ノヴェンバー・ステップス
                              
                                
	
  
 
 高町なのはという女は、3月において厄介な日付が並んでいる。 
 
3月14日と3月15日、ホワイトデーと誕生日。そう、あいつは3月15日誕生日で早生まれなのである。 
 
ホワイトデーと誕生日が重なっている分際で、高町なのはは律儀に毎年バレンタインデーで想いの籠もったプレゼントを贈ってきやがる。 
 
 
あいつに悪意は全くないのは分かっているが、お返ししないといけない男の身にもなってほしい。 
 
 
「3月14日と15日、予定を入れたら殺す」 
 
「突然の殺害予告にびっくりです!?」 
 
 
 高町なのは、小学生。俺と出会ってからというもの、紆余曲折合って少しだけ大人になった少女。 
 
ちびっ子ではあるが、身長はやや高くなり、手足も少しずつ伸びている。この頃になると、子供から少女へ入る時期だ。 
 
つまり色恋沙汰も分かってくる頃であり、今の時代だと初恋も早いそうだ。マセたガキンチョが増えているということなのだろう。 
 
 
そこまで考えて、ふと気づいた。 
 
 
「先月のバレンタイン、手作りチョコレートをプレゼントしてくれたよな」 
 
「は、はい、おかーさんにお菓子作りを教えてもらいました!」 
 
「……男にプレゼントする料理を、母親に聞くのもどうかと思うが」 
 
 
 俺が尋ねてみると、高町なのはは勢い込んで問い返してくる。 
 
母親の桃子からすれば、妹が兄に贈るバレンタインだと思っているかもしれない。 
 
なのはは末っ子で可愛い盛りであり、家族全員から可愛がられている。 
 
 
ボーイフレンドでも連れてきた日にはどういった修羅場になるのか、俺でも予測できなかった。 
 
 
「妙に種類が多かったので激辛が混ざっているのか、検証したぞ」 
 
「いっぱい準備したのに、ロシアンルーレットだと思われてる!?」 
 
「最後の一個は誰が食べるのか、家族で喧嘩になった良い思い出だ」 
 
「ハズレは一つもないのに、火種になっている!?」 
 
 
 心の籠もったバレンタインなのにひどい、と高町なのはは生意気にも頬を膨らませている。 
 
こういうやり取りは日常茶飯事で、こいつとの間柄は毎年さほど変化はない。 
 
しかしながら俺自身がそう思いこんでいるだけで、多感な時期に入ったなのはからすれば心情の変化はあるのだろう。 
 
 
寂しいという感情は特にないが、子供の頃なんてあっという間かもしれない。 
 
 
「ホワイトデーはちゃんと辛子を入れておくから安心しろよ」 
 
「別にハズレを入れなくてもいいんですよ!?」 
 
「いっぱい作るから、家族で一緒に味わってくれ」 
 
「さり気なく家族崩壊させようとしないでくださいよー!」 
 
 
 なのはの兄姉である恭也や美由希は鋭い感性を持っているので、見破られそうだ。 
 
ともあれ、なのはの反応を見る限りでは両日は特にスケジュールはないらしい。 
 
さすがに誕生日は家族や友人との付き合いはあるのだろうが、それでもスケジュールが空いているのは何よりだ。 
 
 
こいつにまだ、初恋は遠いということなのだから。 
 
 
「あのあの、出来ればどっちかの日はおにーちゃんと一緒にいたいです!」 
 
「いいぞ、エルトリアでモンスターが暴れているそうだから、戦力が欲しかった」 
 
「戦場へ送り出すのはやめてくださいよ!」 
 
 
「じゃあ誕生日に待ち合わせだ」 
 
「しかも、誕生日に戦わせようとしてる!?」 
 
 
 ホワイトデーと誕生日、2日続いてのお祝い事。 
 
高町なのはは約束を取り付けて文句を言いながらも―― 
 
 
楽しそうに、笑っている。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<終> 
 
  | 
	
  
 
 
  小説を読んでいただいてありがとうございました。 
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。 
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。 
 
 
 
 
 
 
[ INDEX ]  | 
Powered by FormMailer.