Mission 01 / ----



ARMORED CORE BELKA STRIKER

Mission 00 : Phantasm Battle




依頼主:ジェイル・スカリエッティ
依頼 :聖域突入
報酬 :前払 デバイス用パーツ

『この依頼のメールが君に届いているという事は、私の望みは叶わなかったのだろう。それも最悪の形で。
私が私であるが為の証明である『聖王の揺り籠』の復活。その為に私はこの計画が失敗するなど微塵にも思ってはいない。
しかしこのメールが君に届いている以上、それも叶わなかったとしか言えない。敗因は恐らく、君が――いや、止しておこう』

深淵の世界の静謐。何人をも寄せ付けぬ静寂の地下世界。
かつて反映した文明の地で、その中を一人の人物が光を帯びて飛行していく。

『――計画の否定にもなるこの依頼を君に頼んでいるのは、最後の保険の為である。
私が成そうとした希望……その切り札である"彼"を撃破して欲しい』

一目で騎士と、連想させるに事足りるバリアジャケットを身に纏い、最深部へ向けて飛行を続ける。
その手にはインテリジェントデバイス。体の要所にアームドデバイスらしく突起が幾つも見受けられる。

『――私の夢。その不始末を君に押し付ける形となってしまうのは心苦しい。
だが、君以外に――"ストライカー"である君以外にこの依頼を完遂可能な魔導師は居ない。管理局のエースでは不可能なのだ』

唐突に開ける世界。地下の、それも一体幾世紀放置された地であるにも関わらず、光に満ち溢れていた。
地上へと降り立ち、眼前にあるターゲットを視認する。

『――……本当に済まない。
"彼"が本格的な活動に入る前に、全てを終わらせて欲しい。
返事を聞けないのが残念だが―――宜しく頼む』

ベルカの王が、其処には居た。
デバイスが戦闘モードに移行。いつものあの、無機質な音声で戦いの狼煙が上がる。

『メインシステム、戦闘モードに移行します』

彼の、レイヴンの、ストライカーとしての、本当のJS事件の結末が始まった――。


 


Mission 01 : Dark Flight



依頼主:レイヴンズ・アーク
依頼 :レイヴン試験
報酬 :----


次元世界を監督する管理局の本拠地の一つである、ミッドチルダ地上本部の地方都市の一角でそれは走っていた。
何の変哲も無い一台のトラックが、都市の中でも一般人が決して侵入しない区画を走行している。

『間も無く目標地点に到着する。最後にもう一度だけ、ミッションの確認を行なう』

荷台に座する二人に、盗聴の恐れが極端に少ないテレパシーにも似た念話によって声が届く。

『目標はこの先にある旧次元通信開発社オフィスビルの地下に潜伏しているテロリストの排除だ。
質量兵器である武器を保持する民間テロリスト及び、低級違法魔導師が数名確認されている』

トラックが停止し、荷台のカーゴが開放される。
寂びた町並みに相応しい、澱んだ空気が二人の鼻を突く。

『このミッションが達成された時、キミ達はレイヴンとして認められる』

手にしている杖が、その中心に嵌め込まれている宝石が煌いた。

『失敗した時は―――死ぬだけだ』

二人の身体を光が包む。光が晴れた時には、先程までの変哲も無い服装から何処かの儀礼服へと変貌を遂げていた。

『それではミッションを現時刻より開始する』

新たなレイヴンの門出が今、咆哮を上げた。


   ◆


「お互いに健闘を祈りるとしようか」

ビル内部へと投入した片割れが、話をかけてきた。
名前――本名か偽名か、レイヴン名かは不明――がエヴァンジェという男は同じタイミングで試験を受けた事で、こうして共同して試験を受ける事と相成った。
だからと言って馴れ合う事も、一々付き合う必要も無く、目的を果たす為だけに同じ方角を飛行している。

レイヴン。それは管理局の魔導師ではない。
元々は管理局のならず者を利用するだけ利用する為に作り上げられた収監所。
今では破格の報酬と引き換えにあらゆる依頼をこなす傭兵組織へと変貌を遂げた組織、レイヴンズ・アーク。
建前上は管理局下の組織ではあるが、最早それは意味を成さない。

依頼は随時レイヴンズ・アークを介する事で承認され、それ故にあらゆる犯罪組織・管理局極秘情報が蓄積されている。
既に管理局では手に終えない組織にまで膨れ上がり、ならず者たちも一騎当千にまで力を付けていた。

「私は右を担当しよう。ではな」

エヴァンジェが二つの道の右を行く。
元より共に戦うなどと決まってはいない。単に二人同時の試験だからこそ、敵の数が多めなだけである。

と、通路の先に地下の入り口を視認。杖を、インテリジェント・デバイス正面に構えて撃ち放つ。
小さな魔方陣が切っ先で展開するや否や光の奔流が迸り、扉を粉砕。それだけは飽き足らずにその先に待ち構えていた数人を吹き飛ばした。

「ぎゃぁぁぁぁあああああああ?!!」

余波で負傷した者達の悲鳴が木霊す。管理局の魔導師ならば、非殺傷設定で気絶こそすれど死人は驚く程に少なく済んでいただろう。
だが生憎、レイヴンにはその必要は無い。ミッションは敵の"排除"なのだから。生かす理由は、皆無。

破壊した扉の先は広大なスペースが広がっていた。恐らく通信実験にでも用いられていたのだろう。
今はテロリストの武器や違法取引の物資が一角に積み上がっているだけで、非常に戦い易い空間である。

「か、管理局の魔導師じゃないのか?!」

一人が手に持っている機関銃を撒き散らしながら叫んでいる。
扉の前で待ち構えていた仲間がミンチになったのを見た為に、パニック状態に陥っていた。

「管理局の犬じゃない…!? まさか―――レイヴンなのか!!?」

侵入者の姿を見止め、その容姿から正に事実である言葉で叫んだ。
そしてその言葉を肯定するかの様に、一人のテロリストの背後に回ったレイヴンが、デバイスより発振する魔力の刃で胴体の上下を分断。
魔力的な素子で構成されたバリア・ジャケットを羽織っていない人間など、試験で支給されたイニシャライズ・デバイスの出力でも十分である。

レイヴンは謂わば戦争屋。護る事もあれど、基本は人殺し。
金さえ払えば何でもするのがレイヴンなのだ。それを知るが故に、テロリストの魔導師は青褪める。

相手がレイヴンであると言うだけで、最早自分達が誰かに排除されようとしている現実を突きつけられる。
だからこそ、悪足掻きの魔力弾を目の前のレイヴンに叩き込む。広いスペースとは言え、実弾と魔力弾の飛び交う中を掻い潜れる広さでは無い為、その身に数多の弾幕を受け止めた。
魔力の爆発で煙が濛々と立ち込め、天井のスプリンクラーが廃れたビルの残された機能を発揮して鎮火していく。

「やった…!」

周囲が沸き立つ。だが、煙の晴れた先の現実に絶望が叩きつけられる。
顔を庇う様に突き出されたデバイスに、前面に焦げ目が目立ったバリア・ジャケット。

ダメージは、皆無に近かった。

レイヴンとなる為の試験を受けている彼の魔力値は今、管理局のBランクにも及ばない。であれば通常、殺傷設定の攻撃を受け止めて生きている筈が無い。
障壁を展開せずにジャケットだけで実弾・魔力弾を防いで損傷らしい損傷を防いだのは単衣にデバイスの性能が一般とは一線を介していたからである。
使用魔力の高効率化を図り、背面のジャケット装甲を極限まで薄めて全面に集中。例え管理局Bランククラスの砲撃の直撃でさえ、剥がし切れないジャケットを実現している。

それは攻撃の面においても同様であり、例え赤ん坊でさえもほんの小さな魔力指令で、鉄板を貫く砲撃を可能とする。
デバイス単体だけでも、サポートするにしては余りにも高性能。だが、それがレイヴンである者が扱う"武器"なのだ。

「うわぁぁあああああああああああああああ!!!!!!?」

勝てないと悟ると、我武者羅に撃ち捲くるテロリスト一同。
撃てど当たれどジャケットを削る事無く弾かれ続け、魔導師の一人が砲撃で朽ち果て、計らずしも一か所に固まった者達に誘導弾二発を叩き込んで魔力爆発で一掃。

このイニシャライズ・デバイスは基本的な砲撃・誘導弾(ニ発同時発動可)・ブレード発振の三つの機能しか展開出来ない。
新たな魔法を編み込む事は不可能。デバイスのAIも能力補助・高効率化の為にサポートの能力は低い。
当然、様々な機能を組み込む事は可能だが、それはこの試験を乗り越え、レイヴンと成らねば意味が無い。

最後の一人。違法魔導師だけがこの場の最後の獲物となった。

「く、来るなっ! こっちに来るなぁあああああ!!!」

半狂乱の悲鳴と共に彼の足元に展開する魔方陣。そこから出現する魔獣は、召還を意味していた。
低級としては破格の召還魔法を成功させ、それに対してレイヴンは舌打ちをする。
幾らデバイスが高性能とはいえ、魔獣を相手にするには装備も経験も足りない。

だがこれを排除し、後ろの魔導師も屠らなければレイヴンにはなれない。
不足の自体にも常時デバイスを通じて監視している試験官は何も言わない。否、今通信が入った。

『情報に不備があったようだな。だが試験に変更は無い。そのまま続行だ』

くっ、と笑いを零す。砲撃を放つ。振るわれる腕で意図も容易く弾かれたではないか。
誘導弾は性質上、砲撃よりも威力が数段劣る。となれば、ブレード以外に有効な攻撃手段は彼には無い。

自分か魔獣か。先に倒れるのはどちらか。

「此方の方に大物が居たようだな」

予期しない方角から、壁を貫いて最後の魔導師が蒸発した。
使役し、魔力供給で存在を維持していた魔獣も消滅し、全てが終わった。
隣の地下区画からのエヴァンジェの砲撃。同じく支給されたイニシャライズ・デバイスであるが為の同じ形のデバイス・服装の彼が、貫いた壁より出て来た。

『テロリスト全撃破を確認。それなりの腕前だな』

試験官から結果に対する評価が成され、

『認めよう。キミ達は今この瞬間よりレイヴンだ』

新たな二人の鴉へと賛辞の言葉が告げられた。


   ◆

メール受信:3件


 送信者:シーラ・コードウェル
 件名 :よろしくお願いします

 初めまして、レイヴン。
 貴女の担当オペレーターとなりました、シーラ・コードウェルです。

 以後はレイヴンズ・アークの管轄の下でのみデバイスの使用が認められます。
 時空管理局とは異なり、依頼以外でのデバイスの所持及び使用は認められておりません。

 また依頼の是非はレイヴン自身に委託されておりますが、
 私の報酬がレイヴンの依頼の是非によって定まりますのでご理解の程をお願い致します。

 最後になりますが、ようこそレイヴン。レイヴンズ・アークは貴方を歓迎致します。


 送信者:エド・ワイズ
 件名 :初めましてだ。レイヴン

 リサーチャーのエド・ワイズだ。
 あんたに回される依頼の事前調査や依頼後のレイヴンへの事後報告を任されている。
 言ってみればアドバイザーだな。

 早速だがこの間あんた達が壊滅させたテロリスト組織だが、依頼主は管理局からだ。
 極秘開発中のデバイス資料が奴等に盗まれ、犯罪組織に売買される前にレイヴンに依頼を回したらしい。

 場所を掴んだのはいいがあそこは管理局地上本部の管轄化とかの理由で後手後手に回っていた為に、
 業を煮やした一部官僚が漏洩を恐れてレイヴンに依頼した。こんな所だ。

 管理局内部の軋轢が顕著に表れている良い例だ。
 試験ついでに資料を頂いておけばあんたのデバイスに組み込む事も出来たのに、勿体無かったな。

 目標達成後、事態を嗅ぎ付けた陸上部隊が資料を回収。
 表向きは管理局が犯人の潜伏場所を発見、激しい抵抗にあった為に全員を射殺。
 違法物資を押収したとなっている。

 自分たちの所から盗まれた物まであったとはとてもではないが公表出来んな。全く都合の良い奴らだ。

 今後も管理局の尻拭いやら汚れ仕事が来るだろう。舐められない様にすることだ。



 送信者:エヴァンジェ
 件名 :これからはお互いにレイヴンだ

 お互いに無事にレイヴンになれたな。
 今後の依頼次第で互いに共闘することや戦うことになるかもしれない。
 だがお互いにレイヴンとなった身だ。既に覚悟済みだろう。

 では、健闘を祈るよ。

 私は上を目指す。邪魔をするのならば、その時は容赦はしない。
 覚えておきたまえ。






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