ミルテの花冠
                              
                                
	
  
 
  高町なのはという少女は誰からも愛されている。 
 
論に及ぶ必要すらない。愛らしい顔立ちに優しい性格、誰にでも親しみを向けられる内面の良さ。 
 
陰口を叩かれる要因もなく、他人の悪口も言わない。人の利点を褒めて、自分の失点を改善する前向きさを持っている。 
 
 
そんな女の子が誕生日を迎えたら、誰もが皆祝福する。 
 
 
「こんにちは、おにーちゃん!」 
 
「おう、また一つ老けてしまったな。可哀想に」 
 
「言い方が酷すぎる!?」 
 
 
 頭にとんがり帽子、衣服にハッピーセットをつけて、なのはが遊びに来た。随分持て囃されたのが見て取れる。 
 
別にわざわざお祝いセットを付けてくる必要はないのだが、皆から祝われて着替えることは出来なかったようだ。 
 
ガキンチョの分際で律儀な奴だが、こんな格好で町中を歩いても、あらあらウフフで町の人達に可愛がられるのだろうな。 
 
 
そんな光景は容易に想像できて、俺は投げやりに祝ってやった。 
 
 
「今日は誕生日だろう。お前の家でうちの連中が朝からパーティするとか張り切っていたぞ」 
 
「はい、アリサちゃん達にお祝いして貰いました。とっても嬉しかったです!」 
 
「そのまま遊んでこいよ。なぜわざわざ俺に会いに来たんだ。誕生日プレゼントもアリサに持たせただろう」 
 
「アリサちゃんがすごい嫌な顔して、おにーちゃんからと、お年玉袋を渡されたのですが……これは一体」 
 
「やはり現ナマが一番嬉しいよな」 
 
「現ナマってなのはくらいの年齢には分からない用語なのですが……」 
 
 
 じゃあ何でお前は知っているんだよ、と言いたかったが、なのはの顔は俺から何度も聞いて覚えたという顔をしている。くそっ、すげえ顔してやがる。 
 
誕生日パーティは盛大に行われたようだが、俺は出席しなかった。別に用事はなかったのだが、ガキ共に混ざって祝うのは嫌だった。 
 
そもそも俺のような大人がガキンチョ達と知り合っているのが変なのだが、不思議と俺のまわりは大人びた子供が多いから困る。 
 
 
クロノ達は対等な関係と割り切っているようだが、俺から見ればどいつもこいつもガキンチョなので大人扱いはしていない。 
 
 
「頂いたのは嬉しいのですが、そもそも何故お年玉袋に入っていたのでしょうか」 
 
「あれってセット販売されているから、買い込むと余るんだよな」 
 
「再利用されてる!? なのはの誕生日は3月なので、正月からだとちょうど利用しやすい月なんですね……」 
 
「ちゃんと袋にも、お前を祝う言葉が書いてあっただろう」 
 
「あけましておめでとう、と書いてあったんですけど!?」 
 
 
 祝う気持ちは同じじゃないか、と諭すがあんまりいい顔をしていない。こいつ、良い子ちゃんのくせに俺にはズケズケと言いやがる。 
 
ただ純真な子だけあって、金額には触れていない。金額に文句を言うのは、汚い大人だけだからな。 
 
祝う気持ちが大切なのであって、お金の額に追求するのは違ってくる。その点は理解しているところが、なのはらしかった。 
 
 
文句は聞き流して、俺は肝心なことを聞いた。 
 
 
「それでどうして俺のところへ来たんだ」 
 
「今日はお誕生日なので」 
 
「どういう理由だよ」 
 
「自分の誕生日なので、おにーちゃんと一緒に過ごしたいです!」 
 
 
 なるほど、誕生日は自分のワガママを言える日だと思っているのか。 
 
そういうところもガキンチョだな、こいつは。 
 
 
仕方ないので福笑いセットで遊んでやると、半笑いされた。生意気である。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<終> 
 
  | 
	
  
 
 
  小説を読んでいただいてありがとうございました。 
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。 
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。 
 
 
 
 
 
 
[ INDEX ]  | 
Powered by FormMailer.