ナヴァラの娘
発育:育って大きくなること。
「幼児IQテスト、ですか」
「うむ、俺という男はついに禁断の領域に踏み込む覚悟ができたのだ」
「素晴らしいです、父上。ナハトヴァールの賢さを知りたいという欲求を、さぞ大層なことのように述べられるその度胸」
「シュテル、お前……俺に似て、結構辛辣に言うようになったな」
「何しろ父上の愛娘ですので」
成長:時間的経過に伴って、個体の形態的あるいは量的増大などの変化。
「ナハトヴァール、俺の名前を言ってみろ」
「おとーさん!」
「うーむ、理解しているような、してないような……ちなみに、こいつの名前は?」
「ママ」
「貴様、自分の妹にどういう教育を施している。素直に言えええええ!」
「これも英才教育ですよ父上――いたたたたたた!?」
発達:生体が時間的経過に伴って、形態・技能・行動などを変化させていくこと。
「ナハトヴァール、十を数えてみろ」
「ワン、エン、ツー、エン、スリー、エン、フォー、エン、ファイブ、エン、シックス、エン、セブン、エン、エイト!」
「何でダンスカウントなんだ!?」
「結構リズミカルですね……」
精神発達:心のはたらきの発達。
「ナハトヴァール、この虫の名前を言ってみろ」
「ニジュウヤホシテントウ!」
「馬鹿な、俺にはただのてんとう虫にしか見えないぞ!?」
「理科で子供に負けるのはどうかと思いますよ、父上」
感情:ある状態や対象に対する主観的な価値づけ。
「ナハトヴァール、鎌倉幕府が成立した年号を言ってみろ」
「1185」
「ははは、やはりまだまだガキンチョだな。いいか、ナハト。
1192(いいくに)つくろう鎌倉幕府と、語呂合わせで覚えるのだ」
「ナハトヴァールが正解ですよ、父上」
「何だと、デタラメを言うな!」
「父上とは世代が違うのですよ、我々は」
「一応俺、まだ十代なんですけど!?」
情緒:人間に感慨をもよおさせ、その過程が一時的で急激な生理的な変化。
「ナハトヴァール、男と女の違いを言ってみろ」
「おとーさん!」
「お、俺と俺以外の他人だと言っているのか!? こ、これは深い、深いぞシュテル……!」
「深読みし過ぎではないかと」
知能:学習を重ね、抽象的な思考を育み、環境に適応する知的機能のもとになっている能力。
「ナハトヴァール、車を英語で言ってみろ」
「カー!」
「じゃあお出かけすることを何という」
「ゴー!」
「おい、シュテル。こいつは将来翻訳家になれるかもしれないぞ」
「完全に親ばかです。本当にありがとうございました」
知性:物事を考え、理解し、判断する能力。
「ナハトヴァール、お父さんの絵を書いてみろ」
「おー!」
「凄まじい勢いで画用紙をはみ出しまくっているんだが、これが芸術なのか!?」
「父上、落書きは駄目だと叱ってください」
――では、人間の知的能力とはなんなのか?
「テストはいかがでしたか、父上」
「本能で生きているな、こいつ」
「生まれたばかりですので」
「むふー」
キレイな脳みそ――何もかも、完全に真っ白となって。
闇の書の事も、夜天の魔導書のことも、残酷な機能のことも、忌まわしき改ざんのことも。
知性も知識も全て初期化されて、ナハトヴァールは今日も無邪気に笑っている。
<終>
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