「もう終わりか?」
「ちっ・・・」
くそ・・・、見事にしてやられた。
俺の体は見事に全身傷だらけ・・・。
それに、目の前はよく見えなくなってきてる・・・。
そのとき、俺の目の前にいた男の後ろから女の子が一人やってくるのが見えた。
こちらの様子には気がついていないようだったが、このままこちらに来るのはまずい・・・。
男のほうはそちらに気を取られているようで、俺から注意が少しそれている。
今がチャンス・・・!
「うおおおおおお!!」
「・・・・・!」
俺が放った渾身の一撃は男に当たった。
しかし、急所をはずしたらしく、男はふらふらしながらも立ち上がった。
「ちっ・・・。また会おう」
そう言うと、男は去ってしまった。
しかし、彼には気取られずすんだがすでに俺は動けない状態だった。
――――バタ・・・
俺が倒れたことによって異常に気がついたのか、さっき見た女の子がこちらに走り寄ってきた。
「大・・夫で・・・・、今・・・呼・・ますから・・・」
走りよってきた女の子が何か言っていたが、すでに混濁していた意識を闇に落としてしまっていた。
・・・・・俺はここで・・・、終わるのか・・・。
第一話 再会、新たな日々のはじまり
「・・・・・っ、・・・ここは?」
俺は気がつくと白いベッドの上で寝かせられていた。
すぐにそこが病院だと分かった。自分の体をよく見ると、いたるところに包帯がまかれている。
それだけでも俺がどれほどの怪我をしたのかが容易にわかった。
―――――ガラガラ
ちょうどそのとき、誰かは分からないが二人俺の病室に来るのを感じた。
大方、俺の担当の先生あたりだろう。・・・と思っていたのだが、半分はずれていた。
「あ、目を覚ましたんですね〜。よかった〜」
「狭山君、もう体を起こして大丈夫なの?」
入ってきた二人の人は女性だった。
片方は白衣を着ていたからこの病院の先生だろうということは察しがついたが・・・、はて・・・、俺の名前を知っている人っていたっけ・・・?
「あの〜・・・、失礼ですが、俺と会ったことってありましたっけ?」
「あら、私のことを忘れたの?仕方ないわよね、もう10年近くあってないもの・・・」
どうしよう・・・、すっごく悲しい顔をされちゃったよ・・・。
ん・・・?10年前までここにいたときの知り合い・・・?ということは・・・。
「も、もしかして高町おばさんですか!?」
「そうよ。まったく・・・、娘から連絡を受けて駆けつけてみたら、あなたが倒れていたんだから。
びっくりしたわ。それと、私のことはおばさんじゃなくて、桃子さんと呼ぶようにね」
そういって笑うおばさ・・・桃子さん。
桃子さんとは小さいころに会ったきりだった。
でも、よく覚えていてくれたな。
あ、そうか、母さんがまだ付き合いはあるって言ってたっけ。
「こほん・・・、少しよろしいですか?」
かわいらしく咳をして俺と桃子さんの会話に入り込んできたこの人は先生なのだろうか?どう考えても身長は160cmあるかないかといったところで、下手をすると子供にも見られるだろうな。
「はじめまして、私は貴方の担当医になったフィリス・矢沢といいます」
「どうも、お世話になります矢沢先生。」
「フィリスでいいですよ。苗字で呼ばれるのって慣れていないもので。」
俺が頭で思っていることなんか露知らずまぶしい笑顔を俺に向けてくる。
・・・すこし心が痛まなかったわけでもない。
「あなたの傷、相当なものだったんです。全治一ヶ月の大怪我ですよ。
打撲、打ち身からひどいのでは骨折です・・・。
もっと自分の体に気をつけて行動してもらいたいものですよ。ほかにも・・・」
患者である俺に対してフィリス先生は痛烈に批判を浴びせてくる。
初対面でここまで言ってくれる先生というのも珍しい。
どうやら、よい先生に受け持ってもらえたらしい。
「まあまあ、先生その辺で」
「・・・そうですね。高町さんがそうおっしゃるのならいいですけど」
「当事者の俺のことはどうでもいいのかよ」
「い、いえ、そういうわけではなく・・・」
どう返そうか困ってしまったらしい。表情がくるくるまわって面白い先生だ。
「狭山君、先生を困らせないの」
「すみません。そういうつもりではなかったんですけど」
やはり、あのときの桃子さんのままだ。
10年たってもいまだに頭が上がらないな。
そういえば、恭也とか美由紀はどうしてるのか・・・。
親しい人に会うと、なおさらあいたくなってくるな。
「そういえば、恭也と美由紀は元気にしていますか?」
「もちろん、元気にしてるわよ。そういえば、狭山君はなのはに会ったこと無いわよね?」
「はい。両親から簡単に聞かされていた程度です」
さっきも言ったように、俺の両親と今ここにいる桃子さんとは俺たちが引っ越した後も付き合いがあったようで、ちょくちょく会いに行っていた。
そのときの土産話の話の一つに、なのはという女の子の話題が出ていたのを覚えている。
「やっぱり。つれてきて正解だったわ。今、恭也と一緒に飲み物を買いに行ってもらってたから、もうすぐ来ると思うわ。」
「そうなんですか。やっぱり、桃子さんに似てかわいいんじゃないですか?」
「どうかしら。でも、家の自慢の娘であるわけだから、かわいいには違いないわ」
やはり、10年たっても桃子さんの子煩悩っぷりは全く変わっていなかった。
その事実が何故か俺をほっとさせた。
それから数分して
ガラガラ―――――
二人、部屋に入ってきた。一人は俺と同い年くらいの男。もう一人はとても背の小さい女の子だ。
男のほうはもしかすると・・・!
「お前・・・!恭也か?久しぶりだな、全く変わった感じがしないぞ」
「久しぶりだな、翡翠。傷の具合はどうだ?」
「ああ、心配は無いらしい」
「そうか、それはよかった」
「それで桃子さん、そっちの子が・・・?」
そして、入ってきたときにいた女の子は恭也の後ろにいた。
たぶん、桃子さんの娘だろう。
俺とは初対面になるはずだから、そりゃ、人見知りもするよな。
だが、恭也の後ろに立っている少女からは恐れの類の気は感じられなかった。
まあ、気恥ずかしいといったところか?
「なに後ろについてるんだ、ほら」
「そうよ、なのは。きちんとあいさつしなさい」
恭也に背中を押され、前に出る。
「はじめまして、翡翠お兄ちゃん。私、なのはっていいます。よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ、なのはちゃん。」
「はい!翡翠お兄ちゃん」
ハキハキと受け答えをするなのはちゃんだった。
お兄ちゃんね・・・、俺にはちょっと痒く感じる言葉だな。
それに横の方からちょっとヒリヒリする視線を感じるし。
「・・・・・あ〜、そのお兄ちゃんっていうの何とかならないか?」
「・・・駄目ですか?」
俺がそういった途端に、そんな涙目になって言わなくても・・・。
多分恭也としては意識していないつもりなんだろうが、さっきから槍のような嫉妬の目線を送ってきてるからな。
心臓に悪い・・・。
「いや、そんなことはないのだが・・・」
「じゃあ、いいんですね。よかった〜」
「・・・・・・」
「あははは・・・・」
なのはは、俺に対して無邪気な笑みを浮かべている。
これだけなら、のほほんとした雰囲気ですむのだろうが、お兄さんからの嫉妬の嵐が俺に吹き付けているのを感じざるを得ない。
・・・いつか、闇討ちにあわないか心配だ。
「そういえば、どうして狭山君は海鳴に帰ってきたの?」
と桃子さん。
「それは・・・」
やっぱりきたか。
まあ、いきなり10年も前の知人がひょっこりと姿をあらわしたら、そりゃ気にもなるよな。
というわけで、俺は引っ越し先はどこなのかを適当に濁して話した。
10年前に引越しをしてからの後の話と親父が二年前に不慮の事故(もっと別の理由があるのだが)で死んでしまった。
そして、親父がいなくなった後、その親父から受け継いだこの格闘術を何のために俺が使うかを探すためにここにやってきたということを話した。
「そうだったの・・・。最近会わないと思ってたら・・・。
つらかったでしょう、父親を失ってしまって。」
「ええ、その後しばらくの間は自分で言うのもなんですが、見るに絶えない状態でした。
現地で知り合った奴らには、かなり助けられましたよ。
もちろん、今はもう引きずってはいないですけど。」
そう言ってなんとか取り繕うとしたが、場の雰囲気が暗くなったのは否めなかった。
あの恭也でさえ珍しく沈んだ表情をしているし、なのはとフィリスにしてもかなり沈痛な面持ちでいる。
なのはに限って言えば、母親がいなくなったことを考えてしまったためか、泣きそうになっている。
聞いた本人である桃子さんも浮かない表情だな。
桃子さん、親父と母さんと仲良かったからな・・・。
「この話もここまでにしましょう。
これ以上湿っぽい雰囲気だと、地獄から親父が活を入れにやってきそうだ。」
「ふふ、そうね。あなたのお父さんとても元気な人だったわね。」
なんとかその場の雰囲気を持ち直し、話は弾んでいく。
あれ?そういえば、俺がつけていたブレスレットはどこにいったんだ?
気を失う寸前には持っていたのを覚えてるいるのだが・・・。
「フィリス先生、俺が手につけていたブレスレットって知りませんか?」
「これのことですか?」
そういってフィリス先生が取り出したのは何の装飾の無い、銀色のブレスレットだった。それは間違いなく俺が持っていたもので、とても大切なものだ。
「それです。いや〜、なくしたかと思いましたよ」
「すみません・・・。処置のときに邪魔になることがあるので、こちらで預かっておきました。」
「いえ、場所が分かればいいんです。
ここから退院するときに渡してもらえれば結構ですよ。」
そう言ってフィリス先生にあずかってもらう。
桃子さんはそのブレスレットがどんなものかを大体分かっているはずだ。
「そのブレスレットって、あなたのお母さんの物よね?」
「そうです。俺が親父から免許皆伝のときにプレゼントとしてもらったんです。」
「そうだったの・・・。」
・・・なんか、またさっきの雰囲気に逆戻りしそうな感じだな。
さすがにそれは勘弁願いたいため、すかさず違う話題をふる。
「そ、そういえば、ここの入院代ってどうすれば良い?お金は持ち合わせてないんだけど・・・」
つい最近まであっちの世界にすんでいた俺はこっちのお金は持ち合わせていない。
それに、半ば飛び出す形でこっちの世界にきたからろくに準備もしていないし。
「ああ、その点に関しては問題ない。」
と恭也が言う。
問題ないとはどういうことなのだろうか。
俺、ほとんど金無しの状態だぞ?
「・・・?何で」
「私の方でもうお金は払うようにしてあるからよ」
なんですと・・・?
たしか、この国の決まりでは保険証をもってないとかなりでかい金額を取られるはずなんだが・・・。
それを払っただと。いくら顔見知りとはいえ、俺みたいな奴にそこまでする義理は無いはず・・・。
「いいんですか?桃子さん」
「良いってなにが?」
「お金は払うって簡単にいいますけど、相当量のお金がかるんですよ。さすがに、そこまでされる義理は・・・。」
「いいのよ。あなたたち狭山一家と私たち高町一家は家族も同然でしょ?
だったら、助け合うのは当然じゃない。」
「・・・・・」
この言葉に俺は完全に言葉を失っていた。
あきれているわけじゃない、こんなことをこんなにさも同然かのように言ってしまうこの人はすごい人だなと思ってしまっていた。
普通の人なら、こんな簡単にこんな言葉を言えないし行動にも移せないのに。
「それに今、いくあてが無いでしょ?」
「はい。家出同然で飛び出してきたようなものなので・・・。」
「だったら、家に住めばいいじゃない。今ちょうど、一人だれか働き手がほしいなと思ってたところだし。」
「お金を払っておいてもらってるのに、そこまでされても・・・」
ここまでしてもらうのはやはり筋違いだろう。
お金の件に関してはありがたい限りだが、さすがにそこまでは俺としても気が引ける。
「いいじゃないか、翡翠。俺は歓迎するぞ。もちろん、今ここにいない美由紀もそう言うだろうな。」
「そうは言ってもだな・・・」
恭也とも仲がよかったとはいえ、さすがの俺も渋る。
「えっと・・・、翡翠お兄ちゃんはなのは達と一緒に住むのはいやですか・・・?」
あ〜!もう!なんでこの娘はまた泣きそうになってるんだ・・・。
こんな顔をされちゃ、断るわけにもいかなくなってしまうじゃないか!
「あ〜あ、狭山君は自分の命の恩人を悲しませちゃうんだ・・・」
「え、助けてくれたのって、なのはちゃんだったんですか!?」
「そうよ。でも、あなたがそんな調子じゃ無理みたいね・・・。」
残念がったように肩を落としながら言う桃子さん。
それにしても、あのときの女の子がここにいるなのはだったとは・・・。
「あー!分かった分かった!!行ってやるよ。・・・これでいいんだろ?」
「わーい!ありがとう翡翠おにいちゃん!」
結局・・・、この涙の前には勝つことができず、高町家にお世話になることになった俺だった。
まあ、命をつけてもらった奴の願いを聞かないほど俺はまだ落ちちゃいない。
高町家の皆さんは顔を合わせて親指をグッとを出し合っているが、この際気にしないでおく。
横ではフィリス先生が高町家の謀略に多少気がついたらしく、苦笑いしていた。
・・・言っておくが、俺は決してロリコンではないからな?
あとがき
このサイトのメイン小説であるTo a you sideに触発され書いてしまった私、るしーどであります。
自分はこの小説を見て初めてこの二次創作を書こうと思った人なので、多少本家様の文や構成と似ている箇所があるかもしれません。
大目に見ていただくわけにもいかないかもしれませんが、できれば、末永く付き合っていただけるとうれしいです。
フィリス嬢の性格を把握できずにいたため、あまり登場させることができませんでした。
この物語の主軸は一応、リリカルなのはの世界をベースにしていきたいと考えています。
そのため、とらハのキャラクターが出てきているのに、話にあんまり絡んでこないキャラクターが恐らく、いえ、絶対に出ます。その辺はご了承ください。