「・・・で、これは一体どういった状況なんだろうか」
「わ、私に聞かれても・・・」
現在16時27分、高町宅。
なのはは台所にジュースを取りに行った。
残った俺たちはリビングのソファーに腰掛けているのだが・・・
(し、視線が痛い・・・!!)
こう、殺気をビンビンと感じるのだ。
それもダメ元で稽古を頼もうとしたなのはの兄から。
さっきからまるで怨敵でも見るかのような目でこっちを睨んでいる。
傍にいるフェイトも少々畏縮してしまっている。(なのはは台所にいるので被害に遭っていない)
「フェイト、なのはの手伝いに行ったらどうだ・・・」
「うん、そうする・・・」
とりあえずフェイトを逃がす。
ててて、となのはの所に駆けていった。
リビングにいるのが俺となのはの兄だけになると更にプレッシャーが増した。
俺、何かした・・・?
そんな素朴な疑問は頬をつたう何かと共に流れていった・・・・・
魔法少女リリカルなのはA’s 〜もう一つの魔導書〜
第八章「試練」
『お邪魔しまーす』
「いらっしゃい! さ、上がって!」
フェイトと共に玄関を開けるとなのはが出迎えてくれた。
下校中にそのままなのはの家に行こうと思ったがさすがに荷物を持ったままだとまずいので、一旦家に帰った。
で、なのはの家に向かうフェイトと偶然合流して今に至る。
「ほー、ここがなのはの家か。結構広いな」
「うん。道場なんかもあるんだよ」
道場とは本格的だな。
これは本格的な剣術家だと見た。ちょっと今から期待が膨らむ。
そして俺たちはリビングらしき場所へ通された。
窓から庭が見え、そこに更に盆栽がある。
古き日本の風情が感じ取れるな。
こういう風景は結構好きだったりする。
「ちょっとここに座って待っててくれないかな」
と、ソファーを示された。
なのははジュースを取ってくると言って台所へ向かった。
と、そこに一人の男性がリビングに入ってきた。
大体17、8だろうか。
推測するに、たぶんこの人がなのはの兄なのだろう。
「こんにちは恭也さん。お邪魔しています」
「ああ、フェイトちゃん。こんにちは。で、そっちの子が?」
と言って俺に視線を向けてくる。
よし、ここは最初が肝心! 出来るだけ好印象で―――!!
「初めまして。なのはの友達の皇陣耶といいます」
といっても演技など出来ないのでいつも通りにするしかないのだが・・・
「君が陣耶君か、初めまして。俺は高町恭也、なのはの兄だ。よろしくな陣耶君」
「はい。よろしくお願いします、恭也さん」
うむ。ファーストコンタクトは上々だ。
というかこの人、隙が無さすぎる。
少々武術を嗜んだことのある身だから分かるが、まず重心が全くずれてない。
更に一見普通に会話して隙だらけのように見えるが、その実隙がない。
もし今襲いかかったとしても次の瞬間には俺が殺られているだろう。
この人は―――強い。
おそらく、俺のであった人の中でダントツに。
魔法とか無ければあの守護騎士相手でも勝てるんじゃないのか?
「なのはから話は聞いている。どうも剣術を習いたいと」
「はい」
「理由を聞いて良いかな」
理由・・・
俺の理由としては相棒をちゃんと使いこなしてやりたいから、扱えるようにならなければいけないから。
が、そんなことを正直に話しても微妙なものだ。
俺の理由。
俺は、何のために戦っている?
簡単だ、俺自身を知るためだ。
俺はそのために戦っている。
俺を知るために、俺の中にあるナニかを知るために。
だから、そのために力がいる。
力の理由・・・ それは、俺自身に打ち勝つため―――
「・・・俺自身に、打ち勝つためです」
「・・・打ち勝つとは?」
恭也さんの目が変わる。
声色に変わりはないが、気配が変わっている。
それは、今の俺とよく似たものを持った気配―――
同類とは居るものなのだろう。
おそらく、俺と恭也さんは結構似ている。
性格とかそんなものではなく、もっと深いところで。
似た者に嘘を吐いても始まらない。
だから、今言える精一杯の理由を口にする。
「俺は・・・自分が恐いんです」
「恐い?」
「はい。俺の中には・・・得体の知れない何かが居る。そんな気がして・・・
それがいつか、周りを不幸にしてしまうような、そんな気がするんです。だから―――」
自分に打ち勝つ力が欲しい。
さすがに魔法のこととか言っても分からんだろうし、何より混乱するだろう。
これが・・・俺に話せる精一杯の理由。
「―――」
「―――」
沈黙が降りる。
視線が合う。
その目はまっすぐと俺の目を見て、その奥まで見透かすような、そんな目―――
「―――分かった」
「! 本当ですか!!」
「ああ。ただしあまり深くは教えられない。こちらも真っ当な剣技ではないからな」
「構いません! ありがとうございます!!」
や、やった!! とりあえずこれで目星は立った!!
あとは修行について行けるかどうか―――
「今日はもうこんな時間だからやめておこう。明日からで良いか?」
「はい。よろしくお願いします」
「よかったね、ジンヤ」
「ああ」
さー、頑張って修行しないとなー。
ていうか、なのは遅いな。
「何やってんだ? あいつ」
「さあ・・・」
まあそのうち戻ってくるだろう。
とりあえず、その後は雑談に花が咲いた。
そして、ここからが俺の不運の始まりだったのだろう。
それは凄まじい勘違いから始まった俺の不運。
その始まりの言葉を放ったのはフェイトだった。
「そういえば、なのはってジンヤのことを名前で呼ぶよね」
「!」
「何を言う。それを言うならクロノやユーノだってそうだろうに」
「!!」
「そうじゃなくて、ほら。クラスにもたくさん男の子がいるのにジンヤだけ名前で呼ばれているでしょ?」
「!?」
「ああ、確かに。でもそれは・・・」
友達だからだろ。
そう言おうとした口は、動かなかった。
「ッ!?」
突如、近くから膨大な殺気を感じたのである。
それも俺に向けて放たれているのを。
フェイトも気づいたらしく、顔に緊張が出ている。
(まさか、こんな所に奴らが!?)
一般人まで巻き込むつもりか!? いや、あいつらにはいつぞやの結界がある。
それにいざとなれば俺たちでどうにかすればいい。
というか狙いは俺っぽいから俺が離れれば問題ないだろう。
そこまで考えるのに一秒。
殺気の主は何処にいるのか探そうとして―――はたしてすぐに見つかった。
「あ・・・あれ?」
「えっと・・・?」
二人そろって目を丸くする。
いや訳が分からない。
だって、俺に殺気を放っていたのは一緒にいる恭也さんだったのだから・・・
そして冒頭に至る。
(くそ、本当に俺が何したって言うんだ!?)
何かしたか俺!? 何もしてないだろ!?
く、どうにかしないと冗談じゃなく本当に殺られそうだ!
思い出せ、恭也さんは何がきっかけであんな殺気を放つようになった―――!?
恭也さんが殺気を出し始めたのは俺とフェイトの会話の時。
ならばそこにヒントがあるはず―――!!
『そういえば、なのはってジンヤのことを名前で呼ぶよね』
『何を言う。それを言うならクロノやユーノだってそうだろうに』
『そうじゃなくて、ほら。クラスにもたくさん男の子がいるのにジンヤだけ名前で呼ばれているでしょ?』
『ああ、確かに。でもそれは・・・』
く、まるで見つからない。
恭也さんに関係あると言えばなのはが兄妹だということだけ・・・?
まてよ? 兄妹? 兄? 妹?
まさか・・・
『そうじゃなくて、ほら。クラスにもたくさん男の子がいるのにジンヤだけ名前で呼ばれているでしょ?』
嫌な汗が背中をつたう。
・・・本当にまさかと思うが、そう言うことならつじつまが合ってしまう。
合って欲しくはないんだが・・・
ということで一つ質問してみる。
「あのー、恭也さん?」
「何だ・・・?」
酷くドスの利いた声で応えられる。
下手な質問は死に直結しそうだ。
ここはズバッとストレートに・・・
「恭也さんってもしかして・・・シスコン?」
「違う!! なのはに悪い虫が付かないようにしているだけだ!! 断じてシスコンではない!!」
それをシスコンて言うんじゃあ?
あとそれじゃあ自分がシスコンですって言っているようなものですよ?
が、つっこむと殺されそうなのであえてつっこまないことにする。
(しかし・・・)
原因は分かった。あの会話で恭也さんのシスコン思考が何か致命的な勘違いを起こしたに違いない。
その誤解を解けば万事丸く収まるはず。
説得に応じるかどうかすら危ない橋を渡ることになるだろうが―――
一応確認を取ることとしよう。
やり方一つ間違えるだけでもれなくDHEAD END が付いてくるから気をつけなければ。
「恭也さん、何でそんなに殺気を振りまいているんですか?」
「さて、な。ただなのはに近づこうとしている不届き者がいるようでな、妙なことをしないように見張っているだけだ」
やっぱり勘違いしてるーー!!
しかしどうする?
説得するにしてもこの状態じゃあ話を聞いてくれそうにもない・・・
「おまたせー」
と、そこになのは達が戻ってきた。
「ああ、遅かったななのは。何をしていたんだ?」
「うん。ちょっと作りかけのシュークリームがあったから、仕上げだけして持ってきたんだ」
おお!? なのはの登場で殺気が薄れた!?
こ、これは突破口になるぞ!! ここでなのはに説明して貰えば―――!!
「なあ、なのは」
「何?」
隣からの殺気が膨れあがったが気にしない。
もう少しの辛抱だ、俺。目の前のメシアがきっと俺を救ってくれる!!
あの暴走している思考でも、なのはの言葉なら冷静に受け止めてくれるはず!!
「クラスの中で何で俺だけ名前で呼んでいるんだ?」
「ん? 好きだからだけど?」
時が―――凍結した・・・・・
なのはよ、それは決定的な誤解を招くことになるが?
この暴走した思考にそんなこと聞かせてみろ。ああ、ほら・・・
そうして、視界の隅で何かが動いたのを認識したとき
(ああ、終わった・・・)
俺はそう確信した。
◇ ◇ ◇
「勿論フェイトちゃんやユーノ君、クロノ君も―――って、あれ?」
さっきまで目の前にいたはずの陣耶君が忽然と消えている。
あと向かいに座っていたお兄ちゃんまで一緒になって消えていた。
「はれ? 二人とも・・・どこ行ったの?」
「・・・なのは」
「何? フェイトちゃん」
振り向くと、何やらフェイトちゃんは真っ青な顔をして震えていました。
な、何事!?
「フェ、フェイトちゃん!?」
「とりあえず、ジンヤの無事を祈ろう・・・・・」
「ふぇ?」
と言って胸の前で手を組んで十字を切ってアーメンと本当にお祈りをし始めたフェイトちゃん。
私がその理由を知るのは数時間後の話なんですが・・・
と言うかフェイトちゃん? 何時の間にキリスト信者になったのかな?
◇ ◇ ◇
あの後恭也さんの姿がブレたと思えば、次の瞬間には道場らしき所に立っていた。
はっきり言って状況が掴めない。
予測は出来るがいくら何でも人間の限界を超えすぎていませんか?
「受け取れ」
と、横合いから木刀を投げ渡された。
それを掴んで横に顔を向けるとそこには
「気が変わった。明日と言わずに今から稽古をつけてやろう」
予想通り、恭也さんが立っていた。
ただし纏うオーラが普通ではないが。
少し短い二刀の木刀を構えている。
その姿は例えようもなく剣士の姿だ。
「どうした、構えないのか?」
「その前に一つ質問良いですか」
返ってくるのは沈黙。それを肯定と受け取って質問を投げかける。
「気が変わったって言う理由は―――なのはですか?」
「なんだ、分かっているなら話が早い―――」
唐突に恭也さんが掻き消える。
同時に右方向からの殺気―――!!
「くっ!」
即座に木刀を振り抜いてかろうじて剣戟を受け止める。
だが―――何だこれは!?
(衝撃が―――!?)
受け止めたはずの剣戟の衝撃が直接腕に響く。
まるで受けることが出来ずに剣戟を食らってしまったように。
そんな思考さえ許されずに次の一撃が迫る!
それも何とか反応して受けるが、やはり衝撃が腕に直接響く。
「く、そ! あれは勘違いなんですって!!」
「ほう! あれがどういう勘違いだというのだ!?」
そこが勘違いなんだーー!!
こんな会話を交わしながらでも恭也さんの手が緩むことはない。
むしろ、その速度を上げている。
「なのはは友達として言っているんですよ!!」
「友達ならフェイトちゃん達がいるだろう!!」
くそ、聞く耳持たずか!
何でこんなに人の話を聞いてくれないんだこの人!?
そろそろ腕もやばいぞ!!
「大体、なのはが俺を好きならそれ以下のフェイト達はどうなるんですか!?」
「大好きに決まっているだろう!!」
「何だその基準ーー!?」
好きの下が大好きってどういうことだ!?
やっぱり思考が暴走しすぎてまともに働いていないのか!? というかそうであってくれ!!
「隙あり!!」
「ああ!? しまった!!」
一刀のもとに限界の来ていた俺の腕が持つ木刀が弾かれる。
それは綺麗に中を舞って俺の3メートルほど後方へと落ちる。
・・・拾いに走ればその瞬間に終わるだろうな。
このままではやられる・・・卑怯技を使うか?
目の前まで恭也さんが歩んできて、木刀を突きつけられる。
「最後に言い残すことはあるか」
死刑宣告!?
ちょ、冗談じゃないぞ。こんな所でやられてたまるか!!
「何でこんな事で―――」
「なのはに付きまとう不届き者が何を言う」
不届き者扱い―――
ふ、ふふふ。そっちがそこまで俺を認めないというのならもういい。
生き残るためだ。今回は卑怯技を使わせて貰おう。
「ねえ恭也さん。俺となのはは互いに特別な感情を抱いていないと言っても信じないんですよね?」
「どこぞの馬の骨ともしれぬ奴の言葉を信じられるとも?」
そうですよね。そっちから見たらかわいい妹を持って行こうとする(していないが)にっくき男ですもんね。
「ああそうですかい!!」
「む!」
魔力で体を強化して起きあがりざまにまず木刀を打ち払う!
そしてそのまま独楽のように回転して木刀を拾いに行く!
「させるか!」
後ろから斬撃が迫る。
だが魔力で身体能力を強化した今の俺なら避けられる!
地面すれすれまで屈み込んで斬撃をやり過ごした後、走った勢いのまま前転して木刀の所までたどり着く。
幸い、腕の方は身体強化のお陰でもう少しの間なら持つ。
その少しの間に、一太刀でも―――!
「はあ!」
「!」
初めての攻勢。この機会を逃すまいと連撃を浴びせる。
だが、それは全て綺麗に防がれてしまう。
「くっ!」
「護りこそが真骨頂だ。その程度では通らない」
確かに、このままではすぐにでも立場は逆転する。もしそうなれば今度こそ俺は負けるだろう。
くそ、何か手は―――!
(あそこだ―――)
!?
突如、俺の脳裏にある直感にも似たひらめきが奔る。
まるで俺の中にもう一人の俺がいるような、あるいは極限状態における潜在能力の目覚めというご都合主義のような物なのか。
分からない―――が、
(賭けてみる価値はある!)
今は全く勝機がないんだ。やることはやった方が良い!
何とか今の状況を維持しつつそのタイミングを待つ。
一撃、二撃、三撃―――ここだ!!
「そこ!!」
「何!?」
渾身の一撃が右の木刀を弾き飛ばす。
だが、それだけに留まった。
右と左、両方の木刀を弾き飛ばすはずの剣戟は恭也さんの驚異的な反応速度の前には通用しなかった。
右を飛ばすことは出来たが左が未だに残っている。
だが、相手の戦力を半減させることが出来た。
「―――驚いたな。まさかこれ程とは」
「いつまでもやられてばかりじゃあいられませんよ」
「なるほど、確かに」
恭也さんの雰囲気が変わる。
その目には、より洗練された闘志が宿る。
「さて、ここからが本番だ。連いてこれるか?」
「連いていかないと意味がないですよ」
俺たちが世界から隔絶される。
今この瞬間において外はなく、この空間が世界の全て。
故に、ここに有るモノは闘争のみ―――!!
「いくぞ、高町恭也!!」
「来い、皇陣耶!!」
ここに来てやっと、戦いと呼べる物が始まった。
◇ ◇ ◇
―――午後7時。
目が覚めたときに最初に目に入ったのがそれだった。
どうやら俺はずいぶん長い間気絶していたらしい。
俺はリビングにあったソファーに寝かされていた。
「大丈夫? 陣耶君」
なのはが心配そうにこちらを覗きこんでいる。肩にはユーノも見られる。
「びっくりしたよ。お兄ちゃんが陣耶君を運んできたときボロボロだったから」
「・・・ああ」
そう。あの後俺と恭也さんは周りのことなど気にせずにひたすら戦り合っていた。
その中で実感したのが、あの人とはやはり格が違うということととんでもなく手加減されていたということである。
いや、本当にあいつら相手でも互角に渡り合えると思う。
「フェイトは帰ったのか」
「うん。クロノ君がお迎えに来て」
「そっか」
聞いた話だとフェイトには親がいない。
最近はリンディさんが養子に来ないかと誘っているそうだ。
そんな影響をクロノも受けているのかもしれない。
「家族・・・か」
「陣耶君・・・」
全く、女々しいモノである。こんな時まで感傷に浸るとは。
「お、目が覚めたのか」
「恭也さん」
俺と戦り合っていたときとは違って申し訳なさそうな態度の恭也さんがそこにいた。
顔に“やってしまった”と書いてある。
「すまなかったな。どうも俺はなのはの事になると頭に血が上る質らしい」
「いえいえ、だとしても良い経験になりましたよ。俺はまだまだ未熟ですね」
あの後からは本当に歯が立たなかった。
剣戟の威力と速度が上がった上に衝撃貫通の斬撃と防御をすり抜ける斬撃も使ってきてトドメに高速複数斬撃。
あれは速かった。三回か? 四回か? それくらいの斬撃が一気に襲いかかってきたからなあ。ある意味壮観だ。
「さて、と。帰るか」
「えっと、もう遅いよ?」
「お前がそれを言うか、お前が」
ヴィータ達との戦闘の時とか頻繁に徹夜している癖に。
大体、奴らに襲われでもしない限りそこらのチンピラ位なら軽く料理できる。
「とにかく帰るよ。明日の弁当とか作らないといけないし」
明日の昼食が抜きなんていう事態はゴメンである。
人間、腹が減っては戦は出来ない。
緊急時も、いざという時に体力がなければ意味がないしな。
「あら、何なら家で食べていく?」
「はい?」
いや、俺は弁当を・・・
「うん、子供らしくて良い返事ね。ちょっと待ってね、今もう一人分用意するから」
弁当・・・
◇ ◇ ◇
その後、結局俺は高町家の夕食に(強引に)お呼びされた。
なのはの母、桃子さんの料理の腕は相当なモノで俺も思わず舌を唸らせたほどだ。
ちなみに俺、自分で納得いく料理が作れるように日夜頑張っているので舌はそれなりに肥えている。
よって、料理には少しばかりうるさい。
が、桃子さんの料理は別格だった。
「どうだ、美味しいだろう?」
「はい。今度教えて貰いたいほどです」
「あら、それなら時間のあるときに来たら? 喜んで教えさせて貰うわ」
ふむ、これを機に料理も本格的に習うのも手かもしれない。
色々こんがらがった事情があるからどうしても片手間になってしまうのが痛いが。
「ありがとうございます、桃子さん」
「いえいえ。なのはの花婿候補だもの・・・」
「何か?」
「いえいえ」
? 今無視してはいけない言葉が聞こえた気がしたのだが・・・気のせいか?
まあそんなことよりも明日の弁当をどうするかだな。
予想外に美味しかったので結構な時間食べた。今から帰っても一体何時になるか・・・
これは今日は徹夜ですかね―――
「ごちそうさまでした」
「お姉ちゃん、今日は早いね」
「うん。これから恭ちゃんと稽古の続きだから」
「頑張ってね」
この人は高町美由希さん。なのはの姉で恭也さんの妹らしい。
恭也さんから剣術を教わっているそうで、これまたとても強いらしい。
おそらくは恭也さんと同じく俺なぞ足元にも及ばないのだろう。
だってあの人重心がずれてな(ry
更に高町家の父である士郎さんは恭也さんの師であるらしい。
この人も強いね。何故なら重し(ry
・・・今思ったけど、この家に住んでいる人って桃子さん以外普通じゃない・・・・・
明らかに人間の限界を超えた動きをするであろう三人に加え魔導師としては一級品の実力を持つなのは。
・・・この家族何かあるのかね?
普通じゃ考えられないでしょ、この家。
まあ普通じゃないからここまで凄いのかと自分一人で納得して最後のおみそ汁をすする。
ズズーー、プハーッ
「ごちそうさまです」
「あら、もういいの?」
「はい。充分ごちそうになりましたし、帰って明日の弁当を作らないと」
「それならここにあるわよ」
「はい?」
差し出されたのはナプキンに包まれた弁当箱。
とりあえず受け取ってみると結構な重量がある。もうすでにおかず等は入っているのだろう。
というか、今どこから出したんだろうこの人・・・
この人も何かしら凄かったりしそうだ。
「えっと、色々聞きたいことはありますが・・・まず、これは?」
「お弁当よ?」
いや、本気で分からないの? という顔はやめてください。俺が惨めになるんで。
「その、俺に?」
「そうよ。陣耶君一人暮らしって聞いてね、大変だろうなーと思って」
「いや、でも・・・」
そこまでしていただくのは正直申し訳ないというか・・・
「受け取りにくいのなら、今日のことに対するお詫びだと思っておけばいい」
「恭也さん」
横から口を挟んできたのは恭也さんだ。
ズズーーと、のんでいたおみそ汁を置いてこちらを見る。
「夕方のあれ。それのお詫びだと思えば受け取りやすいだろう」
「うーん」
まあ、ここまでやってくれてそれを受け取らないのは失礼だし・・・
「・・・分かりました。ありがたく頂きます」
「うん。それでいいのよ」
こうして、俺の高町家での夕食は終わりを告げたのだった―――
Next「仮面」
すれ違う想いを結ぶため―――ドライブ・イグニッション!!
後書き
と言うことで第八章ー。
学校までの片道一時間半という地獄を嫌と言うほど味わっているツルギです。
今回はちょっとシリアスギャグ? みたいな雰囲気でいきました。上手く書けているかどうかかなり不安ですがね。
恭也さんは最初とても手加減してました。幾ら頭に血が上ったとはいえ相手は子供ですし・・・
桃子さんとも料理の師弟フラグ。このままはやてと料理のライバルフラグが立ちそう。
ここで高町家の陣耶君に対する心情を―――
士郎:ついになのはにも・・・?
桃子:これで翠屋も安泰かしらね。
恭也:すまないことをしたな。だがなのははやらん!
美由希:なのはにも可愛い友達が出来たものだね。
なのは:大切な友達。
とまあこんな感じですかね。恭也さんはやっぱりシスコン(笑
桃子さんも裏で色々と企み始めたり・・・
次回からやっと七話あたりに入ります。
少々展開が変わる予定です。どちらかが変わるかもしれないし両方変わるかも・・・?