聖なる市民







 ――車いすの女の子の誕生日となると、少し考えてしまう。

別に差別するつもりは一切ないのだが、下手に気を使うのも区別になってしまうので、どうしたって健常者よりは意識してしまうものだ。

思い悩んでいる訳ではなく、単純にどうしたものかという悩み事。案外こういう悩みこそが、家族ならではないかとふと我に返って自重した。


毎年誕生日が来る度に、自分の変化を思い知らされる。人が生まれる日というのは、特別なものなのだろう。


「今年も来てしまったか、この日が」

「そんな、来てはいけない日のように思い煩うのはどうかと……」


 高町家の食卓。完全に他所の家なのだが、我が家のように今日も図々しく上がり込んでいる。

昔は居候していただけに多少気を使っていたのだが、今では冷蔵庫とか勝手に開けている。この家の娘である高町なのはも苦笑いするだけだ。

年齢差はあるのだが、この娘さんはまるで親しい友達でも来たかのように仲良く隣りに座っている。こいつも年々図々しくなっている気がする。


ユニゾンデバイスあるミヤが、我が意を得たりとばかりに頷いている。


「大切なことですよ、なのはさん。マイスターの誕生日ともなれば、祝うべき記念日。国民の祝日にするべきだと、ミヤは日々訴えているのですから」

「こいつも年々アホになってくるな……」


 同じユニゾンデバイス、古代のベルカ剣精であるアギトがテーブルの上で行儀悪く座ってトマトジュースを飲んでいる。

本人はたいそう嫌がったのだが、誕生日は毎年祝っているので無理やり同席させている。強制させられたアギトは諦めモードだった。


テーブルの上には八神はやて誕生日記念会議中であると、デンと書き連ねている。


「あのー、おにーちゃん」

「何だ、我が妹よ」

「わっ、何気に妹だと明言してくれている!? ノリでもちょっと嬉しいけど……今日って6月4日ですよね」

「うむ、分かっているではないか」

「その……6月4日がはやてちゃんの誕生日なんですけど……」

「だから今話し合っているんじゃないか、何の問題があるんだ」

「当日に話し合うのって遅すぎないですか!?」


 そう、本日6月4日は八神はやての誕生日なのである。

だから朝から集まっているのだが、なのはは早速キョドっていた。俺自身ちょっと遅いかなと思わなくはないのだが、それはそれである。

一応誕生日には間に合ったのだし、その点は目をつむってもらいたいものだ。ちなみに後で聞いたら、守護騎士達は余裕で準備を進めていた。


だったら俺達にも伝えてくれればいいのに、ものの見事に仲間外れにされていた。何故だ。


「去年はせっかく神輿を作って盛大に盛り上げたのにな」

「街中担いで派手に祝ったんですけどね……何故かはやてちゃん本人に顔を真っ赤にして怒られたんですよね」

「そういう事をするからハブられるんだよ、てめえら」


 不思議だよね、とミヤと顔を見合わせていると、アギトから心臓を抉るような指摘を突き刺してくる。

去年は流石に前もって準備して当日挑んだのだが、盛大に盛り上げたにしては近隣住民からもバカ扱いされたお祭り騒ぎになってしまった。


色々言われるのも不本意なので、聞いてみる。


「そういうお前らは今年どうするんだ」

「今年は実用重視ということで、タブレットを用意しました。はやてちゃんも新規事業で忙しくなっているので」

「絶対子供向けじゃないよな、それ!?」


 せめてゲーム機とかなら分かるのだが、何をトチ狂ったのか高町なのはは最新タブレットをわざわざ電機メーカーで購入したようだ。

絶対子供向けじゃないと思うのだが、八神はやてが俺から引き継いだ事業である何でも屋を盛り立てて、今年新しく事業を起こしたらしい。

何でも屋として地域住民のボランティアを続けた結果、名家のご隠居達より信頼されて株主とかになってくれている。


完全に俺の痕跡がないのだが、あいつは今も俺を名誉職として席を連ねている。何もしていないのに、口座に金とか入っているので怖い。


「アギトはどうするんだよ、今年」

「お前との一年を日記にして渡したら、大喜びで受け取ってくれたぞ」

「完全に書籍化されてる!? しかも本人未監修で渡したのかよ!」


 ……今年一年もめでたく忙しい日々となってしまった。

北を渡ればスフィンクスとかに追われるし、南に行けば邪悪な宗教組織相手に解釈戦争とか起こされるし、散々な目にあった。

異世界に逃げたらリヴィエラの結婚騒動に巻き込まれるわ、この前起きた星域戦争の後始末とかもやらされたし、ひどい目にあった。


それを全部面白おかしく記録して、渡したらしい。絶対シュテルとか関わっているに違いない。


「うーむ、自転車でも買ってやるか」

「リハビリ中のはやてちゃんにちょっとハードルが高くないです……?」

「そうだな、三輪車程度にしておくか」

「ハードルは下げればいいというものじゃないですよ!?」

「いっそ空の旅へ連れて行こうか」

「なのはを見て言わないで下さいよ!?」


 ミヤやなのはがギャーギャーとうるさい。

プレゼントは気持ちが大切だとかのたまう割に、注文の多い連中である。


じゃあ、いっその事――


「よし、決めた。俺達が今日あいつの足代わりになるのだ」

「去年は神輿、今年は人力車ですね! リョウスケ、ナイスです!」

「よし、待ってろよはやて」

「ミヤ達が爽快に歩かせてあげますからね!」


「ありがた迷惑はやめろや!?」


 ――車いすの女の子の誕生日となると、少し考えてしまう。

だから毎年、俺達は思い悩む前に行動している。


八神はやてはいつも困ったように――笑っている。















<終>







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