注意>このSSは、読者がkanonをALLクリアしている事を前提に書いています。
よって、出来ればkanonをオールクリアしてから読まれることをお勧めします。
始業式から二週間程経ったある日、俺は商店街を歩いていた。
普段だとただなんとなく商店街に来るのだが、今日は自炊の材料の買出しにきていた。
出来合いのものだと栄養が偏るし食費も馬鹿にならないからな。
ちなみに、俺の料理の腕は秋子さんには程遠いものの、自炊を始めた当初に比べると多少はましになっていた。
まあ作れるのはごく簡単なものだけだから、毎日同じような物ばかりになってしまうけどこれはしょうがないか。
俺が秋子さんや佐祐理さんの料理を口に出来ることは、もうおそらく二度とないだろうしな・・・。
奇跡の代償として、皆の記憶から俺のことは完全に消え去ってしまったからな・・・。
SCAPEGOAT
第三話
俺が何を買おうか考えながら歩いていると、背後から誰かが凄い勢いで近づいてくる気配がした。
俺に近づいてくる気配の主は、俺がよく知っている者の物だった。
「うぐぅー、そこの人、どいてー。」
俺の背後から近づいてくるものは、そんなことを言いながら俺に向かって走ってきていた。
こんなことを言いながら走ってくるのは、一人しかいなかった。
俺に向かって走ってきているのは月宮あゆ、俺の初恋の女の子だった少女だ。
今でも好物はたい焼きらしく、商店街を歩いていると、たい焼きを食べながら歩いているあゆをわりとよく見かけたりする。
と、そんなことを考えいる間にあゆはかなり俺に近づいてきていた。
「うぐぅー、どいてー、ぶつかるよー。」
俺はここでようやっとあゆの方を振り向いたのだが、俺の顔を見たとたんあゆは顔を引きつらせ慌てて止まろうとした。
だがあゆはかなり勢いがついていたので止まることが出来ず、結局俺とあゆはぶつかった。
まあ、あゆがぶつかった反動でこけないようにうまく抱きとめたけどな。
俺が抱きとめたあゆの方を見ると、あゆは縮こまって震えていた。
俺はそんなあゆを見て、今更ながら皆に忘れられ、なおかつ忌み嫌われていることを思い出した。
俺は出来るだけ感情を表に出さないようにして、
「あゆ、だいじょうぶか?どっか怪我とかしてないか?」
「う、うぐぅ・・・。」
・・・駄目だな、完全に怯えちまってる。これじゃ何を言っても無駄だな。
この場に秋子さんか名雪がいればあゆをなだめてくれるんだろうがな・・・。
今の俺では何をやってもあゆを怖がらせるだけだな。
俺が完全に怯えてしまったあゆを前に途方にくれていると、あゆの走ってきた方から秋子さんと名雪がやってくるのが見えた。
ちょうどいい、二人にあゆをなだめてもらうか。
「あゆ、秋子さんと名雪が来てるぞ。」
「えっ・・・?」
「ぶつかったことは怒ってないから、早く秋子さんと名雪のところに行ったらどうだ?」
「う、うぐぅ・・・。」
あゆはどうやら足がすくんで動けなくなってしまっているようだった。
やれやれ、しょうがないな。こりゃ秋子さんと名雪がこっちに気づくのを待つしかないか。まあすぐに気づくだろうけどな。
俺の思ったとおり、秋子さんと名雪はすぐに俺とあゆに気がついて走って来た。
名雪はやっぱり足が速いな。秋子さんは・・・、まああんなもんか。
名雪は俺とあゆのところまで走ってくると、すぐさまあゆに声をかけたのだが、
「あゆちゃん大丈夫?何か変な事されなかった?殴られたりしなかった?」
・・・そういうことはせめて本人のいない所で言うもんだと思うぞ、名雪。
「えっ、何で私の名前を・・・?」
どうやら声に出ていたらしい。本当に困ったもんだな、この癖は。
名雪があゆをかばうようにあゆの前に立ち、俺の事を威嚇するようににらんでいると、秋子さんが俺達のいるところまでやって来た。
秋子さんは俺と名雪たちの方を見て、
「何があったんですが?」
と言った。
秋子さんはちょっと困ったような顔で俺と名雪たちの方を見つめていたが、その顔にはやはりいくらか俺に対する恐怖が混ざっていた。
さすがに出来るだけだけわからないようにしてはいたが。
俺はそんな皆の様子を見てかすかに悲しみがこみ上げてきたが、それを抑えて、
「別になんでもないですよ。あゆのこと頼みますね、秋子さん。」
それだけ言うと、三人に背を向けて歩いていった。
祐一が三人のもとから立ち去った後、あゆはようやっと落ち着きを取り戻した。
「あゆちゃん大丈夫?どこも怪我してない?」
「うん、ボクは大丈夫だよ。別にどこも怪我してないよ。」
「いったい何があったの、あゆちゃん?」
「うぐぅ・・・、えっと、僕が走ってたら相沢君にぶつかって・・・、それで・・・。」
「それで何かされたの?」
「ううん、何もされなかったよ。」
「じゃあ何であんなに怯えていたの?」
「うぐぅ・・・、何でだろう・・・・?相沢君が近くにいるとそれだけでなんか怖くなっちゃって・・・、それで・・・。」
「そういえば私もそうだよ。何でなんだろ?」
「まあいいわ。あゆちゃんに怪我が無かったんだから。早くお買い物を済ませましょう。」
「うん、そうだね。」
こうして、三人は何事もなかったかのように歩いていった。
一方、祐一は三人のもとを立ち去った後買い物を済ませ、公園に来ていた。
祐一は特に用があったわけではないのだが、自然と足が動いていつのまにか公園に来ていた。
「そういえば、この公園は栞のお気に入りの場所だったな・・・。」
俺はなんとなしにそんなことを呟いて辺りを見回してみた。
すると見知った顔を見つけた。
それも一人ではなく三人も。
俺が見つけたのは、美坂栞と美坂香里と北川潤の三人だった。
三人は公園のベンチに座って仲良く談笑していた。
この世界では栞と香里の仲は凄くいいことは知っていたが、実際に見てみると俺はやはりちょっと嬉しくなった。
また、栞にも香里にもその笑顔には微塵の悲しみも無かった。
「栞も香里も本当に幸せそうだな・・・。いつまでもあいつらに幸せな時間が続くといいんだけどな・・・。」
俺はそう呟くと、きびすを返して公園を立ち去ろうとしたが、その瞬間突然耐えがたいほどの激痛が俺の体を襲ってきた。
「ぐ・・・、あ・・・。」
俺は突然体を襲ってきた激痛に思わずひざをついた。
どういうことだ・・・?今までとは違う・・・。予兆が全然無かった・・・。
俺が激痛にうめいていると、ベンチに座って話をしていた三人が俺の様子に気がついて俺の方に駆け寄ってきた。
「おい、あんた大丈夫か?」
北川が俺にそう問い掛けてきた頃には痛みが引いてきたので、
「ああ、もう大丈夫だ。」
俺は北川にそう答えた。
この時美坂姉妹も既に俺のそばまで来ていたのだが、うずくまっていたのが俺だとわかると顔をひきつらせあとずさった。
また、北川も美坂姉妹を庇うように二人のそばまで下がり、威嚇するような顔で俺をにらんだ。
俺はそんな三人の様子を見て、やはり少し悲しくなったがそれを顔には出さずに、
「じゃあな栞、香里、北川。」
俺は三人にそう言うと、今度こそきびすを返して公園から立ち去った。
栞と香里と北川の三人は、祐一が立ち去った後少しの間その場に立ったままでいたが、やがてどこかへ歩いていった。
一方祐一はというと家に帰りながら色々考え事をしていた。
が、色々と気になる事が多すぎて、考えはさっぱりまとまらなかった。
・・・駄目だな、さっぱり考えがまとまらない。今度京香に色々聞いてみるか。素直に教えてくれるかどうかはわからんが。
そして祐一は家に戻っていった。
出迎えるものが誰もいない家に・・・。
第四話へ続く
あとがき
どうもこんにちは。第三話はいかがだったでしょうか。
いちおうKanonのヒロイン達を出したことは出したけど・・・、全然上手くかけなかった。
次回は残りのヒロインを出す予定ですが、今回より少しでも上手く書けたらいいなあ・・・。
私はSSを書くのはまだ全然下手ですが、これからも見捨てずに読んでくれたら嬉しいです。
それではまた次回お会いしましょう。
あとがき 終わり