第二十一話「夜の寵愛を受けし者たち」










紅い月。

紅い瞳。

紅き少女。

紅き
王女(すずか)











深夜のリネン室。

ヴォルケンリッターたちはそこに集まり、話し合っていた。

議題は
――――



「相沢に不審な点は見受けられなかった、だと?」

「ええ。いたって普通でした」

「ふむ……やはりアレは、一時的な暴走か」



シグナムは瞳を閉じながら腕を組み、静かに唸る。

そんなシグナムに対し、小さな少女が意見をした。



「なぁ。やっぱり、アレは何かの間違いだったんじゃないのか? アキトがはやてに何かするっていうのは、どう考えたって思えないぞ」



いつも通りに言う彼女。

だが、その瞳は不安に泳いでいた。

そんな彼女に向かい、シグナムは言う。



「だが。相沢が引き起こしたことを忘れたわけではあるまい。あのままだったら、私たちがどうなったかは……分からないわけではないだろう」

「それは……」



彼女たちは魔法プログラム。

身体を構成している魔力がなくなれば、消え去るのみとなるのが通り。

閉じていた瞳をゆっくりと開け、シグナムは決定事項を告げる。



「これからは、主はやてと相沢が共にいる場合は、我々のうち誰かが付くことにする」



この決定にいち早く反対したのはヴィータ。

しかし、その意見は通らない。

彼女も分かっているのだ。

主の命が最優先だということを。



「そんなの……」



理不尽だ。



「では、これにて解散とする。ザフィーラ、監視を頼む」



声には出さずザフィーラは頷き、その場を後にした。






少年部屋の前まで赴き、ふすまを開ける。

部屋の中を見渡し秋人を探すが、そこに秋人の姿はなかった。

どこに行った?

はやての部屋に行ったとは考えられない。

もし行ったのならば、同室のシグナムたちから何かサインが送られてくるはずだ。

しかし、それはない。

ということは、出かけているということだろう。

ここは旅館の中で部屋は分かれているが、同じ屋根の下に居るのだ。

はやてに危険が及ぶ可能性も捨てきれない。

探す為に、ザフィーラは瞳を閉じた。

感覚を研ぎ澄まし、必要のない感覚はシャットダウンする。

視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚……これらをすべて取り外し、第六の感覚器官『魔力』を頼りに探す。

意識が身体から遠ざかる。

ここではないどこかに、自分が立っている感覚。

自分を上から見ているような、違和感。

範囲を広げ、もっと遠くまで
――――



――――……海岸」




















すずかは秋人の姿を見て、ニコっと微笑んだ。

だが、その表情は今まで一度たりとも見たことがない顔だった。

こんな顔は見たことがない。

こんな
――――妖艶な表情は。



「すずか……?」



おずおずと尋ねてみると、すずかは微笑んだまま応えてきた。



「なんですか秋人さん? どうしてそんな不思議な顔をしているんですか?」

「何故……こんな所に居る?」



その問いに、すずかはクスクスといった笑いをもって答える。



「簡単なことですよ。だって、今日はこんなにも月が綺麗なんですもの。見たくなるのは当然でしょう? クスクス……おかしな秋人さん」



違う。

そんなことが聞きたいんじゃない。

何故ここにすずかが居ない(・・・・・・・)のかが聞きたいんだ。

ここに居るすずかは形はすずかであっても、いつものすずかではない。

すずかはこんな表情はしない。

何を考えているか分からないことは度々あるが、こんなにも全く分からないことなどなかった。

……いや、それがそもそもの間違いなのかもしれない。

今まで見てきたすずかは偽りのすずかであり、今目の前に居るすずかこそが本物の月村すずか(・・・・・・・・)なのかもしれない。



「……一応聞いておく。お前の名前は?」

「うん? どうしてそんなことを聞くんですか? 知っているくせに」



また笑う。

本当に可笑しそうに。

楽しそうに。



「いいから言え。お前の名前は?」

「月村すずかです。では、こちらからも質問を。あなたの名前は?」



その問いには答えなかった。

明らかにこちらをおちょくっていると分かったからだ。



「私は答えたのに、秋人さんは答えてくれないんですね。少し残念です」

「何を言っている。さっきも今も俺の名前を言っただろうが」

「そう言えばそうでしたね。ウフフ……」



垣間見せたその笑みは、いつものすずかの笑みそのものだった。

では、本物?

いや、真似ているだけの可能性もありうる。

ならば『誰』。

誰が……思い当たる人物は一人しか知らない。

“四宮四季”。

だが、『どうやって』。

あの男も魔導師だとでもいうのだろうか?

……ありうる。

自分と同じ姿形なのだ、その程度の偶然はおかしくない。

むしろ必然と言える。

そして最後の疑問。

『何故』。

何故、月村すずかという人物の姿をとって秋人の前に現れたのか。

油断させる為?

それもあるだろうが、それならばもっと効果的な人物が居るはずだ。

例えば、“八神はやて”。

最近会ったばかりだが、すずかよりも親しいと言える人物である。

そして……“高町美由希”。

こちらに越してきてから仲が良くなった女性。

油断させるならば、美由希に化けた方が効率的だと思う。

男……特にヴィンセントに化けないのは言わずもがな。

あの男には多大なる信頼を寄せているが、それと共に容赦のなさも持ち合わせている。

そして、もし秋人を殺したいのだったらヴィンセントに化けるのは一番得策ではない。

あの男の奇妙な行動の多さは異常だからだ。

いきなり攻撃を仕掛けてくることも分かっているはずである為、メリットがない。

いや、待て。

攻撃を仕掛けることを前提に化けているのだろうか?

ならばおかしい。

この前も会った時にも攻撃するチャンスはいくらでもあったはずだ。

人目につやすい場所だったから仕掛けてこなかった?

それとも、何か聞きたい情報があった?

情報……しかしそんなものは知らない。

無論、知っていたとしても言わないが。



「どうしたんですか? いきなり黙ったりして」



仕掛けてくるような動作はしていない。

ならば、こちらから仕掛けてみるか。



「すずか。一つ聞きたいことがある」



その問いに、「何ですか?」とすずかは答える。



「お前の姉……月村先輩の彼氏の名前は?」

「恭也さんです」

「なら、恭也の歳は?」

「十九歳です」

「正解。アイツは一回留年しているからな。では最後の質問」

「ちょっと待ってください。最初に、『一つ』と言ったじゃないですか!」

「まぁ、細かいことは置いておけ。では質問
――――ヴィンセントさんのホクロの数は?」



最後の質問が放たれた瞬間、すずかはキョトンとした表情となり、首を傾げる。

ヴィンセントのホクロの数。

この質問に何の意味があるのかは分からないが、はやての家に遊びに行き、秋人の醜態を見た後にヴィンセントと話した時に聞いた覚えがある。

ホクロの数は……。

おずおずと口を開き、答えを口にする。



「に、二十六個……」

「ファイナルアンサー……?」

「ふぁ、ファイナルアンサー……!」

「…………」

「…………」



長い長い沈黙。

そのあまりの長い沈黙に耐えきれないのか、すずかの額からは油汗が滲みだしている。

対照的に秋人の表情は涼しげだ。

ふいに、秋人の口元が歪む。



「残念。正解は二十七個だ」

「そんな! 確かにあの時、ヴィンセントさんが自分で二十六個だって!」



すずかの困惑する表情を見ながら、秋人はニヤニヤと笑みを作る。



「そう、確かにそう言った。あの人は初めて会う人に自分のホクロの数を必ず教える。だが、それは真実ではない。必ず一つ少なく教えるんだ。
だが、これで疑いが晴れた。このことを知っているのは俺だけ。そして今聞いたお前だけだ……お前は正真正銘“月村すずか”ということになる」



心なしかホッとする秋人。

しかし油断はしない。

本物のすずかだと証明できても、今のすずかは明らかに異常だ、正常ではない。

だが、そんな秋人の不安を知りもせずにすずかは話しかけてくる。



「もう、そんなの反則じゃないですか。ホクロの数で本物かなんて判別するなんて……でも、これで信じてもらえましたよね? 私は本物のすずかだって。
でも、何で私が偽物だなんて思ったんですか?」



自分の今の状態に気がついていないのか、すずかはそんな質問をしてくる。

いつもの全く違う雰囲気。

纏っている気配も異質。

そして何より……その紅い瞳。

決して充血などでなったものでないのは明白だ。

それなのに、自身は全く気がついている様子がない。

これは一体どういうことなのか。



「すずか……身体がおかしいとか、そんなことはないか? 例えば頭が痛いとか、眩暈がするとか。何でもいい、教えてくれ」

「いいえ、そんなことはないですよ? むしろ、いつもより身体が軽い感じさえします。でも……」



そこで言葉を区切り、すずかは秋人を見つめる。

明確には、秋人の首筋を。



「身体が熱いんです……火照って火照って……自分じゃどうしようもないんです。……それに喉も凄く乾いて……」

「すずか……?」



すずかは自分の肩を抱きしめ、悶えるように身体を震わせた。

まるで薬物中毒症状を起こしている患者のような振る舞い方だ。

薬物……いや、すずかに限ってそれはないだろう。

このご時世、いくら子供でも簡単にドラッグを手に出来るといっても、すずかは芯がしっかりとしている子だ。

それはありえない。

それに、比較的簡単に手に出来る(スピード)
――覚せい剤――でも身体が火照るなどという禁断症状は出ない。



(じゃあ、LSD(エル)か?)



LSD……幻覚剤(サイケデリックス)であり、アシッドなどとも呼ばれている。

幻覚剤(サイケデリックス)とはその名の通り、服用すると幻覚、主に視覚変容をもたらす向精神物質である。

LDSは二十から二百マイクログラムという極めてわずかな量で効果を及ぼす為、数百倍に希釈されて使用される。

最もポピュラーなのはLDSを含んだ溶液を濾紙に染み込ませたペーパー・アシッドと呼ばれるドラッグである。



(いや、その線はないだろう。もし日常的に服用していたら、ありもしない幻覚を見ているはずだ。しかし、すずかはしっかりとしている。
なのはもすずかの様子がおかしいなどとは一切言っていない)



様々な憶測や推測が頭の中を流れては消えていく。

頭の中にある様々な知識や経験を総動員させてはみるが、一切糸口が見当たらない。

まるで袋小路に迷い込んでしまったようだ。

手探りで暗闇の中を歩いているような不安感が集る。

もしもの時の為に身構えた格好のままの秋人に、すずかはおぼつかない足取りで近づいてくる。

その足取りはまるで夢遊病者のようだった。



「秋人さぁん……もう私、我慢できないんです……」



そう言いながら、なおも近づいてくる。

秋人は動かなかった。

否、動けない。

まるで催眠術にかかってしまったかのようにその場に縛られている。



「ふふふ……」



笑みを見せたすずかの口元には、本来あり得ない物が伸びていた。

牙。

普通の人間ではそこまで発達しないだろうその犬歯は、読み漁った文献の中で度々出てきたものと一致した。



「吸血鬼……」



すずかはちろり……と牙を一舐めする。

その表情は、小学生とは思えないほど酷く淫猥だった。



「ねぇ……いいでしょう?」

「あ……だ、駄目……だ」



必死で絞り出した声。

だが、その声を聞いてすずかはクスクスと笑う。



「でも、秋人さん動かないじゃないですか。本当は期待しているんでしょう? 私たちに血を吸われると、性的快楽に似た快感が訪れることを知っているんでしょう?」



確かに文献の一部にそのようなことが書いてあったのを思い出す。

しかし、その時は嘘だと思っていた。

吸血鬼など居やしない。

所詮は人間が書いたオカルト話。

信じなかった。

しかし今は……信じるしかない。

だって……目の前に居るのだから。



「ふふふ……」



すずかは背伸びをし、秋人の首筋に牙を当て、その皮膚を破ろうとする。

その時
――――



――――っ!」



何者かが秋人とすずかの間に割って入った。

突然の乱入者に驚いたのか、すずかは秋人から離れる。

乱入者のその姿は、二人がよく知る姿。

蒼き狼。



「ザフィーラ……」



ザフィーラは何も言わずにすずかと正対する。

すずかもすずかで、せっかくのご馳走を邪魔されたとばかりに牙をむき出しにし威嚇している。



吸血鬼(ヴァンパイア)狼男(ライカン)、か……レン・ワイズマンが見たら喜ぶだろうな)



苦笑しながらそんなことを考えていると、ザフィーラからの念話が頭に届く。



『秋人。これはどういうことだ?』

『さぁな。俺にも分からん。ただ言えることは……すずかを傷つけるな。それだけだ』

『……甘いな』

『甘くて結構。……子供に怪我させるのは性に合わないだけだ。それも知り合いだと特にな』

『……行くぞ』

『ああ。目的は対象を行動不能にすること。魔法は一切使用禁止。以上だ』



二人は同時に動き出した。

秋人は右から、ザフィーラは左から。

左右からの挟撃。

だが、それはかわされる。

後ろに避けたのならば、それは無意味だった。

何故なら、そのまま軌道をずらせばすぐに追いつくからだ。

しかし、すずかは前に避けた。

いや、一歩進んだだけだ。

それだけで避けるには充分だった。



「ちぃ……ザフィーラ!」



秋人の声に応える形となり、ザフィーラはすずかに向かいタックルを決める、が、すずかはそれを避けようともせずに受け止めていた。

両の手でザフィーラの上顎と下顎を掴み噛まれないようにしながら、両足に力を入れて放り投げた。

普通の……いや、鍛えた女の力でもザフィーラを放り投げることなどできはしない。

しかし、すずかはやってのけた。

あんな細い腕で。

舌打ちをしながら秋人は服の中に手を入れ、背中へと伸ばした。

服の中から出てきたその手には、刃渡り二十センチはあろうかというナイフが握られている。

これで傷つけるのではない。

あくまでナイフは威嚇、牽制用だ。

だが、それがなんだと言わんばかりにすずかは笑っていた。



「それでどうするつもりですか? 私を傷つけて、私の血を飲むんですか?」



秋人は何も言わずにすずかの左半身に向かいナイフを投擲した。

すずかは軽々と避ける。

当たらないことなど先ほどの動きを見ていれば分かっていた。

だからこそだ。

今の投擲は、すずかを右に誘導するための布石。



「……っ!」



すずかの移動した場所にはすでに秋人が待ち構えていた。

避けようにも、今は空中に居る為、身動きが取れない。

秋人は素早くすずかの背後に回り込み、首を取る。

そして頸動脈を正確に絞めた。

ジタバタと動き、秋人の身体にはいくつもの傷ができるが決して腕は首から放さない。

しばらくそうしていると、すずかの動きがみるみる鈍くなり、手足はダランとなる。

……落ちた。



「ふぅ……」



首から腕を外し、砂浜に寝かす。



「気絶させたのか」

「ああ。怪我もさせていない」



戻ってきたザフィーラは普通に喋っていたが、右足が浮いていることから怪我をしていることが分かる。

怪我の程度を見ようと近づこうとすると、新たな気配。

すぐさま戦闘態勢に入り二人は気配のした方向へと視線を向ける。

そこには……。



「ああ。大丈夫大丈夫。何もしないって」

「月村先輩……」



月村忍がそこに居た。




















忍にすずかの様子がおかしかったことを説明すると、忍は顔をしかめて秋人を見つめる。



「んー。秘密にしたいんだけど……駄目だよね?」

「ええ。駄目です」

「やっぱりね。じゃあ、どこから話そうかな……」



忍はとつとつと語り始めた。

今回のすずかの暴走は、無意識のことだという。

まだ幼いすずかにとって、吸血鬼の血というものは重いものらしい。

自分たちは『夜の一族』と呼ばれる吸血鬼だということ。

ある一定の時期に入ると発情状態になってしまうこと。

そして、このことを知った者は夜の一族に加わるか……つまりは婚約するということだろう。

もちろん、婚約破棄などはできない。

そしてもう一つ、友人として過ごすか。



「どうする? すずかと婚約する?」

「先輩……冗談でしょう?」

「そう? 相沢君ならすずかも懐いているし、いいかと思ったのに」

「はっ。冗談じゃない。この歳で……いや、こんな歳の娘と婚約なんてできませんよ」

「そっか。残念。もし君がすずかと婚約したら、恭也とは義兄弟になれなのに」

「え……? 恭也も知っているんですか?」

「うん。ああ、すずかのことでバレたんじゃないよ? 私のことでちょっとね」

「そうですか……」



恭也のことだ。

他言はしないだろうし、信用もされている。

そして、そもそも気があったんだろう。

だから、婚約のことを受け入れた……そういうことだろう。



「あっ、そっか。美由希ちゃんと結婚しても恭也とは義兄弟になれるんだ。それは失敗」

「何でそこで美由希の名前が出てくるか分かりませんが、恭也とは兄弟になりたくはないですよ」

「そう? じゃあ、話は変わるけど次はこっちが聞いてもいいかな?」

「うん? 聞くことなんてないでしょう?」

「あるんだな〜、これが」



意味深な笑みを見せ、忍は秋人ではなくザフィーラを見つめる。



「ザフィーラって、普通の犬じゃないよね?」

「何を言いだすかと思えば……どこからどう見ても普通の犬じゃないですか。……少しばかりデカいですが」

「でも喋ってたよね?」

「…………」



聞かれていたらしい。

それもそうだ。

戦闘が終了して気が緩んでいたのだ、仕方あるまい。

全く、本当に自分は暗殺者なのだろうか?

ため息を吐くと、秋人はザフィーラに視線を送る。



「ザフィーラ、もう無理だ」

「……そのようだな」

「わっ。本当に喋った」

「先輩……?」

「いや〜。本当に喋るとは思わなくて。聞き違いかな〜とか思ってたんだけど……しかも声が渋い」



忍は乾いた笑いをすると、カラカラと笑った。

そんな忍に対し、ザフィーラは静かに告げる。



「間違った認識がされているようだから訂正しておく。私は犬ではない、狼だ」

「うん。見れば分かるよ」

「…………」



秋人は思わず苦笑してしまった。

確かに犬と言われればそれまでだが、ザフィーラはどう見ても犬の大きさではない、狼のそれだ。

忍は苦笑している秋人にも視線を合わせてきた。



「最後は相沢君に聞きたいんだけど」

「え? まだあるんですか?」

「うん。……相沢君って、何か武術している? 恭也みたいなの」

「……恭也とは少し……いや、だいぶ違うかな」



言葉を濁しながら言うが、忍はそれを許してはくれない。



「ちゃんと言って。それって、フェアじゃないよ」

「…………」



しばしの逡巡。

言ってしまっていいのだろうか?

このことはまだはやてにも言っていない。

恭也と美由希にはそれとなく伝えたが、それは二人とも御神流の裏の顔を知っているからだ。



(先輩は全て教えてくれた……でも俺のは教えていいのか? 教えたら俺は……)



歯止めが利かなくなってしまうのではないか?

秋人が暗殺者だと知る者は少ない。

しかし、そのお陰で自分が暗殺者だと認識することを鈍らせているのだ。

もし忍にまで知られてしまったら、本当に人を殺してしまうような暗殺者になってしまうのではないか。

暗殺者としての師匠たるヴィンセントは言っていた。



――――もし人を殺してしまったら、死に顔は見ない方がいい。一生囚われることになる。後悔という念にね。もちろん、忘れてもならない。
    殺したのは自分なのだから。人生を奪ってしまったのは自分なのだから。幸福を奪ってしまったのは自分なのだから。いいかい。忘れないことだ。



「…………」

「秋人は暗殺者だ」

「ザフィーラ!?」



悩んでいた秋人に代わり、ザフィーラが答えてしまった。



「黙っていてもいつかはバレる。ならば、今ここでハッキリと言ってしまった方がいい。安心しろ。お前はその程度じゃ自分を見失わない。私はそう信じている」

「ザフィーラ……」



ザフィーラの言葉に嘘偽りはない。

本当に信じていてくれていると実感できた。



「そっか……だからあんな動きができたんだね。納得。じゃあ、もう遅いからお開きにしよう」



そう言うと、忍はすずかを抱きあげて旅館へと足を向ける。

しかし、最後にこちらを振り向いて言った。



「絶対に、言わないでね。信じているから」



そう言い残し、忍たちの姿は闇の向こうへ消えていった。




















 あとがき

すずかがエロい! と言われました、どうもシエンです。

今回の話で、すずかと忍の秘密を知った秋人。

ですが、彼の態度は変わりません。

元々、他人とどこか違うのは当たり前を地で行っている男ですから。

そしてザフィーラの出番が
――――せっかく出たのに良いとこなし(泣)

嫌いじゃないんですよ? むしろ大好きです(ガチムチ好きではあらず)

ですので、ちょくちょく彼に出番を与えるつもりです。

では、また次回お会いしましょう。



拍手返信

※シエンさんへ、クトゥルー神話なんて崖の上のポニョかでもみました?

>いえ、クトゥルー神話はTRPGで知りました。
『崖の上のポニョ』にクトゥルー神話要素があるんですか? それは……見なくてはなりませんね!



※シエン殿へ。よもやサンホラーだとは思いもよりませんでした。とはいえ、何が変わるわけでなし。
「神に挑む者」を変わらず楽しませていただきます。お体に気をつけて頑張ってください。

>実はサンホラーでした(ぁ
とあるお人の伝手で知り合ったお方から教えてもらったのですが……ハマりました。
私の駄文なぞで楽しんでくださって、大変恐縮です。
そして温かなお言葉、ありがとうございます。



※シエンさんへ序盤の所々、サウ○ドホライ○ンですか?

>はい、そうです。Sound Horizonです。
あの独特の世界観は心に響き、創作意欲が湧いてきます。
今回はそのあまりの良さにパクってしまいましたが……(汗)
パクりまくってしまい、大変申し訳ありません。



※シエンさんへ。神に挑む物の感想、残念だったねぇ!

>残念って、何がですか!?
私は何もやましいことはしていませんよ!?(ビクビク)



追記

拍手はリョウさんの手によって分けれらています。
誰宛てに送ったのか、または作品名を明記して送ってくださると助かります。
宛先や作品名などが明記されていないと、どこに送っていいのかが分からなってしまうそうです。
ご協力のほど、何とぞお願いいたします。





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