注意>このSSは、読者がkanonをALLクリアしている事を前提に書いています。
よって、出来ればkanonをオールクリアしてから読まれることをお勧めします。
祐一は夕食の時間になっても帰らず、京香達は夕食の席でも不安そうな顔をしていた。
「相沢君はどうしたんだろうね?夕食までには戻ると言っていたはずだけど。」
和孝の言葉に京香達は答える事は出来なかった。
夕食後、秋子は京香達のいる部屋に行った。
「何か、あったんですね・・・。」
秋子の問いかけに京香達は力なく頷く。
京香達が秋子に事情を話すと秋子は顔を曇らせ、
「それは困ったわね・・・。」
頬に手を当てそう言った。
それから暫くの間皆黙り込んでいたのだが、突然部屋の中に直径30センチくらいの光球が出現したかと思うと、
「久しぶりだな、上級天使に人間達よ。」
「天龍神様っ!?なぜここに?」
「私がここに来たのは、お前達に事情を話さなければならぬと思ったからだ。」
「相沢さんの行方を知っているのですか!?」
「それも含めて今から全てを話そう。神々が犯した罪の話をな。」
SCAPEGOAT
第十六話
天龍神の言葉に皆が何も言えず黙っていると、天龍神は淡々と話を始めた。
「今から数千年前、この世界とは別の世界に一人の男がいた。その男は魔人の戦士だった。その男は変わり者で、自分が気に入った者のため
ならばたとえ相手が天使だろうと魔人だろうと闘いを挑んだ。その男が気に入る者は、魔人の時もあれば人間の時もあれば天使の時もあっ
た。そしてある時偶然一人の女神と出会った。それが全ての始まりだった。」
「もしかしてその魔人が女神を気に入ったのですか?」
「その通りだ。まあ俗に言う一目惚れだな。もっとも、女神の方は最初は男の事を全く相手にしようとはしなかった。今はそうでもないが、
当時は神と魔人の恋など考えられなかった事だからな。やがて男の恋は神界と魔界に知れ渡り、多くの敵を作ることとなった。幾多の天使
や魔人や神や魔神が男を殺そうとした。しかし、誰一人として男を殺すことは出来なかった。」
「なぜです?普通に考えたらあり得ない事のような気がしますが。」
「その男は魔人としてはずば抜けた力を持っていたからだ。それこそ神や魔神に匹敵するほどのな。それに加えて神殺しの力まで
備えていた。」
「なるほど。それでそれからいったいどうなったのですか?」
「魔人や魔神達は男に歯が立たないと悟ると、今度は女神に狙いを変えた。だが、女神の命を狙った者達はことごとく男に
屠られた。そして幾度となく命を救われた女神はやがて男に心を開き、男の事を愛するようになった。」
「わ〜、ドラマみたいで素敵です〜。」
「栞、話の腰を折らないの!」
「えう〜、ごめんなさ〜い・・・。」
「男と女神が愛し合うようになってしばらくして、二人の間に子供が生まれた。そして、ここからが悲劇の始まりだった。」
「・・・何が、あったのですか?」
「二人の間に子供が生まれた後、その子供が魔界の者達に狙われるようになったのだ。奴らはひたすらに子供を狙った。更には
天使や神の一部までが、奴らのたくらみが成功するように画策した。そして・・・。」
「ついにたくらみが成功してしまったわけですね・・・。」
「・・・そうだ。奴らは子供を人質に女神を捕らえ、二人を人質にして男をなぶり殺しにした。そして・・・。」
「・・・・・・。」
「ラグナスは当時この件に関しては中立の立場をとっていた。そして私は今よりずっと力が弱かった・・・。更に悪いことに、我ら
神々の頂点に立ち大変慈悲深い心を持たれる全能なる全ての母は、当時眠りについておられた・・・。」
「つまり、当時は打つ手が無かったというわけですね・・・。」
「そういうことだ・・・。」
「それで・・・、それからどうなったのですか?」
「彼等の亡骸は魔神の手によって焼き尽くされた・・・。しかし、彼等の魂は完全には滅びていなかった。女神の魂は何とか私が
保護する事が出来たが、男と娘の魂は深い闇の中へと堕ちていった・・・。闇に堕ちた男の魂は全てを憎むようになりひたすら
に憎しみをつのらせた。そして、男が死んで千年ほどの月日が過ぎ去った時、男の魂はかつて己が暮らしていた世界に戻ってき
た・・・、全てを飲み込む深き闇を纏って。」
「戻ってきたのは・・・、復讐の為・・・、ですか?」
「いや、男にはもはや自我は残っていなかった。男にあったのは全てに対する怒りと憎しみだけだった。男は己の纏った闇で全てを
無に還さんとした。男が圧倒的な力でかつて己が暮らしていた世界を無に還した時、初めて天界と魔界の者達は皆自分達がしでか
した事が引き起こした事の重大さを悟った。こうなると、もはや神がどうとか魔神がどうとかいっている場合ではなくなった。神
や魔神達は皆協力しあって男を滅ぼさんとしたが、逆に多くの犠牲を出す結果となってしまった・・・。」
「しかし、今世界が滅びていないんですからその時は何とかなったんですよね?」
「うむ。男を滅ぼす事が不可能と判断した神と魔神達は、当時いまだ眠りについておられた全能なる全ての母と魔神達の頂点に立つ
存在である大いなる闇の父を眠りから呼び覚まし、このお二方の力を借りて男を異空間に封じ込めた。そしてしばらくの間は何事
も無かったのだが数百年前から徐々に封印がほころび始め、今やいつ封印が解けてもおかしくは無い状態となっている・・・。」
「そうなんですか・・・。ところで、相沢さんは今どこにいるのでしょうか?」
「相沢祐一は男の娘によって異空間に引き込まれ、そこで今ごろ男と戦っているであろう。男の娘は結界がほころび始めた数百年前から、
強い力を持った者達を結界のほころびから引き込み、自分の父親と戦わせていた。おそらくは、自分の父を止めてくれる者を捜し求めて
の事だろう。」
「なるほど・・・。たしかに彼は人間としてはずば抜けた力をもっていますから、目をつけられてもおかしくは無いでしょうね。」
「男は神殺しの力をもっているゆえ、神や魔神には倒す事は出来ん。天使や魔人達には、男を倒す事が出来るほどの力を持つものはいない
・・・。相沢祐一はいまやこの世界の、いや、全ての世界の最後の希望と言えるだろうな・・・。」
「もし、彼が負けた時は・・・。」
「その時は全てが無に変える時となるであろうな・・・。今の我々に出来る事は相沢祐一の勝利を祈る事だけだ・・・。」
「「「「「「「「「「「「「「「祐一((さん)(君)相沢(さん)(君))」」」」」」」」」」」」」」」
天龍神の言葉に部屋にいる者達は祐一の名を呟き、祐一の無事を祈ったが、
「天龍神様、一つお聞きしたいのですがよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「天龍神様は何故、私達にこのような事を教えてくださったのですが?このような事は神々にとっては、あまり知られたくはない事では
ないかと思うのですが・・・。」
「・・・相沢祐一にとって、お前達の彼の者への想いは何よりも力を与える物となる。お前達の相沢祐一への想いを、我が力をもって彼
の者に届けるために事情を話したまでだ。今の我に出来るのはこれくらいしかないからな・・・。」
京香の問いに、天龍神は自嘲的に答える。
「昔の我は何も出来ず、今の我も出来るのはこの程度・・・。口惜しいものよの・・・。」
「あなたは自分に出来る事をしようとしています。なら、自分を恥じる事は無いと思いますよ。」
「・・・そう言ってくれると助かる。」
「それで、私たちはどうすればいいのですか?」
「お前達の為すべき事は至極簡単だ。ただひたすらに、相沢祐一の事を想えばいい。」
天龍神の言葉を聞いた皆は目を閉じ祈り始める、相沢祐一の事をひたすらに想って。
そして徐々に皆の体が光を帯び始めた。
「相沢祐一よ・・・。我が力の欠片を宿せし強き心を持つ者よ・・・。どうか生きて帰って来てくれ・・・。」
天龍神の呟きは、その場にいた誰にも聞かれることはなかった。
「おおおおっ」
俺は雄叫びを上げながら魔獣の腹に掌底を打ち込む。
ドガァッ
俺の掌底を食らった魔獣は十メートルほど吹っ飛ばされたが、何事もなかったかのように立ち上がった。
「ちっ、きりがないな・・・。」
俺は必死に呼吸を整えながらそう呟く。
何度攻撃してもまるでダメージを与えられない・・・。どうなってるんだ・・・?・・・っ、もしかしたら。
祐一は考えてるうちに何かをひらめいたのか魔獣に突進していった。
魔獣もまた、祐一が動くと同時に祐一に向かって突進した。
そして金色の光と漆黒の影が交錯した瞬間、
ザシュゥッ
という音と共に漆黒の影から何かがはじけ飛ぶ。
弾け飛んだそれは魔獣の右腕で、魔獣は自分の右肩を根こそぎえぐられ右腕がなくなっているのを見ると苦悶の声を上げた。
「ぐおおおおおおおおおお。」
祐一は、魔獣が苦悶の声を上げると同時に魔獣のほうを振り向いたが魔獣を見て、
「こういう事か・・・。思ったとおりだな。」
と呟いた。
魔獣の肩からは周りの闇よりもいっそう濃い色の闇が噴き出していて、その闇はあっという間に魔獣の肩となり腕となった。
「これじゃあいくら攻撃してもダメージを与えられないわけだ。さて、どうするかな・・・。」
祐一は少し難しい顔をしてそう呟いた。
それからしばらくの間は、魔獣が祐一に飛びかかり祐一はそれを最小限の動きでいなし、カウンターを叩き込むという状態がしばらく続いた。
祐一はこうして時間を稼ぎながら必死に打開策を考えたが、いい考えは浮かばず時間だけが過ぎていった。
そしていくばくかの時間が過ぎた時、この均衡に変化が訪れた。
ゴゴゴゴゴゴ
祐一と魔獣が戦っていた闇の空間が、突如大きな音を立ててうごめきだしたのだ。
な、なんだ!?これは・・・、闇がうごめいている?
魔獣は闇がうごめきだすと同時にその動きを止めていたが、少しすると魔獣の周りから新たに闇が噴出してきて魔獣を包み込んだ。
魔獣を包み込んだ闇はすぐに収束していき、人に近い形をとり実体化した。
闇が実体化したそれは、身長二メートル程で手足に鋭いかぎ爪を持っており、その背には漆黒の翼が生えていた。
また、その全身は周りの闇よりいっそう深く禍々しい漆黒だった。
そしてその表情に浮かぶものは、全てに対する怒りと憎しみだった。
ウォォォォォ
闇と負の感情の化身と言うべきそれは、途方も無い憎悪のこもった咆哮を上げると凄まじいスピードで俺に向かって突進してきた。
ザシュゥ
「ぐあっ。」
俺はとっさに横に飛び、奴の攻撃をかわそうとしたがかわしきれず、左肩を切り裂かれる。
動きが今までとは桁違いに速い・・・。それに洗練されている・・・。
俺はそんなことを考えながら奴の隙を伺いつつ油断無く構えていると、頭の中に少女の声が響いてきた。
「まずい事になりました・・・。父に掛けられた封印が崩壊しようとしています。」
俺は少女の言葉に声を出さずに問い掛ける。
「封印が崩壊するとどうなる?」
「全ての世界は闇に飲み込まれ、無に帰すでしょう・・・。」
「そうか・・・、まあそうならないよう何とかしてみる。」
「すいません、無茶な願いをしてしまって・・・。」
「無茶かどうかはやってみないとわからないさ。」
俺はそう呟くと、全速力で奴に向かって突進する。
奴はその場から動かず素早く腕をなぎ払い、その腕から発生した衝撃波で俺を跡形も無くかき消した。
さらに腕を振るいざまに、その勢いを利用して体を回転させ自分の真後ろめがけてかぎ爪を振るう。
そのかぎ爪に、背後をとろうとした俺は切り裂かれる。
奴はそれからさらに上を見上げ、上から腕を振りかざして迫っていた俺にエネルギー波を放つ。
そしてエネルギー波が俺を捉えた瞬間、本物の俺は奴の背後をとらえる。
「双龍豪爆掌!!」
ドゴガァ
俺の放った渾身の一撃は、奴の体に大きな風穴を開けた。
そして俺はそこから間髪いれずに次の技を放つ。
「龍爪嵐撃閃!!」
ザシュザシュザシュザシュザシュウ
龍爪嵐撃閃、この技は両手に龍気を纏いその両手から嵐のように爪撃を繰り出し、相手をずたずたに切り裂く技である。
俺は龍爪嵐撃閃で奴をずたずたに切り裂いた直後真上に飛び、龍気を両手の先に瞬時に収束させ巨大な光球を作り出して
奴にぶつけた。
俺の放った光球は、奴を飲み込み巨大な爆発を起こす。
その爆発は一瞬、闇の空間を真っ白な空間へと変貌させた。
そして爆発が収まって俺が着地した時、奴は跡形も無く消えていた。
「やったか・・・?」
俺は、その様子をみてそう呟いた。
が、その直後俺は本能的に危険を感じ素早くその場を飛びのいた。
その直後、俺がほんの少し前まで立っていた場所めがけて奴がかぎ爪を振るった。
「くっ、あれでも駄目かっ。」
俺はそう叫びつつ奴と距離をとろうとしたが、奴は予想外に素早い動きでこっちに迫ってきた。
駄目だ、かわしきれないっ!
瞬時にそう判断した俺は、素早く身構え、
ガシィッ
何とか奴の右のかぎ爪の一撃を、手首を掴む事で受け止める。
奴は右のかぎ爪の一撃を止められた直後、間髪いれず左のかぎ爪を振るった。
俺はそれをさっきと同じようにして受け止める。
まずいな・・・、この手を離したら確実に奴の一撃を受ける事になる・・・。かといってこのままではどうにもならない・・・。
どうすればいい・・・、どうすればいいんだ・・・!?
しかし、祐一のこのあせりはすぐに消える事となる。均衡はすぐに破られる事となったからだ。
奴は自分の左手首を掴んでいた俺の右手をあっさり振りほどくと、逆に俺の右手首を掴んだ。
くっ、しまっ・・・。
俺は慌てて奴の左手を振りほどこうとするがびくともせず、奴は俺の右手首を掴んだ左手に力をこめる。
それによって、俺の右手首はみしみしと嫌な音を立てる。
「ぐっ・・・。」
そして奴は俺の右腕の肘から先を捻り切った。
「ぐあっ・・・。」
その痛みに俺は思わず呻き声をあげる。
奴は俺の右腕を捻り切ると、間髪いれずにかぎ爪で俺の胸を貫いた。
「ぐっ、がはっ・・・。」
俺は目の前が一瞬真っ赤になり、わずかに声を出し大量の血を吐く。
まずい・・・、意識が・・・。
俺はダメージの大きさに意識が飛びそうになるが、その意識はすぐに呼び起こされた。
奴が俺の胸を貫いた直後、俺の肉体と精神にに急速に闇が侵食してきてそのショックで意識が無理やり呼び起こされたのだ。
こいつ・・・、俺を闇に取り込むつもりか・・・?
俺の肉体と精神に侵食してきた闇は、膨大な負の感情と共に奴の過去を俺に見せた。
なるほどな・・・、これが奴がこうなりこの空間が生まれた由縁というわけか・・・。
俺は、自らを侵食してくる闇を介して奴に語りかける。
あんたの憎悪、よくわかったよ・・・。だが、憎悪を撒き散らしたところで生まれるのは悲しみと新たな憎悪のみだ。そして、
それは誰も救われる事の無い永遠に続く負の連鎖となる。全ての世界を無に帰したところであんたに救いは来ない。だから、俺
があんたを救ってやるよ。あんたの憎悪を全て光に還す事で!!!
俺の心の叫びが奴に届いたかどうかはわからなかった。だが俺はそれに構わず自らに残された龍気を全て収束させ、侵食してくる
闇にぶつけた。
カアアア
収束された龍気は侵食してくる闇に対抗する光となり、奴のかぎ爪によって貫かれた俺の胸から溢れ出した。
しかし、侵食してくる膨大な闇は俺の龍気をはるかに上回るものだった。
俺の龍気は急速に闇に食われていき、胸から溢れ出す光もそれに合わせて勢いを弱めていった。
くそっ、この闇は俺一人が何とかするにはあまりにも大きすぎる・・・。
俺はなんとか闇を押し返そうとするが、闇はその勢いを弱める事は無かった。
ここまでなのか・・・・・・。
俺は必死に闇に抵抗しながらももはや半分諦めかけていたが、ふと自分の心に声が響いてくるのを感じた。
この声は・・・、旅館にいる皆・・・、それに天龍神にラグナス・・・。
―相沢君、私旅行から帰ったらまた相沢君と一緒に百花屋で苺サンデー食べたいよ。だからお願い・・・、私達の元に帰って来て
―相沢君、ボク冬になったら相沢君と一緒にたい焼き食べるの楽しみにしてるんだ。だからお願いだよ・・・、ボク達の元に帰って来て。
―相沢さん、今の私にとって相沢さんはお姉ちゃんと同じくらい大事な人なんです。だから私達の元に帰って来てくれなくちゃ嫌です・・・。
―相沢君、あなたは私が始めて本気で恋した男性なんだからね、私たちの元に帰って来ないと絶対許さないわよ。
―祐一・・・、お願いだから真琴の前からいなくならないで・・・。祐一がいなくなったら私・・・。
―相沢先輩、あなたは私や真琴達にとってかけがえの無い存在なんです・・・。だから、私達の元に帰って来て下さい・・・。
―祐一お兄ちゃん・・・、死んじゃ嫌です。お願いだから帰って来て下さい・・・。
―祐一・・・、祐一がいないと私も佐祐理も悲しいから・・・、だから帰って来て・・・。
―相沢さん、あなたは私と舞の一番なんですから帰って来なかったら承知しませんよ。
―相沢君、私もっともっと君の事知りたいよ。だから帰って来て私にもっともっと君の事教えて・・・。
―相沢君、師匠の私に何も言わずにいなくなったりなんかしたら絶対に許さないからね。
―相沢さん、あなたを慕う女性は数多くいます・・・。その想いから逃げる事は了承できません。だから帰って来て下さい・・・。
―相沢、こんだけの女の子達から逃げるなんてふざけた真似はゆるさねーぞ。だから絶対帰って来いよ・・・。
―相沢君、君はこんなところで終わっていい人間じゃない。だから帰って来て下さい・・・。
―相沢先輩、あなたは姉さんと舞さんが見初めた人なんですから逃げるなんて事は許しませんよ。だから帰って来て下さい・・・。
―相沢祐一、私に打ち勝った男よ・・・。最後まで諦めなければ必ず道は開ける。お前に教わった事だ。だから最後まで諦めるな・・・。
―相沢祐一、私の力を宿せし者よ・・・。微力ながら我とラグナスも力を貸す。闇に打ち勝ってお主を慕う者達の元に戻って来てくれ・・・。
―相沢さん、私達もあなたもまだまだこれからなんです。だから帰って来て下さい・・・、お願いです・・・。
皆・・・。そうだ。俺には帰りを待ってくれている人たちがいるんだ。だから、こんな所で朽ち果てるわけにはいかない!!!
皆の想いは光となり、祐一に力を与えた。
皆の想いを受けた祐一の龍気、いや、心の光はさっきまでとは比べ物にならないほど強くなり闇を押し返す。
あんたはかつては知っていたはずだ、想いの強さというものを。あんたが忘れてしまった大切な物を俺が教えてやるよ!!!
俺が闇を介して心の叫びを奴に送ると、今まで全てに対する怒りと憎しみのみに染まっていた奴の表情に、わずかながら戸惑いが生まれた。
天龍神よ、あんたにもらった右目と左腕、今こそ使わせてもらう!!
ラグナスとの戦いの後天龍神によって俺に与えられた右目と左腕は、圧縮された龍気の塊に特殊な術を掛けて作られたもので、いざと言う時は
術を解除する事により、膨大な量の龍気を得る事が出来る代物だった。
俺が術を解除すると、俺の右目と左腕は金色に輝きだし、次の瞬間光の粒子となって俺の全身を覆った。
「グ、グオオ・・・。」
俺の心の光はどんどん強くなって徐々に闇を押し返していき、奴は呻き声をあげた。
俺は喉に溜まった血を無理やり吐き出して、力の限り叫ぶ。
「これであんたの闇を終わらせる!!龍・神・天・翔!!!!」
俺の叫びと共に、俺を中心として巨大な光の柱が発生した。
光の柱はどんどん大きくなり、やがて爆発して光の奔流となった。
光の奔流は無限とも思える闇の空間に広がり続け、ついには全ての闇を飲み込んだ・・・。
ありがとうございます。これでやっと私も父も・・・。
光の本流の中にそんな呟きが流れたが、それもすぐに消え去った。
そして、かつて漆黒の闇に覆われていた空間は光の空間となった。
しかし、光の空間のどこにも祐一の姿は無かった・・・。
第十七話へ続く
あとがき
どうもこんにちは。SCAPEGOATの十六話はいかがだったでしょうか?
長い間間を開けてしまって本当にどうもすいませんでした・・・。これに関しては全面的に私が悪いので本当にお詫びのしようもありません・・・。
ですが、間を開けた事で自分でもそれなりにいいかなと思える出来にする事が出来ました。
とりあえず次で終わりですので、よかったら最後までお付き合いいただけたらと思います。
最後に関しては、ちょっと意外かもしれない展開を考えてたりします。
まあ、あまり期待しないで待っていてください。出来るだけ早めに書くようにしますので。
さて、出来れば感想などを送ってくれたりすると嬉しいです。感想が来るとやる気がでるし。
私のメールアドレスはharuhiko@venus.sannet.ne.jpです。
なお、いたずら、誹謗、中傷のメールは止めてください。お願いします。
感想が来たら返事はよほどの事が無い限り書きます。
とりあえず今回はこれで。
それではまた。
あとがき 終わり