■ Mission 01 / 02 / 03 / 04 / -- ■



ARMORED CORE BELKA STRIKER

■ Mission 00 : Phantasm Battle




依頼主:ジェイル・スカリエッティ
依頼 :聖域突入
報酬 :前払 デバイス用パーツ

『この依頼のメールが君に届いているという事は、私の望みは叶わなかったのだろう。それも最悪の形で。
私が私であるが為の証明である、『聖王の揺り籠』の復活。その為に私はこの計画が失敗するなど微塵にも思ってはいない。
しかしこのメールが君に届いている以上、それは叶わなかったとしか言えない。敗因はおそらく、君が――いや、止しておこう』

深淵の世界の静謐。何人をも寄せ付けぬ静寂の地下世界。
かつて繁栄した文明の地で、その中を一人の人物が光を帯びて飛行していく。

『――計画の否定にもなるこの依頼を君に頼んでいるのは、最後の保険の為である。
私が成そうとした希望……その切り札である"彼"を撃破して欲しい』

一目で騎士と、連想させるに事足りるバリアジャケットを身に纏い、最深部へ向けて飛行を続ける。
その手にはインテリジェントデバイス。体の要所にアームドデバイスらしき突起が幾つも見受けられる。

『――私の夢。その不始末を君に押し付ける形となってしまうのは心苦しい。
だが君以外に――"ストライカー"である君以外にこの依頼を完遂可能な魔導師は居ない。管理局のエースでは不可能なのだ』

唐突に開ける世界。地下の、それも一体幾世紀放置された地であるにも関わらず、光に満ち溢れていた。
地上へと降り立ち、眼前にあるターゲットを視認する。

『――……本当に済まない。
"彼"が本格的な活動に入る前に、全てを終わらせて欲しい。
返事を聞けないのが残念だが―――宜しく頼む』

ベルカの王が、其処には居た。
デバイスが戦闘モードに移行。いつものあの、無機質な音声で戦いの狼煙が上がる。

『メインシステム、戦闘モードに移行します』

彼の、レイヴンの、ストライカーとしての、本当のJS事件の結末が始まった――。


 


■ Mission 01 : Dark Flight



依頼主:レイヴンズ・アーク
依頼 :レイヴン試験
報酬 :----


次元世界を監督する管理局の本拠地の一つである、ミッドチルダ地上本部の地方都市の一角でそれは走っていた。
何の変哲も無い一台のトラックが、都市の中でも一般人が決して侵入しない区画を走行している。

『間も無く目標地点に到着する。最後にもう一度だけ、ミッションの確認を行う』

荷台に座する二人に、盗聴のおそれが極端に少ないテレパシーにも似た――念話によって声が届く。

『目標はこの先にある旧次元通信開発社オフィスビルの地下に潜伏しているテロリストの排除だ。
質量兵器である武器を保持する民間テロリスト及び、低級違法魔導師が数名確認されている』

トラックが停止し、荷台のカーゴが開放される。
寂びた町並みに相応しい、澱んだ空気が二人の鼻を突く。

『このミッションが達成された時、キミ達はレイヴンとして認められる』

手にしている杖が、その中心に嵌め込まれている宝石が煌いた。

『失敗した時は―――死ぬだけだ』

二人の身体を光が包む。光が晴れた時には、先程までの変哲も無い服装から何処かの儀礼服へと変貌を遂げていた。

『それではミッションを現時刻より開始する』

新たなレイヴンの門出に今、咆哮が上がる。


   ◆


「お互いに健闘を祈るとしようか」

ビル内部へと突入した片割れが、そう話をかけてきた。
名前――本名か偽名か、レイヴン名かは不明――がエヴァンジェという男は同じタイミングで試験を受けた事で、こうして共同して試験を受ける事と相成った。
だからと言って馴れ合う事も、一々付き合う必要も無く、目的を果たす為だけに同じ進路を飛行している。

レイヴン。それは管理局の魔導師ではない。
元々は管理局のならず者を利用するだけ利用する為に作り上げられた収監所。
今では破格の報酬と引き換えにあらゆる依頼をこなす傭兵組織へと変貌を遂げた組織、レイヴンズ・アーク。
建前上は管理局下の組織ではあるが、最早それは意味を成さない。

依頼は随時レイヴンズ・アークを介する事で承認され、それ故にあらゆる犯罪組織・管理局極秘情報が蓄積されている。
既に管理局では手に終えない組織にまで膨れ上がり、ならず者たちも一騎当千にまで力を付けていた。

「私は右を担当しよう。ではな」

エヴァンジェが二つの道の右を行く。
元より共に戦うなどと決まってはいない。単に二人同時の試験だからこそ、敵の数が多めなだけである。

と、通路の先に地下の入り口を視認。杖を、イニシャライズ・デバイスを正面に構えて撃ち放つ。
小さな魔方陣が切っ先で展開するや否や光の奔流が迸り、扉を粉砕。それだけでは飽き足らず、その先に待ち構えていた数人を吹き飛ばした。

「ぎゃぁぁぁぁあああああああ?!!」

余波で負傷した者達の悲鳴が木霊す。管理局の魔導師ならば、非殺傷設定で気絶こそすれど死人は驚く程に少なく済んでいただろう。
だが生憎、レイヴンにはその必要は無い。ミッションは敵の"排除"なのだから。生かす理由は、皆無。

破壊した扉の先は広大なスペースが広がっていた。恐らく通信実験にでも用いられていたのだろう。
今はテロリストの武器や違法取引の物資が一角に積み上がっているだけで、非常に戦い易い空間である。

「か、管理局の魔導師じゃないのか?!」

一人が手に持っている機関銃を撒き散らしながら叫んでいる。
扉の前で待ち構えていた仲間がミンチになったのを見た為に、パニック状態に陥っていた。

「管理局の犬じゃない…!? まさか―――レイヴンなのか!!?」

侵入者の姿を見止め、その容姿から正に事実である言葉で叫んだ。
そしてその言葉を肯定するかのように、一人のテロリストの背後に回ったレイヴンが、デバイスより発振する魔力の刃で胴体の上下を分断。
魔力的な素子で構成されたバリア・ジャケットを羽織っていない人間など、試験で支給されたイニシャライズ・デバイスの出力でも十分である。

レイヴンは謂わば戦争屋。護る事もあれど、基本は人殺し。
金さえ払えば何でもするのがレイヴンなのだ。それを知るが故に、テロリストの魔導師は青褪める。

相手がレイヴンであると言うだけで、最早自分達が誰かに排除されようとしている現実を突きつけられる。
だからこそ、悪足掻きの魔力弾を目の前のレイヴンに叩き込む。広いスペースとは言え、実弾と魔力弾の飛び交う中を掻い潜れる広さでは無い為、その身に数多の弾幕を受け止めた。
魔力の爆発で煙が濛々と立ち込め、天井のスプリンクラーが廃れたビルの残された機能として発揮し、鎮火していく。

「やった…!」

周囲が沸き立つ。だが、煙の晴れた先の現実に絶望が叩きつけられる。
顔を庇う様に突き出されたデバイスに、前面に焦げ目が目立ったバリア・ジャケット。

ダメージは、皆無に近かった。

レイヴンとなる為の試験を受けている彼の魔力値は今、管理局のBランクにも及ばない。であれば通常、殺傷設定の攻撃を受け止めて生きている筈が無い。
障壁を展開せずにジャケットだけで実弾・魔力弾を防いで損傷らしい損傷を防いだのは、偏にデバイスの性能が一般とは一線を画していたからである。
使用魔力の高効率化を図り、背面のジャケット装甲を極限まで薄めて全面に集中。例え管理局Bランククラスの砲撃の直撃でさえ、剥がし切れぬジャケットを実現している。

それは攻撃の面においても同様であり、例え赤ん坊でさえもほんの小さな魔力指令で、鉄板を貫く砲撃を可能とする。
デバイス単体だけでも、サポートするにしては余りにも高性能。だが、それがレイヴンである者が扱う"武器"なのだ。

「うわぁぁあああああああああああああああ!!!!!!?」

勝てないと悟ると、我武者羅に撃ち捲くるテロリスト一同。
撃てど当たれどジャケットを削る事無く弾かれ続け、そして魔導師の一人が砲撃で朽ち果て、計らずしも一か所に固まった者達に誘導弾二発を叩き込んで魔力爆発で一掃される。

このイニシャライズ・デバイスは基本的な砲撃・誘導弾(ニ発同時発動可)・ブレード発振の三つの機能しか展開出来ない。
新たな魔法を編み込む事は不可能。デバイスのAIも能力補助・高効率化の為にサポートの能力は低い。
当然、様々な機能を組み込む事は可能だが、それはこの試験を乗り越え、レイヴンと成らねば意味が無い。

最後の一人。違法魔導師だけがこの場の最後の獲物となった。

「く、来るなっ! こっちに来るなぁあああああ!!!」

半狂乱の悲鳴と共に彼の足元に展開する魔方陣。そこから出現する魔獣は、召還を意味していた。
低級としては破格である魔獣の召喚を成功させ、それに対して彼は舌打ちをする。
幾らデバイスが高性能とはいえ、魔獣を相手にするには装備も経験も足りない。

だがこれを排除し、後ろの魔導師も屠らなければレイヴンにはなれない。
不足の自体にも常時デバイスを通じて監視している試験官は何も言わない。否、今通信が入った。

『情報に不備があったようだな。だが試験に変更は無い。そのまま続行だ』

くっ、と笑いを零す。砲撃を放つ。振るわれる腕で意図も容易く弾かれたではないか。
誘導弾は性質上、砲撃よりも威力が数段劣る。となれば、ブレード以外に有効な攻撃手段は彼には無い。

自分か魔獣か。先に倒れるのはどちらか。

「此方の方に大物が居たようだな」

予期しない方角から、壁を貫いて最後の魔導師が蒸発した。
使役し、魔力供給で存在が維持されていた魔獣も消滅し、全てが終わった。
隣の地下区画からのエヴァンジェの砲撃。同じく支給されたイニシャライズ・デバイスであるが為に同じ形のデバイス・服装の彼が、貫いた壁より出て来た。

『テロリストの全撃破を確認。それなりの腕前だな』

試験官から結果に対する評価が成され、

『認めよう。キミ達は今この瞬間よりレイヴンだ』

新たな二人の鴉へと賛辞の言葉が告げられた。


   ◆

メール受信:3件


 送信者:シーラ・コードウェル
 件名 :よろしくお願いします

 初めまして、レイヴン。
 貴女の担当オペレーターとなりました、シーラ・コードウェルです。

 以後はレイヴンズ・アークの管轄の下でのみデバイスの使用が認められます。
 管理局とは異なり、依頼以外でのデバイスの所持及び使用は認められておりません。

 また依頼の是非はレイヴン自身に委託されておりますが、
 私の報酬がレイヴンの依頼の是非によって定まりますのでご理解の程をお願い致します。

 最後になりますが、ようこそレイヴン。レイヴンズ・アークは貴方を歓迎致します。


 送信者:エド・ワイズ
 件名 :初めましてだ。レイヴン

 リサーチャーのエド・ワイズだ。
 あんたに回される依頼の事前調査や依頼後のレイヴンへの事後報告を任されている。
 言ってみればアドバイザーだな。

 早速だがこの間あんた達が壊滅させたテロリスト組織だが、依頼主は管理局からだ。
 極秘開発中のデバイス資料が奴等に盗まれ、犯罪組織に渡る前にレイヴンに依頼を回したらしい。

 場所を掴んだのはいいがあそこは管理局地上本部の管轄下とかの理由で後手後手に回っていた為に、
 業を煮やした一部官僚が漏洩を恐れてレイヴンに依頼した。こんな所だ。

 管理局内部の軋轢が顕著に表れている良い例だ。
 試験ついでに資料を頂いておけばあんたのデバイスに組み込む事も出来たのに、勿体無かったな。

 目標達成後、事態を嗅ぎ付けた陸上部隊が資料を回収。
 表向きは管理局が犯人の潜伏場所を発見、激しい抵抗にあった為に全員を射殺。
 その後、違法物資を押収したとなっている。

 自分たちの所から盗まれた物まであったとはとてもではないが公表出来んな。全く都合の良い奴らだ。

 今後も管理局の尻拭いやら汚れ仕事が来るだろう。舐められないようにする事だ。



 送信者:エヴァンジェ
 件名 :これからはお互いにレイヴンだ

 お互いに無事にレイヴンになれたな。
 今後の依頼次第で互いに共闘することや戦うことになるかもしれない。
 だがお互いにレイヴンとなった身だ。既に覚悟済みだろう。

 では、健闘を祈るよ。

 私は上を目指す。邪魔をするのならば、その時は容赦はしない。
 覚えておきたまえ。




 


■ Mission 02 : Duck March





 依頼主:UNKNOWN
 依頼 :移送部隊護衛
 報酬 :30000


 緊急の依頼である。

 我々は管理局の目に付かぬように常に拠点を転々としていた。
 だが今回ばかりは此方の情報が漏洩した可能性が浮上し、今現在転移に奔走している次第だ。
 取り敢えずは人員と殆どの機密物資の移送が完了しているが、やはりまだ少し手間取っている。

 そこで万全を期してレイヴンには移送部隊全てが撤退するまでの護衛を頼む。
 杞憂であるのならばそれに越した事は無い。勿論、何事も無かったとしても報酬は支払う。
 もし管理局の連中などが嗅ぎつけて来た場合は戦果に応じてレートを設ける事も約束する。

 では、頼む。


 依頼主がUNKNOWNとなっているのは小規模なテロリスト集団だからだ。
 奴等も奴等なりに頭を捻って頑張っているのだろうが、やっている事は小悪党だな。

 依頼が護衛だからな。部隊に損耗が生じた場合は当然報酬が減額になる。もし戦闘にでもなったとしても気を配れよ。
 例え管理局が嗅ぎ付けたとしても、それ程大規模な部隊を展開する程も無いだろう。だから新人のお前にこの依頼が回ってきたんだろうな。
 労せずに報酬を頂けるかもしれない依頼だ。デバイス強化の足しにするのもいいかもしれん。




ミッドチルダ都市部より離れた森林地帯。嘗て鉱石採掘場として蟻の巣の如く張り巡らされた地下に、彼らのアジトがある。
レイヴンが到着した時点では周囲は慌ただしくも、移送方陣を幾つも展開して物資の移送を行っていた。

『随分と慌ただしいわね。それだけ彼らも必死なんでしょうけど』

(念話)通信より担当オペレータであるシーラの声が届く。デバイスの低いサポート能力の代わりに、彼女がレイヴンのサポート全般を請け負う。
念話だけでは周囲の情報は取得できないが、デバイスが周囲の情報をシーラの下にリアルタイムで転送し続ける事で解消している。
レイヴンのイニシャライズ・デバイスの容姿は相も変わらず支給された時のままの無骨な形ではあるが、そこに翼の様な突起物が付加されていた。

『レーダー機能に問題は無し。彼らの生体情報を今転送するわ』

不意に眼前にモニターが展開し、この地下道のマップ上に緑の光点が点滅する。
それは今周囲に居る彼らであり、動きに合わせえて殆どタイムラグ無しで追尾していた。

「――レーダー機能に問題は無い。全て順調だ」

付加された突起物はレーダーパーツ。レイヴンとなった彼に支給された登録祝いとも言えるなけなしの金を使って購入したものだ。
依頼が護衛なのだから常に周囲の情報を得る必要がある。金額をそのままに単純な機能しか備わっていないが、これは索敵間隔が短いのが長所だ。

『此方でも確認したわ。移送している部隊の他に入り口付近に防衛部隊が展開しているわ。
私たちは侵入者を確認次第、現場へと急行。但し、飽く迄も私たちの目的は移送部隊の護衛。忘れないで』

「分かっている…」

物資を運び続けている彼らをじっと見詰めながら、シーラとやり取りをする。
レイヴンとなっての初陣とはいえ、こうも何もする事が無いというのも拍子抜けである。

一端のテロリストを間近にして尻尾を巻いて逃げている姿を傍観するのは常人には味わえない新鮮さだ。
魔力探知や消費を抑える為にバリアジャケットは展開せず、繁華街で歩いていてもおかしく無い服装で待機しながらそう思った。

『随分と暇そうね』

「…事実暇だ」

『レイヴンになったばかりの血の気の多さはいいけど、いざ襲撃の際には怖気付かない事ね』

シーラは彼の前に幾人もレイヴンを担当していたのだろう。経験からの助言には重みがあった。
無論、彼女が今こうして新たなレイヴンの担当になっているという事は、先人達の末路は言わずもがな。

轟音。

天井の岩から土が舞い落ちて来る。

『――来たみたいね。楽して報酬だけ頂けるなんて夢は、現実の前には儚いものね』

そう愚痴りつつもオペレータである彼女に届く防衛部隊の情報が次々と彼の目の前にモニターとして表示されていく。

『……管理局のようね』

最前線の部隊がものの数分で全滅。それは殺されたのではなく、捕縛されていた。
モニターには目の前の仲間が突如として生じた光の輪によって縛り上げられる姿が映した次瞬にブラックアウト。

『バインド』と呼ばれる魔術的拘束魔法によって相手の動きと共に魔力の使用すら封じる管理局の十八番。
非殺傷設定の攻撃によって相手の魔力とともに精神力も削り、弱った所でお縄に掛ける。笑えないジョークだ。

『依頼主から通信が入ったわ。
防衛部隊はこのまま後退して外に通じる坑道を全て爆破するそうよ。私たちはそれを突破して来た部隊を迎撃。
移送部隊の撤退に合わせて最後の移送魔法陣で帰還、それと同時に坑道内に仕掛けられた爆弾を全て起爆させるプランが提示されたわ』

かなり物騒なプランである。だがそれ以外に弱小であるテロリストが出来る手段がないのだろう。
その上、依頼を受けたレイヴンが新人。実力があるかどうかすら分からぬレイヴンに命運をかける程に彼らは馬鹿じゃない。

「了解した。これより作戦行動に移る」

光が彼の身体を包み込む。何一つ試験の時と変わらぬ、無骨な儀礼の服を身に纏う。

『レイヴン、"ハヴメル"。ミッション開始』


   ◆


『A-1区画に穴が開いたわ。急行して』

光の無い坑道を眼前に展開したモニターによるナビゲートに沿って飛翔する。
目標ポイントに到着とともに、未だに中の暗さに慣れていない管理局の部隊の一人を砲撃で奢る。
流石は訓練された部隊と言うべきか。二撃目の砲撃態勢を此方に取らせる前に反撃の砲撃が幾つも返ってきた。
来た道の坑道の奥に身を隠し、デバイスのレーダーを頼りに誘導弾を二発放つ。

目標に激突寸でに自爆させ、闇の中の閃光に図らずしも目を眩ませる敵部隊に身を隠しつつ砲撃を連射。
相手のバリアジャケットを貫通出来ずとも、蓄積した熱が人体を焼いてくれるので連続して被弾する者は火達磨となっていた。

『レイヴン。その区画を封鎖するので撤退を』

『了解』

言葉に従い、敵を殲滅し切る前に来た道を引き返す。
数秒後には背後で激震が走り、再び穴が塞がれた。

シーラが提案したプランは封鎖した坑道を突破した敵部隊を足止めしつつ、その都度新たに穴を塞ぐものである。
殲滅しつつ穴を塞いでいく事は経験も武装も足りない今のハヴメルには不可能。殲滅に手間取って護衛が襲撃されていては意味が無い。
適度に相手を損耗させ、坑道内に仕掛けられた発破で新たに穴を塞ぐ。責めて来る時間を稼ぐこの案は、実に効果的である。

『向こうはどうやら此方の意図を漸く察したようね。坑道内から完全に撤退しているわ』

安価であるレーダーでも全ての坑道の入口を把握する位置に居ればその役割を十分に果たしてくれる。
そして十分経過。管理局の部隊を示していた赤い光点が全て外へ撤退したを確認してから坑道内は静寂を保っている。
敵部隊には死者・負傷者共に十名近くも出ている。小規模な部隊であれば過半数が失われた計算だ。故に撤退も頷けた。

『――移送部隊が撤退を開始したわ。防衛部隊が最後の発破の準備に掛かってる。レイヴン、撤退を開始して頂戴』

どうやら出番はこれで終わりのようだ。初めての依頼にしては緊張感がそれ程なかった。
管理局の魔導師も大した事は無いのか、と思って了解の旨を伝えようとした次の瞬間。

激震が走った。

『――?! レーダーに感!……一人?

でもこの魔力値は―――!?』

安物のレーダーの観測魔力値は振り切れている。
それは即ち、管理局が認定するランクBクラス以上の魔導師が出張って来たのだ。
だが観測した数値はそれだけではない。

『速い! 増援にしては単独行動であることからして、執務官の可能性があるわね…。レイヴン、急いで撤退を』

全速飛行で撤退しているが、向こうはそれを数段上回る速度で追撃していた。
それが可能な航空魔導師ならば集団のはずだ。となれば、執務官以外には考えられない。
執務官は常に凶悪犯罪を管轄するエリート。最低でもAランククラスの魔導師ばかり。

実績と経験の差は歴然。新人レイヴンにとって天敵の一つである。

「!!?」

身体の周囲に取り巻く見知らぬ魔力を感知して急速旋回。
案の定、何も無い虚空でバインドを展開している。詰まる所、捕捉されてしまったのだ。

『まだ区画を一つ隔てていたにも関わらずの精密なバインド。気休めだけれど、そこに通じる坑道を閉鎖するわ』

眼前の坑道が閃光を伴って爆発し、落石で埋まる。だが数瞬後には雷光が穴を貫いて開通してしまった。

『――レイヴン、このままでは部隊が完全に撤退する前に捕捉されてしまうわ。そこで一分だけ足止めして』

「…それ以外には道は無い様だな」

『部隊の過半数は既に離脱しているわ。無理はしないで、相手の注意を此方に向け続けるだけで十分よ』

強引に抉じ開けた坑道より出でたのは、漆黒の少女だった。
レオタードに羽織るマント。そしてその手に携える斧から発する閃光の刃が非常の物々しい。

「――私は時空管理局嘱託魔導師、フェイト・T・ハラオウン」

デバイスであろう斧の切っ先を、此方に向ける。

「貴方を公務執行妨害及び、過失傷害の容疑で拘束します。直ちに武装を解除して投降してください」

笑止。彼女はあろう事か、レイヴンである彼に対してそんな事を宣った。

「貴方には黙秘権があります。不利になる証言は――」

当然、その返礼は魔力砲撃という形で返される。
長く柔らかなツインテールを靡かせて障壁を展開して防ぎ切る。
立て続けに誘導弾を二発左右より放ち、再度砲撃の体勢を取る。

フェイトとか名乗った少女は区画内を大きく旋回して二発の魔力弾を引きつけ、その光の刃で叩き落とした。
直後に届く砲撃を高速移動で回避。ハヴメルは舌打ちをして後退をする。此方に接近しつつ火花を散らした誘導弾を構えるフェイト。

「――ショット!」

その数は十数個。レベルが違う。

三次元を駆使した多方向からの誘導弾の接近は対応し切れない。
対抗して誘導弾でどうにか二つを撃墜し、砲撃でも二つを消滅。だが今だに半数以上が顕在している。
展開する障壁に重い一撃を貰い立て続けに着弾。魔力の圧力に耐え切れず、障壁は粉砕。そして直撃。

「ぐぁはっ!!?」

バリアジャケットを容易く引き千切り、身体から加速的に抜けていく魔力に精神が蝕まれる。
残りの全てが着弾した後、高機能なデバイスのお陰で気絶を免れたハヴメル。

続く少女の斬撃をデバイスより発振するブレードで受け止めるも、勢いを殺せずに吹き飛ばされて地面を転がされる。
最早、バリアジャケットは装甲の意味を成さずに刈り取られ、魔力も今ので殆どを持っていかれた。
急激に遠のいて行く意識を辛うじて現実に留めておくのが精一杯である。

「――もう貴方は抵抗する力は残っていません。今直ぐに投降してください」

地面に横たわる此方を赤い瞳で見下ろす少女。こんな年端も行かぬ少女に呆気なく敗れるレイヴン。
滑稽だ。あまりにも滑稽だ。この世の不条理が正に今此処にある。悔しいのではない、情けないのだ。こんな惨めな自分が。

『部隊の完全撤退を確認! レイヴンっ、オーバードブーストを起動して離脱して下さい。鉱山を爆破するわ!』

坑道内と言わずに山全体を揺るがす激震に目の前のフェイトは驚いて周囲を被り見る。
その隙を見逃さずに、デバイスのコアが激しい発光に帯びる。続く苦痛を伴い増幅される魔力に従い、爆発的な加速を得てその場を離脱。

それに驚いたフェイトだが、職務に忠実に追撃して来る。だが坑道内の地理に疎い彼女では、爆発的な加速を得て離脱するハヴルムには流石に追い付けない。
況してや激震が酷くなる一方の現状で地理に疎いのは致命的。それに気が付いた彼女はハヴメルに大声で何かを叫んでいるが、周囲の轟音の前に掻き消されていた。

後ろを顧みずに目指す先は残された移送方陣。
辛うじて魔法陣のある箇所だけが原型を留め、そこ目掛けて身体を叩き込む!

『座標固定! 転送を開始!!』

こうして廃鉱の山が陥没した。


   ◆


メール受信:2件


 送信者:エド・ワイズ
 件名 :災難だったな

 お前をコテンパンにした相手はフェイト・テスタロッサ・ハラオウン。最近頭角を現し出した嘱託魔導師だ。
 時空管理局提督のリンディ・ハラオウン。そして執務官のクロノ・ハラオウンとは家族関係にある。
 尤も、養子縁組としてついこの間席を入れたのだとか。

 詳しく調べてみると、PT(プレシア・テスタロッサ)事件の関係者だとさ。
 最近まで続いていた裁判では酌量の余地があると無罪を勝ち取り、嘱託として管理局で働いている。
 管理局のランクはAAAクラス。あんな小娘ではあるが、実際に戦ったお前の方が実感した事だろう。

 それからお前のデバイスだが、オーバードブースト(OB)の使用でオーバーホールが必要だ。
 その前にも小娘にかなり酷使されたからな、酷い有様さ。

 OBは文字通りデバイスのリミッターを解除して機能が赦す限り、最大出力で機能する。
 その代わり際限なく術者から魔力を吸い上げるから、諸刃の剣だ。
 今回は撤退時の魔力増幅と飛行魔法のみだったからいいものの、まだ初期設定のデバイスには少し荷が重過ぎた。
 まぁ、初期状態だからこそ必要予算が少なめで済んでいるとも言えるが、今後も使う時はタイミングは誤らない事だ。



 送信者:シーラ・コードウェル
 件名 :初ミッション、お疲れ様です

 貴方にとっての初めての依頼は中堅レイヴン並のものとなってしまいました。
 ミッションの詳細はエドから聞き届くので省きますが、今回のミッションは本来ならば赤字でした。

 ですがレイヴンズ・アークは今回の全戦闘データを提供する事でデバイスのオーバーホール費用の全額負担を約束してくれました。
 貴方が相対した嘱託魔導師。レイヴンズ・アークが丁度彼女のデータを欲していたのが何よりでした。

 管理局の魔導師はレイヴンという存在が現場で遭遇した時、犯罪者ともども捕縛しようとします。
 捕まってしまうと、場合によってはレイヴンの資格を剥奪される可能性があるので今後は注意が必要です。
 現行犯でなければ、例え顔を覚えられていても管理局とレイヴンズ・アークの取り決めで捕まる心配はありません。

 ですが依頼以外では此方はデバイスを保持していないので、油断は禁物です。




収支結果
 報酬 30000
 特別報酬 3500
 支出(レイヴンズ・アーク負担) - 0
 合計 33500



 


■ Mission 03 : Safety Net





 依頼主:ハンターズ・ギルド
 依頼 :希少種の捕獲
 報酬 :前払 11000


 私達ハンターズ・ギルドは希少動物の保護に努めています。

 ですが近年、密猟による乱獲の多発により希少種の減少を食い止める事が出来ず、大変遺憾な事態である事が否めません。
 そこで私達ハンターズ・ギルドは希少種の保護のため、絶滅の可能性のある希少動物の捕獲を決断しました。

 そして万全を期すため、レイヴンに捕獲を依頼することにします。
 捕獲した動物の種類、数に応じた報酬の上乗せもお約束いたします。

 それでは、色良い返事をお待ちしております。


 依頼の中には変則的なものが時折まわってくる事がある。今回がそれに当たる。

 依頼内容は捕獲だ。魔法を非殺傷設定にして無傷で捕らえれば高報酬に繋がる。
 前回の依頼でお前さんも思うところがあっただろうから、今のうちに稼いでおくのも手だ。

 だがこの依頼にはきな臭い点がある。捕獲は管理局が管理する第六管理世界で行うとある。
 ならばレイヴンを雇うよりも遥かに安上がりな管理局に頼めばいい。その為に管理している世界だからな。

 だがそうしないのには何か理由がある筈だ。気を付けるにこした事はないだろう。




『作戦開始時刻よ。作業を始めて頂戴』

担当オペレータの声に従い、飛行を開始する。眼下に広がる森林、そして隆起した巨大な岩場が空からあちこちに見られる。
第六管理世界のアルザス地方。その環境保護地域に住む動物が捕獲の対象だ。

『ギルドから委託された転送装置は全部で十本。装置を起点とした一定範囲内のものを転送するため、複数体を同時に転送できるわ。
巨体の動物だと一匹、小型ならば複数体を転送する事が出来る。高報酬を狙うなら、転送する動物の選定は慎重にね』

了解の意を返し、モニターに表示される生体反応を注視する。今回の依頼に合わせ、新たにバイオセンサーをレーダーに追加した。
通常のレーダー機能では人間と動物、機械の精査は不可能だ。レーダーで反応する全てを敵か味方かの二つに一つで処理してしまう。
このバイオセンサーを組み込む事で緑の広がる大地の中に居る生体反応、動物の存在を感知する事が出来る。

『センサーに複数の感有り。駄目ね、どれも小物だわ。表示情報を調整しましょう』

レーダーは数多く生体反応を探知し、モニターは光点で埋まる。流石は保護地域、野生動物の宝庫だ。
だが生体反応から得られる情報は、どれも捕獲しても二束三文にしかならない動物ばかりだった。
シーラはモニターに表示される生体情報を選別する。高報酬となる動物は皆、気性が荒く、図体の大きい動物ばかり。
つまり生体反応が強く出る動物ばかりなのだから、センサーに強く感が出る生体反応を狙えば良いのだ。

『調整完了。丁度手近な場所に一つ感があるわ。レイヴン、其処へ向かって頂戴』

「了解。これより狩りを始める」

生体反応のある地点へと近づくと誘導弾二発を展開、到着と同時に発射する。
眼下には河の水を悠然と飲んでいる四足歩行の火竜。二発とも着弾し、火竜は悲鳴の雄叫びをあげる。
間髪を入れず、砲撃で浴びせて沈黙させた。非殺傷設定の魔法を浴びただけなので、傷は一つもない。
この火竜は大きさからして中型に分類されるだろう。転送装置である柱を気絶している火竜の傍に立て、起動させる。

『転送開始。このタイプだと報酬はまずまず、と言ったところね。高報酬を狙うなら、飛竜や古代種が良いわ』

「…時間に余裕があれば、な。今は手頃な獲物を狙う」

『転送完了。それで良いわ。でも、転送装置が残り一、二本になったら高報酬を狙うのも有りよ』

火竜は光とともに消え去る。転送装置とともに指定座標へと転送されたのだ。
それを確認し、再度空へと飛翔する。先程の火竜の悲鳴の影響か、空と地上がざわめいている。
視線を彼方へ向ければ、飛竜の一群が確認できた。高報酬対象だが、大きさはまちまちのようだ。

『あの飛竜を墜とせば大ボスが出てくるかもしれないわ。時間が迫った時にはあの中から適当に見繕いましょう』

その意見に賛成し、空の一群へと進路を修正する。相手も此方を補足して警戒態勢を取り始めた。
魔法を操る者としての利点を生かし、相手の攻撃範囲に入る前に砲撃をお見舞いする。二匹が墜落した。
歯ごたえの無さを感じつつ、作戦を続行する。

   ◆

飛竜に向けて誘導弾を放つ。相手は回避行動を取らず、直撃するがダメージは見られない。
それならばと砲撃を見舞うが、相手のブレスによって相殺される。
だが魔力の放出時間の長さは相手に分があり、逆に此方が回避して攻撃を躱す。

『飛竜の大型ね。古代種とまでは行かないけど、高報酬が狙えるわ。レイヴン、無力化して捕獲よ』

ハヴメルの現状を随時モニターしているシーラは事も無げにそう言い放つ。
先程までの飛竜たちとは異なり、今目の前で雄大な姿で羽ばたいている飛竜は格が違った。
長い時を経た飛竜は魔力を操る術を学び、頑強な肉体を用いて破壊の化身へと成長を遂げる。

この飛竜は先程までの飛竜よりも一回り大きい程度だが、その鱗は白銀に輝いていた。
此方の誘導弾を弾き、砲撃の直撃の大半を受け流す。況してや高威力の砲撃と同等のブレスを間髪入れずに連射する。
飛竜のボスに相応しい強さを秘めている。ハヴメルが魔力を持たない人間、または単なる低ランク魔導士であれば絶望視しただろう。

ハヴメルは急上昇し、そして直下の飛竜のボスへと急降下。デバイスよりブレードを発振する。
相手はブレスを直上のハヴメル目掛けて放つ。それを回避しない。防御魔法も展開しない。直撃し、突破した。
飛竜は面食らったように動きが鈍る。バリアジャケットに損傷が見られるが、この程度では問題無い。

重力加速が十分に乗った斬撃を飛竜に浴びせる。非殺傷設定の魔力による斬撃は飛竜の精神力を大きく削り取り、意識を刈り取るには十分だった。
意識を失った飛竜は重力に引かれて地上へと墜落。高い木々をクッションにして大地に沈んだ。

『大型の飛竜の沈黙を確認。最後に良い大物が捕獲出来たわ。これで報酬は十分に期待できるわね』

シーラの声が弾んでいる。確かにこの光沢を放つ飛竜ならば報酬に色はつく事だろう。
最後の転送装置を白銀の飛竜の傍らに設置して起動させる。そして手持無沙汰となった瞬間、ふと思う。
我々が行っている事は密漁と何処が違うのか、と。転送される飛竜の消え往く姿を眺め、自身が捕獲した動物達を思い返した。

『転送の完了を確認。同時にレイヴン、ハヴメルの依頼完了を依頼主へ報告したわ。レイヴン、帰還して頂戴』

「――了解」

細やかな疑問を喉元の奥に感じながら、ハヴメルは帰還の途につく。


   ◆


メール受信:3件


 送信者:ハンターズ・ギルド
 件名 :ご協力に感謝します

 この度は我々の保護活動に尽力していただき誠にありがとうございました。

 貴方のご協力により、多くの希少動物を保護することが出来ました。
 保護した動物達を研究する事で、さらに多くの希少な動物達を救う事が出来ると我々は信じております。

 そのための不断の努力を怠りません。良く覚えて頂きたいと存じ上げます。



 送信者:シーラ・コードウェル
 件名 :依頼主の契約違反について

 今回の依頼は依頼成功による報酬に加え、質に応じた追加報酬が上乗せされる契約でした。
 ですがハンターズ・ギルドは成功報酬の支払いしかしておりません。

 此方の確認の連絡には管理局の環境保護地域での乱獲という盾前で支払いに応じようとはしません。
 これは明確な契約違反であり、然るべき処置をレイヴンズ・アークが執り行うことでしょう。

 レイヴンズ・アークに盾突くことが何を意味するのか、それを相手は身を持って知ることでしょう。



 送信者:エド・ワイズ
 件名 :運が無かったな

 既にシーラからメールが届いているだろう。ヤツは怒髪天だ。

 依頼主のハンターズ・ギルドだが、行き過ぎた保護活動が問題視されていた。
 特に自分の手を汚さずに人を雇って希少種を乱獲し、その影に隠れて法に触れる研究を行っていたのさ。

 管理局に依頼しないのはそうした後ろ暗さがあったからだ。
 今回、そのお鉢がお前さんに回って来たという訳だ。前回の依頼の一件といい、つくづく運が無いな。

 ちなみに追加報酬の件、初期条件で計算して見たところ成功報酬を軽く上回る金額になっていたぞ。
 レイヴンへの報酬は莫大だからな。払いたくない気持ちは解らなくもないが、相手が悪かったな。

 近いうちに自分達が仕出かしたことを心底後悔する事だろうよ。




収支結果
 報酬 11000
 特別報酬 0
 支出 - 2530
 合計 8470



 


■ Mission 04 : Hunt Ball





 依頼主:レイヴンズ・アーク
 依頼 :違反者粛清
 報酬 :出来高


 先日、野生動物保護管理組織ハンターズ・ギルドは我がレイヴンズ・アークに対して重大な契約違反を行いました。
 さらには反抗的な姿勢を見せるという暴挙にも出ており、これに対して我がレイヴンズ・アークはハンターズ・ギルドに対して粛清を行う事を決定しました。

 ハンターズ・ギルドは管理世界の野生動物の保護を謳いつつも、その裏では違法な動物実験を繰り返しています。
 そして第三者の存在を利用し、自らの組織への損害を最小限に留めていました。

 そして愚かにも、我がレイヴンズ・アークをも利用しました。

 レイヴンにはその中で最も研究に力を入れている施設を襲撃、作戦時間内に可能な限り組織へ打撃を与えて下さい。
 尚、損害状況に応じた報酬をお約束します。

 レイヴンズ・アークに歯向かうことの意味を、ハンターズ・ギルドは身を持って思い知ることでしょう。


 レイヴンズ・アークはどの組織にも属さない中立的な組織だ。
 組織力も大きく、利用したがる無謀な輩は後を絶たない。

 今回の奴等も例に漏れず、今までずる賢く生き残ってきたことに増長し、虎の尾ならぬ鴉の尾を踏んだのさ。

 対象の施設は特殊な生体情報を有する生物の研究、つまり希少動物や絶滅危惧動物の研究をしている。
 細胞の一片どころか遺伝子情報やリンカーコアのメカニズムまで余す事なく調べ尽くす徹底ぶりだ。

 施設内にどんな生物がどんな状態で居るのか見当もつかない。
 妙なウィルスに感染しないように気を付ける事だ。

 報酬は全て出来高だ。この間の報酬分のツケを取り戻す為にも存分に暴れてこい。




研究所内に鳴り響く警報。そして破壊活動を知らせる轟音と震動に施設内の者達は慌てふためき、逃げ場を求めて走り回る。
だがそれを嘲笑うかの如く防災壁が通路の各所で展開し、逃げ場を奪う。
何処かの研究室でバイオハザードが発生したか火災によるものかは定かではないが、閉じ込められた者達には絶望しか残されていなかった。

そして破壊される防災壁。それが閉じ込められた者達が目撃した、破壊の余波で死ぬ直前の光景だった。
破壊された事で解放された通路を飛翔する影がひとつ、ハヴメルは研究所の破壊を継続する。

『生体反応の消滅を確認。進路の確保と同時に追加報酬の足しが出来て一石二鳥ね』

シーラからの通信にハヴメルは鼻を鳴らす。運が無く閉じ込められていた存在など如何でも良いとばかりの反応だ。
それはシーラも同様であり、単なる世間話として話したに過ぎない。
眼前には別区画へと繋がる搬入路である扉が近づく。それに対して肩の砲塔を向ける。

その砲塔は管理局の局員に一般支給されているストレージデバイスのそれを彷彿とさせる。
だがサイズは小型であり、そしてそれにはAIの代わりに弾薬を満載している。
その切っ先から連続して射出される子供の拳大の弾丸、ロケット弾。それが三発。扉に着弾し、爆発とともに扉は破砕。侵入路を確保。

その明らかに質量兵器の様相を呈する武器は質量兵器に非ず、魔法に属する。
弾丸自体は物質だが、火薬は魔法。物質は内包する攻撃魔法の減衰を防ぐために過ぎない。
推進剤や魔法威力の維持を物理的に代替することで、術者は破壊力の調整のみに従事できる。

それ故に魔法効率は非常に高く、機構も単純である為に低コストで運用が可能。
だが質量を持つ以上、物理法則に従い弾速は一定、また直進するのみなので使い勝手は限定される。
しかし、今回のような施設の破壊活動には適当であり、専用のウェポンデバイスに弾薬を満載しているので、長時間の任務に優しい。

『これは…研究対象の留置場かしら?』

扉の先には所狭しに存在する格子籠に囚われている動物の数々。
管理局が保護対象としている動物やレイヴンズ・アークのデータベースにも登録されていない種類も確認できる。
そしてそれらの特徴を兼ね備えた出来損ないや、ミイラと見紛う辛うじて生存している歪な存在も見られた。

「研究対象と成果の博覧会か? ケージ分けをしていないという事は――」

『廃棄予定が決まった不用品の保管所ね』

ふむ、とシーラの声に思案をしつつ周囲を見渡す。屍を晒すものが居れば活きの良い生命体も存在している。
依頼の内容は研究所への破壊活動だ。これ等の生命体を殺傷しようともハヴメルの報酬に対して利があるか如何かは疑問だ。
ロケット弾はその炸薬を魔力で代替しているが、それを覆う薬莢は実費になる。益にならない無用な出費は避けたい。

そして――、この区画設備を破壊した。


   ◆


眼前に存在した新たな隔壁を突破する。そこはこの研究所でも最重要区画に当たり、バイオハザードは勿論のこと被検体である生命体の侵入を防ぐ為にも堅固であった。
お陰でロケット弾やブレードによる物理的な突破は叶わず、シーラの助けを借りたハッキングによりセキュリティロックの解除を行い、隔壁を解放して侵入する。

『セキュリティ自体はザルだったけど、端末の探索に時間を取られたわ。
レイヴン、研究員への攻撃よりも研究情報が保管されているデータサーバの破壊を優先して。高報酬対象よ』

了解の旨を伝え、ハヴメルはOBを起動する。飛行速度を爆発的に上昇させ、通路の先へと吶喊する。
先日のような加速度的な魔力と苦痛を代償とする、デバイスの戦闘機能を増幅する愚は犯さない。
戦闘データを解析し、レイヴンに必要な機能にのみ魔力を消費するようにシステムデータをアップロードしている。

故に通常よりも格段に早く魔力が消耗されているのを感じるが、それに見合った飛行速度を得ている。
最重要区画ともあってか、終着点以外の道中に目ぼしい破壊対象は存在せず、通路の行き止まりである隔壁へと到達。
ハッキングの序でに得た情報からこの隔壁は然して堅固ではないことは判っているため、デバイスからブレードを発振し、突き立てて破壊する。

「ヒッ?!」

隔壁の向こう側に避難していた研究員はそれを見て声にならない悲鳴を上げる。
隔壁は殺傷設定の魔力の刃によって溶解し、刻んだ刃の線に沿って解放されていく。
その様を中の研究員たちは恐怖に震え、ただ訪れる死神の刃を見据えるしか出来なかった。

『研究所最深部、データサーバ保管設備区画への到達を確認。
あら、表層部の研究員を置いて一番安全な場所に逃げ込んだお偉い様も見付けたようね』

「き、貴様は何だ!? 目的は金かっ! わ、私の命でも奪いに来たのか?!!」

「両方だ」

告げると同時にロケット弾と砲撃魔法を同時に放ち、この中で最も立場のある人間数人以外を殺傷する。
選別対象は先程のハッキングで判明している為、デバイスによる射撃補正の助けを借りて誤射はしない。
だが、此処で研究情報も頂く算段もあったサーバの幾つかが攻撃の余波で破壊してしまったが、それは致し方ない。

デバイスの切っ先を生き残りの研究員へと向ける。魔力の輪が彼らの周囲に発現し、肢体を拘束。バインドを展開した。
殺傷設定を加味したそれは、神経へと作用して心身両面から抵抗の意志を剥奪する。
このバインドデータは安価で購入した物だが、魔導師ではない普通の人間を拘束程度には十二分に効果を見せた。

全員の拘束を完了するとデバイスを介してメインサーバへとハッキングを開始する。
シーラのサポートに加え、セキュリティが強固なデータは拘束した研究員からアクセスコードを入手する。
コードを吐かせる為に手加減を間違えて一人ほど息絶えたが、そのお陰かそれ以降は協力的な姿勢を見せる。

「も、もう良いだろう!? 教えられる事は全て話した! 私達を解放してくれ!!」

粗方のデータを入手してサーバを破壊すると彼らは命乞いの声を強くする。
ハヴメルはその様を見据え、そして虚空を見据えて一つ頷く。

「好きにしろ」

そう一言を言い放ち、デバイスに収納していた転送装置を自身の足元に展開する。この研究所に保管されていた、以前にも使った遺恨のある転送装置。
既に研究所の表層に座標は固定されており、後はハヴメルを転送するのみだ。その姿を見た研究員たちは安堵の息を吐く。殺されずに済んだと、もう安心をしていた。

「俺を虚仮にした代償を、その身で償え」

頬を吊り上げる嘲笑みと、呪詛を残してハヴメルは転送される。
そしてサーバールームに残された研究員たちは―――、


   ◆


メール受信:2件


 送信者:エド・ワイズ
 件名 :ご苦労だったな

 一先ずは、ご苦労だった。件の報酬分は十分に稼がせてもらったな。

 今回の襲撃によって奴らの研究所は半壊状態、お前が逃がした被検体によって生存者は皆無、周辺被害も続発したらしい。
 だが、そのお陰で管理局も積極的に捜査に乗り出し、組織の摘発に動き始めたようだ。

 お前さん達が手に入れた研究データの中には古代ベルカ時代の遺産と目される生命体の研究も行われていたらしい。
 他にも怪しげな記録もあるが、古代ベルカ時代まで研究に手を伸ばしていたとは恐れ入るよ。まぁ、それも終わった事だがな。

 それはそれとして、改めて使ったOBの調子は良好だったようだな。
 本来の機能にリミッターを加えることでデバイスと術者への負担の軽減が可能だ。

 今回は飛行魔法の機能だけを使用したようだが、他にも砲撃魔法の威力増幅や防御魔法強度の増強も出来る。
 使用する場面に応じて使い分ける事も戦術のうちだ。

 だが、その為には更なるデバイスのシステムや耐久性能の向上が不可欠だ。
 金に余裕がある時に考えておくと良いだろう。


 送信者:シーラ・コードウェル
 件名 :特別報酬について

 レイヴンズ・アークは今回の依頼に対する十分な作戦遂行を認め、特別合算を計上しました。
 これにより、以前のハンターズ・ギルドからの未払い分の回収が出来た事をご報告致します。

 特に研究データの入手は高報酬に繋がったとみられ、ハンターズ・ギルドには感謝する他ありません。

 レイヴンズ・アークは組織に仇をなす存在を許す事はありません。例えそれがレイヴンであろうとも。
 今回の件を忘れずに、レイヴンも自身の身の振り方には気を付けて下さい。



収支結果
 報酬 0
 特別報酬 47000
 支出 - 5870
 合計 41130


レイヴンズ・アークより、デバイス用パーツが支給されました。





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