地平線のドーリア
                              
                                
	
  
 
 高町なのはという少女は、なかなか奥が深い。 
 
 
十代前半の小娘で、平和な家庭で生まれ育った人間。父親のいない家庭ではあるが、優しい母と兄妹達に囲まれて、健やかに育っている。 
 
純真無垢でありながら意思は固く、血を見るのも嫌な気質でありながらも、争い事の意味を理解している。魔導という稀有な才能に恵まれながら、人を傷つけるのを極端に恐れる。 
 
 
そういった子供がまた一つ、大人への歳を重ねる。 
 
 
「今年は、月村忍大先生にお越し頂いた。諸君、拍手」 
 
「やー、どうもどうも」 
 
 
 アギトとミヤ、仲良しデバイス達のやる気ない拍手を受けて、それでも笑顔で忍は明るく応じる。 
 
適当に誘ってみたら、案の定暇していたので、ある程度の条件を提示して誘いに応じてもらった。 
 
なのはもこの女のように単純に育ってくれればよかったのだが、あいつは平和な環境で修羅場った生き方をしたので、難儀な価値観を持っている。 
 
 
トマトチップスを頬張りながら、アギトが投げやりに見やる。 
 
 
「このオッパイお姉さんを呼んだ理由は何だ」 
 
「人を容姿で呼ぶのは良くないよ、ちびっ子ちゃん」 
 
「思いっきり容姿で反論してるじゃねえか!?」 
 
「うーん、さすがはリョウスケの内縁の妻ですねー」 
 
 
 それ、もう何年も勝手に騙っているだけだからな。俺も近年否定するのも面倒になったので、勝手に呼ばせている。 
 
自分で愛人なんぞ名乗っていたら普通は奇異な目で見られそうなものだが、こいつの場合は周囲が微笑ましく見守ってくれている。 
 
 
綺堂さくらなんて完全に諦めたのか、むしろ結婚しろという勢いだ。 
 
 
「なのはちゃんの誕生日と聞いてね、アドバイザーとして呼ばれたの」 
 
「アドバイザーって、大袈裟だな」 
 
「だってお前、去年も散々悩んでようやく決めたじゃねえか」 
 
「去年ってお前……海外のゲームショーで新作ゲームを現場プレイさせるとかいう地獄のアレか」 
 
「なのはさん、長蛇の列で倒れましたもんねー」 
 
 
「子供を連れていっていい環境じゃない!?」 
 
 
 海外ゲームショーについての説明は、割愛する。楽しみ方は人それぞれだといっておこう。 
 
なのはを善意で誘った時は嬉しそうについてきてくれたのだが、現場の人混みに目を回していやがった。 
 
 
難儀な小娘である。 
 
 
「何で去年も私を誘わなかったのかな、私がいればそんな事はさせなかったのに」 
 
「お前がいればどうだってんだよ」 
 
「勿論入場券をコネで――」 
 
 
「危ない匂いがするのでNGです、忍さん!?」 
 
 
 得意げに語りだした吸血女に、ミヤが慌てて待ったをかける。大人の世界は怖いもんだね。 
 
忍もこういった業界には大層詳しく、ミヤとはなかなか香ばしい関係を築いている。 
 
 
仲が良いと言っていいのかどうかは、微妙だけど。 
 
 
「ちなみに侍くんとしては何か企画とか考えているの?」 
 
「親父さんの墓を新品にするというのはどうだ」 
 
「不謹慎――というのかどうかはちょっと悩むけど、間違いなくお盆前にやることじゃないよね」 
 
 
 自分で言っておいてなんだが、誕生日プレゼントにやることじゃないな。 
 
あいつに申し出ても嫌な顔はしないだろうけど、間違いなく桃子達に怒られるのでやめておく。 
 
 
こういう時こそアドバイザーの仕事だ。 
 
 
「本場のUSJに連れて行くのはどうかな」 
 
「何が悲しくて、あんな人の多い場所に行かなきゃならんのだ」 
 
「去年、海外のゲームショー行ってたよね!?」 
 
「あいつをゲームの中に連れて行くのはどうだ」 
 
 
「……普通に考えればオンラインゲームの事なんだろうけど…… 
侍君の場合、本当にゲームの中に入れる手段がありそうだから怖いよ」 
 
 
 どういう意味だ、コラ。 
 
まあ実際ゲームや映画顔負けの世界で散々暴れ回ったので、むしろ俺としては現実感があんまりない。 
 
この前忍をエルトリアに連れて行ったら、モンハンがどうとか言って騒いでやがったからな。 
 
 
その後リヴィエラと出会ってしまって、ものすごい修羅場になったけど。 
 
 
「ゲームとかそんなんよりも、子供らしいのがあるだろう」 
 
「なるほど、色鉛筆か」 
 
「……侍君って、発想が古いよね」 
 
「……リョウスケは白黒テレビで育ちましたから」 
 
 
「どういう世界観なんだ、俺の幼少時代!?」 
 
 
 その後言い争っていたら、高町なのは本人が遊びに来てサプライズでも何でもなくなってしまった。 
 
自分の事で口喧嘩している俺達を困った顔で叱りながらも―― 
 
 
何だかとても、嬉しそうだった。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<終> 
 
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