爆発ポルカ
神咲那美という人間は海鳴という町で出会った、等身大な少女であった。
茶色い髪を肩まで伸ばした女の子で、珍しい点といえば久遠とかいう子狐を飼っている事くらいだろうか。
俺が以前世話になっていた高町恭也や美由希と同く風芽丘学園に通っていて、当時は平凡な学生さんだったように思う。
男と女という関係性においては恋愛と友情の垣根をいったりきたりしている、複雑な人間関係を描いている。
「良介さん、新年あけましておめでとうございます」
「今年もよろしく、といい続けて何だか随分と経っているように思う」
「あはは、縁のある関係になりましたよね」
旅先ですれ違ってそのまま別れるかと思いきや、何だかんだで関係は続いている。
月村忍のような腐れ縁とは違い、健やかな関係とでもいえばいいのだろうか。
一時期は魂まで繋がった関係となっていて、お互い支え合って生きてきている。
恩だの仇だのはないのだが、お互いの存在は意識している。
「正月くらい仕事は休んだらどうだ」
「私のような職業ですと、正月は働き盛りなのではないでしょうか」
「うーむ、長年続けていると含蓄があるな」
「いえいえ、頼まれているだけですので」
職業は退魔師という特殊な仕事を行っているが、あくまで内向きな家業。
世間には誇れず、それでいて人民を守る大切な仕事。
彼女は評価を気にせずこなし続けており、それでいて表向きにはこうして正月も働いている。
海鳴市西町にある八束神社――今俺達が話しているここで、管理代理と巫女をやっている。
「良介さんこそ正月はお忙しいのでは?」
「ふっ、愚か者め。それが全て嫌になったから逃げてきたに決まっているではないか」
「神様のいる神社に逃げるのって、かなりの窮地なのでは……」
「言うようになったではないか……」
元々は鹿児島出身だったのだが、風芽丘に入学する時に海鳴へと引っ越して来た子である。
地元は薩摩弁らしいのだが、本人は気軽に標準語を話しているハイカラさんである。
考えてみれば俺も日本中を旅しているが、どこかの方弁が浸透した事はない。
自分が標準語を話しているかどうかは怪しいところだが、変に訛っていないだけマシと思っておこう。
「今年の正月もこうして二人、元気で過ごせるだけで幸せかもしれませんね」
「何だかんだ波乱万丈だもんな、お互い」
非日常を過ごしているからこそ、日常のありがたさを知っている。
神咲那美は平凡な少女ではあるが、彼女はそうして振る舞うからこそ日常を過ごせている。
努力だけではなくきちんと意識もして、日常に重きを置きながら時に必要となれば非日常へも飛び込める。
彼女のこうした良さは、外側からでは分からない。
「――あの、仕事がもうすぐ終わるのですが」
「うむ」
「よかったらこの後、一緒に初詣に行きませんか」
「……まだ神社に行きたいのか、お前」
あけましておめでとうという挨拶は、年明けを無事に迎えられたことを祝う言葉。
おめでとうは「御芽出度う」とも書かれるのだが――
ひと続きの期間や状態が終わり、新しい年での進展を望む俺達にはお似合いかもしれない。
<終>
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