第五話「Mimic battle」










母さんは優しく、美しく、そして強かった。

俺は母さんのことを尊敬しているし、母さんの子供であって誇らしい。

だが、俺は……。

……母さん。

天国に居るなら、見ないでくれ。

今の俺の姿を……。











シグナム達守護騎士との出会いから二週間が過ぎた。

最初は戸惑っていた彼女らだが、はやての人柄のお陰かすんなりと海鳴での生活に慣れた。

秋人とは当初にあった険も少しは取れ、仲良くとはいかなくともそれなりの仲になれた。

だが、秋人は少し不満があった。

それは、はやてが守護騎士に付きっきりになり、ゆっくり話をする機会がなくなったからだ。

仮に二人で話をしていても守護騎士の誰かが間に入り二人きりではなくなる。

それが不満なのだ。

もちろん、はやてにはこのことは話してはいない。

話したら余計な気を使わせてしまうだろう。

秋人はやきもきした心で日々を過ごしていた。

そんなある日
――――






学校が終わり、秋人は八神家の玄関の前に来ていた。

走ってきた為、息は少し上がっている。

チャイムを押し出てくるのを待つ。

暫くするとドアが開かれた。

だが、出てきた人物ははやてではない。



「秋人さん、こんにちは」

「あ、ああ。こんにちは、シャマル……」



シャマルは軽く微笑み秋人を迎え入れた。

はやてが出迎えてくれると期待したいた秋人は、少し複雑な顔をしながら家へと入って行った。

リビングへ行くとはやてにはヴィータがべったりとくっ付き、甘えている。

秋人の表情は曇る。



「はやてー。えへへへ」

「ふふふ、ヴィータはホンマに甘えん坊屋さんやね」



秋人に気が付かないのかはやてはヴィータと遊んでいる。

見かねたシャマルが秋人が来たことを告げるとこちらを振り向き、「こんにちは、秋人」と言った。

そして再びヴィータとじゃれ合う。

秋人には見ていることしかできない。

あの二人に間に入ることなどできないし、二人の輪に入ることもできない。

そう、ただ見ていることしかできない。

秋人が黙ってはやて達を見つめていると、シャマルがそっと話しかけてきた。



「ごめんなさい。はやてちゃんに会いに来たのにヴィータちゃんがべったりで……」

「……別に。気にしてなんかいないさ」



明らかに気にしている言葉にシャマルは思案顔になってしまう。

暫く考えた後、急にメモを取り出し何かを書き込んでいく。

そしてはやてに声をかけた。



「はやてちゃん。実はお買い物がまだでして……すみませんが行って来てくれませんか?」

「ええよ。何を買うんや?」

「メモに書いてありますから、これを買って来て下さい」

「ずいぶんあるんやな。わたし一人で持てるかな……?」

「ならアタシも……!」



シャマルはヴィータの口を塞ぎ秋人に視線をやった。



「秋人さんと行って来て下さい。いいですよね、秋人さん?」

「あ、ああ。別にかまわない」

「ほんなら行こか」

「ああ……」



はやてに手を引かれリビングを後にする前に、シャマルに目でありがとうと伝える。

シャマルはそれを理解し微笑んだ。

家を出て行く二人。

二人が出て行ったことでヴィータの口の当てていた手をやっと退ける。



「ぷはっ。いきなり何するんだシャマル!!」



当然のように激昂するヴィータ。

それを受け流しシャマルは言った。



「いいじゃない、ヴィータちゃんはお昼にはやてちゃんとずっと一緒だったんだから」

「それとこれとは話が別だ! アイツと一緒に行ったんだぞ、心配じゃないのか!?」

「秋人さんはそんな人じゃないわ。ヴィータちゃんも、もう分かっているでしょ?」

「…………」



納得いかないといった顔をしているヴィータ。

ブツブツと小声で何かを呟いている。



「……はやてちゃんの前でケンカをしたら駄目よ。秋人さんと約束したでしょ?」

「はやての前じゃなかったらいいんだろ? ……ボコボコにしてやる」



ヴィータの言葉にシャマルはため息を吐いた。

どうやら仲良くなるには当分時間がかかるらしい。




















八神家を出て商店街へ向かう道すがら、秋人は何を話せばいいか悩んでいた。

話したいことは沢山あった筈なのに口から出てこない。

はやてが何度か話しかけてくるが、秋人は「ああ」としか言えなかった。

秋人は胸にもやもやを抱えていた。

これは何だろうと考えるが分からない。



(……何か不安なのか? ……このもやもやの正体は、一体……)



秋人には分からないがこれは不安などではない。

焦りだ。

はやてを取られるのではないかという焦りが澱のように溜まっていた。



――――秋人。秋人? 聞いているんか?」

「えっ? ああ、すまない。聞いていなかった。なんだって?」



この態度にはやては少し呆れた表情を見せた。



「もう、ちゃんと聞いてな。秋人は何か好きなことってあるんか?」

「好きなこと?」

「うん。わたしは本を読むのが好きだけど、秋人は何かある?」

「俺の好きなこと……」



頭に色々と思い浮かべる。

考えるが、どれもピンとこない。



「…………」

「好きなことじゃなくて、好きなものでもええよ」



それはすぐに思い当たった。

自分が何よりも好きなもの。

唯一の趣味と言えるものが思い当たった。



「月と星だな」

「月に星? 月と星って夜の月と星のことか?」

「ああ、俺は夜空を眺めるのが好きだな。月の蒼さも好きだし、季節ごとに見える星が変わるんだ。それが何よりも楽しい」



夜空のことを語る秋人の瞳は輝いて見えた。

まるで子供のように純真な瞳をしている。

それを見て、はやては微笑んだ。



「夜空が好きやなんて、秋人って以外にロマンティストなんやね」

「変かな?」

「ううん、変じゃないよ。なんと言うか、秋人らしい思うたわ」

「今度、一緒に見に行くか? 俺のお気に入りの場所があるんだ。そこからだと星がよく見える」

「うん、シグナム達も誘って皆で行こう!」

「……ああ」



(……皆で、か)



はやては皆で星を見に行くことを想像し楽しそうに話している。

それを見ていると、知らず知らずの内に拳を固く握っていた。

白くなるまで握り、力を抜く。



(俺は何を考えているんだ。はやては物じゃない。そんなこと、分かっている筈なのに……)



自己嫌悪に苛まれる。

はやては物ではない。

分かっていた筈なのに、焦りからか物として見てしまった。

ふと、空を見上げた。



「……月、か」



蒼い空にはうっすらと月が浮かんでいた。

まるで見守るように。




















買い物が終わり、二人は八神家へと帰ってきた。

荷物を冷蔵庫へ入れると、秋人はリビングへと移動する。

ソファに座っていたヴィータが露骨に嫌な顔をするが無視することにした。

庭に視線をやるとシグナムが竹刀を手に素振りをしている。

何となくそちらに移動する。



「…………」



シグナムの太刀筋は流麗にして苛烈。

静と動を併せ持った剣の理想形のように見える。

暫くそのまま見とれているとシグナムが此方に気が付き、素振りをやめる。

窓を開け秋人に向かい話しかけた。



「帰ってきていたのか」

「ああ、今さっき帰った。お前は剣の素振りか?」



シグナムは竹刀を見つめた。



「ああ。我らは闇の書から目覚めて日が浅い。かつての感触を取り戻す為には必要なことだ」

「かつて? かつてってことは、はやての他にも主が居たのか?」

「ああ。数え切れないほどな」



シグナムは少し悲しそうな顔をした。

かつての主達を思い出しているのだろうか?



「……どんな奴らだったんだ?」



秋人の質問にシグナムは首を横に振った。



「……我々は闇の書の覚醒と同時に新たに生を受ける。過去などないのと同義だ」

「そうか……」



嘘だと分かった。

だが、触れないでおく。

誰にだって触れられたくない過去はある筈だから。

秋人が一人そう納得していると、シグナムは秋人の目を見据えていた。

何事かと思い聞いてみる。



「どうかしたか?」

「相沢、お前は兵法者で魔導師だったな」

「あ、ああ。そうだけど……それがどうした?」

「私と一つ勝負をしてくれないか?」

「勝負……?」

「ああ、この世界の魔導師と是非とも手合わせを願いたい」



シグナムは頭を下げ勝負を願い出ている。

シグナムの本気の願いに秋人は困惑し何も言えない。

どうするべきかと悩んでいると、後ろから声をかけられた。



「やってあげたらええやん」

「はやて……でも……」

「減るもんじゃないしええと思うけどな。……駄目かな?」



手を胸の前で合わせ、上目遣いに秋人を見つめるはやて。

秋人は暫しの間瞑目し逡巡した。



「…………」



そして目を開き小さく頷く。

それを見てはやてはシグナムに「よかったなぁ」と言った。

はやての言葉に頷くと、シグナムは早速とばかりに次元転送の準備に入る。

魔法陣が足元に展開し秋人とシグナムはその場から消えた。






そこは見渡す限りの荒野だった。

乾いた風が吹き砂埃が舞う。

生命の息吹が感じられない世界。

そんな場所で対峙する一組の影。

秋人とシグナムだ。

シグナムは首に掛けている鎖を手に取ると、一言呟いた。



「レヴァンティン、私の甲冑を」

『了解しました、騎士甲冑を生成します』



瞬間、シグナムは紫の光に包まれる。

次に姿を現した時には服ではなく西洋の騎士が着るような甲冑を纏っていた。

そして次にレヴァンティンを起動させた。

鎖の先に付いたミニチュアの剣が大きくなり、鞘に入った片刃の長剣となる。

それを見届け、秋人も首に掛けているペンダントを手に取った。



「ロイガー、俺の……」

『うるせぇー! 自分で作れ、馬鹿!!』



ロイガーは口火を開くなり苛烈な悪口を叩く。

それに秋人はため息を吐いた。

ロイガーを起動させる時は決まってこうなるのだ。

ロイガーは基本、口が悪く、気性が荒い。

秋人はロイガーの性格にはほとほと困っていた。

起動時にいつも言われていることなのだが、ロイガーにとって秋人は自分を使うに値しない人物なのだそうだ。

前の主
――冬二――の方が上手く使った、と言われ続けていた。

そんな二人をシグナムは呆れた顔で見ていた。



「お前達はいつもそうなのか?」

「ああ……いつもだ」

「そこまで性格が激しいものを見るのは初めてだ。アームドデバイスか?」

「一応な。けど、地球で作られているから一概にそうとは言えないかもな」



そう言いながら秋人は騎士甲冑を生成する。

灰色の光に包まれ、出てきた時には上から下まで黒衣を纏っていた。

その上から紅のラインが入った漆黒のコートを羽織っている。

腕や足を数本のベルトで絞めており、まるで拘束衣を着用しているように見えた。



「!! その甲冑は……」



シグナムは秋人の騎士甲冑を見るなり驚きの表情になる。

「どうした?」と声を掛けると、首を横に振るだけ。

そして小さく「何でもない……」と呟いた。

秋人は一言「そうか」と言い、ロイガーを何とかなだめ起動させる。

ロイガーは右腕に装着され、漆黒の手甲と黄金色の爪となった。

秋人は指を折り、爪を前に曲げた。

キシ、っと金属が擦れる音が鳴り身体全体に感触が伝わる。

感じは悪くない。



『おい馬鹿主。あの女と戦うのか?』

「ああ、そうだ。嫌か?」



秋人の言葉にロイガーは少し興奮気味に答えた。



『いや、悪くない。なんせ久々に暴れられるんだからな』



ロイガーの言葉を聞き、秋人は小声で話しかけた。



「……分かっているな」

『うるせぇな、分かってるよ。やり過ぎなきゃいいんだろ? 簡単だって』

「もし約束を違えた場合……」

『違えた場合どうするってんだ、馬鹿主?』

「貴様を破壊する」



ヤスリのような声だった。

それまで軽口を叩いていたロイガーの口が止まる。

もしロイガーが人間だったら身体が震えていただろう。

それほどに冷たく、恐怖を覚える声色だったのだ。



『……それくらい分かっているって、安心しろ』

「…………」

『だからそんな怖い顔してんじゃねぇよ。俺様を信じろって』



秋人はため息を吐いた。

本当に理解しているのか分からない。

だが、今は相棒を信じるしかない。

秋人達の会話が終わったことを知ったシグナムが話しかける。



「作戦は決まったか?」

「ああ、なんとかな」

「では……行くぞ。構えをとれ」

「…………」



レヴァンティンを鞘から抜き、攻撃に備える。

秋人も構えをとった。

足を前後に開き、右手をダラリと下げ右足の横に置き、左手は水平に構えた。

経った今、二人は対峙した。




















荒野に風が吹く。

しかし、荒野は一瞬にして無風に変わる。

風に両者の闘気が伝わったかのように弾け飛んだのだ。

シグナムはジリジリと足を進め距離を詰める。

対照的に秋人は動かなかった。

あの構えのまま微塵も動かない。

まるで山のようだ、とシグナムには感じられた。

一分、二分と時間がゆっくりと過ぎる。

互いに額には汗が浮かんでいる。

張り詰めた沈黙。

心地よい緊張感。

心が安らぐのを二人は感じていた。

だが、突如としてその安息は破られた。



『だぁー、サッサと戦え!! 貴様が行かないなら俺様がやる!!』

「なっ……!」



ロイガーは秋人を引っ張る形で動き出した。

仕方なしに秋人は足に魔力を集中させる。

それまで引っ張られていた秋人だが、突如として凄まじい速度でシグナムに向かい駆ける。

速度上昇魔法『旋剄』を使ったのだ。

その速度は風の如く、見る見るうちにシグナムとの距離が縮まっていく。

至近距離まで近づき、左足で蹴り上げる。

かわされるが蹴りの反動を利用して回転し、ロイガーで裏拳を叩きこむ。

だが、シグナムはレバンティンの柄で拳を防いでいた。

がら空きの胴体に秋人は蹴りを入れる。

しかし、シグナムはバックステップでそれをかわし一旦距離をとる。



「やるな相沢。ここまでとは思わなかったぞ」

「それはどうも」



今度はシグナムが秋人に近づく。

上段からの攻撃。

手甲で防がれるが構わず攻撃を続ける。

シグナムの突きは鋭く、秋人はかわし切れずに左肩に当たる。

次に切り上げ。

これはかわせたが、体勢を崩し転んでしまう。

好機と取ったシグナムは一気に詰め寄り、剣を振りかぶる。

その隙を秋人は見逃さなかった。

レヴァンティンの柄尻を蹴り上げる。



「くっ……!」



シグナムの手からレヴァンティンが離れ、後方の大地に突き刺さる。

秋人はすぐさま立ち上がり体制を整え、攻撃を開始する。

爪がギラリと光り、シグナムの喉元を狙う。

ガキっ、という異音が鳴り響いた。

秋人は少し笑みを浮かべる。



「まさか、鞘を盾代わりにするとはな」



シグナムは腰元にあった鞘を引き抜き、爪を防いでいた。

秋人は左手の手刀を繰り出す。

それを最小限の動きで回避し後方に下がる。

下がりながら剣の柄を握り、引き抜いた。

シグナムの手に剣が戻る。

相対しながら二人は笑った。

楽しかったのだ。

美しかったのだ。

相手の剣捌き、体捌きが。

ずっとこの対戦を続けたい。

だが、そうは思わない者も居た。



『チンタラやってんじゃねぇ!! 俺様が本当の戦いを見せてやるぜ!!』



ロイガーはそう言うと、手甲をスライドさせ薬莢を排出した。

膨大な魔力がロイガーに現れる。

そしてロイガーの姿は変わる。

手甲が巨大化したのだ。

爪は手甲に飲み込まれ、爪先しか見えない。

その形態は、まさに巨人の腕。

ロイガーは肘に付いているブースターを点火させた。

秋人は足に力を入れ踏んばる。

ロイガーにやめるように言うが聞き入れてはくれなかった。

ブースターの出力は上がり、秋人の足が地面から離れた。

徐々に加速する身体。

シグナムは咄嗟に避けようとしたが、足に違和感が走った。

どうやら先程の移動で足を挫いたらしい。

苦々しい表情で自らの足を見て秋人の瞳を見る。

アイコンタクトで動けないことを伝え、秋人は頷いた。

右腕に力を入れ、力の流れを変える。

シグナムの直前で、



「うらぁぁぁぁぁッ!!」



地面に突き刺し穿った。

耳をつんざくような大音量が広がり、大地にはクレーターが出来ていた。

荒い息を吐く秋人。

ロイガーを待機状態に戻し、騎士甲冑を解く。

ロイガーはすまなそうにしていたが無視し、シグナムに話しかける。



「大丈夫か?」

「あ、ああ。私は大丈夫だ。それよりお前の腕は……」



秋人は右腕を見た。

無理な力を入れたからだろう。

血管が破れ、血が噴き出している。

秋人は頬を掻き、苦笑した。



「笑っている場合か! 帰ってシャマルに治療して貰わねば」



そう言うとシグナムは詠唱を開始した。

足元に魔法陣が現れる。

二人の姿は荒野から姿を消した。




















戻るや否や、リビングに居るシャマルの所へ連れて行かれる。

シャマルは驚いていたが、シグナムの説明を受け頷いた。

シャマルは首に下げている鎖を通した金の輪を手に取り、起動させた。

金の輪は指輪になり、両手の人差し指、薬指に装着される。

指輪型のデバイス、クラールヴィントだ。

秋人の右腕に指を当てると、柔らかい光が溢れ出した。

その光を見ているだけで温かくなるような気がした。

暫くその状態でいると傷は塞がり、痛みを感じなくなった。

軽く腕を振ってみる。

問題はないようだ。



「ありがとうな、シャマル」

「いいえ、このくらい大丈夫ですよ」



と、ここであることを思い出した。

シグナムの足だ。

確か挫いていた筈だ。

秋人はそのことをシャマルに告げた。

当の本人は忘れていたようで、今更気が付いたようだ。

足を見ると、青く腫れている。

相当痛い筈だ。

だが、シグナムは平然としていた。

シャマルは苦笑するとクラールヴィントをシグナムの足に当てる。

腫れは見る見る引いて行き、数分もすると正常に戻る。

シグナムは礼を言うと、はやての様子を見に行くと言い、リビングを後にした。

シグナムが居なくなると、シャマルは苦笑しながら秋人に話しかけた。



「シグナムったら秋人さんのことが余程心配だったんですね」

「そうなのか?」

「ええ、だから自分の怪我のことなんか忘れちゃたんです」

「……そう、か」



秋人は複雑な顔をした。

何故、シグナム達のことを拒絶したんだろう。

自分の怪我よりも秋人のことを心配してくれるような心優しい奴等を、と感じた。

自分が馬鹿らしくなった気がした。

そう、馬鹿なのだ。

物事を自分の目からしか見れない。

秋人の悪い癖だ。

だが、今回のことで気付けた。

客観的に見ることで、新たな発見がある。

苦笑する。

心が温かくなったのだ。

独りではないという思いが溢れて。






その後の夕食。

今日の食事はシャマルが手伝ったそうだ。

白米、大根の味噌汁、カボチャの煮物、鶏肉の照り焼き、皆美味しそうだ。

シャマルは皆の反応をうかがう為に後で食べるそうだ。

手を合わせ、早速頂く。



「もぐ……」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」



全員の手が止まる。



「? 皆さんどうかしました?」



いち早く正気を取り戻した秋人が一言。



「シャマル……この煮物、砂糖は入れたか?」

「はい。ちゃんと入れましたけど?」

「そうか、じゃあ聞くが……何故辛いんだ!?」

「ええぇ!? そんな筈は……」



シャマルは煮物を口に含む。

顔色が変わった。

だが、笑顔だ。

その笑顔は引き攣っているが。



「お、美味しいですよ?」



明らかに嘘だ。

秋人はシグナムに聞いてみた。



「単刀直入に聞く。美味いか?」

「……何とも言えないな……」

「……はやては?」



はやてはすまなそうにした後一言「不味い」と言った。

落胆するシャマル。

全員が箸を置いた。

仕方なく、秋人がその日の夕食を作り直した。

簡単に作ったパスタ料理だったが美味しく、ヴィータは渋々ながらお代わりまでした。




















洗い物が終わり、秋人は八神家を後にした。

その道すがら、ロイガーに話しかける。



「何故、勝手な真似をした?」



ロイガーは黙っている。

暫く黙っていたが、静かに口を開いた。



『このままではいけないと思ったんだ』

「いけない? 何がだ?」

『……ヴィンセントの旦那の言うことも分かるが、貴様はこのままでいいのか?』

「……それは」

『自分を偽り続けて、それで満足か?』



何も言えない。

何も言わない秋人にロイガーは続ける。



『俺様は嫌だね。そんな生き方は性に合わねぇ。あーあ、何でこんな根暗野郎が主なんだろうなぁ。いっそシグナムのデバイスになりたいぜ』

「根暗じゃ、ない……」

『あぁ? 貴様のどこが根暗じゃないというんだ? ウジウジ考えて勘違い起こした馬鹿のどこがだ?』

「…………」



俯く秋人。

その態度に気まずさを感じたロイガーは最後にこう言い足した。



『……まぁ、気付けたことは評価してやらなくもないな』

「……ありがとう」

『それは俺様じゃなくてシグナム達に言ってやれ』

「……ああ。いつか、な……」



そう言い、空を見上げる。

月には雲が覆いかぶさっていた。

梅雨が近づいているらしい。

暫く歩くと、ポツポツと雨が降り出した。



「やぁ、また会ったね」

「お前は……」



秋人の目の前に現れたのは、以前出会った秋人と同じ顔の男だった。

男は傘を差し、もう片方の手にも傘を持っている。

男は微笑むと傘を差しだした。



「使いなよ。濡れちゃうよ?」



それを見つめ、首を横に振る。

すると男は肩をすくめ、残念そうな表情をする。

秋人は違和感を感じた。

以前の様な嫌悪感を抱かないのだ。

以前は狂おしいほどの感情が溢れていた。

だが、今回は何も感じない。

そう感じないのだ。

男の存在そのものを。

秋人はかつてからあった疑問を口にした。



「お前は、何者だ?」



すると男は不思議そうに首を捻った。

そして「ああ、そうか」と手を打ち、頷く。

一人納得し、優しい笑みを浮かべる。



「自己紹介がまだだったね。僕の名前は四季、四宮四季だよ」

「四宮、四季……」



声に出し反芻するが、やはり心当たりはない。

四季は続けた。



「知らないのは当然だよ。この前が初対面なんだから」

「なら、何故俺の名前を知っている?」



その言葉を聞くと、四季の表情が変わった。

何かに耐えるような、辛い表情に。

四季は重々しく口を開く。



「ごめん。その質問には答えられないんだ」

「……何故だ?」

「答えたら、君は壊れちゃうから……」

「壊れる? 何を馬鹿なことを」

「事実だろう? この間、逢っただけで君は精神的に追い詰められた。
 僕が知っていることを全て話せば、君は確実に壊れてしまう。それは嫌なんだ。だから、ごめんね」



四季はそう言うと、傘を壁に立てかけ踵を返した。

少し歩くと「ああ、そうだ」と言い振り向く。



「ロイガー、ちゃんと使えるようにしなよ? 舐められたままだと格好悪いよ」

――――! 何故ロイガーを知っている!?」



その問いに答えず、四季は闇に消えた。

追いかければ捕まえられるかもしれない。

だが、出来なかった。

四季の言葉が耳元で木霊する。



――――君は壊れちゃうから……。



「…………」



頭を振り、言葉を打ち消す。

そして、立てかけてある傘を手に取る。

開いて見ると、柄の部分には『秋人』と書かれていた。

思わず苦笑する。

得体は知れないが、以外といい奴なのかもしれない。

秋人がそう思った時、ロイガーが口を開いた。



『主、アイツには関わるな……』



その言葉には焦りのようなものが含まれている。

問いただすと、『駄目なんだ』を繰り返すだけ。

ロイガーは四季のことを知っているのだろうか?

だが、この焦り様は何だ?

一抹の不安が胸に宿る。

秋人は空を見上げ呟いた。



「四宮四季、か。……何者なんだ……?」




















デバイス

ロイガー

待機形態はペンダント。起動形態は右腕に装着される黒い手甲と紅き爪。性格は気性が荒く、ややいい加減。一人称は「俺様」。



デバイスフォルム

ミョルニルフォルム

手甲が腕全体を覆い巨大なハンマーのようになる。爪は手甲内に収容され、確認できるのは爪先のみ。肘の辺りにブースターがある。



技(魔法)

旋剄(せんけい)

脚に魔力を集中させ脚力を強化する魔法。爆発的なスピードを実現できるが、それ故に方向転換などが難しいなどの欠点がある。(参照:鋼角のレギオス)




















 あとがき

ラテール始めました、どうもシエンです。

ある方の紹介で始めたネットゲームですが、嵌まりました(笑)

ラテールでのPCは・秋人・と※ヴィンセント、※はやてです。

見かけたら気軽に話しかけてください。

話しかけても幸せにはなれません、友達にはなれます(笑)

そして今回の話で、秋人のデバイスを出せました。

デバイスの名前はロイガーです。

ロイガーはクトゥルー神話での風の邪神の名前です。

そした秋人の魔法『旋剄』は富士見ファンタジア文庫から発行中の『鋼角のレギオス』から拝借しました。

レギオス……大好きなんです。

勝手にパクッてしまい、雨木先生や編集の方、読者様々にはご迷惑をおかけしております。

本当にすみません!

では次回また。




作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。