと、そう言えばサクラ亭の修理途中だったんだ、まずあっち行かないとな」
パティの言葉を思い出してサクラ亭へ歩き始めるアポロ
 
 

「アポロ、あんた無事だったの?」
サクラ亭にはパティの他にクレアとシーラ、アポロが連行されたときと全く同じメンバーがそろっていた

「いや、それが」
かくかくしかじかと、アレフにした物と全く同じ説明をするアポロ

「そんな、アポロ様がそんなことになってしまったなんて・・・アポロ様、私もお手伝いいたします」

「へ?」
アポロの手をきつく握りしめて詰め寄るクレア

「命の恩人がそのような眼にあっておられるのに大人しく見ているなんて事はできません、私もお手伝いいたします」

「いや、でもこの仕事にはモンスターとの戦闘もあるし」
クレアの剣幕に押されて後ずさりするアポロ・・・ひょっとしたらパティとシーラの眼が怖いだけかもしれんが

「ご安心を、あの一件以来私護身術と魔術の勉強を続けております、もうオーガごときに負けることはございません」

「そ、そうなの、じゃ、お願いできるかな」

「はい、お任せください」
にこりと笑って喜ぶクレア、それを遠くから見てシーラは寂しそうにしている

「これで後1人か、後は誰に頼むんだ?」

「あの」

「そうだな、魔術が使える人材が欲しいところだから・・・クリスかマリアかな」

「いや、シェリルと言う手もあるぞ、あの娘だってエンフィールド学園に通ってるんだからな」

「あのね」

「確かにマリアだけは遠慮したいな、そうするとシェリルかクリスか、とりあえず両方に話してみるかな」

「あ、あの」

「よし、善は急げだ、早速学園のほう行ってみるか」
言って走り出そうとして

「ちょっと待たんかい」
思い切り走り出したところをパティに首襟捕まれてもんどり打って倒れ込む

「ぐはっ」

「さっきからシーラが話しかけてるでしょうが、それを無視しようなんてどんな神経してんのあんたは」
さらに首をひっつかむと上下に思い切り揺さぶるパティ

「ぱ、パティちゃん、別に私は」
真っ赤になって後ずさりするシーラ

「そ、それで、っほ、何か用?ごほっ」
首のずれを直しながら言うアポロ・・・普通死んでるぞそれ

「あ、あの・・・そのね、私も、最近魔術の勉強してて・・・ひょ、ひょっとしたら役に立てるかもって・・・言いたかったんだけど」
魔術の勉強を始めたのは半年前から、”こんな事”もあろうかと学び始めたのだが

「本当?でもピアノの練習とかあるんじゃ」

「あ、それはね、最近昼間は別の用があることが多いから練習の時間を夜にまわしてもらったの、だから手伝う分には問題ないの」
真っ赤になりながら言うシーラ、その昼間の用事を聞かれたらどれほど真っ赤になるんだか、ちなみにその中に魔術の勉強などが入っている

「そう言えばシーラ最近よく来るわよね」

「う、うん」
ちらちらとアレフとアポロを交互に見ている

「ふーん、ま、いいや、ありがとうシーラ」
シーラに笑いかけるアポロ、するとまた真っ赤に顔を染めるシーラ

「そんな、あの、わ、私はアリサおばさまが心配で」
とっさにアリサの名前を出すシーラ、それを聞いて残念そうになるアポロ

「そっか、そうだよな」
その後、数瞬サクラ亭に気まずい雰囲気が流れて、彼らはジョートショップへ足を向けた
 
 

その頃、自警団詰め所
「くっそー、クレアの奴、雷鳴山だなんて嘘付きやがって」
自警団の一室で独りごちるアルベルト、結局一晩アポロを捜し続け、自警団に戻ればすでにアポロは釈放されていたのだ
そこに1人の自警団員が飛び込んできた

「アルベルトさん、大変です」

「ん?どうした?」

「ノイマン隊長がモンスターに襲われて、危篤状態です、トーヤ先生の話では、後一時間保たないと・・・」
自警団員が出した名はエイストが所属する第三部隊の隊長の名前だった

「何だと?エイストは?」

「第三部隊は全員ノイマン隊長についています、ですがエイストさんだけは、元々ノイマン隊長を親代わりに育った人ですからずいぶんとショックのようで、部屋に閉じこもっています」

「あの馬鹿、子に看取られないで成仏できる親が居ると思ってんのか」
身体の疲労も何のその、勢いよく立ち上がるとそのまま走り出すアルベルト

「あいつが着くまで絶対に死ぬなってノイマンの爺に言っとけ」
走りながらハーフプレートを脱ぎ捨てるアルベルト、一瞬でも早くエイストのもとにつきたかった
 
 

「エイスト、てめえ何やってやがる」
鍵のかかっていた扉を蹴破って友人に詰め寄るアルベルト、エイストはノイマンと一緒に写る写真を見ているようだった

「アルベルト、どうして・・・」

「てめえ、ノイマンの爺が死にそうって時にこんな所で何してるんだよ」
エイストの襟首を掴んで目線を無理矢理合わせるアルベルト

「どうしろって言うんだ、死にそうな隊長に俺がどうしろって言うんだよ」
アルベルトに抵抗の素振りも見せず涙を流すエイスト

「・・・お前、確か小さかった頃に父親無くして、それからはノイマン隊長が親代わりだったはずだな、だったら、こんな時にそばにいないでどうする気だ」
腕に力を込めて揺さぶるアルベルト

「どうしろって言うんだ、俺に、またあんな思いをしろって言うのか、父さんの時みたいに」
それを力無くにらみ返すエイスト

「・・・なら聞くぞ、今ノイマン隊長は誰を待ってると思う、あの爺は最期に誰に会いたいと思う、リカルド隊長か?団長か?それとも、たった一人の息子か?」
エイストがわずかに反応するのを見てアルベルトが言葉を続ける

「たった1人の、最後の家族を失おうとするお前もつらいだろうが、たった1人の家族に看取られないあの爺がつらいとは思わないのか」

「・・・ノイマン隊長は、どこだ?」
精気の戻ったエイストの顔ににやりと笑うアルベルト

「ノイマン隊長の家だ、あそこはお前が誰より知ってるだろ?お前が先に行け、っておい」

いきなり窓を開けるとそこから飛び降りるエイスト

「ちっ、いつものあいつに戻ったはいいが、無茶な所まで戻りやがった」
覚悟を決めてそれを追うアルベルト、その頃にはエイストは裏路地に入っていた
 
 

「「神よ、慈悲深きそなたの癒しを此方に赴こうとする御霊に与えよ、ホーリー・ライト」」
老齢の男の傷に手を触れるとそこから白い光が溢れる、そしてわずかに男が楽な風情を見せる

「どうだ?」
傍らに立つ白衣を着た男が真剣な表情を2人の女に向ける、その周囲にはさらに心配そうに見守る多数の男の姿があった

「駄目ね、傷が深すぎて、痛みを消すのが精一杯」
長い黒髪を邪魔にならないよう後ろでまとめて、女、イヴ・ギャラガーは言った、その横で同じく残念そうにセリーヌ・ホワイトスノウが俯く

「ふん、後は死を待つばかりと言った訳か」
胸に深い傷を負った男が怪我人とは思えない力強い眼差しで医師を見る

「ああ、すまないが私たちではどうすることもできない」

「あなたはもう死んでいる、どんな癒しの秘術も死人までは癒せない、信じられないことだけど、あなたは気力で魂を身体に結びつけている、非論理的だけど」
イヴが男の力強い眼差しを見ながら言う

「ふん、スケルトンやゾンビと同じか、死ぬことに未練はないのだがな」
男の言葉とは裏腹に心の底で彼は生を懇願していた、ここでは死ねないと、ここは自分の死ぬ場所ではないと

「すごいです、生への執念が死への誘惑に勝るだなんて」
脈をはかるセリーヌ、それはすでに彼女のそれにかき消されるほどわずかな物だった

「ふん、死ぬことに恐怖など無い、別に執着するほどこの世に未練もないしな」
男はかたくなに拒否するが、彼がこの世に何らかの執着を残していることは確かだった
そこにしばしの静寂が訪れた、男を見舞う者全ては男を心配げに見守るだけで何事も語らない、トーヤは全てを悟っているがごとく男を見、イヴとセリーヌはそれを理解しようと辺りを見回した、そして、そこに騒音が走り込んできた

「ノイマン隊長」
エイストだ、ここまで全力で走ったのか汗だくになっている

「ふん、ようやく最後の1人が来たか」
ノイマンが軽口を叩くように言う、だがその目に弱い光が浮かんだことをイヴは見逃さなかった

「すみません、こんな時に・・・」

「まぁいい・・・第三部隊のこと、頼んだぞ」
右手をエイストに向かって差し出してくる、それをきつく握るエイスト

「やれやれ、やっと迎えが来たようだ」
ノイマンの身体から力が失せていく

「団長、すみませんが儂の後釜はこいつに頼みます」

「はい、長い間ご苦労様でした」
にこやかな笑み、だがその奥に秘めた、親友を失う悲しみを理解できない者はここには居なかった

「エイスト・・・さよならだ」

「・・・父、さん・・・」
エイストのその呟きにそこにいた全ての者が涙を流した
そして、自警団第3部隊隊長ノイマンはその日還らぬ人となった
 
 
 
 
 
  投稿小説の部屋に戻る