第三話「始まりの日」










ビアン・ゾルダーク。

ディバイン・クルセイダーズ。

そう、すべてはここから始まったんだ。

すべての戦争の幕開けは、ここから
――――











ミッド基地の滑走路が見えてきて、通信で着陸許可を得ると、タウゼントフェスラーは着陸態勢を整える。

気流の影響か、機体が激しく揺さぶられる。

やがて、何か固いものにぶつかったような音がし、機体はゆっくりと減速していく。

着陸したのだ。

やっと着いたことによりケイスケはため息を吐き、伸びをした。

三人が自分の機体から降りるとハッチが開き、眩しい陽光に格納庫内が照らされた。

光に目が慣れ、瞼を開けると、そこには幾人かの軍人が敬礼をし立っていた。

三人も敬礼で返す。

ヒゲを蓄えた恰幅のいい男が近づいてくる。

階級は大尉のようだ。



「よく来た。ミッドチルダ連邦軍クラナガン基地へ」

「はっ。アキト・アイザワ中尉以下二名、定刻通りに無事到着いたしました」

「ふむ……。本当に『無事』だったようだな」



大尉はタウゼントフェスラーに付いている明らかな戦火の後を眺めそう呟く。



「まあいい。アレ(タイプT)が無事ならば、それに越したことはない。搬入を開始しろ」



その声に応え、後ろに控えていた軍人がタウゼントフェスラー内へと足を踏み入れる。



「さて、では貴官らには司令室へ来ていただこうか」

「司令室? なぜです?」

「その答えは、行けば分かる。こっちだ」



大尉はアキトの質問には答えず歩き出した。

腑に落ちないが、アキトたちも大尉に続く。

ほどなくして司令室の前へと辿り着き、大尉は顎で部屋へ入るように促す。

「失礼します」と言ってからドアを開けると、そこには三人の男がいた。

椅子に座っている男、おそらくは司令だろう。



「よく来てくれた。アキト中尉にシック准尉、そしてケイスケ軍曹。我々は貴官らの到着を歓迎する。私は司令官のレイカー・ランドルフだ」



レイカーはそう言うと、人当たりのいい笑顔を見せた。

なるほど、初対面の一平卒でさえ安心させるとは、よほどの人格者らしい。

何気なしにシックが横を見ると、こちらをジッと見つめている長髪の男に気がつく。

観察するような瞳。

それが第一印象だった。



「ん? どうした?」

「えっ? いや……別に」



シックの曖昧な返事に秋人はおかしいと感じたのか、訝しげな表情をした。

レイカーが何かを話しているが、シックには聞こえていない。

チラチラと先程の男に視線を向けると、まだこちらを見ていた。

口元には微かな笑みさえ見受けられる。



――――というわけだ。理解したか?」

「えっ……?」

「うん? どうした?」

「あっ、いえ……その、今なんと?」

「聞いていなかったのか?」

「……すみません」



一つため息を吐くと、レイカーはまた同じことを言った。



「キミらには佐世保基地よりここ、ミッドチルダ東部連邦軍ミッド基地に配属替えをしてもらう」

「それは、なぜ……?」

「キミらは任務中で知らなかっただろうが、南極でシュウ・シラカワ博士が謀反を起こし、さきほどビアン博士が全世界に対し宣戦布告を行った。これが記録だ」



指令は手元のコンソールを操作し、モニターを起動させた。

モニターに映し出された人物は紛れもなく、ビアン・ゾルダーク博士その人。

髭を蓄えた偉丈夫は、メテオ3と呼ばれる隕石の調査に乗り出した男であり、現在ではEOTI機関の科学者を務める男である。



『……もはや、人類は逃げ場を失った! 我々に必要な物は、方舟ではなく……異星人に対抗するための剣なのだ』



壇上でそう言うやビアンは周りを一瞥し、話を進める。



『本日ここで、我々EOTI機関は『ディバイン・クルセイダーズ』として新生し、地球圏の真の守護者となることを宣言する!』



高々と宣言するその言葉に、迷いは一切見受けられない。

ビアンは拳を握り、それを掲げた。



『そして、腐敗した地球連邦政府を粛正し、異星からの侵略者を退け、この宇宙に地球人類の主権を確立するのだ!
 ……今後の地球圏に必要なものは、強大な軍事力を即時かつ的確に行使できる政権である。
 だが、それは人民を恐怖や独裁で支配するものではない。我々は守るべき対象である人民に対して刃を向けることはせん。
 ディバイン・クルセイダーズの意思を理解し、地球圏と人類の存続を望む物は、沈黙を以てその意を示せ意義ある者は力を以てその意を示し、我らに立ち向かうがいい』



そこで記録画像は終了し、砂嵐と変わる。

レイカーはコンソールを操作し、モニターを切った。

その表情には、残念そうな、そしてこれから始まる戦いに対しての決意のようなものが現われている。



「これが、先ほど全世界に対し行われたEOTI特別審議会……いや、ディバイン・クルセイダーズの声明だ」



言葉が出ない。

ビアン・ゾルダークという人物のことはよく知らないが、噂では聡明で高潔な人物だと聞いていた。

それがいきなり断りもなく全世界に対し宣戦布告し、新たな組織を立ち上げるなど、一体誰が予測しただろうか?



「そんな……」



果たしてそれは誰の言葉だったのか。

口から自然とこぼれたその言葉は霧散していき、その場は静寂に包まれる。

重苦しい空気の中、ケイスケは冷や汗を掻いている。

これから始まる新たな戦争に対し、恐怖しているのだ。

シックが苦々しく舌打ちをし、顔をしかめる中、アキトはビアンの先ほどの演説を思い出していた。



――――……もはや、人類は逃げ場を失った!



異星人……異星からの侵略者たちの脅威。

それは勿論理解している。

半年前に、謎の虫型機械と戦ったのだ、それもある。

あの機動兵器は公式発表こそされてはいないが、軍内では『バグス』と呼称されている異星からの侵略兵器。

バグスは、機動性こそ高いが攻撃力はそれほど高くはない。

だが、ビアンは連邦に反旗を翻してまで異星人たちを『脅威』と言っているのだ。

それはあのバグスが量産されており、その数が計り知れないこと……そして、それ以上のものが存在していることを意味する。

知らず知らずのうちに片腕を握りしめ、震えていた。



「……そういうことだ。君らはこれより、このイングラム少佐の元で動いてもらう」



レイカーが視線を向けるその先にいる人物は、シックが先ほどから気にしている男。

冷徹な表情、冷静な瞳、冷血漢を思わせるその雰囲気……何を孕んでいるのか分からない男というのがピッタリな男だ。

イングラムはレイカーに一礼してからアキトたちに振り向いた。



「俺の名はイングラム・プリスケン。階級は少佐だ。お前らはこれより、俺の部下として働いてもらう」

「……はっ。アキト・アイザワ中尉以下二名、イングラム少佐の配下に加わります」



レイカーは一つ頷き、隣に立っている男に視線を向けた。



「サカエ。アキト中尉らに部屋の案内を」

「はっ。こちらへどうぞ」



サカエを先頭にし、アキトたちは司令室を後にした。

コツコツとサカエの足音が響く中、シックはアキトに話しかけた。



「なあ……これからどうなるんだ?」



アキトはシックの言葉から逃げるように顔を背け、瞳を閉じた。



「さあ、な。だが、これだけは分かる。この戦争、泥沼にはなるまい」



この戦争は早期終結するかもしれない。

EOTI機関……いや、ディバインクルセイダーズが強気に出たのも、共闘する勢力があるはずだからだ。

だからこそこのタイミングで宣戦布告を行った。

そう考えるのが妥当だと思われる。

カツッと靴の踵を鳴らし、サカエが止まる。



「ここがアキト中尉の部屋です。両隣がシック准尉、ケイスケ軍曹となります。では、私はこれにて」



敬礼をし、サカエは去っていく。

アキトたちはそこで解散し、それぞれあてがわれた部屋へと入っていく。

アキトはベッドの上に身体を投げ、天井を眺めた。



「…………」



戦争。

紛争。

闘争。

過去に毎日行ってたそれらの行為。

だが今は、それらのことが遠い過去のように思う。

シックとケイスケによって救われたこの身、よもやまた戦争に身を委ねるとは思わなかった。

いや、それは必然だったのだろう、それが軍人と言うものだ。



「……軍人、か。何で俺、軍人になったんだっけ……?」



軍人になったは十五年前、まだアキトが十になったばかり頃だ。

今以上に戦争が絶えなかったその頃、養父と出かけたあの日のこと。

普段忙しい養父が遊園地に連れて行ってくれたのだが、そこで事件が起こった。

海鳴襲撃事件。

連邦の体制に不満を持ったテロリストが蜂起し、見せしめのために民間人たちを惨殺した。

そこにアキトたちは居合わせてしまったのだ。

夢を見せてくれる遊園地には火の粉が上がり、悪夢を見せる遊園地へと姿を変えた。

逃げ惑う民間人。

虐殺を繰り返すテロリストたち。

アキトと養父は建物の陰に隠れてやり過ごしていたが、一人のテロリストに見つかってしまった。

まだ幼い子供。

だが、その手には銃が握られている。

金色に燃える髪は、恐怖しか呼び起さない。

そして……躊躇いもせずに引き金を引いた。

轟く銃声。

とっさに目を閉じ、開いた時には全てが終わっていた。

アキトに覆いかぶさるようにしていた養父の姿は、なぜかない。

養父を撃った少年はいなく、テロリストの姿も見えなず、生きている者もいない。

ただ一人だけ、生き残ってしまった。

フラフラとその場から離れ、園内を歩き回るが生きている者など誰一人としていない。

涙は、流すのを忘れているかのように出てこない。

何かに足を取られつまづき、頭から倒れる。

ゴンッ、と鈍い音が響き、額が割れ、血が流れ出てくる。

痛いと思ったが、それがいかほどのものなのか。

アキトが今受けている痛みなんかよりも、死んでいった者たちが受けた痛みの方が数倍……いや、計り知れないほどだろう。

だったら、こんなものは痛みの範疇に入らないではないか。

目を閉じると、今までのことが走馬灯のように思い出された。

養父との朝の挨拶から始まり、昼の喧噪の中での会話、夜の食事。

楽しかった。

だが、それはもう体験できない。

終わってしまったから。

もう、誰もいないから。

だから、この流れている涙も幻に違いない。

そう思いながら意識が刈り取られる。

次に起きた時に飛び込んで来たのは、病院の白い天井。

そしてアキトを覗き込む、心配そうな女の子の顔。

話を聞いてみると、その子の両親はあの事件で亡くなってしまったんだそうだ。

同じ境遇の子。

アキトは親近感を覚えた。

ほどなくして、二人は養護施設へと移されることになる。

元来人見知りなアキトはなかなか馴染めなかったが、女の子のお陰でなんとか暮らしていけた。

数年経ち、アキトは軍に志願する。

理由は簡単だ。

復讐。

ただそれだけ。

女の子はもちろん止めたが、アキトは聞く耳を持たなかった。

治安が不安で軍人が少ない今、少年だろうがすぐに採用してもらえた。

そこで一生懸命働き、パーソナルトルーパーの操縦技術を学び、パイロットとなる。

そして転機が訪れた。

アキトの特殊部隊への転属が命じられたのだ。

特殊鎮圧強襲部隊『命を無視された戦士(ゲシュペンスト・イェーガー)』。

この部隊ならば、あのテロリストたちに近づくチャンスになると思い、二の句を告げずに了解した。

だが、それがいけなかった。

その部隊は少年兵が大多数を占めていた。

最初は珍しいと思ったが、後になり理由は容易に分かった。

力量の高い者を殺させないために、多少技術が劣っていようが替えの効く少年兵を使う部隊、それが『命を無視された戦士(ゲシュペンスト・イェーガー)』だったのだ。

仲間がどんどん死んでいく中、アキトはここでも生き残った。

それは生への執念ではない。

復讐という怨念に囚われていたからだ。

だが、上層部で部隊の運用について検討され、部隊は解散。

アキトは佐世保基地へと転属となる。

そこで出会ったのがシックとケイスケだ。

生まれ変わったと思った。

復讐という念はいまだに燻ってはいるが、あの時よりかはいくらかマシになっている。

騒がしくも楽しい日々が訪れた。

だが、それをまた失ってしまうのか?

……もう、嫌だ。

失くしたくない。

奪われたくない。

だったら、戦うしかない。

命に代えても、アイツらは守る。

それが、今の俺の使命だから。



「……ああ、そうだ。それが、俺の……」




















同時刻、DC潜水母艦キラーホエール内。

格納庫にて泣いている者がいる。

ツインに纏めた髪を下げ、さめざめと泣いている女性。

フェイト・T・ハラオウン。

彼女は帰還した時からずっと泣いていた。



「ごめんなさい……ごめんなさい……」



同じことを繰り返し呟き、涙を零す。

そんな彼女に近づく影がいる。



「大丈夫か?」



顔を上げると、無愛想ながら心配な表情をしている男がいる。



「クレイル……」



クレイルは何も言わずにフェイトへと近づき、横に座り、フェイトの頭に手を置き、呟く。



「……やっぱり辛いか?」



頷くフェイト。

クレイルはため息を一つ吐き、



「……泣いても良いぞ」

「え……?」



驚くフェイトに対し、クレイルはこれまた無愛想に呟く。



「人は払ってある。テンザンはテンペスト少佐の説教喰らってる」

「でも、私に泣く資格なんか……」

「泣ける時に泣いとけ。俺は別に茶化したりしねーよ」



クレイルはフェイトの肩を掴み、抱き寄せる。

クレイルの胸に頭をくっつける形となると、彼の心臓の音が聞こえ、とても安心している自分がいた。



「う……あぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁ………!」

「…………」



涙は堰を切ったように溢れ出て、クレイルの胸を濡らしていく。

フェイトの頭をゆっくりと撫ぜてやり、背中をさすってやる。

フェイトは泣き続ける。

安らぎの中で。






そんな彼らを見つめる五つの影。



「クレさんって、フェイトさんには優しいよな」



整備兵たちがクレイルとフェイトを眺め、あーだこーだと呟いている。



「やっぱ、あの二人って付き合ってんのか?」

「そうだとしてもさぁ。ムカつかね? 美男美女だぜ? 両方合わせて百点が理想だろうが。世の男と女の為にはさ」

「泣いているフェイトさんも、可愛いなぁ〜」

「チクショウ! クレイル中尉になりたいぜ!」

「無理だろ。お前とクレイル中尉とじゃ、顔の作りがまるで違うから」



そんなことを言っているから、後ろに立っている者に気がつかないのだ。



「何をしている、ケイ?」


ゾクリ……と背中が粟立つ。

ケイは振り向き、驚愕した。



「く、クレさん……」



ケイを見つめるその瞳に容赦はない。

ただ一言、言い放つ。



「覚悟はできているな?」

「……優しくしてください」



格納庫内に、ケイの絶叫が響き渡った。






時に、新西暦百八十六年十一月三日。

南極での事件を皮切りにして、後にDC戦争と呼ばれる戦いの幕が開かれた。

そして、この戦争は地球人類を過酷な運命へと導くことになるのである。




















氏  名:ケイ・タケノウチ
性  格:楽天家
年  齢:15歳
身  長:167cm
体  重:62kg
髪  色:黒
眼  色:黒
P  R:
 顔はまあ上の下くらいで美形にはいかない。めんどくさそうな雰囲気を出している。
いつも寝癖が軽くある。基本ジャージか作業服。




















 あとがき

カチーナさんも好きなんです、どうもシエンです。

今回、ビアン総帥の声明が発表されました。

ここから少しずつ動き出すわけですが……ビアン総帥格好いい……(ぁ

では、また次回。






拍手返信

※スパロボ・・・・・・「地球絶滅大戦」だったか。
実際滅びたり滅びそうな作品が多いですよね。

>ええ、そうですね。ガン○スターも、地球滅びそうでしたし。
でも生き残るのがスパロボクオリティ。



※ふふふふふふ。冥王が一撃全開SLB殺傷指定を放ったならば――― (地球の前に発
言者オワタ)

>逃げてー! 天上天下一撃必殺砲がー!! R−GUNには……ヴァイスが! 裏切り者め!



※近接突貫のキョ○○ケくんの機体ですか!?!?

>ええ、クレさんの機体は、主任お気に入りのアルトです。
私はトロンベが好きだなんて言えません。ええ、恐れ多いですから。……Trombe!





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