春の猟犬
「"解決屋"?」
「うん」
「何でも屋業務じゃなかったか」
「いつの話してるんよ。わたしが正式に引き継いで実績出してからは、解決屋で動いてるよ」
特に用事がない日は、こうして家族で過ごすことが多い。
昔は暇さえあれば剣を振っていたが、今は暇だったら誰かと話していることが増えている。
剣への興味は尽きないが、剣への拘りは無くなったと言うべきか。他人と話して強くなる訳ではないが、少なくとも自分に変化は現れる。
勿論一人の時間も大切にしているが、他人との接点は無くしていない。
「何で解決屋になったんだ」
「何でも屋やと、ほんまに何でもしてくれるという解釈をされる事が増えてきたんよ。
ご近所で困ったことを相談して対応するくらいならええんやけど、実績を出して仕事が増えたら幅も広がってきてな……
ほら、今の世の中色んな問題があるやん。多種多様な問題に対して何でもやるのは限界が出てきて、今は解決屋としてやらせてもうてる」
おじいちゃんやおばあちゃん相手にお手伝いする程度なら問題なかったが、ニーズが増えてきて問題も多様化されたのだと語る。
ニュースでも取り上げられているが、世の中で日々起きている問題は本当に多種多様だ。
全てにおいて何でも解決しようとするのは、少なくとも個人で行うのは無理だ。
だから何でもやるのではなく、起きている問題を解決するべく引き受ける姿勢を明確化した。
「解決屋の業務自体は前と変わってないのか」
「そうやね。毎日の生活の中で自分では出来ない事や解決が難しい事、手助けが欲しい事をお手伝いしてるよ。
海鳴は平和な街やけど、生活していく上で身近な人には言えない悩みとかあるからね。
悩んでる人たちの話を聞くだけでも喜ばれてる」
集団生活の中でも個人として生きていかなければならない時がある。
人口が増加していても、自分自身が生きていく中で、他人にはいえない問題や悩むだって生じる。
そういった人達が他人に悩みを打ち明けるのは難しいかもしれないが――
八神はやてという少女が信頼を得ていれば、胸襟を開けてくれる。
「その結果がこれか」
「あはは……お世話になってる人に義理チョコを配った結果でもあるかもね」
3月14日、ホワイトデーの日。
解決屋への相談と称して、日頃のお礼にプレゼントを贈ってくれる人達が八神家の門を叩く。
容姿が整っていて、保護欲を掻き立てられる少女は、アイドルよろしく愛されている。
単純なマシュマロとかではなく、ホワイトデーのプレゼントはそれこそ多種多様だった。
「困った事を解決へ導くべく、わたしなりに必死でお手伝いしただけやねんけどな」
「背丈が伸びれば愛の告白に変わるぞ」
「うーん、恋愛問題の解決は私にはまだ敷居が高いわ」
困ったように笑う少女に、車椅子だった頃の悲壮感はない。
かつて孤独を深めていた少女が、今では他人のために力となっている。
自分自身の問題が解決したら、次は他人の問題を解決するべく努力する。
そういう女の子だからこそ、他人に愛されている。
<終>
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