「―――それが、闇の書の真実ってことか」

 「そんな・・・」

 「うん。封印方法とかは引き続き、ユーノ君が調べてくれているんだけど」

 

  正直―――重いな。

 

  だが、今の話が本当ならばなぜ―――あいつらは「闇の書」と呼ぶのだろうか。

 

 「エイミィさん。ならなぜあいつらは闇の書と呼ぶんでしょうか」

 「うーん、言われてみれば確かに」

 

  共に旅をしてきたのなら、本来の名前も知っているはず。

  だがそれを口にすることは無い―――なぜだ?

 

  もはや別物と割り切っているのか、それとも―――

 

 「・・・考えても埒が明かないな。それに、俺たちに出来るのは目の前の事に対処することだけだ」

 「けど―――悲しいね」

 

  なのはの表情は沈んでいる。フェイトもまた、いや。この場に居る全ての者が同様にそうだ。

  そのあまりにも悲惨な魔導書の過去。人の手によって歪められた一つのデバイス。

 

  主と共に旅をする大型ストレージデバイス―――夜天の書。

 

 

 

 

  魔法少女リリカルなのはAs 〜もう一つの魔導書〜

                        第十二章「終わりの始まり」

 

 

 

 

 『いただきまーす!』

 

  目の前に広がるのは豪勢な料理の数々。

  そのどれもがプロ顔負けの逸品だ。

 

  俺は今晩、フェイト共々高町家の食事に招かれている。なんでも明日が忙しいのでその景気付けだとか。

  目の前に広がる全ての料理は桃子さんの手によるもの。

  見るからに食欲をそそるそれは、同様に腹も空かせてくる。

 

 「フェイトちゃんと陣耶くんもたくさん食べてね」

 「はい。ありがとうございます」

 「ありがとうございます。では遠慮なく―――」

 

  早速目の前にあるパンから頬張る。

  ふんわりとしつつも、もちっとした感触が何とも言えない。

 

 「くー、美味しいですねーー」

 「ふふふ、ありがと」

 

  いや、ほんとに箸が進むこと進むこと。

  ここまで美味しいものを食べられて俺は幸せです。

 

  お、このシチューも美味しい。

 

 「フェイトちゃんは今年のクリスマスは、やっぱり御家族と一緒なのかい?」

 「ええ、はい・・・一応は」

 

  フェイトにとっては初めてのクリスマスなんだろう。やや恥ずかしげな返事を返している。

  いや、そもそも異世界にクリスマスという習慣があるのかどうか疑問だが。

 

 「うちは今年も、イヴは地獄の忙しさだな」

 

  ですねー。翠屋の人気は半端ないからな。

  更には親切にイヴは深夜まで営業するという手の込みよう。

  これで忙しくないと言われたら世の中の社会人はひっくり返るだろう。むしろ雇いに来るかもしれん。

 

 「私、今夜のうちに値札とポップ作っておくから」

 「お願いね。私たちは、今夜はしっかり寝とかなきゃ」

 「ホント、あれは忙しそうですからね・・・・・」

 「?」

 

  学校が終わってからすぐに翠屋に向かうのだが、その頃にはもう人だかりが凄いこと凄いこと。

  まともに身動きが出来ないという人口密集度。さらに冬だというのに蒸し暑い。気分はまさに通勤ラッシュの地下鉄である。

 

  イヴの翠屋など当然の如く見たことのないフェイトは首をかしげるだけである。

 

 「翠屋のクリスマスケーキ、人気商品だから。イヴの日はお客さんいっぱいなの」

 「それにね、イヴを過ごす恋人同士とか、友達同士とかのために深夜まで営業しているんだよ」

 「そうなんですか」

 

  ―――聞いているだけでもその凄まじさが目に浮かぶのは、ひとえにイヴの翠屋を何度も見ているからなのかもしれない。

 

 「恭ちゃんはいいよねー。店の中で忍さんとずーっと一緒だし」

 「それは別に関係ないだろ」

 

  見るからに狼狽している恭也さん。なんかもう色々とバレバレである。

 

 「アリサちゃん家とすずかちゃん家の予約分は、ちゃんとキープしておくからね」

 「うん」

 「リンディさんからも予約を頂いてるからなあ。お楽しみに」

 「陣耶くんの予約分も、ちゃんとキープしておくからね」

 

  予約が入れられたのは本当に行幸だった。

  翠屋のクリスマスケーキは本当に人気があるから学校が終わってからすぐに行っても買えるかどうか分らないからな。

  なのはと友達になったおかげで特別予約(という名のおすそわけ)ができたのはラッキーである。

 

  思わず空いている手でガッツポーズを取る。

  だってあれを食わないとクリスマスという気分にならない。

 

  何? 一人で寂しくないのかって?

 

  知り合いと一緒にパーティー開くに決まってるだろうが。

  と言ってもご近所さんだが。

 

 「はい―――ありがとうございます」

 「ありがとうございます」

 

  それから他愛のない雑談をしながら、今日の食事会は終わりを告げた。

 

  明日は終業式。そしてはやてにクリスマスプレゼントを持っていく日だ。

  ちゃんと寝て、明日に備えないとな・・・・・

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

  さて、今はやての病室の前に俺たち、なのは、フェイト、すずか、アリサ、そして俺がいる。

  入院しているはやてにクリスマスプレゼントを渡すためだ。

  ちなみにプレゼントを渡すというのは本人には秘密。今日俺たちが来るのも秘密だ。

こういうことはやっぱりビックリさせたいというのが子供心という名の悪戯心である。

 

  コンコン、とすずかが軽くドアをノックする。

 

 「こんにちはー」

 「あ、すずかちゃんや! はい、どうぞ!」

 『こんにちはー』

 

  どんな反応をするのか楽しみにしつつドアを開けて病室に入る。

  だが―――

 

 「―――っ!?」

 

  待ち受けていた光景は、全く想像しえないものだった・・・

 

 「わー、今日は皆さんお揃いで」

 「初めまして」

 

  すずかとアリサが病室内に入っていく。

  だが俺たちは、驚きのあまり声も出せずに立ち尽くすだけ―――

  何故なら―――

 

 

  そこにいたのは、まごう事無き今回の事件の主犯格。

  今現在、俺たちと対立している者たち。

 

  闇の書の守護騎士こと・・・・・ヴォルケンリッター。

 

  そいつらが、今確かに、目の前に存在していた。

 

 『・・・・・・』

 

  緊張が走る。

 

  あいつらはなぜここに居る? いる理由があるからだ。

  じゃあなぜ? あいつらは闇の書の守護騎士。いや、そのマスターを守護する者。

  だからここにいる理由なんて―――

 

 

  いや、ある。

 

 

  俺の中で、別の声が響く―――

 

 

  そんな訳が無い! あいつはただの―――!

 

  気づいているだろう? お前も。

 

 

  残酷に、傷口を刃で抉るように―――

 

 

  だから、はやては―――!!

 

  いい加減認めろ。奴は、八神はやては闇の書のマスターだ。

 

  ―――ッ!!

 

 

  その声は、俺に事実を突きつけた。

 

 

 「ん? ―――ん?」

 

  俺たちの身に纏う険悪な雰囲気を察したのか、はやては少々戸惑い顔だ。

 

 「あ、すいません。お邪魔でした?」

 「あっ、いえ・・・」

 「いらっしゃい、皆さん・・・」

 

  アリサの一声でとりあえず我に返るものの、険悪な雰囲気が抜けた訳ではない。

  だが、それでも一応は安心したのかすずかが安堵の吐息を漏らす。

 

 「なんだ、よかった」

 「ところで、みんな今日はどないしたん?」

 

  そうだ。今日はそれが目的で来たんだが・・・・・

  アリサとすずかが顔を合わせてにっこりと笑い―――

 

 「サプライズ・プレゼントー!」

 「あっ―――はは!」

 

  途端に、はやての顔がほころぶ。

  目を輝かせて、本当に、嬉しそうだ。

 

 「今日はイヴだから、はやてちゃんにクリスマスプレゼント」

 「わー、ホンマかー? ありがとうな」

 「みんなで選んだの」

 「後で開けてみてね」

 

  はやては本当に喜んでいる。それはいい。

  ただ―――

 

 「ぅ〜〜〜〜〜〜」

 

  ヴィータの威嚇をどうにかしてほしいです。ハイ。

  こんなんじゃあおちおち和んでいられません。

 

 「なのはちゃん、フェイトちゃん、陣耶くん。どうしたん?」

 「あっと、いやいや」

 「別に何も・・・」

 「ちょっと御挨拶を・・・ですよね・・」

 

  き、気まず過ぎる・・・・・・・!

  こんな空気は耐えられんのだが―――!?

 

 「はい」

 「あ、みんなコート預かるわね」

 『はーい』

 

  とりあえずコートをシャマルに預けるが目がまったく笑ってない。

  他の守護騎士たちも同様に気を張っている。

  更には通信妨害もされているみたいだ。先ほどから変な感じが辺りを包んでいる上、外部との念話が通じない。

 

 「あの、そんなに睨まないで・・・」

 「睨んでねーです。こういう目つきなんです」

 「―――」

 

  いや、シグナムやシャマルはまだましか。あらかさまに敵意を剥き出しにしているこいつの方が性質悪い。

  こいつの性格上誤魔化す、という行為自体が難しそうだが・・・・・

 

  と、

 

 「ヴィータ、嘘はあかん」

 「お?」

 

  はやてがヴィータの鼻をつまんだ・・・・・

 

  ヴィータはむぐぅ〜なんて呻きをあげてされるがままになっている。

  なんというか・・・・珍しい光景だな。

  あのヴィータが大人しくしているなんてちょっとビックリだ。それとちょっぴり微笑ましい。

  なのはも少し顔が笑っている。

 

  ・・・なんか、あれを見ていたら闇の書の主とかどうでも良くなる。

  はやては―――はやてだ。それでいい。

 

 「さて、と―――」

 

  それじゃ、いつもみたいにお見舞いでもしましょうかね。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 『さようならー』

 

  はやてへのお見舞いを終えた俺たちは病院を出た。

  外はもう陽が落ち、夜の帳が落ちている。

  空は曇り、曇天の空で月の姿さえ見ることが出来ない。

 

  ―――とこしえの闇は、今の俺たちを表しているかのようだ。

 

  知ってしまった真実。知りたくもなかった現実。

  いまだ夢を描いている俺たちには、それは重くのしかかる―――

 

  とにかく、このままで終わりではない。

  はやてが闇の書の主だと発覚した以上、俺たちには管理局に報告する義務がある。

そして向こうはそれを最も危惧している。

 

  前にアルフが言っていたこと―――ザフィーラは、この前の戦闘でこう言ったそうだ。

 

 

 『闇の書の蒐集は、我らが意思。我らが主は、我らの蒐集については何もご存じない』

 

 

  つまりは、完全な独断行動。はやては、こんな事を望んではいない。

  なら何故―――?

  決まっている。そうするだけの理由があるからだ。

 

  闇の書によるリンカーコアの侵食、はやての入院はそれが原因だろう。

  一定期間蒐集が無ければ所有者を食らいに行き死に至らしめる。

  守護騎士たちはそのことを分かっていたからこそ行動しているのだろう。

 

  つまり、あの守護騎士たちははやてを助けるために動いている。

  だが、しかし―――

 

 「それじゃあ、ここでさよならだな」

 「冬休み、いつが空いている?」

 「うーん、最近忙しいから・・・暇ができたら行くよ」

 「わかったわ。じゃあね」

 『バイバーイ』

 

  アリサ達とは離れた。

  これでもう、ここにいるのは俺たちだけ。

 

  ―――遠くから、あらかさまに魔力を感じる。

 

『マスター』

 「ああ、誘っているな」

 

  俺たちは、あいつらに言わなければならないことがある。

  あいつらは、俺たちを野放しに出来ない。

 

俺たちが負ければ、良くても監禁。最悪―――殺されるだろう。

  だが、俺たちが勝てば、話くらいは聞いてくれるかもしれない。

巧く事が運ぶなら、解決法を探すために協力もできるかもしれない。

 

 

 

  間違いなく、今夜が決戦の夜。

 

 

  もはや意思の確認など必要ない。

  俺たちは、決戦の場へと歩みを進めた―――

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

  ―――屋上へと続くドアを開ける。

  そこにはついさっき見送ってもらった二人、シグナムとシャマルがいた。

 

  ヴィータとザフィーラが見当たらない。周囲の警戒か、それとも―――

 

 「はやてちゃんが、闇の書の主―――」

 

  ふいに、なのはが口を開いた。

  どうしても、聞いておきたかったんだろう。

  何せ自分の友達が敵なのだ。いきなり言われてハイそうですかと頷けるはずが無い。

 

 「ああ、そうだ」

 

  だがしかし、その事実は変わらない。

  俺たちがあいつらと戦うということ。それは同時に―――

 

 「悲願はあと僅かで叶う」

 「邪魔をするなら、はやてちゃんのお友達でも―――!」

 

  はやてすらも、敵に回すという事実は―――

 

 「待って! ちょっと待って! 話を聞いてください!」

 

  俺たちが誘いに乗ったのはあくまでも話をするため。好んで戦闘をしに来ている訳ではない。

 

  闇の書の真実の名―――夜天の書。

  その真実を確かめるためにここに来た。

 

  そしてもう一つ。

完成した闇の書の危険性、そして主へと及ぼす影響を伝えるため。

 

 「ダメなんです! このまま闇の書が完成したら、はやてちゃんが―――!!」

 『マスター。右上空より接近する魔力反応、一』

 

  なのはの言葉は俺の相棒によってかき消された。

  右上空―――あれか!

 

 「なのは!!」

 「うあ!」

 

  なのはに注意を促すが、遅かった。

  気がついた頃には、なのはは飛来してきたヴィータによってフェンスに叩き飛ばされていた。

 

 「なのは!」

 

  フェイトが悲痛な叫びをあげる。

だが―――

 

 「はああああ!!」

 「っ! フェイト!!」

 

  続けざまに飛んできた斬撃を横に飛んでかわす。

  斬撃の主は―――言うまでもなくシグナムだ。

  その顔は前髪によって隠れ、表情は分からない。

 

  ただ―――一瞬、哀しみを宿した瞳を見た。

 

  デバイスを起動させ、構える。

 

 「管理局に、我らの主のことを伝えられては―――困るのだ」

 「私の通信防御範囲から、出すわけには―――いかない」

 

  それは―――全てはやての為に。

  失いたくないと、なくしたくないと―――宝物を初めて手にした子供のように、震えている。

 

 「もう後ちょっとなんだから―――」

 

  痛みも、苦しみも、全てを力に変えて闇の書の蒐集を行って・・・

  やっと、助けられるところまで来た。

  それを邪魔する俺たちは―――はたして何に見えるのだろうか。

 

 「邪魔すんなあああああああああ!!!」

 

  グラーフアイゼンが振り下ろされ、凄まじい爆発と共になのはを爆煙が包む。

  けれど、その程度じゃあ―――なのははやられない。

 

 「・・・・・」

 

  煉獄の炎から悠然と歩み出る影。

  白いバリアジャケットをその身に纏った―――高町なのは。

 

  その静かな面持ちには畏怖さえ覚える。

 

 「―――悪魔め」

 

  ・・・・・なるほど。確かに、誰かを救うために動いているお前たちからしてみれば、俺たちは悪鬼だろう。

  けれど、それが間違いだと知っているから。

  その行いの行き着く先を、俺たちは知ったから。

 

  だから―――

 

  レイジングハートが、起動する。

 

 『Accel Mode. Drive Ignition

 「・・・悪魔で、良いよ」

 

  それは決意。

  嫌われてもいい。傷つけられてもいい。

  たとえ戦う事になろうとも―――

 

 「悪魔らしいやり方で―――話を聞いてもらうから!!」

 

  俺たちは、信じる道を行くと決めたのだから!

 

 「シャマル。お前は離れて、通信妨害に―――」

 「っと、そうはさせない。こないだみたいに手を生やされたらこいつらも溜まったもんじゃないだろうからな」

 

  シャマルが使用するあの魔法。使われると厄介だがそれを阻止するのは容易だ。

  援護ができる前衛がいれば話は別だが、その二人は今は互いの相手と向き合っている。

 

 「闇の書は、悪意ある改編を受けて壊れてしまっている。このまま完成させても、はやては―――」

 「我々はある意味で、闇の書の一部だ」

 

  守護騎士―――

 

  元々闇の書を守るためにあったプログラムであるそれは、確かに闇の書の一部だろう。

  それは独立して動いている今でも変わらない。

  だが―――

 

 「一部だからこそ、分からないことがある」

 「何?」

 「お前たちも闇の書の一部なら、同じく改編の影響を受けている可能性がある」

 

  そう。一部だからこそ、繋がっているからこそ、闇の書の事はよく分かっているのだろう。

  だがその繋がりを通じて、闇の書の不具合が守護騎士プログラムに影響を及ぼしていないとも考えにくい。

  ただの仮説だが、それで成り立つことが、いくつかある。

 

 「ふざけんな! あたし達が一番闇の書の事を知ってんだ!!」

 「じゃあ、どうして!!」

 

  上からなのはとヴィータの会話が聞こえる。

  それは、俺たちがここに来たもっとも重要な理由。

 

 「なら何故―――」

 

  知っているというのなら何故―――

 

 

 

 「なんで、闇の書って呼ぶの!」「何故アレを闇の書と呼ぶ」

 「っ!?」

 

  驚愕はどちらからか、それとも双方からか。それは分からない。

  けれども、少なくとも、話を聞く気が少しは出たように見える。

 

 「何を―――」

 「アレには闇の書以外の名前があっただろう。

改編を受ける前、まだ一つのデバイスとして存在していたころの、本当の名前が―――!」

 「本当の、名―――」

 

  一瞬思考するような仕草を見せたが、だがそれだけだった。

  何かを振り払うかのようにして、シグナムはレヴァンティンを構える。

 

 「だが、だとしても! 我らは主の為にここにいる!!」

 「この、人の話ぐらい聞け―――!!」

 

  会話は無理と判断し、バリアジャケットを展開する。

  そしてフェイトも、今回のための切り札を起動する―――

 

 『Barrier Jacket, Sonic form

 

  フェイトの纏う服が消え、バリアジャケットが展開される。

  だが、それは普段のそれと比べ外見が一変している。

 

  纏っていたマントは無く、所々のジャケットもない。

  最低限必要個所のみにジャケットを残し、後は移動補助のフィンを所々に展開しているだけ。

 

  これが―――フェイトの切り札の一つ、ソニックフォーム。

  防御を捨て、速さを追求した高速戦闘型魔導師の究極形。

 

 『Haken

 

  バルディッシュに魔力刃が現れ、それが構えられる。

 

 「薄い装甲をさらに薄くしたか」

 「その分、早く動けます」

 

  Sonic、直訳すれば音。

  名は体を表すというが、文字通り音速を目指した形体がこれだ。

  本当に音速という訳ではないが、それでもこのスピードにはだれも追いつけない。

  だがやはり、どんなに強力な物でも弱点は存在する。

 

 「ゆるい攻撃でも、当たれば死ぬぞ。正気か? テスタロッサ」

 

  そう。このソニックフォームは防御を捨てて速さを追求した姿。

  フェイトは元々防ぐことが得意ではない。防ぐより避ける事の方が向いている。

  防御が低いフェイトの装甲がさらに薄くなったのだ。一撃でも当たれば―――確実に落される。

 

 「貴方に、勝つためです。強い貴方に立ち向かうには―――これしかないと思ったから!」

 「っ!」

 

  何かを噛み締めるように、シグナムは空を見上げた。

  その体を、淡い炎が包み込む。

  瞬時に形成されていくバリアジャケット。ここに、剣の騎士が降り立った。

 

 「こんな出会いをしていなければ、お前と私は―――一体どれ程の友になれただろうか」

 「まだ―――間に合います!」

 

  今ならまだ引き返せると、やり直す道はあると。

  手を取り合えると―――きっとそうだと信じて、諦めずに手を差し伸べる。

  それでも、信念という鎧をまとった守護騎士にはまだ届かない。

 

 「止まれん」

 

  レヴァンティンが構えられる。

 

  その頬を―――涙がつたう。

 

 「我ら守護騎士、主の為ならば騎士の誇りすら捨てると決めた」

 

  それほどまで痛切に―――守りたいと願う人。

  その想いを、一体誰が否定することができる。

 

  差し伸べられる手も、優しさも、全て振り払い―――今ここにいる騎士たち。

  こんな出会いでなければ―――誰もがそう思う。

  運命とは、何と残酷なことか。

 

 「もう―――止まれんのだ!!」

 「止めます。私と、バルディッシュが」

 『Yes, sir

 

  魔法陣が展開される。

  フェイトの想いは、はたして届くのだろうか―――

 

 

  戦いは、じきに終着駅へとたどり着く。

  月の始まりから続いたこの事件も、もうすぐ終わりを告げようとしていた―――

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

  ―――何も無い、ただ白が果てしなく続くこの空間。

  全てを摩耗させる白の中に、彼女はいた。

 

 「―――」

 

  黒い長髪をした10代後半に見える女性。

  口を開くことは無く、目を開くことは無く、ただ時を待ち続けている。

 

 「―――、」

 

  不意に、その瞳が開かれた。

  蒼い、海のような瞳が覗く。

 

 「―――始まるのか」

 

  誰に言うでもなく、独り言のように言葉を漏らす。

 

 「打てるだけの手は打った。後は―――」

 

  お前次第だ、宿主。

 

  彼女は時を待ち続ける。

  ただひたすらに、祈りを込めながら―――

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 「はあああ!!」

 「おおおお!!」

 

  ぶつかり合う両者。

  譲れぬものがあると、守りたいものがあると。

  その想いが、二人の気迫をさらに高めている。

 

 「せい!」

 「っ!」

 

  実力はここに来て互いに互角。

  フェイトはその圧倒的な速さをもって、シグナムはその洗練された剣術をもって、互角に渡り合っている。

 

 「さて、あまり時間もないんだ。こっちもそろそろ行かせて貰う」

 「たとえ戦う術が無くても、私にだって騎士の誇りはある!」

 

  その姿勢は立派だ。

  シャマルは今までの経験から推測するに補助の役目を負っている。

  戦闘型ではない後方支援型、全英にはめっぽう弱いタイプだ。

  頼れる前衛がいるからこその支援型だが、今前衛は互いに戦闘中。

  残った一人もいつ駆けつけるか分からない。

 

  叩くなら―――今が好機。

 

 「いくぞ―――」

 『Yes, my master

 

  一歩を踏み出そうとしたその瞬間―――突然の異変が起こった。

 

 「バインド!?」

 

  上からなのはの叫びが聞こえる。

  見上げると、青いバインドでなのはが拘束されていた。

 

  あの魔力光は―――!!

 

 「なのは!」

 

  すぐさまフェイトがシグナムと間合いを離し、プラズマランサーを精製する。

  それに合わせ、俺も魔力探知を全開にする。

  位置は―――そこか!

 

 「フェイト! あそこだ!!」

 「!!」

 

  俺の支持した方向にフェイトの魔力弾が放たれる。

  それは一定距離飛んだ後に唐突にかき消えた。

 

  そしてそれは、居場所を完全にさらしたことになる。

 

  一瞬にして、フェイトは間合いを詰めていた。

  繰り出された斬撃によって、仮面の戦士はその姿を見せる。

 

 「ぐ・・・」

 

  まともに喰らったのだろう。バリアジャケットも斬撃によって切り裂かれている。

 

 「この前の様には―――いかない!!」

 

  カートリッジがロードされる。

  だが―――

 

 (どうだ、クラウソラス)

 『急接近する魔力反応一。距離残り30m。標的はフェイトかと』

 

  予想通り。

  となると悠長に構えている暇もない。

 

  俺も一気に空へ跳ぶ。

 

 「はあ!」

 「させるか!!」

 

  フェイトの横合いから飛んできた蹴りをクラウソラスで受け止める。

  そこにははたして、二人目の仮面の男がいた。

 

  蹴りを弾いて距離を取る。

 

 「二人―――!?」

 「やはりな。これならあの両極端な戦闘能力も納得がいく」

 

  俺がこいつと初めて戦った時、こいつは俺の太刀筋を全て見切った上に反撃までして見せた。

  ・・・・まあ、俺が未熟だったっていうこともあるが。

 

  そこからさらにロングレンジバインドをかますという出鱈目ぶりも披露した。

 

  二回目の戦闘では同じくその圧倒的な魔法技術でディバインバスターすらまともに防ぎ切ったが、俺の攻撃に対処しきれていなかった。

  そこに俺は違和感を感じた。

 

  いくら恭也さんやクロノと修行を積んでいるからといっても基本の太刀筋は変わらない。

  あそこまでの腕前ならあの時の俺の太刀筋も見切れて当然のはずだった。

  だが―――

 

 「片方が近接戦闘、片方が魔法戦闘を専門としているなら説明はつく。

次元移動の際にあそこまで素早く移動できたのもこれで説明できる」

 

  一人だと思い込んでいたからこそ見落としていたこと。

  そして今ならどちらがどちらを専門としているかなど簡単に見分けがつく。

 

 「さっきのフェイトの攻撃を防げなかった方がおそらく、この前の戦闘で俺となのはの前に現れた奴」

 

  いかに高速とはいえ近接戦闘に覚えがあるならもう少しまともに防ぐこともできたはずだ。

  できなかったのは近接戦闘にめっぽう弱いから。

  つまりは魔法戦闘を担当している方だ。

  それならなのはのディバインバスターを防ぎ切ったのも納得できる。

 

 「今フェイトに攻撃を加えようとした方が、この前の戦闘でフェイトを襲った奴」

 

  さっきの蹴りは―――重かった。

  あれは相当格闘に覚えのある奴だと見た。

  それならフェイトに気づかれずに背後から不意打ちを仕掛けられたのにも納得がいく。

 

  どちらにしろ、両極端とはいえかなりの実力者であることに変わりは無い。

  手品の種が分かったからといって油断できる相手でもない。

 

 「さあ、これまでの借りを返させて貰おうか!」

 

  相棒を構える。

  フェイトも同じく、バルディッシュを構える。

 

 「―――!」

 

  瞬間、俺たちの周囲にバインドが形成される。

  だが―――

 

 「来ると分かっていれば―――!!」

 「遅い!!」

 

  バインドが完成する前に高速で奴らに接近する。

  俺たちの前に立ちはだかる―――近接戦闘が専門の男。

 

 「クラウソラス!」

 『Blast Saber

 「バルディッシュ!」

 『Haken Slash

 

  刃が振り下ろされる。

  それを男は無防備なままで構えるだけ。

 

 (何を―――?)

 

  考えている。

  それはすぐに分かった。

  俺たちの攻撃が、ことごとく障壁によって阻まれているからだ。

 

 「そうか、こいつらは―――!!」

 

  単独ではなく、コンビを組んでこそその真価を発揮する。

  典型的で基本的な前衛と後衛の組み合わせ。

  その単純さゆえに、その基本に忠実な戦法ゆえに―――手強い。

 

 「きゃあ!?」

 「ぐっ!?」

 「な!?」

 

  と、周囲から突然の叫びがあがる。

  この声は守護騎士たちのものだ。

  横目で状況を確認する。

 

 

  そこでは、あいつらまでもがバインドで拘束されていた。

 

 

 「何!?」

 

  あいつらは協力しているんじゃなかったのか!?

  その守護騎士たちまで拘束して―――!

 

  一瞬の驚愕。

  その隙を奴が逃すはずもない。

 

 「相変わらず、甘いぞ!!」

 「チィ!!」

 

  あの時の再現の様に腹を狙った蹴りが放たれる。

  それを相棒で防ぐが―――耐えきれずに後方へと吹き飛ばされた。

 

 「ジンヤ―――っ!?」

 

  叫びをあげたフェイトがバインドによって一瞬にして拘束される。

 

 「フェイ―――っ、くそ!!」

 

  同じように、俺もバインドによって拘束される。

  これで、今この場で動けるのは仮面の男のみになった。

 

 「これって、一体―――!?」

 

  事此処に至って、仮面の男の目的は謎を深めてきた。

 

  闇の書の蒐集の補助。

  これからおそらくは闇の書の完成が目的かと思われるが、なら守護騎士を拘束する理由が見当たらない。

 

  それと後は―――俺だ。

  最初に俺たちの前に姿を現した時に放った言葉。

 

 “お前を失う訳にはいかんのだ”

 

  つまり、こいつらの目的に俺が何らかの形で関わっているということ。

  おそらくは、かなり重要な部分で。

 

  嫌な予感がする。

  このままじゃあ、何か取り返しのつかないことになりそうな―――

 

 「この人数だ、バインドも通信防御もあまり持たない。早く頼む」

 「ああ」

 

  仮面の男が手をかざす。

  その手に現れた物は―――!?

 

 「闇の書だと!?」

 「なっ、いつの間に!?」

 

  あいつら、何をするつもりだ?

 

  俺たちの疑問を他所に、闇の書の空白のページが開かれる。

  やがてそれは鈍い光を放ち―――

 

 「っ!? う、あ、うああああああああ!!」

 「ぐっ、くうう・・・」

 「あ、ああっ、あああああああっ!!」

 「お前ら!?」

 

  リンカーコアを摘出した!?

  まさか!!

 

  最悪の展開が脳裏をよぎる。

  そして―――

 

 「最後のページは、不要となった守護者自らが差し出す」

 「な、・・・に?」

 

  待て、だとしたら何だ。

  お前らは、まさか―――!!

 

 「これまでも幾度か、そうだったはずだ」

 「やめろーーーーー!!」

 『蒐集』

 

  叫びは虚しく、悲劇の幕が上がる。

 

 「ああ、ぁああ、あああああぁぁぁあああぁあああ!!」

 「―――壊れ物のロストロギア」

 

  リンカーコアから限界以上に魔力を吸収され、まず一人目。

  シャマルが―――消えた。

 

 「ぅあ、ああ、うあああああぁぁああぁあ!!」

 「こんな物で、誰も救えるはずがない」

 

  続けて、二人目。

  シグナムが―――消えた。

 

 「シャマル! シグナム!」

 「―――ッ!!」

 

  こいつらは―――こんな事をしてまで、何が、したい。

 

 「何なんだ、何なんだよテメエらぁ!!」

 「プログラム風情が―――知る必要はない」

 

  そして、ヴィータのリンカーコアからも魔力が吸収されていく。

 

 「うああああ!」

 「こ、の―――!!」

 

  頭の中が沸騰する。

  それと同時に、体中を熱という熱が犯す―――

 

 「いい加減にしろよ―――テメエらあああああああああ!!!」

 

  拘束を引き千切る。

  その勢いのまま、闇の書を持っている奴の方へ突っ込む。

 

 「はあああああ!!」

 「このっ!!」

 

  繰り出した斬撃は障壁によって防がれる。

  だが―――

 

 「クラウソラス!!」

 『Edge form, Brake Edge

 

  今の俺は―――!

 

 「これ以上無いってくらい、お前らに腹が立ってんだ―――!!」

 

  この程度で―――!!

 

 「止められるかあああああああ!!!」

 「ぐああ!?」

 

  障壁が破壊され、大太刀による斬撃をまともに仮面の男は浴びた。

  けれど、この程度じゃ終わらない!!

 

  熱が冷めない内に、追撃に出る。

 

 「ブラスト―――!!」

 『Saber

 

  放たれる爆撃の剣。

  それを仮面の男は防ぐことが出来ずにまたまともに受けてしまう。

 

 「これで―――!!」

 

  魔力を集中させる。

  次の一撃で―――!!

 

 「止めだ!!」

 

  渾身の力を込めて剣を振り下ろす。

  だがそれは―――

 

 「っ、ふう!」

 「なっ!?」

 

  男に届く寸前に、止められた。

 

  真剣白刃取り。

日本では古くから伝わる、刀を持たない者が持つ者に対するために編み出された技。

  今まさに、それによって俺の剣は止められていた。

 

 「今までの攻めは中々。だが決め手が甘い―――!!」

 「がは!!」

 

  そのまま腹を蹴りあげられる。

  その衝撃で、胃の中のものを吐き出しそうになる。

 

 「はああ!!」

 「ぐああああ!!」

 

  その勢いのままに蹴り飛ばされる。

  あまりにもの痛みに体勢を立て直せない俺は、そのままビルの屋上へと叩きつけられた。

 

 「ぐ、が―――、かはっ―――」

 「ジンヤ!!」「陣耶くん!!」

 

  くそ、上手く呼吸が出来ない。

  このままじゃあ―――!

 

 「さて、続きだ」

 「そろそろ限界だ。急げ」

 

  く、動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け!!!

  このままじゃあ、このままじゃあヴィータまで消える!!

  なのはが悲しむ、フェイトが悲しむ、はやてが―――悲しむ。

 

  だっていうのに―――こんな時に動けないでどうするんだ、俺は!!

 

 『蒐集』

 「や、め―――ろ・・・・・」

 

  くそ、指一本まともに動かない。

  何で、何で俺には何もできない。

  救えないのか、助けられないのか、俺には―――!!

 

 「でやあああああああ!!」

 

  その時、彼方からの雄叫びが聞こえた。

 

  いまだ姿を現さなかった蒼の狼、ザフィーラ。

  それが仮面の男へと拳を繰り出す。

 

 「―――」

 「があ!」

 

  しかしそれも、障壁に阻まれ簡単に防がれてしまう。

 

  その衝撃で、拳から血が吹き出る。

 

 「そうか、もう一匹いたな―――」

 

  冷徹に、仮面の男はザフィーラからもリンカーコアを抽出する。

 

 「があっ、くああああああああ!!」

 「奪え」

 『蒐集』

 

  ザフィーラからも魔力が吸収されていく。

  だが、ザフィーラの目はまだ諦めてはいない。

 

 

 

  血塗れの拳が、固く握られる。

 

 「ぐう、でやあらあああああああああ!!」

 

 

  血塗れの拳から、決死の一撃が放たれた――――――

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 「三人は―――なのはとフェイト、陣耶の三人は大丈夫か」

 「なのはとフェイトは4重のバインドにクリスタルケージだ、抜け出すのに数分はかかる。

  陣耶の方もダメージが残っていて今しばらくは動けん。物理的な拘束も施してある。

これならば、厄介な高速学習機能も関係ない」

 「そうか、充分だ」

 

  くそ、悔しいが奴らの言う通り、俺は動けない。

  あいつらからちょうど死角になるような位置で俺はロープで縛られ防音結界の中に放りこまれた。

  あいつらの目の前には横たわるザフィーラ、頭上にはヴィータが意識を失っている。

 

  何を―――始める気だ。

 

 「闇の書の主の―――目覚めの時だな」

 「因縁の―――終焉の刻だ」

 「なっ―――」

 

  あいつら、よりにもよってなのはとフェイトに成り済ましやがった。

  当然姿を変えただけでデバイスを持っている訳でもない。

  さらに偽物のお約束か所々色彩が違う。

 

  そして、転送魔法が起動してそこにとある人物が現れた。

  その人物は―――闇の書の主、八神はやて。

 

 (っの、野郎・・・・!!)

 

  ここまで悪趣味な演出をして何をするつもりだ!

  こんな事をして何の意味が―――!?

 

  まて、奴らの目的は何だ?

  闇の書を完成させること―――まさか・・・

 

  拙い。だとしたらこんな三文芝居でも最悪のシナリオだ。

 

 「なのはちゃん・・・? フェイトちゃん・・・? 何なん、これ・・・」

 

  はやてもはやてで様子がおかしい。

  まさか、ユーノの報告にあった闇の書によるリンカーコアの侵食?

 

 「君は病気なんだよ。闇の書の呪い、って病気」

 「もうね、治らないんだ」

 「え・・・ぇ?」

 

  なのはとフェイト―――の姿を借りた仮面の男が放つ言葉。

  その声は残忍。表情は冷酷な笑みが張り付いている。

 

 「闇の書が完成しても―――治らない」

 「君が助かることは―――無いんだ」

 「っ―――そんなん、ええねん。ヴィータを離して。ザフィーラに、何したん・・・」

 

  はやての声は苦しげだ。

  胸を押さえているところを見ると、発作にも似た症状が出ているように見える。

 

 「この子たちはね、もう壊れちゃってるの。私たちがこうする前から」

 「とっくの昔に壊された闇の書の機能も、まだ使えると思い込んで―――無駄な努力を続けてた」

 「無駄ってなんや! シグナムは、シャマルは!?」

 

  くそ、本当に拙い。

  予想し得る中でも一番悪質で最悪な展開だ。

  このままじゃあ本当にはやては―――!!

 

 「ふふ―――」

 

  フェイトの姿を借りた方が顔で指し示した方向―――

 

  シグナムと、シャマルの私服―――

 

 「っぁ―――」

 

  はやての瞳が揺れる。

  深い悲しみを湛えて、認めたくない現実を凝視して―――

 

 「壊れた機械は、役に立たないよね」

 「だから、壊しちゃおう」

 「っ! ダメ、やめてええ!!」

 『っの! てめえら、やめろ!!』

 

  くそ、この結界のせいで声が届かない!!

  せめてロープで動きを封じてられなければ―――!!

 

 「やめてほしかったら―――」

 「力ずくで、どうぞ」

 『ッッッ!!』

 

  腹が立つ。

こんな方法ではやてを追い詰めるのも、なのはとフェイトの姿でこんな事をすることも、何より―――何もできない自分にも!!

 

 「なんで―――! なんでやねん!! なんでこんなん!!」

 

  涙を流し叫ぶはやて。

 

 

 

  ―――闇の書が、鳴動する。

 

 「ねえ、はやてちゃん」

 「運命って、残酷なんだよ」

 

  手の光が輝きを増していく。

  それの意味するところは、嫌でも理解できた。

 

 「ダメ! やめて・・・やめてええええええええええええ!!!」

 

 

 

  閃光が、奔った・・・・・・・・・・

 

 

 「うああぁぁ、ぅっ、ぁぁ・・・・・」

 

 

  ドクンッ―――

 

 

 「がっ!?」

 

  何、だ―――!?

  急に、体が―――!

 

 「うっ、ぁぁ、ぅぅ・・・・・」

 

  はやての足元に、ベルカの魔法陣が展開される。

  俺の白銀に近い、真っ白な魔力光。

 

  闇の書が、はやての眼前に現れる。

 

 『Guten Morgen, Meister

 

 

  ―――魔法陣が、闇に染まる。

 

 

  ドクンッ―――

 

 

  ―――一際強く、鼓動が鳴り響く。

 

 

 「はやてちゃん!」

 「はやて!」

 

  なのはとフェイトが拘束を打ち破って出てくる。

  だが―――間に合わなかった。

 

  引き金は、すでに引かれてしまった後なのだから。

 

 

 

 

 「ぅぅ、ぁ・・・、うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

  悲しみ、絶望、憎悪。

  その負の感情が全て乗せられた慟哭が夜の闇に響き渡る。

 

 

  ドクンッ―――

 

 「がっ、く・・・・・!!」

 

  熱が、体を犯す―――!!

  本当に、焼けそうだ―――!!

 

 

 

 

  瞬間――――――闇と白が、弾けた・・・・・・・

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

  闇と白がはじけた後には、二人の女性がそこにいた。

 

 

  一方はきれいな白銀の長髪と紅い目、黒を基調としたバリアジャケット。そして六枚の翼をもつ堕天使のような女性。

  傍らには、闇の書が浮いている。

 

  一方は流れるような黒い長髪と青い目、白を基調としたバリアジャケット。そして二枚の大きな白い翼をもった天使のような女性。

  傍らには、見たことが無いけど―――闇の書にそっくりな白い本が浮いていた。

 

  そして、その二人は、驚くほどに瓜二つだった。

 

 

  正反対。そういう言葉がしっくりくるような二人。

 

  一方―――白銀の髪の女性は、はやてちゃんが変貌した姿。

  もう一方は―――黒い髪の女性は、陣耶くんが、変貌した姿―――

 

 「そんな―――」

 「ジンヤ、はやて―――」

 

  もう、何がどうなっているのか―――

 

 

 「お前か―――」

 

  ふいに、白銀の髪の人が口を開いた。

 

 「ああ、私だ―――」

 

  互いを知っているような口ぶり。

  困惑は深まるばかりで―――

 

 「久しく見ることは無かったな。久しぶりだな、白夜の書」

 「ああ、久しいな。―――どちらで呼べばいい」

 「今さらだな」

 「そうか―――ならば久しいな、闇の書」

 

  会話こそ穏やかだけど、そんな雰囲気じゃない。

  魔力が―――肌で感じられるほどに高まっていく。

 

  白銀の髪の女性が、涙を流す。

 

 「また、全てが終わってしまった。一体幾度、こんな哀しみを繰り返せばいい」

 「悲しいな。縛られている者同士、報われない」

 「―――そうだな。なら、始めようか」

 

  ―――手がかざされる。

 

 

 『Diabolic emission

 『Divine buster. Extension

 

  書が光を放つ。

 

  一方の女性―――闇の書さんは、闇の塊のような巨大な球体を。

  一方の女性―――白夜の書と呼ばれていた人は、魔力光こそ違うけど、あれは私のディバインバスター・・・

 

 「我は闇の書。我が力の全ては―――」

 「我は白夜の書。我が力の全ては―――」

 

 

 「主の願いの、そのままに―――」「闇に堕ちた書を、破壊するために―――」

 

 

 

 

  ―――かくして、聖夜の夜に終焉の鐘は鳴る。

 

     書に選ばれ、支えられながら生きてきた一人の少女。

     遠い罪にうなされ、独りのまま生きてきた一人の少年。

 

     遠い昔、悪意ある改編を受けた一つの魔導書。

     遠い昔、闇に堕ちた魔導書を葬るために生み出された一つの魔導書。

 

     誰よりも優しさを知り、決して折れない心を持つ一人の少女。

     誰よりも痛切な願いを抱き、言葉の尊さを知る一人の少女。

 

     運命は残酷だと誰かが言った。

     運命にはあがらうことが出来ないのだろうか?

 

     ああ、強き者たちよ。決して諦めず、勇気をその胸に灯し、光を見つめる者たちよ。

     まだ未来が見えないと言うのなら、闇に覆われてはいないと言うのなら―――

 

 

            ―――反逆せよ。

               残酷な運命など覆せ―――

 

 

   Next「絶望の聖夜」

   闇と白が、希望を呑み込む―――



   後書き

   現在季節外れの風邪にかかってのどがイタイ・・・

   咳が止まらないってホントにきついです、ハイ。

   さて、とうとう物語もクライマックス。最後のオリキャラが出てきましたよ。その名も「白夜の書」。

   丸判りですが闇の書と対をなしています。いきなりディバインバスターというのは後々分かりますんで。

   A's編も残すところあと数話。といってもまだ4〜5話くらいありますがw 投稿速度を考えると、道は長い・・・・・・

   何気に全話の中では一番長くなったこのお話、詰め込みすぎたかな?

   ここまで読んでくれてありがとうございます。これからも〜もう一つの魔導書〜を楽しんでいただけると嬉しいです。






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