注意>このSSは、読者がkanonをALLクリアしている事を前提に書いています。


   よって、出来ればkanonをオールクリアしてから読まれることをお勧めします。



























 




 





 
 俺の・・・、記憶が・・・、失われていく・・・。






 思い出が・・・、消えていく・・・。






 七年前の事も・・・、師匠との修行の日々も・・・、今年の冬の事も・・・、全部・・・、全部消えていく。






 奇跡が起こった後の事も・・・、消えていく・・・。






 俺の全てが・・・、消えていく・・・。






 何もかも・・・。






 祐一の精神が少しずつ崩壊していくのに合わせるかのように、祐一の体を覆っていた龍気もその光を弱めていった。






 「ここまでか。人間よ。お前は十分頑張った。私の力で命だけは助けてやろう。後は何も考えることなく、己の残りの生涯を全う



  するがいい。」






 ラグナスのその言葉は、もはや祐一には届いていなかった。
   








 


SCAPEGOAT

第十話






 結界をじっと見守っていた京香は、祐一の力が急速に弱まっていくのを感じ、はっとした。






 「どうしたの、篠宮さん?もしかして相沢君に何かが・・・?」






 京香の様子の変化を見て取った真琴が京香に尋ねた。







 「相沢さんの力が・・・、急速に消えていきます。このままでは相沢さんは・・・。」






 「そんな・・・。何とかならないの?」






 薫の問いかけに京香は、






 「これは相沢さんの戦いです。私達は手助けをする事は出来ません。相沢さんが自力でどうにかしない事には・・・。」






 「「・・・・・・。」」






 京香の言葉に、二人は悔しそうに結界をにらんだ。






 「全能なる全ての母よ・・・。相沢さんは、もう十分過ぎるくらい苦しみを受けてきました。相沢さんの受けた苦しみは、一人の



  人間が背負うにはあまりにも大きすぎるものです。もうこれ以上、相沢さんを苦しめないで下さい。私の力の全てと引き換えで



  もかまわない。どうか相沢さんに・・・、相沢さんに救いを・・・。」






 京香の祈りが、ものみの丘に空しく響いた・・・。




























 


 そして、祐一はもはやほとんどの自我と記憶を失っていた。






 俺は・・・、おれは・・・、だれなんだ・・・?もうなまえも・・・、おもいだせ・・・、な・・・、い・・・。






 おれは・・・、なにを・・・、しようと・・・。






 「名雪、あゆ、真琴、舞、佐祐理、栞、香里、美汐、秋子・・・。」






 なんだ・・・?おれはなにをいったんだ・・・?だれなんだ・・・?おもい・・・、ダセナイ・・・。






 ナユキ・・・、アユ・・・、マコト・・・、マイ・・・、サユリ・・・、シオリ・・・、カオリ・・・、ミシオ・・・、アキコ



 ・・・、ナニカ・・・、タイセツナ・・・、ナマエノヨウナ・・・、キガスル。





 
 ワスレテハ・・・、ナラナイ・・・、ヨウナ・・・、キガ・・・、






























 「精神が崩壊したか・・・。」






 祐一の体を覆っていたオーラが完全に消えたのを見て、ラグナスは結界を解こうとしたが、






 「何だ・・・?」
 



   

 祐一から何かを感じ、結界を解くのを止めた。






 「俺は・・・、俺はまだ・・・、ここで終わるわけには・・・、いかない・・・。」






 祐一は片膝をついていたのだが、何とか立ち上るとそう呟いた。






 「馬鹿な・・・、もはや精神は完全に崩壊しているはずだ・・・。」






 ラグナスは驚嘆の表情を浮かべ、そう呟いた。





 「あいつらを・・・、あいつらを助けるんだ・・・。もう二度と・・・、悲劇は繰り返させない・・・。」





 
 祐一がそう呟くと、祐一の体を白いオーラが覆い始めた。そして、そのオーラは徐々に金色に変わっていった。






 ラグナスは祐一をじっと見て、動こうとはしなかった。






 祐一に呼応するかのように、ものみの丘の上空には雷雲が立ち込めてきた。






 「これはいったい・・・?」






 「相沢さん・・・?」






 「龍気が・・・、急速に集まっていく・・・。何が起こってるの・・・?」






 真琴と京香と薫は、空の変化を見てそう呟いた。





 
 結界を見守っていた、妖の者達や、野生の獣達も、空の変化に呼応して騒ぎ出した。





 
 「俺は・・・、京香との約束を果たすために・・・、大切な者達を救うために・・・、お前に勝つ!!」






 祐一は顔を上げてラグナスを睨みつけると、そう叫んだ。






 
 そして、祐一を覆っている金色のオーラが激しく波打ちだした。







 「龍・神・降・臨!」






 祐一が叫ぶと、雷雲から凄まじい雷が結界めがけて落ち、結界を吹き飛ばした。






 そのあまりの凄まじさに、周りにいた者達は皆思わず身を伏せた。





 そして、皆が恐る恐る顔を上げると、そこには驚愕の表情を浮かべたラグナスと、凄まじい金色のオーラを身にまとった祐一



 がいた。






 「相沢さんっ!」





 
 京香は祐一の姿を見て、思わずそう叫んだ。






 他の者達は、言葉を発することなく二人の様子を驚愕の表情で見ていた。






 「ばかな・・・、人間が神をその身に宿すだと・・・?いくら天龍神が人間に好意的だとはいえ・・・。」






 ラグナスは、目の前で起こった出来事が信じられないといった表情で、そう呟いた。






 祐一の背後には金色の巨大な龍が見えた。その龍はラグナスと同等の威圧感と神々しさを発していて、見る者全てを圧倒していた。






 「いくぞ・・・。」






 祐一がそう呟くと、次の瞬間二人の姿は掻き消えていた。






 そして勝負は一瞬でついた。






 ガキインッ






 祐一は、首めがけて振るわれた大鎌を右手で受け止めてへし折り、






 ドシュッ






 間髪置かず、ラグナスの胸にへし折った大鎌を突き立てた。






 へし折られたラグナスの大鎌はたやすく鎧を打ち抜いて、ラグナスの胸に深く突き刺さった。






 そして次の瞬間、






 「龍・神・天・翔!!」






 そう叫ぶと、二人を中心として巨大な金色の光の柱が発生し、二人を飲み込んだ。






 光の柱は天まで届き、周りから見ている者達は光の柱の中を巨大な金色の龍が昇っていくのがおぼろげに見えた。






 光の柱が消えた後、皆が見たのは右手にラグナスの大鎌の刃を持った祐一だけだった。






 「やっ・・・、ぐっ、がはっ・・・、たのか・・・?」






 祐一が吐血をしながらそうつぶやくと、祐一の十メートルくらい前方に闇が発生し、そこからラグナスが現れた。




 
 
 ラグナスは鎧もマントもぼろぼろで、胸には大鎌の刃の刺さっていた跡がはっきりと見て取れた。






 祐一は表情を変えることなくラグナスを見ていた。





 
 駄目だったか・・・。京香、すまない・・・。約束、守れそうに無い・・・。皆、すまない・・・。助ける事が出来なくて・・・。





 祐一は自分の敗北を確信し、心の中で皆に詫びた。






 しかし、ラグナスが祐一に言った言葉は、祐一の予想とは違うものだった。






 「見事だ、人間よ。私はおまえの事を認めよう。お前の勝ちだ。」





  










第十一話へ続く


あとがき

 
 
 どうもこんにちは。第十話はいかがだったでしょうか?


 とりあえず、祐一とラグナスの戦いはこれでひとまず決着がつきました。


 次回は、祐一とラグナスの戦いのエピローグとなります。


 ものみの丘に向かっている残りのキャラ達は、当然次回全員登場します。


 この話はまだこれで終わりではないので、よろしかったらもう少し付き合ってくれると嬉しいです。

 
 あと、よかったら感想などを送ってくれたりすると嬉しいです。


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 感想が来たら返事はよほどの事が無い限り書きます。


 とりあえず今回はこれで。


 それではまた。




あとがき 終わり