To a you side 外伝V 恋愛レボリューション-A-


※この物語はリクエストによる架空未来の一つです。
To a you side本編の可能性の一つとしてお楽しみ下さい。

また、主人公に対する彼女の評価は思いっきり贔屓目があります





 2月14日、バレンタインデー。女の子が男の子に、愛のこもったチョコを贈る日。

最近は友チョコとか同じ異性にチョコをあげる習慣もあるようだが、メーカーの戦略であろうとなかろうと興味はない。

義理チョコは既に用意している。あたしにぬかりはない。名店を事前に調べて、購入しておいた。きっと喜んでくれるだろう。


問題は、本命のチョコ――このあたし、アリサ・ローウェルが贈る人は決まっている。


この世界でたった一人の男性、今もこの先もこの人だけに全てを捧げると誓っている。

その想いは今も変わりないけれど、あの野郎に伝わっているのかどうか甚だ疑問だった。


「見てなさいよ、良介……今年こそ絶対に、美味しいと言わせてみせるんだから!」


 バレンタインデーの前日、キッチンで一人あたしは腕まくりる。全員家を留守にしていて、今日一日あたしの貸切だった。

勿論良介を含めて全員に予定を入れたのはあたし、恋する乙女の秘め事に邪魔を入れたくはない。

……こ、恋って自分で言うと恥ずかしいわね……この辺の感情は自分でも制御出来ないので、厄介だわ。


「今年はどういうものを作ろうかしら。あたしが作らなきゃ、意味がないしね」


 良介に贈るチョコだけは、あたしの手作り以外にありえない。どれほど美味しい銘菓でも、所詮売り物なのだ。

チョコを構成する一つ一つの成分全てに気持ちをこめて、良介に食べてもらいたい。

他の人の手がついているものなんて、嫌だ。あたしだけを、食べてほしい。


「――って、何考えてるのよあたしは!? さっさと作るわよ、もう!」


 お気に入りのエプロンをつけて、支度にかかる。行動に移さないと、想いに浸りそうで怖い。この気持ちは、抑えが利かない。

良介のメイドとして生まれ変わった、新しい人生。調理の技能は必須であり、新生活を始めてすぐに身につけた。

お菓子作りは、桃子さん直伝だ。頭を下げて教えを請い、優れた技術と料理に対する真心を学べた。

キッチンに甘い匂いを漂わせて、手作りのチョコは無事完成。早速、味見をしてみる。


「う〜ん……美味しいけど、これで精一杯なのかしら。
妥協なんてしていないけど、あたしの想いの全てが形に出来たとは言い難いわね」


 基本的に良介は好き嫌いはなく、何でも美味しそうに食べる。男は甘いものが苦手とか、古臭い偏見も持っていない。

一人だけの長い放浪生活で、食べ物のありがたさを学んだらしい。白いご飯に目を輝かせる、子供のような可愛い面がある。

一生懸命作った料理を残らず食べてくれるだけで、あたしはとても幸せな気持ちになる。今度はもっと喜んでもらおうと、うきうきする。

天才と呼ばれて両親にすら疎まれていたあの頃が嘘のようだ。こんな単純な事で喜べる女の子になってしまった。


……あんたのせいなんだからね、良介。


「そうだ! 確かテレビでバレンタイン特集をやっていたわね……一応、参考にしてみようかしら」


 女の子が恋に華を咲かせる季節、テレビでもこの手の特集は欠かせない。

お菓子作りで桃子さんを超える人はあたしの中では存在しないが、バレンタインチョコは一年に一度の特別なものだ。

リモコン片手に、テレビをつけて適当にチャンネルを操作。バラエティ番組でチョコ作りの話題が出ていた。


『――さんは今年結婚されたばかりですよね。やっぱり旦那さんには、チョコを?』

『勿論、愛しい旦那様の為だけに作りますよー』

「……こんな恥ずかしい事、公共の場でよく言えるわね。あたしなら口にするだけで、顔が熱くなるわ」


 馬鹿にしている訳ではなく、素直に不思議に思う。あたしはどうにも、素直に自分の感情を表現出来ないので余計に。

ツンツンした態度ばかりだと嫌われると分かっているのだが、良介に得意げにされるのも腹が立つ。

主人とメイドである以上主従関係は当然なんだけど、デレデレした顔を見せるのも……ほら、恥ずかしいでしょ。


『ほほう、愛情たっぷりのチョコですか。チョコを作る旦那様の事を思って?』

『そうですね〜、旦那様のいい所を考えて作ると、自然に愛情がこめられますよー』

「良介のいい所、か――」


 美味しく出来るように集中していたが、今作っているのは本命のチョコだ。相手の事を常に考えて作ってみよう。

良介のいい所――悪ぶっているけど、優しい面。冷めた目で世の中や人間を見ているが、他人の為に行動する時はとても情熱的だ。

鍛えているだけあって、剣も強い。一流には及ばないかもしれないけど、いざとなれば誰にも負けない。


そして、あたしを救ってくれた。あたしの大切な人達を、助けてくれた。


見た目だって目つきは悪いけど、そう悪くはない。むしろカッコいい――贔屓目? いいの、あたしがそう思ってるんだから。

実際、カッコいい所だってある。初めて映画を観に行った時、タチの悪い男達に絡まれていたすずかとあたしを助けてくれた。

今だから告白するけど、男達に難癖つけられて結構怯えていた。すずかが後ろにいたから何とか抵抗出来たけど、本当は怖かった。


だから、颯爽と駆けつけてくれた時――嬉しくて気が狂いそうだった。


誘拐された時も、殺された時も、誰も助けてくれなかった。泣いて助けを呼んでも、見捨てられた。

でも、良介は来てくれた。彼の背中に守られた時、心から安心出来た。すずかが傍にいなかったら、縋り付いていたかもしれない。

恐怖の対象だった男達は良介一人に撃退され、追い払ってくれた。ぶっきらぼうだったけど、あたしやすずかを案じてくれていたと思う。


……そうよね、あたしが認めたご主人様だもん。それくらいカッコよくなくちゃ。


無愛想で口も態度も悪いけど、その分他の女の人が寄って来ないから安心だし……うーん、でも良さが分かる人もいるのよね。

一緒に住んでいるとそういう良さが一つ、また一つと分かって、その度に嬉しくなって、ドキドキして、悪い部分も可愛らしく思えて――



――まったく手が動いていない事に気づいたのは、一時間も過ぎてからだった。



「……何やってるのよ、あたし……う〜、恥ずかしい」


 キッチンに鏡があれば、きっとニヤニヤしたあたしの可愛い顔が映っていたに違いない。馬鹿馬鹿、あたしの馬鹿!

おのれ、良介。あたしをこんなやきもきさせて、知らん顔しているなんて! あんたの為にこんなに悩んでいるのよ!

ほら、もう半日も過ぎているじゃない! 良介の事ばっかり考えている内にもうこんな時間よ、どうなっているの!?

頭の中が甘く痺れて、思考が鈍っている。他愛のない妄想ばかりしている自分に、呆れてしまう。

自分でも分かるほど、熱い吐息を吐いていた。心地良い悩みに、ボケっとしてしまう。あたしともあろう者が。


「ふん、やめよやめ。何であたしが、あいつの為にこんなに一生懸命しないといけないのよ!」


 どうせバレンタインだって、他の女の子から貰うに決まってる。友人知人に女性比率高いし、あの野郎は。

あたしの作ったチョコも一緒にされて、口に放り込まれて終わりだ。一瞬の甘さと一緒に、想いも消えるのだ。

だったら、駄菓子屋さんで売っている十円チョコでも同じだ。同じ食料として、あいつは扱うだろう。

別にあたしが特別じゃないんだから、努力なんてしなくても――



『俺は、お前がいればいいよ』



 ……もうちょっと、頑張ってみようかな。うん、そうね。しょうがないか、一応あたしのご主人様だし。

それに他の人から貰えるとも限らないじゃない。良介みたいなプー太郎のチンピラ、義理チョコでも上等でしょう。

あんな自分勝手な剣馬鹿、面倒見れるのはあたしくらいだわ。見捨てたら可哀想よ。

ふふ、感謝しなさいよ良介。あたしはちゃんと真心をこめて、あんたに作ってあげるから。


ずっと、あたしは傍にいてあげるから。


「よし、気合入れて作りますか!」













〜当日〜












「おかえりなさい、良介。はい、バレンタインのチョコ。
買い物に行ったついでに、買って・・きてあげたのよ。感謝しなさいよね」

「……ふ〜ん」

「何よ、疑っているの!? 綺麗にラッピングされているでしょう!
――ど、どう、味は?」

「まあ――不味くはないな」

「良介がそういう時は――ふふ、素直に言えばいいのに」

「素直に、ねえ……?」

「何よ。文句でもあるの?」

「いいや、つくづく変わった奴だと思ってな」

「きゅ、急に、何言い出すのよ!?」



「変わっているだろう――全身からチョコの匂いがする幽霊ってのは」



「!?」

「お前を舐めた方が美味しいかもしれないぞ、アリサ。あっはっは」

「ば、ばか!!」























































<END>







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