注意>このSSは、読者がkanonをALLクリアしている事を前提に書いています。
よって、出来ればkanonをオールクリアしてから読まれることをお勧めします。
ものみの丘にたどり着いた俺の前には、京香と謎の男が立っていた。
謎の男は漆黒のマントとフードで全身を覆っていて、まるで死神のようだった。
何者だ、あいつは?気がまるで読めない・・・。
俺が立ち尽くしていると、京香が俺に気づいて、
「相沢さん。何故ここにっ!?」
「ただの散歩だ。」
俺がそう言うと、謎の男が口を開いた。
「お前は散歩をするのにわざわざ全速力で走るのか?人の限界を超えた速さで。」
謎の男の声は、普通に人間なら確実に動けなくなるようなプレッシャーを俺に与えたが、俺は動じることなく
「悪いか?たまたま気が向いたからそうしただけだ。」
「相沢さん。お願いですからすぐにここから立ち去ってください。」
「悪いけどそのお願いは聞けない。ちょっと気になる事があるからな。」
俺がそう言うと、京香は困った顔をして謎の男を見た。
「人間よ。私の話を聞けばおそらく後悔することになるだろう。それでも私の話を聞くか?」
謎の男の言葉に俺は頷いた。
SCAPEGOAT
第七話
「では、まず私が何のためにここに来たのかを言おう。私は歪められた運命を正すためにここに来た。」
「どういうことだ?」
「私の今回の役目は、偽りの奇跡によって歪められた運命を正すことだ。」
「偽りの・・・、奇跡だと・・・。」
「そうだ。お前達人間が奇跡と呼ぶものは、本来神にしか起こすことが出来ないものだ。」
「まあ確かにそうだろうな。で、それがどうだって言うんだ?」
俺は平静を装ってそう言いながら、体がわずかに震えていた。なぜか恐ろしく嫌な予感がしたからだ。
「お前は知っているはずだ。この街には、本来は既に死を迎えているはずの者達が大勢いることを。」
謎の男のその言葉に、俺は答えることが出来なかった。
「本来既に死を迎えているはずの者達が、何故今生きているか?答えは、偽りの奇跡によって運命を歪められているからだ。」
謎の男はそこまで言って京香の方を見て、
「そこにいる上級天使は、偽りの奇跡によって運命を歪めるという罪を犯した。よって罰せられなければならない。」
俺は体の震えを抑えながら、謎の男に問い掛けた。既に答えはわかっていたが、一縷の希望に望みを託して。
「歪められた運命を正すとどうなるんだ?」
「簡単なことだ。世界は本来の状態に戻るだけだ。本来死を迎えているはずの者達は死を迎えているというな。」
謎の男のその言葉に、俺の一縷の希望は打ち砕かれた。
更に謎の男は言葉を続ける。
「そこにいる上級天使は力を全て剥奪され、ただの人間として生きることとなる。本来はもっと重い罰が課せられるのだが、今回は情状酌量の余地があるのでな。」
「人間よ。お前が望むのなら、歪められた運命を正した後そこにいる上級天使と共に暮らすことが出来るようにしてやろう。そこにいる上級天使はお前に少なからぬ
情を抱いている。悪い話ではないと思うが。」
「・・・・・・。」
「それにどの道このままではお前は長くは持たない。」
「どういうことだ?」
「自分の身に覚えがあるであろう?偽りの奇跡の代償として受ける苦痛の事は。本来負の運命を背負わなければならない者達が正の運命を享受し続けると、その分お前が
背負わなければならなくなる苦痛は無限に増え続けることとなる。それはやがてお前の精神だけでなく肉体をも蝕み、遠からぬうちに死を迎えることとなる。そして更
には、魂だけになっても苦痛を受け続けることになる。本来死すべき運命にある者達が皆運命を終えるまで、つまり死を迎える時までな。」
謎の男がそこまで言ったところで、今度は京香が口を開いた。
「相沢さん。あなたには謝らなければなりません。私が偽りの奇跡を起こしたせいであなたに多大な苦痛を背負わせることになり、更に二度目の別れを経験させることに
なってしまって・・・。」
俺はそう言って嗚咽する京香の隣まで歩いていくと、京香の頭をなでてやり、
「別に俺は京香を恨んではいないよ。俺は代償が何であるかを知ったうえで奇跡を望んだんだからな。」
俺はそう言って京香に微笑みかけた。
「相沢さん・・・。」
俺は謎の男に向き直り、
「京香とずっと一緒に暮らすって言うのも悪くはないけどな。生憎と俺はそう簡単にあいつらのことを諦めるつもりはない。俺はこの先どれほどの苦難が待っていようと、
あいつらと共に生きて生きたい。それが俺の答えだ。」
「お前の意思は関係ない。これは既に決められたことだ。」
「ならば力づくででも変えてみせるさ。」
「私と戦うと言うのか?」
「あいつらを救うためならな。」
「いけません、相沢さん。相沢さんではあのお方には絶対に勝てません。」
「人間よ。お前がいかに強かろうと、私には遠く及ばぬことはわかろう。それでもなお私と戦おうと言うのか?」
「・・・俺は七年前師匠に会ってから今まで、死に物狂いで修行をして強くなった。俺にとって大切な者達を守るために。もう二度と俺は大切な者たちを死なせたくはないんだよ!!」
「だから私と戦うと言うのか。たとえ勝ち目が無くても。」
「ああ、そうだ。俺はもう後悔はしたくないからな。」
謎の男は俺の目をじっと見ていたが、
「よかろう。お前の覚悟はわかった。私はお前の覚悟に応え、一縷の望みを与えよう。」
「ラグナス様、いったい何を!?」
「人間よ。汝が全ての力を持って我に挑むがいい。我がもし汝の力を認めたならば、汝の大切な者たちの命は助けてやろう。汝を蝕む苦痛から汝を解き放ってやろう。そして、そこに
いる上級天使も無罪放免としてやろう。」
「・・・その言葉に二言は無いな?」
俺の言葉にラグナスは頷いた。
「相沢さん、いくらなんでも無茶です。ラグナス様は・・・。」
京香の言葉は、最後まで言葉になることは無かった。
なぜなら、京香が喋っている途中で俺の唇が京香の唇をふさいだからだ。
俺はわずかな時間唇を触れ合わせた後、唇を離し、
「心配しなくても俺は生きて帰ってくるよ。約束する。本物の天使の祝福のキスをもらったんだしな。」
「相沢さん・・・。」
京香はと言うと、顔を真っ赤にして目には涙を浮かべて、それでもどこか嬉しそうな顔をしていた。
うーん、こうして見てみると京香って普通の女の子と変わらないな。
「別れはすんだか?」
「別れじゃないさ。お前をぶちのめした後再会するって約束したんだよ。」
「ふっ、そうなるといいがな・・・。では、始めるとしようか。上級天使よ、下がるがいい。ここからは私とこの人間との戦いだ。」
ラグナスのその言葉に京香が俺から離れていった。
ラグナスは京香が十分離れたのを確認すると、
「人間よ。覚悟はいいな?」
「ああ。」
俺がそう言うと、ラグナスの体から凄まじい勢いで闇が噴き出していって、俺を飲み込んだ。
そして、俺とラグナスは異様な雰囲気を孕んだ闇に包まれた。
「これは単に周りに影響が出ないようにするための結界だ。この結界によって、どちらが有利になるとか不利になるとか言うことは無い。また、お前が私を見失うと言うことも無い。」
確かに周りが闇に包まれているにもかかわらず、俺にはラグナスの姿がはっきりと見えていた。
「さあ人間よ、かかってくるがいい。己の全てをかけてな。」
ラグナスのその言葉で、俺とラグナスの戦いが始まった。
第八話へ続く
あとがき
どうもこんにちは。第七話はいかがだったでしょうか?
最近ちょっと書くペースが上がってきたなあ。相変わらず話の出来はいまいちだけど。
今回の展開は最初から考えていたものです。この展開が読めた人はどれくらいいるかなー?
そんなこと言ってるとありきたりな展開だと言われそうな気がしますが・・・。
期待はずれとか言うのはやめてくださいね。これはあくまで私の書きたい話を書いているだけですので・・・。
まあとりあえず、よかったら感想などを送ってくれたりすると嬉しいです。
私のメールアドレスはharuhiko@venus.sannet.ne.jpです。
なお、いたずら、誹謗、中傷のメールは止めてください。お願いします。
とりあえず今回はこれで。
それではまた。
あとがき 終わり