注意>このSSは、読者がkanonをALLクリアしている事を前提に書いています。


   よって、出来ればkanonをオールクリアしてから読まれることをお勧めします。



























 




 沢渡真琴と獅堂薫は、祐一とラグナスの戦いが始まる頃、ものみの丘に到着した。





 
 「何なの、これは・・・?」






 真琴はラグナスの作り出した結界を見て、そう呟いた。





 
 薫は結界を見守る京香を見つけ、






 「あなた、確かうちの学校の生徒だったわよね。これは一体何なの?」






 「あれは戦いに邪魔が入らないように、そして周りに被害が及ばないようにするための結界です。」






 「と言う事は、あの中で誰か戦ってるの?」






 薫の言葉に京香は、






 「あの中では今、相沢さんが戦っています。自分にとって大切な人達を救うために。」






 「いまいち良くわからないけど、ようは今あの中で相沢君が戦っているって事ね。」






 「はい、そうです。」






 「勝ち目は・・・、あるの?」





 
 「はっきり言って、相沢さんでは勝ち目は無いです。ですが、勝つ事は出来なくてもラグナス様が相沢さんの事を認めてくれれば、



  あるいは・・・。」






 「相沢君の大切な人達の命は、助かるかもしれないって言う事?」






 「はい、あなた方の命も含めて。」






 「私と沢渡先生の命?どう言う事、それは?」






 「あなた方は本来はもう死んでいるんです。相沢さんはその事は知りませんが。」






 真琴と薫は京香の言葉に、驚きを隠せなかった。






 京香はさらに言葉を続ける。






 「相沢さんは三ヶ月前、己に課せられる代償を承知の上で、私に奇跡を願いました。相沢さんがその時願ったのは、



  自分にとって心から大切な人達が、生きて幸せをつかむ事が出きるようになって欲しいというものでした。そして、



  私が相沢さんの願いによって起こした偽りの奇跡によって、彼の大切な人達はみな生き返り、幸せな人生を掴みま



    した。そして、その代償として、相沢さんは皆から忘れられ、忌み嫌われる運命を背負う事となりました。」






 「それじゃあ、私と沢渡先生は本当は相沢君と知りあいだったって言う事?」






 「はい、そうです。沢渡さんは相沢さんが以前住んでいた街で幼馴染でした。そして獅堂さんは、彼の武術の師匠でした。」






 「どおりで彼から龍気を感じたわけね。」






 「もし相沢さんが大切な人達の命を救う事が出来たら、全てを話します。だから今は・・・、今は待たせてください。彼の事を



  ・・・。」





 京香の言葉に、真琴と薫は何も言わずに結界のほうに向き直った。





 京香の気持ちを汲んでのことだろう。





 「ありがとうございます・・・。」





 京香の呟きが、ものみの丘に静かに消えていった。   
 


   






SCAPEGOAT

第九話








 ドガアッ





 
 祐一はラグナスの蹴りを受けて、吹っ飛ばされた。






 「・・・人間よ。お前は何故これほどまでに私の攻撃を受けて、立ち上がる事が出きるのだ?」






 「さあな・・・。」






 俺はラグナスの問いかけに、そう答えた。






 くそっ、どうすればラグナスに勝てる・・・?どうすれば・・・?





 
 俺の体はラグナスの攻撃を何度も受けて、もうぼろぼろだった。





 肋骨は砕け、腕や足や肩や顎の骨は砕ける寸前まで痛めつけられ、右の頬骨は陥没し、全身腫れ上がり、あちこちが裂けて



 出血しているというありさまだった。






 普通の人間ならもう死んでいるんだろうな、これは・・・。






 俺はぼろぼろの体を何とか奮い立たせ、ラグナスに挑みかかった。






 「何度我に挑もうと無駄だ。」





 ラグナスはそう言いながら衝撃波を放ち、俺を吹き飛ばした。






 「ぐああっ!」





 俺は激しく地面に叩きつけられたが、それでも何とか立ち上った。






 ラグナスはそれを見て、





 「まだ立ち上るか。どうやら、素手ではお前の心を折ることは出来ないようだな。ならば・・・。」





 ラグナスがそう言うと、ラグナスの両手に漆黒の大鎌が現れた。





 「人間よ、お前に死の十字を刻んでやろう。我に戦いを挑んだ事を後悔するがいい。」





 ラグナスがそう言うと、ラグナスの姿が掻き消え、次の瞬間には俺の後ろに立っていた。





 俺がその事に気がついた時、俺の体には大きな十字が刻まれていた。





 「ぐああーーー!!」





 その瞬間、俺の体を今までとは比べ物にならない程の激痛が襲った。





 何だ、この痛みは・・・?この傷は普通の傷じゃない・・・。






 「人間よ。己の敗北を認めるがいい。そうすればお前の命だけは助けてやろう。このままでは本当に死ぬぞ。」





 「だ、誰が・・・。」





 「まだ心が折れぬというのか。ならば・・・。」





 そして、再びラグナスの大鎌が振るわれた。



































 戦いが始まって十分が過ぎた・・・。






 今や祐一の体は、もうぼろぼろという言葉すら当てはまらないほどに、痛めつけられていた。






 祐一の右目は切り裂かれ、左腕は肩から先が切り飛ばされ、全身のいたるところに大鎌の洗礼が刻まれていた。






 「何故、何故これほどまでやられて心が折れぬ・・・。」





 ラグナスは驚嘆の感情を込めて、そう呟いた。





 「名雪、あゆ、真琴、舞、佐祐理さん、栞、香里、美汐、秋子さん・・・。」





 俺は朦朧とした意識の中で、俺の大切な人達の名前を呟いた。





 「なるほどな・・・。大切な者達への想いがお前を支えつづけているというわけか。ならば、その想いを断ち切ってやろう。」





 ラグナスはそう言うと、俺の前まで歩いてきて右手をかざした。




 
 そして、ラグナスの右手から光が発せられたと思うと、俺の意識を何かが浸食していった。





 「案ずる事は無い、人間よ。お前は全てを忘れ、人間となったあの上級天使に養われる事になるだろう。死ぬまでな。」





 ラグナスは右手を下ろし、そう呟いた。





 まずい・・・、俺の意識が・・・、いや、俺の全てが何かに浸食されていく・・・。俺の記憶が、自我が・・・失われていく・・・。





 俺は・・・、俺はまだ戦いを止めるわけにはいかない・・・。あいつらを助けるまでは・・・。





 俺は何とか抗おうとした。しかし、今や俺の精神は何かに浸食され崩壊しようとしていた。












 





















 「相沢さん・・・。」





 結界の外で待つ京香の呟きが、空しくものみの丘に消えていった。











  










第十話へ続く


あとがき


 
 どうもこんにちは。第9話はいかがだったでしょうか。


 今回は祐一の戦いの中篇になります。そして次回で祐一の戦いは結末を迎える事になります。

 
 よろしければ、どうか祐一の戦いを最後まで見守ってくれるようお願いします。

 
 まあとりあえず、よかったら感想などを送ってくれたりすると嬉しいです。


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 なお、いたずら、誹謗、中傷のメールは止めてください。お願いします。


 とりあえず今回はこれで。


 それではまた。




あとがき 終わり