第二十六話「本物と偽物。その境界線はどこか」
「アキト……?」
ヴィータの問いに答えず、秋人はおもむろに立ち上がった。
キョロキョロと周りを見渡し、何かを確かめるように手を握りしめている。
そしてため息を吐き、舌打ちをし、部屋を出て行こうとする。
「お、おいっ。アキト!」
らしくない行動に対し疑問を持ったヴィータは肩を掴み止めるが、その手はぞんざいに振り払われてしまった。
そしてこちらに振り向き、ただ一言。
「お前、誰?」
今、なんと言った?
寝ぼけているにしても、性質が悪い冗談だ。
その瞳は虚ろでなにを映しているのかがわからなず、顔つきもいつもとどこかが違うような気がした。
まるで別人だ。
誰だ、こいつは?
ヴィータはずっとこの場にいた。
秋人もこの場で眠っていた。
目は一時も離していないのだ。
だから、別人にすり替わるなどあり得ない。
秋人の問いに応えられずにいると、彼は鼻を鳴らし、まるで侮蔑するような眼でヴィータを一瞥すると部屋を出ていってしまった。
追いかけることはできたのかもしれない。
でも、身体は動いてくれなかった。
心の整理がつかず、身体が反応してくれない。
その場に座り込み、放心したまま彼が出て行ったドアを見つめることしかできなかった。
階下へと降りると、リビングには全員がそろっていた。
秋人の姿を認めるや否や立ちが上がり、秋人に近付き歓喜の声を上げる。
「秋人……よかった。ホンマによかった」
はやてはそう言うと、涙を流した。
本当に心配していたらしい。
シャマルも手放しで喜んでいるが、シグナムだけは訝しむような目つきで睨んでいる。
だが、秋人はなにも言わずに面々を眺めるだけ。
まるで初めて会ったかのような態度だ。
そんな秋人に対しシグナムは何か言おうとしたが、その言葉は美由希の言葉により掻き消された。
「秋ちゃん……っ!」
戸惑いの顔。
なにを言っていいのかわからないといった表情をしている。
二の次が出ず、パクパクと口を動かし言葉を探している。
やがて、言いたいことを胸に秘めたまま、言葉を繋げた。
「身体は、大丈夫なの?」
消え入りそうな小さな声。
彼女も感じているのだろう、これは秋人ではないと。
秋人の形をしている別のナニかだと。
でも、心配してしまう。
だって、どう見てもコレは秋人なのだから。
「問題ない」
向こうが端的に聞いているから、こちらも端的に答える。
「そう」
こんなやり取りは、初対面のそれだ。
今まで培ってきたものすべてがなくなり、始めからやり直しになってしまった。
それを苦々しく思い、秋人はみんなの顔を見渡すと舌打ちをした。
「ヴィンセントは?」
しかし、その問いには誰も答えない。
「……ヴィンセントさんなら、どこかに行っちゃったよ」
その場のみんなを代表するかのように、美由希が言った。
秋人は美由希をじっと眺め、「そうか」と呟くと振り向きその場を後にすることにした。
彼の背中にはいくつもの視線が注がれていたが、一つも、ただの一つも温かいものはなく、戸惑いの視線だけがあった。
☆ ☆ ☆
知らない街を歩く。
見覚えのない道を歩く。
自分がどこに立っているのかも分からず歩く。
自分の記憶にはない。
だが、どこか懐かしいと感じる。
矛盾している。
空を見上げるとふと、脳裏にあの男の声が響く。
――場所は……そうだな、海鳴にしよう。
「そうか……ここは海鳴」
自分が今いる地名が分かると、頭の中に海鳴に関しての記憶が蘇る。
そう、かつて自分が過ごしていた、家族と過ごしていた故郷の記憶が。
当時の記憶が。
冬二だった時の記憶が。
「まったく。なにがバイアティスは過保護だ。自分の方がよほど過保護じゃないか」
あいつの顔を思い浮かべる。
いつもニヤけていて、何を考えているかわからない表情。
頼りにならないくせに、ここぞという時は頼りになるよくわからない性質。
飄々としているのに、どこか冷めている性格。
経営ベタなのにお人好しなアイツ。
色々と思いだし嘆息すると、ヴィンセントがいそうな場所を思い浮かべるが、ここまで来る道からしてずいぶんとこの街も形を変えてしまったのだろう。
どこに何があるのやら。
ここで立ち止まっていてもわからないのなら、歩いたほうがいい。
そう考え、秋人は止めていた足を動かし始めた。
駅、臨海公園、酒屋、タバコ屋、丘の上の墓場。
色々な所を回ったが、どこにもヴィンセントはいない。
気がつけば誰もいない丘の上におり、空を見上げると茜色に染まっていた。
その色を見ると思いだしてしまう。
自分が殺された時の記憶を。
手足を固定され、生きたまま腹を裂かれ、内臓を取り出され、様々な個所をサンプルとして保管された。
アザトースの効力のためか、死ぬことなくそれを見つめていた。
見つめることしか、できなかった。
叫ぼうにも、舌と声帯はもうない。
手足を動かそうにも、そんなものは当に失われている。
何か話しているようだが、耳介もなければ外耳道、中耳もなく、聞くことさえできない。
最後には眼も抉り取られ、見つめることもできなくなった。
暗闇。
何も聞こえず、何も発せず、何もできず、何も見えず、ただ暗闇の中をたゆたっていた。
神経もあらかた取られてしまったようで、何も感じない。
ただ、身体が冷たくなる感覚だけは理解できた。
身体が重くなり、地面に沈む感覚。
そして、そこで意識は完全に途絶えた。
脳がストップをかけたのか、カスのようなアザトースの効力が切れたのかは分からないが、死んだ。
死んだ……はずだった。
だが、次に目を開けてみるとどうだ。
目の前には自分を殺したアイツの姿。
何をトチ狂ったのか、ボクの親になるとホザいていた。
そして、また暗転。
眠っている間は夢を見ていた。
愛する者の夢を――
「思い出すな」
彼女は言った。
「彼女は死んだんだ」
――楽園へ行きたい。
「…………」
果たして、この世の楽園があるとは思わない。
だが地獄はすぐ傍にある。
そう、頭の中にこそ地獄が存在する。
苦悩や絶望を抱える者は、それを頭の中で繰り返し反芻し、地獄を見る。
抜け出そうとしても抜けられない夢幻地獄。
夢ならば覚めればいいが。
幻ならば目を背ければいいが。
それは覚めることはなく、目を背くこと叶わない地獄の世界。
もし楽園があるとすれば、それはいったいどこにあるのだろうか。
それもまた、頭の中に存在するのかもしれない。
現実からの逃避。
誰しもが逃避と蔑む行為だとしても、人によればそれこそが楽園への道となる。
「そんなもの、あの娘が望んだ場所じゃない。そうだろう?」
「ああ、その通りだ」
振り向けば、声の主であるヴィンセントがいた。
その傍らにはザフィーラもいる。
「久しぶり、とでも言えばいいのかな?」
「少なくとも、ボクとは久しぶりだ」
「では改めてこう言おう。お帰り、秋人」
ヴィンセントは手を広げそう言う。
そんなヴィンセントに秋人は近寄り懐に入り、ドスッ……とそれなりに強く殴った。
にも関わらず、殴られた当人は相も変わらずに笑っている。
嬉しそうな、それでいて悲しそうな、曖昧な表情で。
「お前は秋人なのか?」
一連の行動を静観していたザフィーラが口を開く。
その表情は苦々しいものだった。
「おまえらが知っている相沢秋人ではないが、相沢秋人ではある。いや、むしろコッチのほうが本当の相沢秋人か」
「話はヴィンセントから聞いた」
「そうか、それなら話は早い」
「これからどうするのだ?」
「さあ、な」
本当ならばすぐにでも場所を移動しなければならない。
早急に移動しなければ、この街に被害がどれだけでるかわからない。
あいつらはそういう連中だ。
「主はやてや美由希たちはどうなる?」
「さあな?」
本当のことを言えば、このままこの街に留まり、今まで通りの生活を続けていたい。
せっかく知り合え、友人となり、仲間になれた連中だ。
しかし、自分がここにいれば美由希たちにもあいつらの手が伸びるやもしれない。
それはあってはならない。
「お前はどうしたい?」
「さあな?」
「お前はなにをしたい?」
「さあな?」
「お前はなにに怯えている?」
「さあな?」
頬に衝撃と熱い痺れ。
殴られた。
ザフィーラの拳に吹き飛ばされ、今秋人は地面に仰向けで寝転んでいる。
「なぜ殴られたか分かっているか?」
分かっているからただ黙って殴られたんだ。
覚えていないとはいえみんなに秘密にし、思い出した途端態度を変え、みんなを悲しませ、そのまま逃げようとしている。
許さるものとは到底思えない。
だが、こうするしか思いつかない。
他にもっといい案があるのかもしれないが、秋人にはこれが精一杯だった。
我ながらバカだと思う。
いや、バカだ。
バカだから、こんな謝り方しか思いつかないんだ。
こんな、最低な方法しか。
無言で起き上がり、服についた砂埃を落とすと秋人は背を向けてた。
「おいっ」
「お前の話は分からんよ。俺から話すことはない。話はこれで終わりだ」
背を向けたままそう言うと、そのまま歩き出した。
背中に向かってザフィーラがなにか言っているが、あえて聞こえなかったことにする。
ザフィーラは追いかけてこない。
追いかけてきたとしても、適当にあしらうつもりだったから好都合ではあるが。
そのまま道なりに歩いていると、背後から声をかけられた。
この声はヴィンセントだ。
なにか言っているが、適当に聞き流す。
だが、聞き捨てならない言葉が耳に届き、秋人は振り返った。
「怒ったかい?」
今、こいつはこのままここにいろと言った。
それはつまり、美由希たちを危険な目に合わせろということになる。
「その方が、キミの為だと思うけどね?」
「本気か?」
「ああ、もちろん。私が嘘をついたことがあったかな?」
「ボケが始まったか?」
「おやおや。ずいぶん見ない間にジョークが上手くなったものだね」
「言ってろ」
そう吐き捨てると再び歩き始める。
気持ち多少早めだ。
いや、走っていると言ってもいいかもしれない。
それなのに、ヴィンセントの声はまだ聞こえている。
足の長さが違うのだから追いつくのは容易いかもしれないが、こっちは全力疾走しているのにまったく息が切れずに話しかけてくるとはどういうことなのか。
息が上がる。
呼吸が苦しい。
タバコの吸い過ぎで体力がなくなったか?
いや、それならヴィンセントも同様のはずだ。
後ろを振り返ってみるも、相も変わらずベラベラと話しかけてきている。
どういう肉体構造をしているんだコイツは。
「辛そうだね。久々に全力疾走なんかしたものだから足元がおぼついていないよ?」
「……ッ」
こっちはほぼ意地になって走っているというのに、この余裕はどこから出てきてるのか。
そんなことを考えているうちに、目的の場所が見えてきた。
「む。加速装置! カチッ!!」
ギュン! と音が聞こえそうな効果音と共に、後ろから追い上げを図ったヴィンセントが秋人を追い抜いた。
「ゴールっ!」
門扉に突っ込み、玄関にぶつかるギリギリところで止まると、どこから用意したのかクラッカーを鳴らし、勝利者インタビューの真似をし始めた。
その数秒後あとに秋人は門を潜るが、ゼェゼェと息を整えるのに精一杯でなにも言えない。
言えないのでとりあえず心の中で言っておく。
いつから競争になった?
家に入るなり、秋人はソファに横になり、これからのことを考え始めた。
おそらく、いや、間違いなく四季は秋人が目覚めたことに気がついている。
四季と戦う為には何か事を成さなくてはならないのだろうが、それすら危険だ。
そもそも、同じ人物のクローンである秋人と四季のなにが違う?
考え方が違う。
経験が違う。
技が違う。
人を殺す躊躇が――違う。
最後のは決定的だ。
人を殺す決意をした者と、人を殺すことに何のためらいもない者とでは、決定的にその動きが違う。
決意しただけでは駄目なのだ。
決意し、それを実行に移すだけの精神力が必要となる。
だがしかし、人を殺せば、その事実は澱のように心に沈殿していく。
いつも殺した相手の声が聞こえ、地獄に引きずり込まれる。
それに耐えうる覚悟がなくてはならない。
「…………」
別の人生を歩むと決心してからは、再び人を殺すことなど考えもしなかった。
考えたくなかった、と言った方が正しいかもしれない。
ともかく、今の秋人には人を殺すだけの精神力が欠けている。
容赦なく、後悔なく、慈悲なく殺す。
それが今できるかと問われれば、答えはノーだ。
平凡なぬるま湯に浸かりすぎたのが原因か、それともヴィンセントの記憶の改ざんが原因か。
……おそらく、どちらもだろう。
記憶が戻った今でさえ思う。
戦いなんかしたくない、と。
平凡に生きたい、と。
人殺しなんて……したくない、と。
「願ったところで、それが叶うはずもない……」
四季との戦いは避けられないだろう。
四季は秋人を欲している。
狂ってしまった四季。
歯車がズレてしまった兄弟。
冬二がもし、あのまま殺されていれば。
秋人がもし、連れ出されなかったら。
あの時もし、秋人にならなければ。
考えただけで切りがないが、別の選択肢を選んでいたら今の展開になっていたのだろうか?
四季は人を殺めることなどなかったのだろうか?
……四季は、狂わずに済んだのだろうか?
「……ったく」
自分のお人好し加減が嫌になる。
記憶が改ざんされている間に、腑抜けてしまったのかと疑いたくなる。
腕で目を覆い隠し、暗闇に自らを落とす。
そうすることで、なにかが見える気がしたからだ。
だが、実際は何も見えてこない。
「当たり前だよな……」
腕をどかそうとしたその瞬間、一瞬だがなにかが見えた。
それは知っている女性のようだが、誰かは判別がつかないうちに消えてしまった。
その女性を追いかけるように天井に手を伸ばしていていた自分に気がつく。
全く、らしくない。
ボクはこういう人間だったのだろうか?
七年の間眠っていた為、これが本当に自分の自我なのか疑いを持つ。
もしかしたら、この自我もヴィンセントが作ったものかもしれない。
そう考えるが、偽りの自我をこれ以上作る意味がない為、それはないだろう。
ため息を吐くと、ふと横にヴィンセントが立っていることに気がつく。
その手にはコーヒーカップ。
無言で受け取り、一口すすり嚥下する。
その味は、昔飲んだ物と何も変わっていなかった。
それが堪らなく懐かしく、安心できた。
「……っと」
コーヒーを飲んだことでついタバコも飲みたくなり、ポケットを漁るが入っていない。
寝ている時に盗られたのだろうか?
ないと分かるとますます吸いたくなるのが心情というもだ。
しかし、生憎と常備していたタバコはすでにない。
思案していた表情を読んだのだろうか、ヴィンセントがスッとタバコの箱を差し出してきた。
「マルホロだけど、吸うかい?」
正直なところ、マルホロ系は独特のクセがあってあまり好きではない。
が、背に腹は代えられない。
一本貰うと火をつける。
じんわりと紫煙が肺の中に広がり、身体に吸収される感覚がする。
煙を吐き出すと、目の前が白く染まった。
「どうだい?」
「悪くはない。……ただ、メンソール強くないか? このタバコ」
そんな他愛のない会話をしていると、来客を告げるチャイムが小さくなった。
その音は確信を持てぬような、家の中へ入ることを躊躇しているような、すぐにでも消え入りそうな儚い印象を与えた。
壁に立てかけている時計を見てみると、すでに十七時過ぎ。
こんな時間にいったい誰だと二人で顔を見合わせていると、ドアは勝手に開き、来客はリビングに現れた。
二人の前に姿を現したのは――高町美由希。
いつもは凛としているその表情が、今は精彩さに欠けていた。
その表情を秋人は知っている。
悲しみの表情だと……。
「秋ちゃんに話があるの」
「それは今のボクにか? それとも、今までの秋人にか?」
「両方に」
表情は陰っているのに対し、その声には凛々しさがあった。
まるで、そうしていないと潰れてしまいそうな……そんな複雑な心境を伝えてくる。
「……話してみろ」
美由希は深呼吸をすると、秋人に近づき、頬をはたいた。
「…………」
今日で二度目だ。
はたかれた個所が痛みによってと赤く腫れ、頬を押さえるとじんじんとした熱が手に伝わってくる。
一方、はたいた美由希の手は震えていた。
初めて本気で人をはたいたのだ。
その心境は、秋人には理解できない。
しばらく無言が続いたが、美由希が小さく、
「謝って」
と、呟いた。
誰に謝ればいいのだろうと考えるが、その候補は多すぎ、分からない。
「誰にだ」
「はやてちゃんたち、みんなに謝って」
「謝ってどうする」
「どうするって……あんな態度とったんだよ? 謝らないと駄目じゃないっ」
そこまで聞き、なぜ美由希がここまで憤慨しているのかが理解できた。
美由希は――気づいている。
今の秋人が今までの秋人とは、まったくの別人であることに。
美由希が知っている秋人ではないことに。
気がついているくせに、謝れと言うその心が、癇に障る。
「……謝って何が変わる」
口からは勝手に言葉が漏れていた。
「今まで騙していました、すいません……そう言えばいいのか? それでアイツらは納得するのか? ボクならしない」
「それは……」
「今までの関係を白紙にするようなことを言って、アイツらをこれ以上傷付けろと言うのか?」
関係を白紙に戻すのではなく、たまに思い出し、あんな憎いやつがいた……と思いだす程度にする。
それは、秋人なりの謝り方なのかもしれないが、美由希には到底納得できない。
「逃げるの?」
「…………」
「それは逃げの考えだよ。逃げてちゃなにも変わらない。自分から変えようとしない限り、なにも変わらない。周囲が変わるのを待っていても、自分はなにも変わらないよ」
一息置いて、美由希は小さく言った。
「……だから、私は鍛練を続けてきた。過去になにを言われたかもちゃんと覚えて、それから逃げないで、鍛練を続けてきた」
美由希は、自分の流派を否定された過去を持つ。
曰く「卑怯」。
それは子供が言う些細なことだったかもしれない。
だが、美由希は確実に傷ついた。
しかし、美由希は逃げなかった。
過去ときちんと正対し、鍛練を続けてきた。
自分から逃げない為に、必死で。
秋人の逃げ道をふさぐように、美由希は続ける。
「今の君には理解できないかもしれないけど、私の知っている秋ちゃんなら逃げなかった。だから恭ちゃんとも無茶な鍛錬も続けたし、はやてちゃんたちと出会えて、絆を深めていった」
「……それは今までの秋人だ。今のボクじゃない」
「ほら、また逃げた」
美由希は勝ち誇ったような表情をし、続けた。
「人にとって大事なのは"今"じゃない。一生懸命に積み上げてきた、"今まで"だよ」
確かにそうかもしれないが、今の秋人と今までの秋人では、積み上げてきたものが違う。
……違いすぎる。
秋人はため息を一つ吐くと、口を開いた。
真実を告げる為に。
「ボクはクローンだ」
四季という存在を見て美由希はある程度推測はしていたのだろうが、それが確信に変わる。
だが、秋人から眼を逸らすことはしなかった。
「ボクの元となった者を量産する為に、作られた仮初の命。そして、その元となった者の"今まで"も引き継いでいる。だから――」
「それは違うよ」
秋人の言葉をさえぎり、今まで傍観に徹していたヴィンセントが口を挟む。
その瞳には、悲しみと怒りが現われていた。
「キミはもう彼じゃない。過去を捨て、新しく生きる。そう私たちに誓ったはずじゃなかったかな?」
冬二ではなく、あえて彼と言うヴィンセント。
そこには理由があるのだろう。
冬二とは違うという意味が。
「今のキミは秋人だ。だが、今までのキミも"秋人"だ。これは変わることがない。私が作った仮初の記憶にすがって生きていたとしても、そこで積み上げたものもあるんじゃないのかい?
もしそれを否定するなら、キミは秋人ではなく、彼と言うことになる」
そこまで言い、吸いかけのタバコを吸おうとしたが、タバコの火はとうに消えていた。
「お前も……ボクを否定するのか、ヴィンセント」
「決めるのは私じゃない、キミだ。私はただ、事実を言ったまでさ」
新しいタバコを取り出し火をつけ煙を吸い込む。
白い煙を吐き出しながら、ヴィンセントは言った。
「よく考えることだ。今のまま生きるか、それともまた秋人として人生を歩むか、それとも――いや、やめておこう。
……それより、時間は待ってくれない。決めるのなら、早くすることだ。だらだらと決めるのを渋っていると、老いて死んでしまうよ」
「…………」
ヴィンセントの言いたいこと……それは、今の自分は秋人ではないと言うことだ。
過去に戻っているということ。
今の自分として生きるか、秋人として生きるか、決めるのは、自分自身。
正しい選択肢などありはしない。
だって、それが人生と言うものなのだから。
ふと美由希を見ると、悲しそうな顔でこちらを眺めていた。
「……私、もう帰るね」
考える時間を与えてくれると言うのだろうか。
だが、いくら考えても決められるものではない。
分かっている。
このままではいけないことくらい。
しかし――
「――約束、忘れないでね」
振り向き際、美由希はそう言い残し相沢家を後にした。
瞳に涙を溜めたまま。
あとがかれ
奇妙な一致に内心驚きと嬉しさ、どうもシエンです。
先日、「コミュ -黒い竜と優しい王国-」という暁ワークスのPCゲームを購入しプレイしたのですが――似てるなあ(´・ω・)_/<ポチポチ
主人公の名前は
そして――絶賛厨二病。
異様に親近感が湧くゲームでした。
……誰か! 私とコミュを結成してくれぇ!(ぁ
え? それで誰が一番好きかって?
それは、もう――店長ですよ。
店長一択です。
店長は俺の――おや、誰だこんな時間に……アッー!
――小一時間経過。
ふぅ。
それでは、ありがとうございました。
拍手返信
※シエンさんへ>
近頃最近更新されていないようですが、大丈夫ですか?
続きを是非、お願いします
>えー、うー、あー……すみませんでした!
リアルで色々と立て込んでいまして、地味に書いていたのですが書いては消すを繰り返し、終いには、あれ? こんな風に書くんだっけ? なにか違うような気がする……。
と、自分を見失っていました。
そして現実逃避にゲームを購入、だけど積みゲーになる、を繰り返していまして、こんなに遅くなってしまいました。
これからは執筆のペースを少しづつでも戻していくつもりですので、どうかお待ちいただけると嬉しいです。
最後に――待っていてくれる人がいるって分かってすんごく嬉しいッ!!
拍手はリョウさんの手によって分けれらています。
誰宛てに送ったのか、または作品名を明記して送ってくださると助かります。
宛先や作品名などが明記されていないと、どこに送っていいのかが分からなくなるそうです。
ご協力のほど、お願いいたします。